彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

7/13(月) 葛西詩織⑥

 地面につけた膝に合わせて、両手を前につく。


「ってことで、俺は合宿に行きません!」

「!?」


 目の前の高貴な老年男性が息を飲むのが聞こえた。


「だからお願いします、先輩だけは合宿に参加させてください! 先輩に高校の思い出を。仲間との楽しい思い出を……」


 先輩が今まで体験できなかった、青春を。


「本で得た擬似的な経験だけでいいなんて、それは違う。大人になって、つらいときにふと思い出して笑みがこぼれるような、優しい経験を作らせてあげてください!!」


 言い切ってから額を土にすりつけた。勢い余って、ごつんと音がした。……痛かった。


「……っお願いします!」


 それで、みんなと仲良くなって帰ってきてくれたら、俺的には充分ハッピーエンドだから。


「『本で読んだ知識は、半分の知識でしかない。人生でそれを体験して、本当の知識になる』……。ゲーテの言葉……」


 頭上から小さく呟く声が聞こえたかと思うと、それはすぐに叫びに変わった。


「だからって、そこまでしないでください!」


 先輩がしゃがみ込んでくれる。


「頭をあげて。私は小鳥遊くんを置いて、こんな土下座まで……っ! そこまでして行きたくはありません! ごめんなさい小鳥遊くん、ごめんね……っ!!」


 隣で膝をついて、先輩は泣きじゃくっていた。


「ちょ、そんなこと言わないでくださいよ。全部台無しじゃん……」


 本当に、この人は。しっかりしているかと思えば、こうやってふと感情を見せてくれる。無防備で、ずるい。


「……許可はできない」


 しかし、そんな俺たちの頭上から返ってきた答えは、限りなく冷酷なもので。
 俺は苦笑いのまま、視線を再び地に落とした。

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