彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7/19(日) 小鳥遊知実②

 俺はため息をついていちごの肩を叩く。


「いちご。ナイスビキニ!」

「そのフォローやだーーーーー!」


 頭を抱え、ますます顔を赤くして、「はしたない子じゃないんです、はしたない子じゃ」とブツブツとつぶやきはじめた。
 そんな様子を微笑ましく見ていてふと、いちごの二の腕に、赤いあざが付いているのが気になった。さっき引き連れてきたとき、俺そんなに強く握ったかな。


「腕赤くなってない? 大丈夫?」

「そんなこと言って、あんまりジロジロ見ないでくれますか……」


 バレてた。


「まあ、気持ちは分からないでもないが、海だから露出は仕方ないし。日野だけ上着がないのはかわいそうだから、せめてみんな脱ぐか」

「そ、そだね」


 凛々姉の素敵なひとことにより、七瀬もパーカのジップをおろした。その仕草に思わず生唾を飲む。

 この、無駄に顔面偏差値は高い(しかし性格はもれなく難あり)メンバーが、ほぼ、素っ裸に近い状態に、メ、メタモルフォーゼを、遂げるのだ!
 女子の水着。これぞ、海水浴の醍醐味である!!

マ ジ リ ア 充 !!(脳内ガッツポーズ)


「知実くん、鼻の下、伸びてる」

「!!」


 足もとからちくりと、そして他の女子を敵にまわすようなコメントが届いた。
 だが今日の俺はめげない! なんて言われてもいい! そのまばゆき光景を存分に目に焼き付けるべく、女子軍を振り返るのだ!! 今なら喜んでリア充爆発してせんじよう!


「……あれ?」

「ちょっと、あれ?って何よ!!」


 七瀬が投げたペットボトルが、かしげた額に見事命中した。


「いやなっちゃんの言う通り。これは……」

「いてて……。だ、だよね?」


 さっきまでの興奮が嘘のように、野中と俺は冷静沈着だった。そして、まず浮かんだ疑問を投げかける。


「貴女はなぜ競泳用水着なんですか」


 Tシャツを脱いで早々、準備体操をはじめていた凛々姉の動きがぴたりと止まった。


「なにか? まさかアンタたち、海なめてる?」


 怖い。目がマジだ。変なのは俺なのか!?

 ピンクの上下に白いレースの飾りつきで、大きなリボンのチョーカーが目立つベビー系ビキニは音和。


「はいはい、かわいいかわいい」

「……」

「だあああ! 後ろから抱きつくな!!」


 前からじゃなくて良かった!


「ちょっと待った! あたしはフツーっしょ」


 そう言ってくるりとその場で回る七瀬。
 肩にリボンのついたオレンジのワンショルダーにカーキパンツで、大人っぽくていいとは思うんだけど。
 うんまあ、なんていうか、うん。


「すっげえな、きれいにぺたん……」

「貴様、それ以上は言うなああ!!」


 後ろ回し蹴りは真っすぐに、つぶやいた野中の横顔にヒットした。
 ひでぶ……とつぶやいて倒れた野中は自業自得なので放置しておこう。
 とりあえず、しゃがみこんだままのいちごに右手を差し出した。


「ね、大丈夫。みんなこんなんだし、自信ないのは俺もだしさ。いちごが変とか誰も思ってないし、むしろ白いいんじゃん?」


 いちごが「ほんと?」と言わんがばかりに、涙目の上目遣いで見上げてくる。
 なんだこの動物、可愛いすぎない? 飼いたいんだが!? ……という煩悩は絶対に顔に出さないよう、無理やり微笑んでみせる。
 恐る恐る差し出すやわらかな手を握りしめ、えいっと一気に引き上げた。


「ありが……」

「いっちーいこ! あっちで遊ぼーっ!!」


 俺といちごの間を七瀬が割って入り、いちごの腕に絡みついてさらって行ってしまった。
 ぽかんと見ていると、七瀬が振り返って「んべ」と、舌を出す。
 あいついい度胸してんな……!

 でも、二人の弾けるような笑顔を見てると、まいっかって許せるような気がした。

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