彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

5/18(月) 虎蛇会②

「チュン太おそい!」

 丸まった雑誌がパコンと頭の上で小気味良い音を鳴らす。
 目の前で立腹しているショートカットの勝ち気な少女は、目を逸らしていた俺の側頭部を雑誌で再び叩いた。


「って側頭部じゃない! 目! 今の、目に当たったアア!!」
「反省してんの?」
「猛省しております」


 くっそ痛ってええええ。
 マジこの人シャレになんないよお……。


「か、かいちょ、知ちゃんを叩か……」
「ちなみにアンタも遅刻だからね、穂積」


 パコン!
 音和の頭でも会報が跳ねた。
 小さな音和にはそれだけで大ダメージだったらしく、頭を両手で押さえて涙目になっていた。
 それにしてもお前、よく会長にたてついたな。ちょっと見直したわ。

 雑誌を握ったまま、ショートカットの女子生徒こと部田凛々子とりた りりこは、俺たちを交互に睨みつけた。


「虎蛇会会員なら、生半可な気持ちじゃ務まらないこと、肝に命じるように!」


 そう凄みをきかせながらバンッと両手を机に叩きつけた。
 どこの裁判ゲームだここは。


「まー、肝に命じたために会員が4名なわけですがー」


 この部屋に俺たちのほかにもうひとり、空気を読まない人間がいる。

 部屋の奥の窓際にあるひとり用の小さな机に腰かけて、超ミニスカートから惜しげもなく出した生足をぶらぶらさせている女子生徒は、あくびをかみ殺していた。
 肩より少し長い、不自然な焦げ茶色の髪をさらりと揺らして、芦屋七瀬あしや ななせは「だよね?」とばかりに、俺にVサインを送った。

 ギギギギギと、ゼンマイのおもちゃのように、会長の首が俺のほうに回ってくる。
 俺も会長と目が合わないように、ギギギと顔を回して明後日の方向を見た。


「いやーなんのことやら……」


 クッソ七瀬! 飛び火がこっちに来たろが覚えてろよ。


「辞めていった人に未練はないよ。やる気ない人間がいるほうが士気下がるから」


 あらら? 殴られるかと思ったけど意外におとなしい。本人も少しは気にしてるのかな。
 フンと鼻を鳴らして、会長はいつもの席についた。

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