彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/30(火) 小鳥遊知実④

「いいかげんにしなさい穂積!!」

「お気を確かに、会長!!」


 凛々姉と鈴見が叱責し、めいめいを取り押さえた。


「会長……。さすがに見苦しいです」

「だってえ……」


「話をややこしくするな穂積」

「これは許せない悪事!」


 やっと解き放たれた俺はその場にへたり込む。叫んで何回か意識飛びそうだった……。


「いのもだ。チュン太は体調不良でここにいるのよ、わきまえなさい」

「そんなの、あなたに言われたくないわね。聞いた話だと、あなたがチュン子ちゃんを張り倒したんでしょう?」

「そ、それは……」

「!? 真の敵はかいちょー!?」


 音和の眼光がするどく光るが、凛々姉が発したオーラにより戦闘意欲はすぐに消滅した。


「やれやれ、もう気はお済みですか?」


 鈴見はため息をつきながら抱えていた吉崎を離した。やっと正気に戻ったらしく、吉崎はしゃんと背中を伸ばした。


「あたしとしたことが……衣裳到着の興奮のあまり、我を忘れてしまっていたわ……。チュン……小鳥遊くん、大きなケガなどではなくてよかった。体調不良のところ悪かったわね」

「はあ……」


 なんだか調子狂うな。


「葛西詩織さんも。あまり無理はしないでね」

「えっ?」


 いきなり話をふられた葛西先輩の身体が小さく跳ねた。


「学校一の秀才と聞いていたからどんな子かと思ってたけど、わりと普通の子なのね。もちろんいい意味でよ。あなたとはまたゆっくりとお話ししたいわ」

「あ……。はい、ぜひ」

「ありがと。じゃあ行きましょう鈴見」

「会長、もう少しおしとやかにお見舞い遊ばされてください」

「別に遊んでないけど?」


 吉崎と鈴見が出て行った。
 やっと騒がしいのがいなくなり、ホッとして元いたソファにどかっと腰掛けた。


「あいつ本当に嫌いっ!」


 音和が地団駄を踏むのを横目に、凛々姉に問う。


「凛々姉ってなんで吉崎と犬猿チックなの?」


 凛々姉は頭を振って隣に座った。


「虎蛇で大量に人を辞めさせた事件から嫌みを言われているの。あたしも相手も引かなくて、こうなのよ」

「ふーん」


 出会い方が違っていれば、合いそうにも見えるんだけどなあ。


「お待たせー! 葛西さん、おじいさんが迎えに来てるわよ」


 と、ドアから顔だけのぞかせて、保健室の先生が声を張った。


「さあ小鳥遊くん、支えてあげて!」


 あの人、俺も体調不良ってこと忘れてるな。まあ支えるけど。


「いえ、ひとりで大丈夫です」


 先輩はそう言うと、のろのろとベッドから降りた。カバンくらいはと手を伸ばしたが、それも遮られる。


「みなさんご迷惑をおかけしました。それでは……」


 頭を軽く下げ、ふらふらと保健室を出て行く先輩に、保健室の先生が付き添って行った。
 ひとり、またひとりいなくなる保健室。あとは俺たち3人だけになった。


「俺も帰るよ」


 あんだけ動いても意識しっかりしてるし、もう大丈夫そうだ。


「アンタたちだけで大丈夫?」


 帰りのことを凛々姉は言っているのだろう。音和が俺を支えて帰れるわけがないのは章々たる事実なわけだし。


「うん、普通に歩けそう。万が一立ちくらみでもしたら、音和に家に連絡してもらうよ」

「そう。じゃあ穂積、チュン太をよろしくね。校門まで一緒に出よう」

「おまかせ!」


 胸を張る音和を微笑ましく眺めながら、俺たちも保健室を出た。
 まだ外は明るく、日が落ちるまで余裕で時間がある。ゆっくり帰って、学科の復習をして。さすがに今日は早めに寝よう……。
 試験はもう明後日だ。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品