彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/27(土) 葛西詩織①

 土曜日、頭痛で目覚めた。

 チェストの戸棚を開け手探りで薬をつまみ、ろくに見ないで口に運んで飲み込む。痛みが通りすぎるのをベッドシーツを握りしめてじっと待つ。それ以上なにもできることがなかった。
 痛みは不安を増幅させる。頭を突き刺す激痛の間隔がどんどん早くなる。こんな痛みが続くくらいならいっそ……。
 いっそ、なんだって言うんだよ。くそ……。

………………

…………

……



「おはよ……って知、どうしたの、顔真っ青じゃないの!?」

「はよ……。水ください」

「ちょっと、食べなきゃだめよ!! グラノーラがあるわ、座ってなさい」


 台所兼カフェの厨房で母親が朝メシを用意してくれている。重い頭を支えながら、俺はカウンターに座って水を飲んだ。おうえぇ。食えるかなあ……。


「土曜なのに早いわね。なにかあるの?」

「10時から図書館でお勉強してくる」

「え? あんたやっぱりちょっとどこかおかし……」

「いや別に。テスト勉強とかフツーっしょ?」


 架空のメガネをクイッと持ち上げたところで、目の前のテーブルに朝食が置かれた。
 ヴィンテージの緑の器にミルクが注がれる。グラノーラの中に赤いドライフルーツが泳いで、きれいだった。
 ものを食う気力がわかず木のスプーンで転がしていると、母親が隣に立ったまま俺を見下ろしているのに気づいた。ちらりと横目で様子を伺ってみる。


「ねえ、今日くらいは寝てたら?」


 あんまりにも険しい顔をしていたから、すぐにグラノーラに視線を戻した。答えたくなくて、ひとくち口に放り込む。


「体調、悪いんでしょ。勉強って……身体をおしてまでやらなきゃいけないの?」

「でも動けてるし……」

「そんなの薬のおかげでしょ? 本来なら入院が必要な重病人なのよ、あなたは!」


 大きな声に、思わず手が止まった。けれどなにも言い返せない。
 少し間が開いたあと、ガタ、と隣の椅子が鳴った。母親が隣に座ったのだ。俺は黙って、持っていたスプーンをミルクの中に置いた。


「学校には行かせているけど……本当は治療に専念して欲しいわよ」


 両親にとんでもなく心配かけていることはよく分かってる。今までなにも言わなかったのも、俺の心的負担を思ってだろう。それを伝えてくるってことは、どうしても我慢ならなくなったんだろうな。
 でも俺、入院する気はないしなあ。


「ごめん……俺、行かなきゃ」


 責めるような視線に耐えられず、逃げるようにしてカフェを出た。

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