呪われた英雄は枷を解き放つ

ないと

13

 十二英雄という存在をご存知だろうか。

 それは何千年も昔のこと。この世界では、邪神と呼ばれる悪の神と、善神と呼ばれる善の神が争いを起こしていた。

 人族は、善神側の陣営として、邪神の配下である魔族と戦った。

 戦いの中で、邪神は魔族に対象者のステータスを低下させる呪術と、地から湧き出る魔力を用いてあらゆる自然の事象を引き起こすことができる魔法を与えた。
 対する善神は、空気中に存在する聖法気を使い、神の加護を得る神聖術を人族に与えた。

 長きに渡った戦いに終止符を打ったのは、善神が新たに創り出した生命、天使族の降臨だった。

 善神の最後の力を惜しみなく使うことによって創り出された六体の天使は、その個体数の少なさを完全に補う程の個々の性能を用いて、拮抗していた人族と魔族の戦線をあっという間に崩し邪神の陣地を侵食した。

 しかし邪神も最後の力を振り絞り天使族の進軍に対抗した。

 そして生まれたのが四人の魔族の頂点。四魔王だ。

 邪神を目前にして四魔王と天使族の戦いは熾烈を極めた。

 邪神に届くか届かないか、そんなさなかで天使族に加勢したのが、人族の中でも人類最強の六人、と呼ばれた勇者たちだ。

 天使族と六人の勇者、合わせて十二人の邪神を倒さんとする者は、ついに四魔王を押しのけ、邪神に挑み、その末に邪神を封印するに至ったのだ。

 これが、十二英雄の生まれる元となった伝説である。



「ーーへぇ、それで、地に眠っている邪神が復活しないように封印の効力を強めているのがこの大聖堂というわけか」

 アルトは壁に貼られている十二英雄の伝説を読み、感嘆の声を上げた。

 展示室にアルトの声が響く。

「ちょっと、アルト君、静かにしてください」

 アメリアが周りの観光者に目をやりながら注意をする。

「あぁ、ごめん」

「ここも十分鑑賞出来ましたし、他のところにも行ってみましょう」

「うん、そうですね」

 そうしてアルトとアメリアは部屋を出る。

 ーーしばらく大聖堂の中を歩いていると、アルトは廊下に何かが散らばっているのを見つけた。

「ん?なんだこれ?」

 床に膝をつき、その光るものを拾ってアルトは『鑑定眼』を発動させた。

「これは・・・鉄くず?でも、なんでこんなところに・・・」

「鉄くずはこの角から散らばっているみたいですね」

 アメリアは目の前の曲がり角を指さしながら言った。

 確かに角から広がるようにして鉄くずが散らばっている。

「ちょっと覗いて見ましょうか」

 アルトはそう言って壁から顔を出すようにして曲がり角の先を覗いた。

「あれ?何か、鎖みたいなのが断ち切られていますよ」

「鎖?」

 アメリアは反射的にアルトと同じく角の先を覗いた。

 確かにそこには、力任せに鎖が断ち切られた痕があり、ブランと下にぶら下がっている鎖の先には、更に横へとつながっている道があった。

 アメリアは異変を感じ取りながらもそこに近づき、床に落ちている「立ち入り禁止」と書かれた板を手に持った。

「この先、立ち入り禁止みたいですね」

「えぇっ!?じゃあ、関係者は?」

 混乱するアルト。

ーーその瞬間、アルトの言葉に同調するかのようにして目の前で鎧の兵士、つまり警護の人が横切った。

「「あ」」

 お互いの存在に気づき、顔を覆っている兜ごとこちらを向く兵士。

 数瞬の間の後、兵士は立ち入り禁止域の奥の方へと走っていった。

「関係者ならこんな強引な入り方はしないでしょう!!」

 叫ぶようにしてアメリアは兵士を追いかける。

「えっ、ちょっと待ってください!!」

 一瞬遅れて取り残されたアルトはアメリアを追従した。

(これ、僕たちも犯罪者になってしまうのでは・・・)

 一瞬そんな考えがアルトの頭に浮かんだが、今になってはもう遅い。
 立ち入ってしまった以上、あの兵士の企みを止めなくてはならない。

 アルトは全力で走る。

 まさか、邪神が復活してしまうなんて、万が一にも、そんなことはありえないだろうけどーーあの兵士によってこの大聖堂の機能が停止してしまう可能性が少しでもあるなら、一刻も早くこの状況を終わらせなくてはならない。

 アルトの頬を冷たい汗がつたい、地に落ちた。

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