転生までが長すぎる!

兎伯爵

最後の四人

 そして、さらに一か月が経過。
 ついに、同期のメンバーは四人だけになった。


 俺たちは所詮、ただの訓練生。
 未だに外出すら許されていない身だ。


 当然、人数が減ったからといって個室がもらえるはずもなく、四人まとめて同じ部屋に押し込められることになった。


「えっと、同室の人がいなくなっちゃったので、この部屋に来ました。よろしくお願いします」


 くりっとした目が特徴的な、中性的な少年だ。


 ダンジョンで最後まで生き残った子だ。
 訓練中に何度か話したが、生前は中学生だったらしい。


 まだ若いのに大変だ。
 年上に囲まれて緊張しているのか、初々しい態度が可愛らしい。


「よろしくな。まあ、こんな所で上下関係もないし、気楽にいこう。俺はシャチって呼ばれてる」
「シャチ?」
「社畜だから」
「……」


 あだ名、募集中です。


「で、こっちのでかいのがゴリラさん。変態だから気を付けてな」
「よろしく。お兄ちゃんと呼んでいいぞ」
「は、はい。……遠慮します」
「そっちの眼鏡の坊主頭がイガグリ。こっちも変態だから気を付けて」
「敬語は要りませんよ。猫耳は好きですか?」
「はい、じゃなくて、うん。猫耳は、ええと、好きな方かな」
「ウィーラブキャットイヤー!」
「ひゃ!?」
「怯えるからやめろ馬鹿」


 少年のあだ名はマメシバ。


 理由は小型犬っぽいから。
 まあ、イメージのまんまだ。


 ゴリラさん、イガグリ、マメシバ。
 この三人が、最後の生き残りだ。


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 今日は訓練が休みの日だ。
 週に一日だけ、俺たちには休暇が与えられる。


 外出は禁止されているから、基本的に暇を持て余すだけだが。


 今日も部屋に集まって、適当にお喋りしているだけだ。


「折角の休みも、外に出られないのでは暇なだけだな」
「そうですね。まあ、そもそも休みが一日では出来ることも限られてますが」
「文句言うなよ。固定で貰えるだけありがたいだろ。日本じゃ休みがない職場なんてざらだぞ」
「さらりと恐ろしいことを言わないでください」


 イガグリが若干引いたような表情を作る。
 まだ二十歳前後くらいだし、働いた経験がないのかもしれない。


「そうか。お前、就職したことがないんだな」
「確かに前世は学生でしたが」
「これから苦労するな。休みが毎週もらえるのなんて、学生のうちだけだぞ」
「労働基準法ってご存知ですか?」
「知ってるよ。国が勝手に決めてるヤツだろ」
「国が。勝手に」
「会社には会社の規則があるからな。法律なんて関係ないぞ」
「法律の概念が崩れました」


 社会の常識だ。
 基本的に、法律は守るメリットがなければ守られない。


「あなたの社会観、わりとおかしいですよ。この中だと、元社会人はあなたとゴリラさんだけですか」
「マメちゃんは中学生だっけ?」
「うん、そう。ゴリラさんは働いてたの?」
「ああ。高校を卒業して、そのまま就職した」


 不思議な感覚だ。
 年齢も出身もバラバラのメンバーが、こうして一か所に集まっている。


 転生という一つの目標に向かって。


「しっかし、ゴリラさんとイガグリはともかく、マメちゃんはよく耐えてるな。生前、運動部?」
「あ、ううん。ボク、生きてた頃は体が弱くて……ほとんど学校にも行けてなかったんだ」


 病弱系の美少年か。
 過去を思い出すように、少しだけ目を伏せてから、マメシバが続ける。


「だから、今はすごく嬉しいんだ。訓練は辛いけど、自由に走って動けて、それだけで楽しい。チャンスをくれた天使様のためにも、頑張らないと」
「マメちゃん……」


 俺は泣きそうになった。
 他二人の行動原理が行動原理だから、心が洗われていくような感覚すらあった。


「うむ。良い心がけだ、マメ公。共に夢の為に頑張ろう」
「ええ。私たちは同志です。最後まで一緒に耐え抜きましょう」


 何かいい雰囲気を出しているが――
 俺は突っ込まずにはいられなかった。


「ゴリラさんは妹が欲しいんだっけ?」
「違う。可愛い妹が欲しいのだ」
「うるさいよ。で、イガグリは」
「ケモミミ最高!」
「犬でも飼え。マメちゃんは」
「えっと、冒険者とか、憧れるかな」
「そっちの変態二人は見習え」


 しかし、まともなのが三分の一か。
 何を基準に転生候補者を選んだのか、気になるところだ。


「そういう貴様はどうなんだ?」
「ええ。我々の夢を否定したからには、さぞかし御大層な夢があるのでしょう」
「別に否定はしてないだろ」


 ちょっとドン引きしただけだ。


「言うだけ言ってみろ。一人だけ黙秘は無粋だぞ」
「夢の一つや二つ、あなたにもあるでしょう?」
「まあ……」


 ないこともない。
 夢というほどではないが、生前は叶えられなかったことだ。


 しかし、何となく人に言うのは恥ずかしい。


「ボクも知りたいな」
「マメちゃんまで」


 馬鹿二人はともかく、マメシバにまで言われたら断れない。


「笑うなよ」
「笑わないよ。ね?」
「ああ」
「ええ」
「ならいいけど。まあ、アレだ。俺は、なんていうか……お嫁さんが欲しい」


 生前は独り身のままだった。
 一人暮らしだったから、家に帰っても誰もいないし、その所為で生活もかなり酷いことになっていた。


 だから、結婚生活というものに、憧れがないこともない、そんな感じだ。


「……ん?」


 ふと気付くと、他の三人が妙に生暖かい目で俺を見ていた。


「可愛い」
「可愛い」
「可愛い!」
「やめろ!」


 笑われた方がマシだった。
 超恥ずかしい。


 全員を代表するように、ゴリラさんが俺の肩を叩く。


「これからもよろしくな、コンカツ」
「やめろ」


 しかし抗議は受け入れられず、俺の新たなあだ名が決まった。
 屈辱だ。



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