転生までが長すぎる!
契約書のサインは慎重に
気付いたら知らない場所にいた。
病室のような、真っ白な空間だ。
目の前には、人形のように精巧な顔立ちの少女がいる。
背中から白い翼を生やした彼女は、無表情に告げた。
「ご愁傷様。あなたはお亡くなりになりました」
「あー……そうですか」
死んだか。
寝不足、過労、不摂生。
まあ、あんな生活をしていれば無理もない。
「まだお若いようですが……死因は過労死ですか。ドンマイ」
「励ましが雑過ぎる」
「おたくらジャパニーズが年間何人過労死してると思ってるんですか。日本担当のわたしの迷惑も考えてください。この社畜民族」
「なんだコイツ。悪魔か」
「天使です」
嘘だー。
こんな天使、絶対に嫌だ。
とりあえず、敬語を使う気はなくなった。
「ここって死後の世界ってヤツか? 俺、これからどうなるんだ?」
「切り替え早いですね」
「誰かさんがもうちょい神妙にしてくれてたら、少しはしんみりしたかもしれない」
「ドンマイ」
「それだよ」
こちとら死にたてほやほやだぞ。
もっと丁重に扱ってくれ。
「ご認識の通り、ここは死後の世界。天国に行くまでの、狭間の空間です」
「え、俺、天国行けんの? 生前、結構やらかしてるけど。無茶な納期の案件取ってきた営業の電話にワン切りしたり、俺の業務状況考えず仕事振ってくる課長の茶に雑巾汁入れたり。あと親より早く死んだり」
「その程度で地獄行きなら、地獄の人口密度がえぐいことになりますよ。腹パンまではセーフです」
「ここの法律が気になる」
「というわけで、あなたは天国に行くことも出来ます」
「行くことも、って他に選択肢があるみたいな言い方だな」
「ありますよ。異世界転生、ご存知ですか?」
少なからず、期待がなかったといえば嘘になる。
だが、素直に認めると負けた気がするので、俺は敢えて素っ気なく答えた。
「まあ、一応」
「でしょうね。そんな顏です」
「釈然としない」
「まあまあ。転生先はいわゆるファンタジー世界ですね。魔法もあるし、人間以外の種族もいます。とりあえずチートで無双して、魔王とか邪神とか適当に倒してください」
「仕事の振り方がウチの営業と一緒なんだけど」
「優秀な営業さんがいるようで。で、どうします? 転生を望みますか?」
「まあ……断る理由もないしな」
「それでは、こちらの書類にサインを」
俺は言われるがまま、差し出された紙に自分の名前を書き込んだ。
言い訳しておくと、この時の俺は、何だかんだ言って冷静ではなかったのだ。
いきなり死んだと告げられ、心穏やかでいられるはずがない。
普段だったら、流石に初対面の相手が差し出した契約書に、内容も確認せずサインするような真似はしなかっただろう。
「書いたぞ」
「はい、確認しました。では、行ってらっしゃい」
そして、俺の体は光に包まれ――
たりはせず、どこからか現れた屈強な男たちに両腕を取られた。
捕まった宇宙人よろしく、マッチョ二人にドナドナされていく。
「ん!?」
「何を驚いてますか。ちゃんと契約書に書いてあるでしょう? 転生までの半年間、まずは訓練を受けてもらうと」
「待っ!」
「昔はそのまま送り出してたんですが、チート能力ありでも普通に死ぬんですよね、素人だと。だからまあ、まずは最低限の訓練を」
「待て待て待て! 俺が悪かった、悪かったから、もう一度契約書を見せろ!」
「もう手遅れです」
「おい天使!」
「安心してください。今のあなたは魂に仮の器を与えた存在。だから、どれだけしごかれても死ねません。もとい、死にません」
やめろ。
死ねないと死なないは、全く違う。
不安にしかならない。
「じゃ、頑張ってください。ファイト」
「応援まで雑!」
-------------------------------------------------------------------------------------
そして俺は――地獄に送り込まれた。
「オラ、ウジ虫ども! 誰が休んでいいと言った!」
「すみません!」
「死ぬまで走れ!」
「はいぃ!」
地獄の訓練所に、送り込まれたのだ。
病室のような、真っ白な空間だ。
目の前には、人形のように精巧な顔立ちの少女がいる。
背中から白い翼を生やした彼女は、無表情に告げた。
「ご愁傷様。あなたはお亡くなりになりました」
「あー……そうですか」
死んだか。
寝不足、過労、不摂生。
まあ、あんな生活をしていれば無理もない。
「まだお若いようですが……死因は過労死ですか。ドンマイ」
「励ましが雑過ぎる」
「おたくらジャパニーズが年間何人過労死してると思ってるんですか。日本担当のわたしの迷惑も考えてください。この社畜民族」
「なんだコイツ。悪魔か」
「天使です」
嘘だー。
こんな天使、絶対に嫌だ。
とりあえず、敬語を使う気はなくなった。
「ここって死後の世界ってヤツか? 俺、これからどうなるんだ?」
「切り替え早いですね」
「誰かさんがもうちょい神妙にしてくれてたら、少しはしんみりしたかもしれない」
「ドンマイ」
「それだよ」
こちとら死にたてほやほやだぞ。
もっと丁重に扱ってくれ。
「ご認識の通り、ここは死後の世界。天国に行くまでの、狭間の空間です」
「え、俺、天国行けんの? 生前、結構やらかしてるけど。無茶な納期の案件取ってきた営業の電話にワン切りしたり、俺の業務状況考えず仕事振ってくる課長の茶に雑巾汁入れたり。あと親より早く死んだり」
「その程度で地獄行きなら、地獄の人口密度がえぐいことになりますよ。腹パンまではセーフです」
「ここの法律が気になる」
「というわけで、あなたは天国に行くことも出来ます」
「行くことも、って他に選択肢があるみたいな言い方だな」
「ありますよ。異世界転生、ご存知ですか?」
少なからず、期待がなかったといえば嘘になる。
だが、素直に認めると負けた気がするので、俺は敢えて素っ気なく答えた。
「まあ、一応」
「でしょうね。そんな顏です」
「釈然としない」
「まあまあ。転生先はいわゆるファンタジー世界ですね。魔法もあるし、人間以外の種族もいます。とりあえずチートで無双して、魔王とか邪神とか適当に倒してください」
「仕事の振り方がウチの営業と一緒なんだけど」
「優秀な営業さんがいるようで。で、どうします? 転生を望みますか?」
「まあ……断る理由もないしな」
「それでは、こちらの書類にサインを」
俺は言われるがまま、差し出された紙に自分の名前を書き込んだ。
言い訳しておくと、この時の俺は、何だかんだ言って冷静ではなかったのだ。
いきなり死んだと告げられ、心穏やかでいられるはずがない。
普段だったら、流石に初対面の相手が差し出した契約書に、内容も確認せずサインするような真似はしなかっただろう。
「書いたぞ」
「はい、確認しました。では、行ってらっしゃい」
そして、俺の体は光に包まれ――
たりはせず、どこからか現れた屈強な男たちに両腕を取られた。
捕まった宇宙人よろしく、マッチョ二人にドナドナされていく。
「ん!?」
「何を驚いてますか。ちゃんと契約書に書いてあるでしょう? 転生までの半年間、まずは訓練を受けてもらうと」
「待っ!」
「昔はそのまま送り出してたんですが、チート能力ありでも普通に死ぬんですよね、素人だと。だからまあ、まずは最低限の訓練を」
「待て待て待て! 俺が悪かった、悪かったから、もう一度契約書を見せろ!」
「もう手遅れです」
「おい天使!」
「安心してください。今のあなたは魂に仮の器を与えた存在。だから、どれだけしごかれても死ねません。もとい、死にません」
やめろ。
死ねないと死なないは、全く違う。
不安にしかならない。
「じゃ、頑張ってください。ファイト」
「応援まで雑!」
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そして俺は――地獄に送り込まれた。
「オラ、ウジ虫ども! 誰が休んでいいと言った!」
「すみません!」
「死ぬまで走れ!」
「はいぃ!」
地獄の訓練所に、送り込まれたのだ。
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