転生までが長すぎる!

兎伯爵

転生候補者の見る夢は

 スライムの一件で、訓練生はかなり数が減った。


 最初は数十人いた訓練生も、今では十人前後だ。
 どうやら減る度に補充されるわけではなく、一定期間ごとに区切られるらしい。


 半年間という訓練期間も、あくまで卒業試験までの区切りであり、厳密なものではないと教官に言われた。


「随分減ったな……」
「そうだな」


 ごつい体格の男性が、俺の言葉に頷く。


 同室のゴリラさんだ。
 例のスライムに、真っ先に食われた男である。


 実年齢は知らないが、おそらくは最年長。
 最初期から訓練に参加している猛者だ。


 皆が敬意とその他をこめてゴリラさんと呼んでいるから、俺も同じように呼んでいる。


「体力作りから始まり、体術や剣術、サバイバル技術まで。知らない土地でやっていくなら、必要なスキルではあるのだろうが……要するに兵士や傭兵としてやっていける技術を叩き込まれているわけだからな」
「魔法とかも教えてくれりゃ楽なのにな」
「半端な覚悟では、転生は叶わぬということだろう。己の骨子となる信念や夢がなければ、苦行を続けることは難しい」
「まあ、ぶっちゃけ俺も、ここまで辛いとは思わなかったけど」
「だが、まだここに残っている。貴様にも転生にかける望みがあるのだろう」


 いや、ゴキブリになりたくないからだけど。
 あの天使の脅迫がなければ、とっくに諦めている。


「我には夢がある」
「夢?」
「そうだ。子供の頃からの、夢だ」


 ゴリラさんが空を見上げる。
 それは遥か遠い未来を夢見る、男の表情だった。


「我の夢はただ一つ。可愛い女の子に……お兄ちゃんと呼ばれたいのだ」


 おまわりさん。
 コイツです。




 同じ場所で訓練を受け、同じ釜の飯を食っていれば、自然と仲間意識は生まれるものだ。
 それも、同じ部屋で暮らしていれば尚更だろう。


「今日もしごかれましたね。我々の体力も上がっているはずですが、全く楽になっていないあたりが凄まじい」
「人数減って、一人あたりの負担が増えたからな……」


 話し相手は、メガネをかけたイガグリ頭だ。
 最初の頃から同室の仲間は、もうコイツしかいない。


「俺が言うのも何だけど、よく耐えてるよな、お前も」


 自分よりも年下の青年を、素直に称賛する。


 たぶん、年齢は大学生くらいだろう。
 若いし、インテリっぽい見た目なのに、大した根性の持ち主だ。


「当然です。ゴリラ氏が言っていました。強い願いがあれば、どんな辛い道も歩み続けられると」
「似たようなことは俺も聞いたけど」


 ただなー。
 あのゴリラ、美少女の妹が欲しいとか真顔で言う生き物なんだよな。


 日本だったら即座に通報してた。


 そんなことを思うが、しかし、勘違いしていたのは俺の方だったのだ。
 そもそも死ぬ思いをしてまで異世界に行くことを望むような連中に、まともな人格を望む方がおかしかった。


「私もゴリラ氏と一緒です。譲れない夢があるからこそ、どんな苦境にも耐えられる」
「あ、なんかデジャヴ」
「私の夢は一つ」
「いや、聞いてないよ。聞きたくないよ」
「私は――異世界に行き、ケモミミ少女とイチャイチャしたい」
「どいつもこいつも」


 欲望のままに生きてやがる。
 死人のくせに。



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