彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

6/19(金) 野中貴臣②

「ん? それ聞いたことある?」


 俺の席の脇で考える仕草をする音和。


「当たり前だろ。お前にも紹介しようと一緒に行ったらいなくなったんだもん。なんだったんだろうなあいつ」
「フェイスファイルで名前ぐぐれば?」
「だからさ、名前がわかんないんだよ。カタなんとかって名前だと思うんだけどなー。片山、松方……ピンとこねーんだよな」
「じゃーヤウーでぐぐれば?『知ちゃん ダチ カタちゃん 本名』」
「それで『もしかして…』って出てきたら、ヤウージャパンのプログラム逆にこえーよ! ……てなわけでいかがでしたでしょうか。ご所望の“夏の怖い話”〜」
「なんで俺は漫才聞かされてんだよ! 真剣に聞いちまったじゃねーかっ!!」


 最近はもっぱら梅雨日和で、野中は機嫌が悪かった。


「毎日毎日毎日毎日、飽きずに雨! 俺はヤダなの〜〜!!」


 と、隣の席で駄々をこねている。
 ここ数日は雨が続くため、昼休みは仕方なく教室で昼メシを食べていたのだが、日々増えるギャラリーが野中をイラつかせていた。
 というのも、後ろのスペースにはレジャーシートがいくつも広げられ、クラスの女子だけでなく、別のクラスのやつらもうちの教室に来て飯を食う始末。それはまるで季節はずれの花見のようで。まあ、あいつらにとってはギャグなのだろうけど。


「アタシは見世物じゃないのよおー。なっちゃーん!!」


 胸に飛び込んできた野中をヨシヨシする。


「知ちゃんにさわんなたかおみ」


 いつもの調子で音和がつっこむと、レジャーシートの女子がダンッと壁をこぶしで殴りつけ、きつく睨みつけた。
 音和は顔を隠すように、しずしずと俺の背中に抱きつく。
 野中は置いといても、コイツがかわいそうだな……。
 そのときちょうど前の席で、コンビニの袋を持って立ち上がろうとしていた七瀬のシャツの背中を掴む。


「なによー? うげ、なんか塊になっててキモい」


 いぶかしげな目で俺たちを見下ろす。


「ななたんたすけてー」


 七瀬は面倒そうにため息をひとつ吐くと、窓の外を指さした。


「虎蛇なら開いてるんじゃん?」


 それは希望の光が差し込んできた瞬間だった。



┛┛┛



 手には弁当。隣には野中と音和。そして目の前は虎の穴。


「……」


 扉に手までかけてから、俺は逡巡しゅんじゅんしていた。
 部屋が開いてるってことは、中に会長がいるはずだ。でも……野中と会長って、合うんだろうか?
 とりあえず頭の中でシュミレートしてみる。

……
…………絶望☆(1秒)


「なーに停止してんだよ?」


 野中に肩を小突かれる。お前のことで悩んでるんだよ!

 おうおう、覚悟しろ知実。笑顔だ。精一杯の笑顔で、場を和ませ盛り上げよう! ラブ&ピースで世界はだいたいファビュラスになる!!(?)


「い、行こっか!」
「なんかほっぺたひくついてね?」
「ストレス過多でね」


 どうにでもな~れ☆
 つうわけであきらめ、元気よくドアを開けた。

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