彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
5/29(金) 芦屋七瀬①
ことの発端は5月最後の週末。
「お疲れさま。今日は虎蛇の具体的な活動会議があるの」
会長の召集で虎蛇に集まっていた。葛西先輩が用意していたプリントを全員に配る。
「6月7日に生徒会が企画する体育祭があるのは周知のとおりでしょう」
もう来週の日曜日か。クラスでも出場競技の振り分けも終わり、練習も始まっている。
「知ちゃん何に出るの?」
「俺? いちごとパン食い競争」
ちんたら走るだけだし、パン食えるし。
前に座るいちごが親指をぶっ立て、破顔する。はいはい、良かったな。
「あたしは借り物。知ちゃんを借りようと思ってる」
「指示見てから決めろよ! そういう競技じゃねーよ!」
この子も相変わらずのアホの子だ。
「……」
会長がこっちをにらんでいるのに気づき、ついでにお口チャックしてぴっと背筋も正した。
「そして、生徒会から虎蛇に果たし状があったので、受けることにした」
「ふーん。て、え!?」
配られたプリントにかぶりつく。
プログラムの終わりから2番目にたしかに、『生徒会VS文化祭実行委員会(仮)のリレー対決』という競技名が書かれている。
七瀬も珍しく真面目に、眉をしかめながらプログラムに見入っていた。その隣でいちごが首をかしげて、
「でも(仮)ってことは、まだ決定ではないってことですよね?」
「ああ……」
会長は視線を泳がせ、ボソボソとつぶやいた。
「それは……競技が仮じゃなくて。虎蛇会が正式な文化祭実行委員ではないという意味っていうか……」
は?
いまさら、いまさらなことを会長は言い出しましたよー!
「ちょっと! 虎蛇会は“自称”文化祭実行委員だったの?」
超カッコいい名前付けといて実は、勝手に作ってた委員会なの!?
それで「副会長です(キリッ)」なんてやってたのか、俺! はっずうううう!!!!
「いや悪い。“なくなった”というべきだったわ。文化祭実行委員会は毎年春に有志が集まって作ってるのは違わない。ただ……」
会長は悔しそうに目を落とした。
「あたしは集まった人間をほとんどクビにした。それで、学生からは不信感が生まれた。“虎蛇はワンマン会長だ”と」
「そんなことないです!」
「ありがとう日野。でも生徒会はそんな虎蛇を快く思ってない。だから、全校生徒の前で恥をかかせるつもりで勝負を仕掛けてきたのよ」
みんなしんと黙った。
たしかに会長がやってきたことは少し横柄だったかもしれない。でも、間違ったことはしていないと思う。それだけ、彼女は虎蛇会に誇りを持っていたのだから。
「んで、リレーの詳細は」
聞くと、こくりと会長が頷く。
「ランナーは5名。ひとりトラック1周走ってもらう」
室内を見回す。
うん。女子ばかり。
まー生徒会のことはよく知らないけど、どうせガリ勉ひ弱なスペシャリスト集団だろ?
「ちなみに生徒会は運動部が多い」
「なんで受けたんだよ!」
絶対無理! 勝てる要素がない!
「そうしないと虎蛇は解散だって言うからよ」
「そんな横暴なこと、生徒会だからってできないんじゃ」
「でも正々堂々と戦って勝てば、全校生徒に認めてもらえるでしょ」
会長のまっすぐな瞳が突き刺さった。
彼女は一度決めると譲らないまじめすぎる人間なのだ。
せめて運ゲーならまだしも、リレーなんて実力の世界じゃんかよ……。
目を閉じてため息をついた。
「……会長、運動は?」
「文武の才を持ち合わせ、さらに美をも……」
「七瀬は」
「運動は期待しないで〜」
「苦手なんだな、OK。音和は運動得意だったよな」
「体育でいつもA判定もらってる」
「だな。じゃあ葛西先輩は?」
「え?」
自分にふられたのが意外だという顔だった。
「走るの得意ですか?」
「あの、わたしは……」
語尾を濁してたじたじしている。可愛い。
「? お願いしたいんですけど……」
これは決定だからなあ。苦手そうだけどがんばってもらわねば。
「あの……私、お日様の下に出られないんです」
困った様子で俺を見上げる顔があった。
うお、そこまで身体が弱い人だったのかよ。
そういえば初めて会ったとき、体育祭や文化祭とか学校行事には一度も出たことがないって言ってたっけ。
「すみません。そんなこと言われてましたね、そういえば」
「いえ。ご期待には添えませんが、私にも分け隔てなく声をかけてくださってうれしいです」
葛西先輩はやさしく微笑んでくれた。心の中でヴィーナスと呼ぼう。そうしよう。
浄化された俺はきれいな目でいちごを見る。
「会長、困った。4人しかいない」
「がーん。あたしは虎蛇のメンバーじゃなかったんだ……」
てっきり突っ込むかと思ったら、ショックを受けていた。
「うそうそごめん。一応聞くけど、50mのタイムは?」
「6秒前半とか」
「「「…………」」」
全員がいちごを見る。
「なんで……そんなに速いんですかいちごさん?」
「逃げ足は速くないと……この荒んだ世界では生きていけなかったから」
ふっと寂しそうな表情を作った。
苦労人をネタ化しはじめたよこの人強い! でもそれ、俺にしか通じねーぞ……。
「お疲れさま。今日は虎蛇の具体的な活動会議があるの」
会長の召集で虎蛇に集まっていた。葛西先輩が用意していたプリントを全員に配る。
「6月7日に生徒会が企画する体育祭があるのは周知のとおりでしょう」
もう来週の日曜日か。クラスでも出場競技の振り分けも終わり、練習も始まっている。
「知ちゃん何に出るの?」
「俺? いちごとパン食い競争」
ちんたら走るだけだし、パン食えるし。
前に座るいちごが親指をぶっ立て、破顔する。はいはい、良かったな。
「あたしは借り物。知ちゃんを借りようと思ってる」
「指示見てから決めろよ! そういう競技じゃねーよ!」
この子も相変わらずのアホの子だ。
「……」
会長がこっちをにらんでいるのに気づき、ついでにお口チャックしてぴっと背筋も正した。
「そして、生徒会から虎蛇に果たし状があったので、受けることにした」
「ふーん。て、え!?」
配られたプリントにかぶりつく。
プログラムの終わりから2番目にたしかに、『生徒会VS文化祭実行委員会(仮)のリレー対決』という競技名が書かれている。
七瀬も珍しく真面目に、眉をしかめながらプログラムに見入っていた。その隣でいちごが首をかしげて、
「でも(仮)ってことは、まだ決定ではないってことですよね?」
「ああ……」
会長は視線を泳がせ、ボソボソとつぶやいた。
「それは……競技が仮じゃなくて。虎蛇会が正式な文化祭実行委員ではないという意味っていうか……」
は?
いまさら、いまさらなことを会長は言い出しましたよー!
「ちょっと! 虎蛇会は“自称”文化祭実行委員だったの?」
超カッコいい名前付けといて実は、勝手に作ってた委員会なの!?
それで「副会長です(キリッ)」なんてやってたのか、俺! はっずうううう!!!!
「いや悪い。“なくなった”というべきだったわ。文化祭実行委員会は毎年春に有志が集まって作ってるのは違わない。ただ……」
会長は悔しそうに目を落とした。
「あたしは集まった人間をほとんどクビにした。それで、学生からは不信感が生まれた。“虎蛇はワンマン会長だ”と」
「そんなことないです!」
「ありがとう日野。でも生徒会はそんな虎蛇を快く思ってない。だから、全校生徒の前で恥をかかせるつもりで勝負を仕掛けてきたのよ」
みんなしんと黙った。
たしかに会長がやってきたことは少し横柄だったかもしれない。でも、間違ったことはしていないと思う。それだけ、彼女は虎蛇会に誇りを持っていたのだから。
「んで、リレーの詳細は」
聞くと、こくりと会長が頷く。
「ランナーは5名。ひとりトラック1周走ってもらう」
室内を見回す。
うん。女子ばかり。
まー生徒会のことはよく知らないけど、どうせガリ勉ひ弱なスペシャリスト集団だろ?
「ちなみに生徒会は運動部が多い」
「なんで受けたんだよ!」
絶対無理! 勝てる要素がない!
「そうしないと虎蛇は解散だって言うからよ」
「そんな横暴なこと、生徒会だからってできないんじゃ」
「でも正々堂々と戦って勝てば、全校生徒に認めてもらえるでしょ」
会長のまっすぐな瞳が突き刺さった。
彼女は一度決めると譲らないまじめすぎる人間なのだ。
せめて運ゲーならまだしも、リレーなんて実力の世界じゃんかよ……。
目を閉じてため息をついた。
「……会長、運動は?」
「文武の才を持ち合わせ、さらに美をも……」
「七瀬は」
「運動は期待しないで〜」
「苦手なんだな、OK。音和は運動得意だったよな」
「体育でいつもA判定もらってる」
「だな。じゃあ葛西先輩は?」
「え?」
自分にふられたのが意外だという顔だった。
「走るの得意ですか?」
「あの、わたしは……」
語尾を濁してたじたじしている。可愛い。
「? お願いしたいんですけど……」
これは決定だからなあ。苦手そうだけどがんばってもらわねば。
「あの……私、お日様の下に出られないんです」
困った様子で俺を見上げる顔があった。
うお、そこまで身体が弱い人だったのかよ。
そういえば初めて会ったとき、体育祭や文化祭とか学校行事には一度も出たことがないって言ってたっけ。
「すみません。そんなこと言われてましたね、そういえば」
「いえ。ご期待には添えませんが、私にも分け隔てなく声をかけてくださってうれしいです」
葛西先輩はやさしく微笑んでくれた。心の中でヴィーナスと呼ぼう。そうしよう。
浄化された俺はきれいな目でいちごを見る。
「会長、困った。4人しかいない」
「がーん。あたしは虎蛇のメンバーじゃなかったんだ……」
てっきり突っ込むかと思ったら、ショックを受けていた。
「うそうそごめん。一応聞くけど、50mのタイムは?」
「6秒前半とか」
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