呪われた英雄は枷を解き放つ
1 プロローグー① ダンジョン
連日の猛暑で、道行く人たちはどこか疲れているようだ。
住民に商人。ところどころ異質な空気を放っているのは冒険者、またの名を迷宮攻略者という。
中には大剣を背に装備した冒険者や、杖を手に持っている冒険者の姿が見える。
そんな人たちの間を縫って進むのは短剣を腰に吊るした少年。髪と目は黒く、背は周りの冒険者と比べてやや低い。その貧弱そうな細い腕はダンジョンの魔物を狩る迷宮攻略者には不向きで、いかにも冒険者業を始めたは良いものの、なかなか成功しない迷宮攻略者の姿そのものだ。
事実、少年は弱い魔物を倒しているだけでは生活が回らなくなってきて、今日を最後に、ダンジョン攻略をやめることにしていた。
そんなこの少年の名前はアルト・クルーガー。先月十五歳となり成人し、独り立ちをして子供の頃から憧れていたダンジョン攻略を始めた。
しかしダンジョンに潜るのも今日が最後。現実を知り、子供の頃の夢は潰えた。
思いつめてこの結論を導き出したが、アルトには後悔は無かった。命を危険に晒してまで英雄の後を追うつもりは無かった。
そしてアルトの足は止まる。
ダンジョンの入り口に到着したのだ。
無駄に装飾のなされた大きな門を前に、アルトはため息をつかずには居られなかった。
□
暗い空間の中、洞窟のように続く道の足元を、水晶のようなものが発光して照らしている。
ここはダンジョンの中。一階層と呼ばれる場所だ。
アルトは照らされた道を躊躇する事なく進んでいく。
周りからは絶えず迷宮攻略者たちのものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
一階層は割と難易度が低く、このダンジョンは入場料を必要としないため、正式な冒険者以外にもちょっとした狩人が小遣いを稼ぎに来るのだ。中には魔物との一騎打ちを囃したてる観客の歓声だったり、逆に真面目に仲間に指示をする命令の声だったり、様々な声があるが、この喧騒は孤独なアルトの心を支えた。
一度アルトはこの一階層より更に深い、二階層に行ったことがあるのだが、その時は異常なまでの静けさと異常なまでの魔物の強さにすぐに引き返すこととなった。
□
しばらく歩いていると、珍しいものが目に入った。
アルトは足を止め、すかさずそれに近寄り手に取る。
「『鑑定眼』」
そう唱えると、アルトの眼が光りスキルが発動された。
『鑑定眼』。このスキルは、あらゆる事物の詳細を一瞬にして見ることができるというものだ。
『鑑定眼』が手の上に乗っている物の詳細をアルトに伝える。
「おぉ!魔鉱石!ひさしぶりに見つけたなぁ」
アルトは喜びに歓喜の声を上げた。
一見ただの道端に転がっている石のようにしか見えないそれは、魔鉱石と言い、ダンジョン内に溜まった魔力が固形化した物体で、なかなかの高値で売ることができる。
(やっぱり、たまにこういう幸運を引くことがあるからダンジョン探索はやめられないんだよなぁ)
一瞬そう思ってしまったアルトだが、直ぐに今日は最後のダンジョン探索であることを思い出す。
それでもダンジョンから離れていく自分を、ダンジョンという存在が引き止めようとしている感覚にアルトは虚しさをおぼえた。
やっぱり、迷宮攻略者をやめるのはもっと後でも良いのでは無いだろうか。
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。
しかし、アルトは頭を振ってその考えを頭から無くした。
(運なんかに頼っていたら金はいつまで立っても稼げない。僕は安定した生活を優先しなきゃいけないんだ)
自分の心の緩みを正して、アルトは魔鉱石を袋にしまった。
(これは新しい仕事に就くまでの生活費用にしよう)
そうしてアルトはダンジョンのより奥へと歩み始めた。
住民に商人。ところどころ異質な空気を放っているのは冒険者、またの名を迷宮攻略者という。
中には大剣を背に装備した冒険者や、杖を手に持っている冒険者の姿が見える。
そんな人たちの間を縫って進むのは短剣を腰に吊るした少年。髪と目は黒く、背は周りの冒険者と比べてやや低い。その貧弱そうな細い腕はダンジョンの魔物を狩る迷宮攻略者には不向きで、いかにも冒険者業を始めたは良いものの、なかなか成功しない迷宮攻略者の姿そのものだ。
事実、少年は弱い魔物を倒しているだけでは生活が回らなくなってきて、今日を最後に、ダンジョン攻略をやめることにしていた。
そんなこの少年の名前はアルト・クルーガー。先月十五歳となり成人し、独り立ちをして子供の頃から憧れていたダンジョン攻略を始めた。
しかしダンジョンに潜るのも今日が最後。現実を知り、子供の頃の夢は潰えた。
思いつめてこの結論を導き出したが、アルトには後悔は無かった。命を危険に晒してまで英雄の後を追うつもりは無かった。
そしてアルトの足は止まる。
ダンジョンの入り口に到着したのだ。
無駄に装飾のなされた大きな門を前に、アルトはため息をつかずには居られなかった。
□
暗い空間の中、洞窟のように続く道の足元を、水晶のようなものが発光して照らしている。
ここはダンジョンの中。一階層と呼ばれる場所だ。
アルトは照らされた道を躊躇する事なく進んでいく。
周りからは絶えず迷宮攻略者たちのものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
一階層は割と難易度が低く、このダンジョンは入場料を必要としないため、正式な冒険者以外にもちょっとした狩人が小遣いを稼ぎに来るのだ。中には魔物との一騎打ちを囃したてる観客の歓声だったり、逆に真面目に仲間に指示をする命令の声だったり、様々な声があるが、この喧騒は孤独なアルトの心を支えた。
一度アルトはこの一階層より更に深い、二階層に行ったことがあるのだが、その時は異常なまでの静けさと異常なまでの魔物の強さにすぐに引き返すこととなった。
□
しばらく歩いていると、珍しいものが目に入った。
アルトは足を止め、すかさずそれに近寄り手に取る。
「『鑑定眼』」
そう唱えると、アルトの眼が光りスキルが発動された。
『鑑定眼』。このスキルは、あらゆる事物の詳細を一瞬にして見ることができるというものだ。
『鑑定眼』が手の上に乗っている物の詳細をアルトに伝える。
「おぉ!魔鉱石!ひさしぶりに見つけたなぁ」
アルトは喜びに歓喜の声を上げた。
一見ただの道端に転がっている石のようにしか見えないそれは、魔鉱石と言い、ダンジョン内に溜まった魔力が固形化した物体で、なかなかの高値で売ることができる。
(やっぱり、たまにこういう幸運を引くことがあるからダンジョン探索はやめられないんだよなぁ)
一瞬そう思ってしまったアルトだが、直ぐに今日は最後のダンジョン探索であることを思い出す。
それでもダンジョンから離れていく自分を、ダンジョンという存在が引き止めようとしている感覚にアルトは虚しさをおぼえた。
やっぱり、迷宮攻略者をやめるのはもっと後でも良いのでは無いだろうか。
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。
しかし、アルトは頭を振ってその考えを頭から無くした。
(運なんかに頼っていたら金はいつまで立っても稼げない。僕は安定した生活を優先しなきゃいけないんだ)
自分の心の緩みを正して、アルトは魔鉱石を袋にしまった。
(これは新しい仕事に就くまでの生活費用にしよう)
そうしてアルトはダンジョンのより奥へと歩み始めた。
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