彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7/22(水) 小鳥遊知実②

 小さな冷蔵庫には、親が持って来てくれていたペットボトルのお茶が入っている。来客用のカップを取り出し、お茶を入れて少女に渡した。
 少女は受け取ってゆっくりと口をつける。こくこくと小さく喉が動いてるのが見えてほっとした。


「……ありがとう」


 今度は小さいながらもはっきりと言葉が聞き取れて、俺は自然と顔がほころんだ。


「座る?」


 来客用の椅子を引っぱり出していると、少女はその脇をてくてくと歩き、ベッドによじのぼった。ちょこんと足だけ下ろして腰掛ける。


「そこでいいの?」


 コクリ。と、また頷く。まあいいや。と、俺も隣に腰掛けた。
 二人で壁を見つめる状態である。
 まあ、向かい合うよりも隣に座るほうが緊張しないって言うもんねー。


「改めて。俺は小鳥遊知実。君は?」


 少女は俺の顔をじっと見つめて、重そうな口を震わせながら開いた。


「……つ、きみさと、ほたる」

「ほたるちゃんね」


 コクリ。


「よし、じゃあこれで友だちということで!」

「……?」

「なぜ首をかしげる!」


 ほたるは不思議そうにじっと見つめてくる。そこではじめて、まじまじとほたるの顔を見た。
 張りのある白肌に黒目がちな瞳と、腰まで伸びた黒のロングヘアが特徴的だった。そして小さく細身の体には、自前らしいピンクのパジャマを着ている。小学校中学年くらいだろうか?


「いくつかな?」

「……13。中2」


 ちゅ、中学生……だと?
 ……口に出さなくてよかった。
 しかし小さい。病気のせいなのだろうか?


「??」


 おっと、レディーをじろじろ見てはだめだな。反省、反省。


「と、ところでどうしてここに来たの?」

「ん……」

「あーーー! 小鳥遊くん今度は誘拐ーー?」


 高い声が病室に響く。
 ぱっと入り口を見ると、昨日ナースステーションで俺にイチャモン(?)つけた看護師さんが部屋をのぞいていた。


「違う! この子の意志だ!」

「女の子追っかけてたと思ったら、今度は連れ込んじゃってー! まったくどこの子よ……って、ほたるちゃんじゃないの! こんなおとなしい子に手を出してーー!?」

「だーかーら、合意だって!」


 ほたるはというと、ぼんやりと看護師さんを見上げていた。


「まあ、なっちゃんとほたるちゃん、合意の上でデキてたの〜?」

「エミちゃんまでー!?」

「え、なになに? 小鳥遊くんってそんな子だったの?」

「ちょっと可愛いと思ってたけど、やっぱ若い男ねー」

「未成年同士は犯罪じゃないんじゃない?」

「昨日もほたるちゃんを追いかけてたのあたし見ちゃった!」

「「「きゃーー!!」」」


 なんか……
 いろんな……
 看護師さんで……
 うちの病室の入り口が……
 塞がっているんですけど……!!!


「おお! 今日は美人がたくさん来てくれていいのう」

「ちょっと記念写真をとってくれ白岩さんや」

「じゃあわしはその次に」

「エミちゃーん愛してるよー!」


 この状況を喜んでいるのは、同室のじいさんズとザキさんだ。


「「きゃあきゃあ」」

「……」

「「きゃあきゃあ」」

「…………」

「「きゃあきゃあ」」

「てか全員、油売りすぎじゃーーっ!」


 叫ぶと、クモの子を散らすように看護師さんたちは出て行った。


「小児病棟にも報告しなきゃー♪」

「すなー!!」


 外から聞こえる声にもツッコむ。
 ……なんで? 病院ってこんなに疲れるところなの!?


「ッカー! 少年はモテモテだなあ!」


 隣のザキさんが頭を掻きながらぼやく。


「タッキーが入ってから、なんだかナースみんな浮き足立ってる気がするんだよね~」

「俺一応病人なんで、静かにしてもらいたいんだけど……」

「ツッコミ役がいなかったからね。みんなうれしいんでしょう」


 ニコニコと森さんが笑う。
 まったく。とひとりごちて隣を見る。


「あれ?」


 いつの間にか、ほたるもいなくなっていた。

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