彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
8/4(火) 月見里 蛍①
本日は大雨で、寒いしじめじめするし、頭痛い。
「つまようじ」
「地獄の業火」
「かつお」
「オッド・アイ」
「いと」
「とこしえの夢」
「めだまやき」
「禁断の魔術……なぁ、俺だけ厨二病単語縛りのしりとり、やめない?」
「……できた」
今日は体調がいいと言うほたるは、俺が寝転ぶベッドの横でリンゴを剥いていた。
「うさぎ」
「おー、器用だな」
ちょっといびつだけど、小さな手のひらにはりんごのうさぎがちょこんと乗っている。
「でも……」
ほたるはチェストを気にしていた。
目をやると、大量のりんごの残骸が散らばっていた。
「……何個剥いたの?」
「18」
そのりんご、誰が食うんだい。
「ほたるちゃんほたるちゃん、お兄さんにもりんごちょうだい」
ザキさんが隣のベッドで手招きする。
「いやあ微笑ましいね、タッキー!」
すっげえ笑顔……。
「いいけど」
ほたるは立ち上がり、りんご(失敗作)を持って隣のベッドに移動した。
「あーんしてよー。雨だから指が動かないんだよね」
……コクリ。
おそらく嘘であろうザキさんの口車に乗せられて、ほたるがザキさんの口の中にりんごを雑に放り込んでいるのを見ていた。
のどかなお昼どきだった。
その後、ザキさんの回診の時間まで病室でまったりしゃべっていた。
すぐ終わるから待っててと言うザキさんだったが、ほたるも回診があると言い、病室に戻った。
手持ち無沙汰になった俺は、寝転んでテレビをつける。
ゆるい昼の番組を見ながらうとうとしていると、診察が終わったのだろう、隣から声がかかった。
「あれ、タッキーだけかあ」
「んー……」
薬が効いてきたのかもしれない。眠くて返事も適当になってきた。
「そういえばさ、ほたるちゃんの病気ってもうヤバいの?」
「ん……病気は長いみたいだけど……」
「そうか……。今だから言うけど、俺も一生この病気と付き合わなければいけないらしいんだよな」
ザキさんも、大変なんだな……。
「なんか俺たちだけ不公平だよなあ。健康なのに自殺するやつは世の中にごまんといるのになあ。変わって欲しいよ」
いろいろと大変だとは思うけど、それでも。通院していれば死ぬことはないザキさんを、俺はうらやましいと思ってしまう。
「悪かったな、寝ているところを。お休み」
「うん……」
久しぶりに眠気がキツい。ゆっくりとまぶたが降りてきて、まどろみの世界に引きずり込まれて行った。
………………
…………
……
目を覚まして時計を見るとすっかり夕方になっていた。
5時間くらい寝ていたことになる。
やべ、寝すぎたなぁ。消灯で眠れなかったらどうしよう。
ふと隣を見ると、ザキさんがいない。
トイレかな?
………………
…………
……
暇だ。
目が覚めてから結構時間が経ったけど、ザキさんが戻って来ない。
いつもこんなにいないことなかったから珍しい。どこ行ったんだろう。大人だから心配しなくても大丈夫だろうけど……って、おや? 枕の下からはみ出してるのは雑誌かな?
ああ、例のエロ本か。
そういえば必死で隠してたけど、なんだったんだろう。
終わったら貸してやるって言ってたくらいだし、ちょっとくらい見てもいいよな。あれだけ隠されたら気になるし。
そっと立ち上がり、周囲を見渡す。
ザキさんのベッドの向こう側の人、森さんが俺の行動に気づき、苦笑いして背を向けた。
これは知らんぷりしてくれる感じかね!
完全に悪ノリで、そっと雑誌を引き抜いた。
だけどその表紙を見て俺は固まった。
「…………はあ?」
つい漏らした声に、森さんが反応して顔だけ向けた。
「……ザキはいいヤツなんだけど、変態なんだよなあ。タッキーがここに来るまでは、ずっとそういう話ばかりしていたんだよ」
雑誌の表紙は女の子の裸のイラストだった。
それが結構えぐくて、反射的に目を逸らしてしまう。
「俺もな、小さな娘がいるから聞いていてあんまりいい気はしなかったんだけど」
そりゃそうだよな。
だってイラストの女の子、小学生くらいの子どもなんだから……。
ふと思い出す。
ザキさんがラブコールを送り続けていた看護師のエミちゃんは、今年入社でピチピチの20歳。
雰囲気にママみはあるけど、顔は中学生にも見えるほど幼い。
彼女だけじゃなく、ほたるにだって執着してたよな。
……いやいや、待て待て! いくら特殊な雑誌を所持してたからって、現実で性癖に奔放だったら世の中性犯罪者だらけだっつーの。
ホラ俺だって姉弟モノが好きだけど、だからってウチにねーちゃんいないし、年上に良からぬことを考えたことは、ちょっとしか……いや、俺のことはいいんだよ!
ひとまずこの本は俺の趣味じゃないし、隣の人の性癖を覗いてしまってちょっとキモいので見なかったことにしよう。
……つかザキさん、ほんとどこ行ったんだよ。
ほたるも病室にいるよな……?
ふたりの顔が見えないことに、心がざわつく。
「つまようじ」
「地獄の業火」
「かつお」
「オッド・アイ」
「いと」
「とこしえの夢」
「めだまやき」
「禁断の魔術……なぁ、俺だけ厨二病単語縛りのしりとり、やめない?」
「……できた」
今日は体調がいいと言うほたるは、俺が寝転ぶベッドの横でリンゴを剥いていた。
「うさぎ」
「おー、器用だな」
ちょっといびつだけど、小さな手のひらにはりんごのうさぎがちょこんと乗っている。
「でも……」
ほたるはチェストを気にしていた。
目をやると、大量のりんごの残骸が散らばっていた。
「……何個剥いたの?」
「18」
そのりんご、誰が食うんだい。
「ほたるちゃんほたるちゃん、お兄さんにもりんごちょうだい」
ザキさんが隣のベッドで手招きする。
「いやあ微笑ましいね、タッキー!」
すっげえ笑顔……。
「いいけど」
ほたるは立ち上がり、りんご(失敗作)を持って隣のベッドに移動した。
「あーんしてよー。雨だから指が動かないんだよね」
……コクリ。
おそらく嘘であろうザキさんの口車に乗せられて、ほたるがザキさんの口の中にりんごを雑に放り込んでいるのを見ていた。
のどかなお昼どきだった。
その後、ザキさんの回診の時間まで病室でまったりしゃべっていた。
すぐ終わるから待っててと言うザキさんだったが、ほたるも回診があると言い、病室に戻った。
手持ち無沙汰になった俺は、寝転んでテレビをつける。
ゆるい昼の番組を見ながらうとうとしていると、診察が終わったのだろう、隣から声がかかった。
「あれ、タッキーだけかあ」
「んー……」
薬が効いてきたのかもしれない。眠くて返事も適当になってきた。
「そういえばさ、ほたるちゃんの病気ってもうヤバいの?」
「ん……病気は長いみたいだけど……」
「そうか……。今だから言うけど、俺も一生この病気と付き合わなければいけないらしいんだよな」
ザキさんも、大変なんだな……。
「なんか俺たちだけ不公平だよなあ。健康なのに自殺するやつは世の中にごまんといるのになあ。変わって欲しいよ」
いろいろと大変だとは思うけど、それでも。通院していれば死ぬことはないザキさんを、俺はうらやましいと思ってしまう。
「悪かったな、寝ているところを。お休み」
「うん……」
久しぶりに眠気がキツい。ゆっくりとまぶたが降りてきて、まどろみの世界に引きずり込まれて行った。
………………
…………
……
目を覚まして時計を見るとすっかり夕方になっていた。
5時間くらい寝ていたことになる。
やべ、寝すぎたなぁ。消灯で眠れなかったらどうしよう。
ふと隣を見ると、ザキさんがいない。
トイレかな?
………………
…………
……
暇だ。
目が覚めてから結構時間が経ったけど、ザキさんが戻って来ない。
いつもこんなにいないことなかったから珍しい。どこ行ったんだろう。大人だから心配しなくても大丈夫だろうけど……って、おや? 枕の下からはみ出してるのは雑誌かな?
ああ、例のエロ本か。
そういえば必死で隠してたけど、なんだったんだろう。
終わったら貸してやるって言ってたくらいだし、ちょっとくらい見てもいいよな。あれだけ隠されたら気になるし。
そっと立ち上がり、周囲を見渡す。
ザキさんのベッドの向こう側の人、森さんが俺の行動に気づき、苦笑いして背を向けた。
これは知らんぷりしてくれる感じかね!
完全に悪ノリで、そっと雑誌を引き抜いた。
だけどその表紙を見て俺は固まった。
「…………はあ?」
つい漏らした声に、森さんが反応して顔だけ向けた。
「……ザキはいいヤツなんだけど、変態なんだよなあ。タッキーがここに来るまでは、ずっとそういう話ばかりしていたんだよ」
雑誌の表紙は女の子の裸のイラストだった。
それが結構えぐくて、反射的に目を逸らしてしまう。
「俺もな、小さな娘がいるから聞いていてあんまりいい気はしなかったんだけど」
そりゃそうだよな。
だってイラストの女の子、小学生くらいの子どもなんだから……。
ふと思い出す。
ザキさんがラブコールを送り続けていた看護師のエミちゃんは、今年入社でピチピチの20歳。
雰囲気にママみはあるけど、顔は中学生にも見えるほど幼い。
彼女だけじゃなく、ほたるにだって執着してたよな。
……いやいや、待て待て! いくら特殊な雑誌を所持してたからって、現実で性癖に奔放だったら世の中性犯罪者だらけだっつーの。
ホラ俺だって姉弟モノが好きだけど、だからってウチにねーちゃんいないし、年上に良からぬことを考えたことは、ちょっとしか……いや、俺のことはいいんだよ!
ひとまずこの本は俺の趣味じゃないし、隣の人の性癖を覗いてしまってちょっとキモいので見なかったことにしよう。
……つかザキさん、ほんとどこ行ったんだよ。
ほたるも病室にいるよな……?
ふたりの顔が見えないことに、心がざわつく。
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