彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
7/23(木) 月見里 蛍②
┛┛┛
 なんとか教えてもらった先は、小児病棟の個室だった。中学生って小児病棟になるのか? 見た目が小学生だから? 入院歴が長いとかかな……?
月見里と書かれたドアプレートを確認してノックするが、返事は聞こえない。
いないのか? そっとドアを開けて中を伺う。
「いるじゃん」
ベッドに起き上がっていたほたるは無言で、ドアを警戒した様子で睨みつけていた。
「やっほう。入っていい?」
「……」
うなずいたのを見て早速おじゃまする。
病院だといっても女子の部屋。ウキウキとドキドキで心が忙しい。
いやいや小鳥遊知実、相手は中学生だよ。ここは背筋を伸ばして、大人の余裕ぶっていこう。
「遊びにきちゃった☆」
なんかオネエっぽいな俺。音和との電話のあとで、明らかにテンションがおかしい。
「……ん」
ほたるはベッド脇をチラリと見た。
見舞い用の小さな椅子がある。お言葉(?)に甘えて座ることにした。
病室はこざっぱりとしていた。サイドテーブルには新鮮な花が生けてあり、少女漫画の雑誌が積み重なって置いてあった。
物はあまりないけれど女の子らしさを感じる部屋の中、ベッドサイドの点滴の機具が、やけに存在を主張している。
「もしかして体調悪い?」
ふるふると首を振って否定。よかった、今日こそゆっくりと話ができそうだ。
「俺の名前覚えてる?」
少女はこくりと頷いてから、
「たかなし、さん」
「おー、よく覚えてたね!」
たぶん気持ち悪いくらいに今の俺、破顔一笑、である。
名前を覚えてもらうってすごく幸せなことだな。俺も人の顔と名前、ちゃんと覚えるようにしよ。病院とは学びがあるなあ!
「知って、た」
「……えっ?」
ほたるの言葉に一瞬つまる。
知ってた? 俺、いつかこの子に会ってたっけ?
「同じ病気……って」
「!?」
でもそれは違った。
胸がキュッとさらに縮む。
痛い。
マジで? この子も、腫瘍持ちなのか?
クーラーがごうごうと唸る。その音にすら負けそうな声で、ほたるはつぶやいた。
「夏、終わったら。ホスピスに、行くの」
「……っ!?」
俺はなにも言えなかった。
ホスピスは終末期の患者を迎える特別病棟で治療よりも痛みの緩和ケアをしている。
俺もいつかそこに入るらしいが、そのときは本当に死が近いときだと、美原さんに言われていた。
中学生の彼女が……俺より小さなこの子が……?
「なんで……」
「小さなころから、病気があって、手術もいっぱいした」
「ずっと入院してるのか?」
「入院と、学校も。今は、ずっと入院」
「そっか……」
「会いたかった」
ほたるがゆっくりと俺を見る。無表情のままで。
「俺が同じ病気だから?」
少しだけ黙ったあと、ほたるは宙を見上げ、人差し指を突き出した。
「もうひとつ。ツキミサトは、お月様が見える里って、書く」
さらさらと人差し指が動き、宙に漢字を書きだす。
月見里。
「えっと……苗字が3文字つながりってこと?」
「……はあ」
「あんたバカァ?」とでも言うように、思い切りため息をつかれた!!
「ち、ちがったかぁ〜」
ショックで声が震えてる俺ドンマイ。
「ヤマナシとも、読む。月が見える里は、山がなし……」
なるほど。とんち系苗字ね。
「小鳥が遊ぶ場所には大きな鳥、タカはなし。っていう俺の名前と由来は同じだ」
彼女は満足そうに大きく頷く。
「あなたの、症状は?」
「俺は、最近病気に気づいて化学療法中。今後の治療の方針は今決めてるところかなあ。手術は受けない方向だから、余命はいくばくもないらしいけど」
「ふーん」
自分で言っておいて、それが信じられなかったりもする。
だって体調はまあよく悪くなるけど、そんなのずっとだったし。それにこうやって動けて話せるのに、もうすぐ死ぬとか。
でも、ほたるもそうか。こうやって俺たちは生きているのに。生きて、言葉を交わしているのに。時間は永遠じゃない。
「……お願いがある」
「お。なになに?」
無表情の中にも、少しだけ思い詰めているような意思が見えた。だから俺は優しく微笑む。同じ病気同士、わざわざ歩み寄ってくれたんだ。協力するのも悪くない。
「私が、ホスピスに行く前に、一緒に死にませんか」
 なんとか教えてもらった先は、小児病棟の個室だった。中学生って小児病棟になるのか? 見た目が小学生だから? 入院歴が長いとかかな……?
月見里と書かれたドアプレートを確認してノックするが、返事は聞こえない。
いないのか? そっとドアを開けて中を伺う。
「いるじゃん」
ベッドに起き上がっていたほたるは無言で、ドアを警戒した様子で睨みつけていた。
「やっほう。入っていい?」
「……」
うなずいたのを見て早速おじゃまする。
病院だといっても女子の部屋。ウキウキとドキドキで心が忙しい。
いやいや小鳥遊知実、相手は中学生だよ。ここは背筋を伸ばして、大人の余裕ぶっていこう。
「遊びにきちゃった☆」
なんかオネエっぽいな俺。音和との電話のあとで、明らかにテンションがおかしい。
「……ん」
ほたるはベッド脇をチラリと見た。
見舞い用の小さな椅子がある。お言葉(?)に甘えて座ることにした。
病室はこざっぱりとしていた。サイドテーブルには新鮮な花が生けてあり、少女漫画の雑誌が積み重なって置いてあった。
物はあまりないけれど女の子らしさを感じる部屋の中、ベッドサイドの点滴の機具が、やけに存在を主張している。
「もしかして体調悪い?」
ふるふると首を振って否定。よかった、今日こそゆっくりと話ができそうだ。
「俺の名前覚えてる?」
少女はこくりと頷いてから、
「たかなし、さん」
「おー、よく覚えてたね!」
たぶん気持ち悪いくらいに今の俺、破顔一笑、である。
名前を覚えてもらうってすごく幸せなことだな。俺も人の顔と名前、ちゃんと覚えるようにしよ。病院とは学びがあるなあ!
「知って、た」
「……えっ?」
ほたるの言葉に一瞬つまる。
知ってた? 俺、いつかこの子に会ってたっけ?
「同じ病気……って」
「!?」
でもそれは違った。
胸がキュッとさらに縮む。
痛い。
マジで? この子も、腫瘍持ちなのか?
クーラーがごうごうと唸る。その音にすら負けそうな声で、ほたるはつぶやいた。
「夏、終わったら。ホスピスに、行くの」
「……っ!?」
俺はなにも言えなかった。
ホスピスは終末期の患者を迎える特別病棟で治療よりも痛みの緩和ケアをしている。
俺もいつかそこに入るらしいが、そのときは本当に死が近いときだと、美原さんに言われていた。
中学生の彼女が……俺より小さなこの子が……?
「なんで……」
「小さなころから、病気があって、手術もいっぱいした」
「ずっと入院してるのか?」
「入院と、学校も。今は、ずっと入院」
「そっか……」
「会いたかった」
ほたるがゆっくりと俺を見る。無表情のままで。
「俺が同じ病気だから?」
少しだけ黙ったあと、ほたるは宙を見上げ、人差し指を突き出した。
「もうひとつ。ツキミサトは、お月様が見える里って、書く」
さらさらと人差し指が動き、宙に漢字を書きだす。
月見里。
「えっと……苗字が3文字つながりってこと?」
「……はあ」
「あんたバカァ?」とでも言うように、思い切りため息をつかれた!!
「ち、ちがったかぁ〜」
ショックで声が震えてる俺ドンマイ。
「ヤマナシとも、読む。月が見える里は、山がなし……」
なるほど。とんち系苗字ね。
「小鳥が遊ぶ場所には大きな鳥、タカはなし。っていう俺の名前と由来は同じだ」
彼女は満足そうに大きく頷く。
「あなたの、症状は?」
「俺は、最近病気に気づいて化学療法中。今後の治療の方針は今決めてるところかなあ。手術は受けない方向だから、余命はいくばくもないらしいけど」
「ふーん」
自分で言っておいて、それが信じられなかったりもする。
だって体調はまあよく悪くなるけど、そんなのずっとだったし。それにこうやって動けて話せるのに、もうすぐ死ぬとか。
でも、ほたるもそうか。こうやって俺たちは生きているのに。生きて、言葉を交わしているのに。時間は永遠じゃない。
「……お願いがある」
「お。なになに?」
無表情の中にも、少しだけ思い詰めているような意思が見えた。だから俺は優しく微笑む。同じ病気同士、わざわざ歩み寄ってくれたんだ。協力するのも悪くない。
「私が、ホスピスに行く前に、一緒に死にませんか」
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