彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7/23(木) 月見里 蛍①

『もしもし穂積です』

「音和ー。俺俺」

『……知ちゃん!?』


 耳元で高い声が響き、思わず受話器を離した。耳が痛い。でも、顔が緩んでいるのが自分でもわかる。


『今どこ!?!?』

「知床半島かな」

『すげー!!』


 合宿から1週間しか経っていないのに、音和の声が懐かしい。
 初めて使った公衆電話。スマホにかけると通話料が高いとザキさんに聞いたから、家電を知っている穂積家にかけてみたのだ。
 穂積のおじさんはさっき病院で見かけたから家にはコイツひとりだけなハズ。だから必ず、音和が出るとふんだのだ。


『メッセ送っても電話してもつながらないって、みんな怒ってるよ!』

「放浪してるから充電がなかなかできないんだよ」

『えー充電器買いなよー』

「買ってもすぐ切れるわ。まーいいじゃん、こうやって電話してるし」

『こっちから電話できないから心配だよ……』


 妙にしおらしいので笑ってしまった。うれしい。
 受話器からガチャンと大きな音が聞こえて10円を消費したのに気づき、慌てて追加のお金を入れた。おもしれーシステムだな。


「んで、最近どう? みんなに会う?」

『日野さんにしか会わない。あ、でもこないだかいちょーが来て、おばさんと話してた』

「う……、そうか……」


 凛々姉、変な話術でうちの母親を誘導尋問して、俺のこと聞き出していないか心配だ……。


『うん。あとおいしかった』

「……は? なにが」

『かいちょの手作りケーキ』

「!? なんで食ってんの!?」

『だって日持ちしないし食べていいってサッチンも言ったし。日野さんとかみんなで食べたよ。いない知ちゃんが悪い』

「ぐああ!!」


 ちなみにサッチンとは、うちの母のことだ。
 まあ、そんな世間話を数分して電話を切った。

 相変わらず新鮮なトマトみたいなヤツだな。なんでもない会話が胸にじんわりと浸透した。おかげでかなり元気をチャージできたわ。

 さて、病室に戻ろう。ときびすを返してからひらめいた。そういえば、ほたるの病室ってどこだろう? いつも来てもらってばかりだし、たまには行くのもいいかもな!
 つーわけで。


「あのー、ほたるちゃんの病室を教えてください」


 通りがかりの看護師さんを捕まえた。


「はい? あらっ、あららら。ふーん、彼女に会いに行くの? 妬けるわねえ!」


 どんどん顔に邪念が浮かぶのが見てわかる。ダメだ、ここいらの看護師は敵だった!!

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