聖なる夜と罰ゲーム?

逢神天景@小説家になろう

聖なる夜と罰ゲーム?

 僕の名前は浅葱恭弥。どこにでもいる普通の高校二年生。部活は、演劇部に所属していて、特技は腹話術だ。これは、いっこく堂にも負けず劣らずと自負してる。声真似は、ヤクザ役をよくやる、俳優の石川権次郎さんのが得意だ。
 唐突だけど、僕には気になる子がいる。同じクラスの、伊座波美菜豊。イザナミなんて珍しい名前だったもんだからずっと見ていたら、いつの間にか、ちょっと気になっていた。
 見た目は、僕より5㎝低いくらいの身長(165㎝)で、黒い髪をショートヘアーにしている。制服のブレザーがよく似合っていて、目は少しキツそうで、いっつも真っ赤になってるか怒ってる。スカートの丈は膝くらいで、ニーソ。若干足フェチの気がある僕としては、ニーソに喜んでいいのやら、生足が出てないことを悲しめばいいのやら、だ。なんにせよつい目で追っちゃうんだけどね……そこ、ヘンタイって言わない。
 そして性格は、まず、元気だ。僕は演技ではそういうことが出来ても、あそこまで自然にみんなに笑顔を振りまけない。
 しかも、彼女の周りにいる子はみんな笑顔になっている。他人を笑顔にするというのは、演劇をしていて、一番難しいと感じることが多い。それをあんなに自然にやってのけるのは――僕は、凄い尊敬している。
 それと、努力家。彼女は成績こそ悪いけど、テニス部ではシングルで、県大会に出る程の実力がある。何度か練習風景を見たことがあるけど、常に一生懸命にボールを追っていた。
 そんなわけだから、僕としては彼女のことが結構好きなんだけど――どうにも、僕は彼女に嫌われてるみたいなんだよねぇ……。




*  *  *




「恭弥!」


 教室で次の舞台の台本を読んでいたら、突然伊座波さんが、僕の机をドシンと叩いた。


「……どうしたの? 伊座波さん」


「い、伊座波って呼ぶな! アタシのことはいつもミナトって呼べって言ってるだろ!?」


「あー……そうだったね。ゴメンね、ミナトさん」


 そうだった。僕が伊座波さんって呼ぶと怒るんだった。なんでも「恭弥如きがアタシを伊座波さんなんて呼ぶのは100年速い!」らしいから。まったく、他の人にはそんなこと言ってないから……やっぱり僕のこと嫌ってるんだろうね。


「はうぅぅ……」


 何故か真っ赤になって、俯いてしまったミナトさん。なんでだろう。


「それで、何か用?」


「あ、そ、そうだ! お前、明日は学校が終わった後、暇か!?」


 明日、といえばクリスマスである12月25日。確か明日は終業式があったあと、午後は学校主催のクリスマス会のはずだ。というか、そのクリスマス会に僕は出る。演劇部として、クリスマスの劇をやるんだ。


「うーん、クリスマス会の後は、家でのんびりしようと思ってるよ?」


「つまり、暇ってことだな!」


 ……のんびりする、ってのは用件に入らないんでしょうか。まあいいですけど。


「それで、どうしたの?」


「あ、明日! 駅前で……そ、ソルナミレがあるだろ! あ、アレに行くぞ!」


 顔を真っ赤にして宣言してきた。
 ソルナミレというのは、駅前からずっと電飾――というか、イルミネーションで飾るという催しで、毎年クリスマスの時期にリオンが主催してやっていることだ。イメージとしては、通りがイルミネーションのファンタジーランドになる感じ。城になってたり、動物になっていたりと、並のイルミネーションなんて比較にならないくらいだ。
 デートスポットとして有名で、ソルナミレの最後である――広場の、シンデレラ城(の形のイルミネーション)をバックに、2人で写真を撮ったら、そのカップルは一生幸せになる、なんて伝説も生まれている。
 正直、なんでいきなり誘われるのかが分からない。


「なんでいきなり? そこ、デートスポットだよね? しかも、超有名な」


「えっ!? あっ、そ、それは……その……そう! 罰ゲームなんだよ罰ゲーム! アタシ、千代達にこの前の期末で負けちまってさ。そ、それで、罰ゲームとして……く、クラスで一番嫌いな奴を誘ってソルナミレに行けってなったんだよ!」


 なるほど、罰ゲーム。それなら納得だね。
 まあ、相手はいくら僕のことを嫌っているとはいえ、罰ゲームなんて可哀想だ。しかも、僕は彼女のことを憎からず思っている。だから、これは僕が上手いこと回避させてあげるのが吉だろう。


「分かった。じゃあ、当日はソルナミレに行ったってことで口裏を合わせればいいんだね? 安心して、僕は演技と口八丁には少し自信があるんだ」


「へっ?」


「そうすれば、ミナトさんは嫌いな僕とデートに行かずに、罰ゲームを遂行出来るってワケだ」


 うん、我ながらいい考えだ。僕にしては頭がはたらくじゃないか。
 僕が内心で自画自賛していると、ミナトさんはプルプル震えてから、口を開いた。


「そ、それじゃダメだ!」


「へ?」


「そ、それじゃ……そう! 当日は千代と智恵がアタシ達を尾行してくるんだよ! だ、だから、ちゃんと会わないとバレるんだ!」


「な、なるほど……それは大変だね。それなら、当日は凄い人混みだろうから、そこでわざとはぐれちゃう? そうすれば、会ったことは見せつけられるし、1度見失っちゃえば、もう一度見つけるなんて不可能だし」


「ええ!?」


 今度もいいアイデアだ。うん、今日の僕は冴えてる。たった1つの冴えたやり方だね。


「そ、それもダメだ!」


「え」


「そ、その……ソルナミレの最後の方にあるお店で、証拠のモノを何か買わなくちゃなんないんだ! そ、そこまで含めて罰ゲームってことで……」


「それくらい、教えてくれたら僕1人で買ってくるけど?」


「えっ! ………………あー! もう! もう! と、とにかく! 明日は現地に集合……したら、互いに見つけられないだろうから、学校の最寄り駅に集合! そっから電車で行く! 分かったな!」


「ええ!? ちょっ、それは強引……」


「集合時間は追って連絡する! 分かったな!」


「う、うん……」


 妙な迫力に負けて頷いてしまった。まあ、好きな人とクリスマスにデート出来るんだから、これはこれでよしとしよう。相手は僕のこと嫌いだけど。
 ミナトさんは、顔を真っ赤にした後、女子のグループに戻っていった。ふう、やれやれ。嵐みたいな人だったね。
 ……そういえば、ちょくちょく僕はこうやって強引に街に連れて行かれてるな。確か、この前は普通にショッピングモールに買い物に行ったし、その前は本屋さんを巡ったし……まあ、その都度「き、嫌いな奴以外に荷物持ちさせられるわけねーだろ!」って言われてたから、つまりそういうことなんだろうけど。
 まあ、毎度、ミナトさんは自分で買ったものは自分で持ってたんだけどね。荷物持ちなんて滅多にさせられない。
 だから今回のことも、彼女なりに僕への嫌がらせなんだろうけど……まあいいか。
 好きな人とクリスマスを過ごせる。最高じゃ無いか。




*   *   *




 翌日、午後。僕は他の出演者の出し物を見ながら、舞台袖でスタンバイしていた。
 このクリスマス会は、1時頃からスタートして、5時に終わるイベントで、演劇部、軽音部、吹奏楽部、そして有志によるバンド演奏やダンスなどをステージで見せる、というものだ。当然、僕は演劇部として出ている。
 今年やる演目は、オリジナル劇で、「星降る夜にはサンタを落とせ!」という、ラブコメだ。
 この物語は、幼い頃に見たサンタさんに恋をしたヒロインが、どうにかしてサンタさんに会おうと四苦八苦するというモノで、最終的にサンタさんに会うことは叶い、しかも結ばれてハッピーエンド……という、ベタなのかベタじゃないのか分からない話だ。
 シナリオを書いてくれたのは、文学部に入っている実來君で、ラブコメを書くのが得意ということで、うちの学校じゃちょいと有名な人だ。


『みんなー! ありがとうー!』


 軽音部、通称『昼休みティータイム』さんの演目が、終わった。全員が何かのコスプレをして歌っている。……アレ、なんのコスなんだろう。


「さて、じゃあ僕たちの番か」


 20分くらいの劇だけど、僕は最初から出なきゃいけないうえに、ヒロインの恋を手助けしつつ、自分がヒロインの恋の相手と悟らせない役、だから、結構責任重大だ。ふぅ、緊張しちゃうね。
 話が進んでいく。そろそろ、僕の出番だね。小道具の銃を持って、ステージへ向かう。一応、いつも持っている手鏡で、最後の身だしなみチェック。よし、いい感じだ。
 さて、ショータイムさ。




*   *   *




『動くなぁ! 動いたら、コイツの命はねぇぞ!』


 犯人役の先輩が、ナイフをヒロイン役の子に突きつける。


『やれやれ……ゲスは何処まで行ってもゲス、か』


 僕はタバコ(っぽい小道具)を地面に捨てて、足で踏みつける。


『あぁ!? んだと、テメ――』


 と、ナイフを犯人が振り上げた瞬間、僕は懐から銃を取り出し、バキューン! という効果音が鳴る。


『あ、がっ……』


 カラカラカラン、とナイフを取り落とす犯人。その瞬間、ヒロインが僕の方へ走ってくる。


『クラーク!』


『エリス!』


 ちなみに、クラークが僕の役名。そして、エリスがヒロイン名だ。
 僕はエリスを抱き留め、犯人を睨み付ける。


『くそっ、くそっ!』


『なぁ、サンタの伝承……知ってるか? いい子には、プレゼントを。悪い子には……罰を、与えるんだぜ?』


『な、や、やめて、やめてくれ!』


『断罪の時間だ』


 僕は引き金を引いて――犯人役の先輩が、後ろに倒れる。


『ああ、クラーク――貴方が、貴方がサンタさんだったなんて』


『エリス……』


『ねぇ、クラーク。私、貴方に着いていきたいわ』


『いいのか? 俺が生きる世界は闇の世界。確かに、孤児や頑張ってるが不幸な子にプレゼントを贈る業務はあるが、基本的には始末屋――端的に言うなら、殺し屋だ。それでも、いいのか?』


『ええ。貴方のためならばこの命も惜しくは無いわ!』


『エリス!』


『クラーク!』


 2人で抱き合う。そして、幕が下りてくる。
 わー、という拍手と歓声を受けて、僕たちの劇は終わった。




*   *   *




「あー、終わった終わった」


 とりあえず、サンタさん、ハードボイルド過ぎるよね? 何? 断罪の時間だ、って。厨二臭いなー、って思った僕は間違っていないはず。実來君、厨二病だったのかな……。ストーリー自体は面白かったけど。あと、役柄も格好良かったけど。
 僕は衣装を着替えて、控え室から出る。あー、疲れた。でも、楽しかったな。演劇はやっぱり面白い。
 僕は髪をオールバックにするために使ったワックスをポケットに入れて、控え室から出る。ワックス使ったから今日はちゃんと風呂に入ってしっかり頭を洗わないとね。


「お疲れ様ですー」


「ん? ああ、お疲れー」


 さっきエリス役をやっていた後輩の三高さんが、タオルを持ってきてくれた。そういえば、汗をかいてたな。
 僕はタオルで汗を拭いて、後輩に笑いかける。


「ありがと、洗って返すね」


「あ、い、いえ! 全然、今返して下さい、はい!」


「へ? う、うん。分かった」


 よく分からないけど、なんか勢いに負けて僕はタオルを返した。な、なんでそんなに必死なんだ……?
 と、そんなことをしていたら、なんとミナトさんが顔を真っ赤にして僕の方へ駆け寄ってきた。


「きょ、恭弥! 飲み物持ってきてやったぞ!」


 手渡されたのは、僕の好きな微糖コーヒー。それも、猫舌な僕でも飲める、冷たいやつ。


「えーと、どうして?」


「っ! ば、罰ゲームの一環だよ! これも!」


「そっかぁ。なら、仕方ないね」


 と、僕が頷いたところで、ちょいちょいと三高さんに、裾を引っ張られた。


「あのー、浅葱先輩、この方は?」


「僕のクラスメイトだよ。嫌われちゃってるらしいけど」


「そ、そうなんですか」


 三高さんはミナトさんの顔を見てから、苦笑を浮かべた。ん? なんか変なところでもあったかな?


「つーか、恭弥! その女こそ、誰だよ!」


「さっきの劇にも出てたでしょ? 僕の演劇部の後輩」


「そ、そうじゃなくて! なんでタオルとか渡されてたんだよ!」


「え……なんで?」


 僕は三高さんの方を向いて、尋ねる。すると、三高さんは少しあきれ顔をして、口を開いた。


「……確かに、凄く鈍感な人だなぁ、とは思ってたけど……ここまでだったんですねー……あー、ミナトさん、でしたっけ?」


 三高さんはミナトさんの方を向くと、ニッコリと笑った。
 それを見て、ミナトさんが少したじろぐ。


「な、なんだよ」


「安心してください。私、確かに先輩のファンですけど……そこまで深い仲になりたいわけじゃないので。だから、盗ったりしませんから」


 盗る? 何をだろう。
 僕には理解できなかったけど、どうやらミナトさんには理解できたようで、顔を真っ赤にして口をわぐわぐさせている。


「な、な、な……」


「では、私はもう戻りますね。先輩、今度の劇も頑張りましょうね!」


「へ? うん、そうだね。じゃあね」


 三高さんが手を振って、去っていく。残されたのは僕と真っ赤になって機能停止しているミナトさん。おーい、ちょっと、三高さんがミナトさんをこんな状態にしたんだよね? 戻してから行ってよ。


「あー、ミナトさん?」


「は、はぁ!? あ、アタシは全然そんなんじゃねえし! きょ、恭弥のこと大っ嫌いだし!」


「うん、それは知ってるから。じゃあ、僕も片付けがあるから行くね。コーヒー、ありがと」


「! ば、罰ゲームだって言ってんだろ! べ、別に礼を言われるようなことじゃねぇし! あ、アタシももう行く!」


 ミナトさんは、それだけ言い終わると肩をいからせて立ち去っていった。
 そういえば、なんで最後まで顔が真っ赤だったんだろうね。




*   *   *




 時刻は午後4時半。僕は学校の最寄り駅――つまり、待ち合わせ場所に来ていた。
 待ち合わせは5時からだから、少し早く来すぎちゃったかな。まあ、遅れるよりはマシか。好きな人との待ち合わせなんだから、張り切っちゃうのも仕方ないよね。
 さて、じゃあどうやって時間を潰そうかな-、って思っていたら、なんと目の前に見知った人がいた。


「あれ?」


「え!?」


 見知った人っていうか、ミナトさんだった。
 僕はスマホの時計を見る。うん、4時半だ。紛う方無き4時半だ。つまり、待ち合わせの時間まであと30分もある。
 なのに、ミナトさんがいた。


「み、ミナトさん?」


「!? か、勘違いすんなよ! お前との待ち合わせが楽しみでこんなに早く来たんじゃねぇからな! た、たまたま、ちょっと早く来ちゃっただけなんだからな!」


「へ? あー、う、うん。分かったよ」


「わ、分かったんならいい!」


 相変わらず、不思議な人だ、ミナトさんは。


「じゃあ、ソルナミレって確か5時半からだよね? それまで、どうする? 先に向こうに行く?」


 日が沈まないとイルミネーションってのは綺麗に見れない。だから、ソルナミレが始まるのは5時半からのはず。つまり、あと1時間もある。


「え? あー、あー……駅のカフェにでも行くか?」


「うん、分かった。じゃあ行こうか。寒いし」


「そ、そうだな!」


 さて、そんなわけで僕たちは駅のストームバッカスコーヒー、通称ストバに行って、窓際の席に陣取った。


「しかし曇ってるねー」


 空は灰色。予報では夜から雪らしい。ホワイトクリスマスは結構なことだけど、彼女がいない僕としては、寒いだけだ。いや、好きな人と過ごせてるクリスマスってのは、少しプラスにはたらくけどね。


「まあ、曇ってるくらいが調度いいだろ。日差しが出てると冬って感じがしないしな」


「まあね。……ところで、ミナトさん。なんでさっきから僕のカップを見つめてるの?」


 なんか、ガン見されてる。もしかして飲みたかったのな?


「なっ! べ、別にちょっと交換とかしたいなー、なんて思ってねぇよ! ほ、本当だぞ!?」


「そ、そうなんだ……」


 とはいえ、僕のはダークモカチップフラペチーノ。ミナトさんのはキャラメルマキアート。せっかく別の物を頼んでるんだから、一口相手のを貰ってもいいだろう。


「でも、僕はミナトさんの飲んでみたいから、一口ちょうだい」


「ふぇ!? あ、えっ、その……」


「ダメ?」


「…………い、いいけど」


「ありがと。じゃあ、僕のも一口あげるね」


「し、仕方ないからもらってやるよ!」


 僕はミナトさんからキャラメルマキアートをもらい、一口飲む。うん、美味しいね。
 ミナトさんの方を見ると、何故か僕のダークモカチップフラペチーノを見つめて「こ、これを飲んだら間接キス、これを飲んだら間接キス……」と、なにやらブツブツと呟いている。


「ミナトさん?」


「はぅあっ!」


 僕が声をかけると、ミナトさんは何故かきゅいぃぃんと顔を真っ赤にして、ダークモカチップフラペチーノを一息に飲み干してしまった。って、僕のダークモカチップフラペチーノが!


「な、なにすんのさ! ミナトさん!」


「えっ! あ、えっ……こ、これはその……お、お前なんかがアタシのを一口飲むんだ! アタシは全部貰わなきゃ割に合わないだろ!」


「え、えぇ~……」


 またいつもの嫌がらせか。まったく、なんで僕こんなに嫌われてるんだろう。
 はぁ、とため息をつきながら、僕はキャラメルマキアートを返そうとしたら、


「や、やる」


「へ?」


「っ! だ、だから! やる! それ! もういらん!」


 と、突き返されてしまった。なんでだろう。
 まあ、くれるというので貰っておこう。無理に返したらまた怒られるだろうし。


「それじゃあ、ミナトさん。何時くらいにここを出る?」


「ん? んー、んー、予定通り、5時5分の電車に乗るでいいだろ。ソルナミレ、こっから20分くらいだし」


「じゃあ、あと20分くらいしたら出ようか」


「そうだなー」


 そんなわけで、僕とミナトさんは時間を潰すためにいろいろなこと話した。学校のことや、趣味のこと。そうやって話していたら、すぐに時間が経ってしまう。やっぱり、好きな人と過ごす時間は特別だね。




*   *   *




 さて、ついに着いたぞソルナミレ。僕たちはソルナミレの開始地点である、駅の時計塔の前にいた。


「凄い人だねー」


「凄い人だなー」


 ソルナミレの会場? は、尋常じゃ無い人で溢れかえっていた。いやはや、前に進むのにいったい何分かかることやら。
 そして、中でも目を引くのが……


「イチャイチャしやがって……」


 と、ミナトさんが握り拳を作るレベルの、カップル達。もうね、人目も憚らずイチャイチャ、イチャイチャ……手を繋いでるなんてのはいい方で、1つのマフラーを2人で巻いてたり、愛の言葉を囁いてたり、等々。とにかくヤバい。バカップルは法律で規制すべきだと僕は思います!
 さて、時刻は5時29分。あと少しでライトアップ開始だ。
 辺りはすっかり暗くなっていて、皆ソルナミレの開始を今か今かと待っている。
 そして――時計塔の長針が、5時30分を刺した瞬間、イルミネーションが一斉にライトアップされた。


「「「「わぁぁぁぁぁぁあ」」」」


 歓声が上がる。それはそうだろう。僕もつい声を出してしまった。
 綺麗なイルミネーション――まさに、芸術と言ってもいいような、そんなレベルの綺麗さだ。いやはや、言葉じゃ言いあらわせるないね。
 と、高いところにあるイルミネーションを見ていたからか、いつの間にか隣にミナトさんがいない。


「あ、あれ? ミナトさん!?」


「おーい! こ、こっちだ、恭弥!」


 ミナトさんが完全に人混みで溺れていた。急いで救助しないと。
 僕はミナトさんの近くまで人混みをかき分けていき、ぐっ、とミナトさんの手を握った。
 そして、そのまま取り敢えず人混みから抜けようと、グイグイとミナトさんを引っ張って、みんなと逆方向に歩く。


「ふう。ミナトさん、大丈夫だった?」


「お、おう。……って、あ」


「へ? ………あ」


 ミナトさんが視線を下に落としたので、つられて僕もそれを見ると……が、ガッツリ手を握ってますね。はい。……て、手汗大丈夫かな!?


「う、うわぁあぁぁぁあ!?!?」


「ご、ごごご、ごめん! ミナトさん!」


 慌てて手を離す。うわぁ、そういえばさっき普通に手を握っちゃってたよ……ああ、ビックリした。


「やれやれ……さて、と。それじゃあ気を取り直して行きますか」


 今日の目的地は出口付近にあるお店、エルドラドだ。そこで、なんかキーホルダー的な何かを買ってこなければいけないらしい。
 正直、あの人混みを通らなきゃいけないと思うだけで気が遠くなりそうだけど……まあ、しょうがない。頑張ろう。
 僕は人混みの中へまた行こうとしたところで、何故かミナトさんから手を捕まれた。


「ミナトさん?」


 俯いていて表情は見えないけど、何故かプルプルと震えている。もしかして、寒いのかな?


「……ひ、人混み、凄ぇだろ?」


「う、うん」


「は、はぐれそうだろ?」


「そうだね」


 あれじゃあ5秒ではぐれそうだ。


「だから……手」


 すっ、と手が差し出された。な、なに?


「手! つ、繋ごうぜ……」


「え」


「か、勘違いすんなよ! は、はぐれないためだからな! 全然、それ以外に理由なんて無いんだからな!」


「わ、分かったから!」


「ホントだからな!」


「分かったってば」


 トマトみたいに真っ赤になっているミナトさんの手を……に、握る、のか。うん、そうだよね、はぐれたらいけないもんね……
 そっ……と、それこそ、壊れ物でも触るかのように、僕はミナトさんの手を握る。


「い、痛い!」


 もの凄い勢いで握りつぶされた。さすが、テニス部は握力が違うな……


「あっ! そ、そのっ! お、お前がそんなこわごわ握ろうとするからだ!」


「え、えぇ~……じゃ、じゃあこう?」


 また握りつぶされたらたまらないので、僕はミナトさんの右手を、僕の左手で祈るような形にする。
 所謂、恋人つなぎってやつだ。


「……………」


 じ、自分でやっておいて、恥ずかしい……。でも、ミナトさんはなんか顔を真っ赤にしつつも、満足げなので、今さら話すわけにもいかない。


「…………じゃ、じゃあ、行こうか」


「そ、そうだな……」


 果たして、僕らはエルドラドまで無事に辿り着けるのか。




*   *   *




 結論から言って、エルドラドまで辿り着くのは大変だった。
 まず、前に中々進めない。というか、人多すぎる。
 そして、イルミネーションが綺麗で見とれてたら時間が経つとかもしばしば。
 さらに極めつけは、ミナトさんと偶にくっついちゃったりして、凄い恥ずかしくなったり……(あの時熱計ったら40度くらいあったんじゃないかってくらい顔が熱かった)。
 まあそれでも、なんのかんの言って――2時間くらいかけて、エルドラドまで辿り着いた。


「やっと着いたねー……」


「そうだなー……」


 あとは、買うだけ。買ったらソルナミレを抜けて……願わくば夕ご飯をご一緒したいところだけど、向こうは僕のことが嫌いだから無理だろうな。


「さて、じゃあキーホルダー的なサムシングを探そうか」


「そ、そうだな。とりあえず、アタシはあっちを見てくるぜ」


「じゃあ僕はこっちを」


 二手に別れて探す。店内は広くて、色んな物が置いてある。まさに雑貨屋さんだ。
 とはいえ、今の時間は外のソルナミレを見る人が多いからか、あんまり店内にお客さんはいない。精々、数人だけだ。なんかチャラそうな3人組とかがいる。
 店内を物色すること数分、中々目当ての物が見つからない。こりゃあ、いったん合流した方がいいかもね。
 ミナトさんは見つけたかなー、と思ってミナトさんを探してみると……いた。なんか、可愛い髪留めとかを売っているコーナーで立ち止まっている。
 そして、髪留めの1つをとって、眺めたり、付けてみたり、また外したりしている。その髪留めは、ピンクの可愛いやつで、少しラメが入っている。確かにつけたら似合いそうだ。……はは~ん、アレが気に入ったね? さては。
 僕はそれには気づいていないフリをしながら、ミナトさんに近づく。


「ミナトさん」


「ふぇ!? あ、きょ、恭弥。み、見つかったか?」


「ううん。ミナトさんは?」


「あ、アタシもまだだ」


 ってことは、ずっとこの髪留め見てたのかな。それなら買えばいいのに。
 ……そうだ、いいこと思いついた。


「ミナトさん」


「なんだ?」


「僕、少しトイレに行きたいんだけど、ミナトさんはどうする?」


「ああ? あー、そうだな、アタシも行っとくか」


 そして、二人してトイレの前へ。


「じゃあ、先に出たらココで、待っといてね」


「ああ」


 ミナトさんが女子トイレの中に消えるのを見て……僕は、その場を後にする。
 ふふふ、少しサプライズってのを思いついたんだよね。
 ミナトさん、どんな顔をするかな。




*   *   *




「………………はぁ~」


 アタシは、鏡の前で大きくため息をついた。


「せっかく……恭弥とデートなのに……」


 念願のクリスマスデート。これに誘うのには苦労した。とはいえ、まさか罰ゲームと言って信じるとはな……恭弥、相変わらず騙されやすい奴だぜ。
 当然、罰ゲームなんてのは嘘だ。いや、嘘じゃ無い。恭弥をクリスマスデートに誘うための方便だ。方便だから、別にいいんだ。恭弥を騙したわけじゃ無い、うん。


「今日も……恭弥、格好良かったなぁ」


 アタシが恭弥を知ったのはちょうど1年前。クリスマス会で、アイツが劇をやっていたときだった。
 あの時のアイツは……確か、かたき役だった。セリフは少なく、出番も最後の方にあっただけだった。
 それでも、アタシは魅了された。アイツの演技を見てて、鳥肌がたった。
 それからというもの、機会があってはよくアイツの稽古を見に行った。その時は、まだアイツの名前も知らなかったから、心の中では当時の役名で呼んでたっけ。
 そして進級して――超、幸運なことに、アタシはあいつと同じクラスになった。その時とうれしさたるや、まさに天にも昇る心地! ってやつだったぜ。
 ただ、そこで喜んだのもつかの間――アタシには、不幸が訪れる。
 ……普通に、話しかけれなかったんだ。なんか、恥ずかしくって。
 それでも、なんとか気を引こうと頑張った。そして、話す度に、アイツが実はいい奴で、しかも演劇に一生懸命で――とにかくとにかく、すっごかった。アイツが演劇に一生懸命になっている姿を見ると、アタシもなんだか勇気が湧くみたいだった。
 それでも、その時はまだこれが恋だなんて思ってもみなかった。この気持ちがただファンなだけじゃないって気づいたのは――夏休みに入る時だった。
 明日から夏休みだぞー、と言われて、「ああ、しばらくアイツに会えないんだなー」って思った瞬間、アタシの心の中に、深い喪失感が生まれたんだ。それと同時に思った。もっと、毎日でも会いたいって。
 どれだけ考えてもその原因が分からなかったから、アタシは友達に相談した。
 そしたら、言われたんだ。「それは恋だよ」って。
 最初はそんなはずないって思った。恋ってのは、もっとこう……絶体絶命のピンチに颯爽と現れ、救ってくれる、そんなシチュエーションでしか芽生えないモンだと、思ってた。
 でも、それが恋だと気づいてからは早かったな。もう、毎日何をしてても、アイツのことを考えるようになっちまった。アイツが演劇をしてる姿が、アタシと他愛ない話をしてくれる姿が、目の前に浮かぶようだった。


「恋ってのは……厄介だぜ」


 今日も、素直に中々なれなかった。手を繋ぐときも、か、間接キスの時も……


「で、でも! それも今日までで終わりだ!」


 何のためにソルナミレに誘ったと思ってる! 当然! こ、こここ、告、白! す、するためだ!
 しゅぼっ、と、顔から湯気が出てるのが分かる。こ、告白するって考えただけでこんなに顔が火照るなら……実際に告白したらアタシは死んじゃうんじゃないか?


「でもまあ、あんまり待たせるのも悪いな。そろそろ戻ろう」


 一応、鏡の前でもう一度身だしなみをチェック。……よし、完璧。前髪もいい感じになってる。
 ちゃんと気持ちを伝えて……そして、前に進むんだ。
 もしもフラれたら……そしたら、ただのファンに戻るだけだ。
 胸の前で拳を握り、深呼吸する。


「…………よし」


 さあ、アイツのところに戻るか。
 アタシはそう決意してお手洗いからでたんだが……アレ?


「恭弥、まだ出てきてねぇのか?」


 ったく、女より遅いってどうなってんだ? 男のくせに。
 とはいえ、出てきてないモンはしょうがない。おとなしく待つとしよう。
 アタシが近くの壁に背を付けて恭弥を待っていると、


「ねぇねぇ、彼女ぉ、俺達とお茶行かねぇ?」


「そうそう、なんならその後ホテルで休んでもいいぜぇ? ギャハハハハ」


 ……今時絶滅危惧種のようなナンパを受けた。容姿はいかにもモブA、モブBって感じで、1人は金髪、1人はロン毛だ。なんか、売れないバンドマンって感じだな。正直、だせぇ。


「悪いけど他の人あたってくれ。これでも男連れなんでね」


 アタシは肩にかけてきた金髪の手を払いのけながら言った。しかし、それがかんに障ったのか、金髪がいきなりキレだした。


「アァ!? 女のくせに生意気言ってんじゃねぇぞ!」


「そうだッ! 俺達はなァ、吉川さんの後輩の知り合いなんだぞ!? テメェ、この街から生きて出られると思うなよ!?」


 ガッ! と胸ぐらを捕まれる。その途端、


「ッ!」


 ビクッ、と身が竦む。こ、恐い。
 でも、そう易々と付いていくわけにはいかない。吉川さんとやらが誰かは知らないけど、こ、ここでビビったら女が廃る。


「はんっ、アタシをどうこうしようなんて甘いんだよっ!」


 精一杯の虚勢。そのせいで、ロン毛が苛立ちを深めたのか、拳を振り上げた。


「このアマっ! なめた口聞いてんじゃ――」


「――テメェら、人の女に何してんだ?」


 もの凄いドスのきいた声が、割って入った。
 驚いてそちらを見ると、髪をオールバックにして、制服の前ボタンを全開にして、ヤクザもかくやと言うほどの眼光を向ける、男――いや、漢がいた。
 まあ、


「恭弥!」


 なんだけど。


「ようテメェら、よくもまあ……人の女をそんな風に扱ってよ。覚悟は出来てんのか? アァ!?」


 店内全体に響くような怒号。……さ、さすがは演劇部。声量が並じゃ無い。


「はっ、誰だか知んねぇけどなぁ、俺達のバックにゃ吉川さんが付いてんだぞ! テメェ、この街で生きていたかったらさっさと土下座して財布置いてけよボケ!」


 ロン毛が、恭弥に嘲るように言う。だが、恭弥はそれに真っ向からにらみ返した。


「ケッ、吉川ァ? 知らねェなァ。そんなチンピラがなんだって言うんだ――っと」


 突然、恭弥のポケットから曲が流れ出した。……あ、これ、ミナミの帝王の曲だ。


「んん?」


 恭弥は、平然とスマホをとって、耳に当てた。


「テメェ! まだ話は――」


『アァ、若! やっと電話に出られましたか。なにやってたんすか!?』


 逆上した金髪が掴みかかろうとした瞬間、スマホからさっきの恭弥よりもさらにドスの効いた声が聞こえてきた。
 って、それよりも……若?


「おォ、竜か。悪ィ悪ィ。今立て込んでてよ」


『なんか怒鳴り声が聞こえたと思ったんすけど――誰かいやがるんすかい?』


「アア。俺の女に手ェだそうとした馬鹿がいやがってよ。……そうだ、逃げられるのも面倒だから、若ぇの10人くれェ集めてくんねェか? 囲んで海にドボンさせっぞ」


『了解ッス。おうい! 聞いたかぁ!? テメェら。若の女に手を出した奴がいるってんで、今から殴り込みだ! うちの組を舐めたらどうなるか骨身に染みこませっぞ!』


 電話の人(竜さん?)が言うと、その後ろからオォォォォ、という野太い声が聞こえてくる。


『じゃあ若、今どこですか』


「ソルナミレ通りのエルドラド」


『分かりやした! じゃあ、5分で行きますわ!』


「おゥ、待ッてるぜェ。……さて、と。じゃあきっちり落とし前つけてもらおうじゃねェか」


 1歩1歩、威圧するように歩いてくる恭弥。凄えな……迫力が。明らかにカタギの迫力じゃない。
 一方、金髪とロン毛はすっかりビビったようで、ガタガタ震えながら後ずさっている。


「……待てよ、俺がここでヤキいれるのも面白くねェなァ。そうだ、テメェら、逃げろよ。3日間、組員使って探すわ。3日間逃げきれたら……まあ、家燃やすくらいで勘弁してやるよ」


「な、あ、な……」


「うし、じゃあ今から10秒な。いーち、にぃーい………」


「「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」」


 ダダダダダっ! と、まさに脱兎の如く逃げる金髪とロン毛。……まさしく、『死ぬ気』なんだろうな。


「ふぅ……あー、あー……コホン。さて、大丈夫だった? ミナトさん」


 いくらか咳払いをして、元の声に戻った恭弥が、アタシに笑いかけてきた。
 ……そ、その笑顔は反則だろっ!


「だ、大丈夫に決まってんだろ! つ、つーか、別に困ってなかったし!」


 ああ! なんでアタシは素直になれねえんだ! い、言え! 言うんだ! か、かっこよかった、って!


「で、でも、その……」


「ん、それならよかった。……でもまあ、僕の声真似と腹話術がこんなところで役に立つとはね」


 い、言えなかった……って、腹話術と声真似?


「さっきの、全部一人芝居だよ。声真似と腹話術で。あ、後ろから聞こえた大勢の声は動画から引っ張ってきたやつね。けど、あんなに上手くいくとはね……」


「す、凄いんだな」


「これで食べていこうと思ってるんだから。むしろこれくらいは出来ないと」


 肩をすくめる恭弥。う、ヤバい。やっぱカッコいい……


「さて、と。それじゃあアイツらもいなくなっただろうし、行こうか」


 恭弥が、オールバックになっていた髪型を戻しつつ、そんなことを言う。


「へ? でも、まだキーホルダー買ってないぞ?」


「ミナトさんが出てくるのが遅かったからね。もう買っちゃったよ」


 袋を掲げる恭弥。おお、仕事が早いな。


「そ、そっか。悪いな。……じゃ、じゃあ、行こうぜ」


「そうだねぇ。せっかくだし、シンデレラ城まで行かない?」


「も、もちろん!」


 むしろ、それが目当てで来てるんだからな!




*   *   *




 エルドラドを出た僕たちは、再び人混みの中をかき分けて進む。目的地は、シンデレラ城だ。
 シンデレラ城……一応、ツーショットを頼んでみようかな。いや、嫌いな相手とは撮ってくれないか、さすがに。でも、好きな人とのツーショットとかあったら、いい思い出になるんだけどな……


「やれやれ……もう少しだね」


「あ、ああ。そうだな」


 僕たちは手を繋いで、1歩ぶん間を開けながら歩いている。この1歩の間が、僕とミナトさんの心の距離をしめしてるんだろうな、と思うと少し切なくなる。
 シンデレラ城に近づくに連れて――だんだん、会話がなくなってくる。というか、僕から話しかけてもミナトさんがあんまり返事をしてくれないのだ。なんだか、思い詰めた表情をしている。
 なんでかなぁ……僕、変なこと言ったっけ。


(……サプライズの準備、してるんだけどなぁ)


 うっ、そのことを思い出すと、急に緊張してきた。最近は慣れてきたから、舞台に上がるときですらこんなに緊張しないのに……
 結局、ガチガチに緊張してる僕と、何故か黙ってしまったミナトさんでは会話が弾むこともなく……無言で歩いていたら、とうとうシンデレラ城に着いてしまった。


「って……これは……」


「……うーん、凄いね」


 二人して、息をのむ。それほど、綺麗だ。豪華絢爛、荘厳美麗、なんて四字熟語が、ピッタリ当てはまる。
 ソルナミレに来てから綺麗綺麗って感想しか出てきてない辺りに自分の語彙力のなさが如実に表れてるけど……それでも、こう思う。
 綺麗だ、と。そして、その光に照らされている、シンデレラ城を見て笑顔になっているミナトさんの姿も――


(――綺麗だなぁ)


 恋愛は惚れた方の負けって言うけど、こんな笑顔が見れるなら、僕は負けでいいや。というか、むしろ逆にこれは勝利でしょ。うん、そうに違いないね。
 ……さて、いつまでも見とれてはいられない。ちゃんと、サプライズってのもをしないとね。
 受け取って、くれますように……!


「えっと……ミナトさん」


「ふえっ!? な、ななな、なんだっ!?」


 ミナトさんが、びくっとしてこちらに勢いよく振り向いた。ええ? そんなに驚くようなこと言ったっけ?


「えっと、その……今日、クリスマスじゃん」


 落ち着け、僕。大丈夫。この程度……舞台に比べたら、へっちゃらさ。
 たった1人の観客の前で――最高にカッコいい自分を演じるだけなんだから。


「あ、ああ。そうだな」


「それでなんだけど……ごめん、少しの間目をつぶっててくれない?」


「な、何する気だっ!」


 ばっ! と自分を抱くような仕草をするミナトさん。……き、傷つくなあ。僕、そんな変なことしないよ?
 けど、そんな心の内なんて微塵も見せず、僕はフッと余裕を見せて笑う。


「そんな変なことするわけじゃないよ。いいから、ホラ」


「??? ……ま、まあ。分かったよ……」


 そう言って、ミナトさんは怪訝な顔をしながらも目をつぶってくれた。
 よし、ここでさっき買ったアレを――


「――はい、もう目を開けていいよ」


「一体何したんだ?」


 僕は、手に持っていた鏡を見せる。そこに映っているのは――さっき、ミナトさんがエルドラドで欲しそうにしていた髪留めだ。


「こ、これ――」


「メリークリスマス、ミナトさん」


 ニコリ、と微笑む。……ちょっとかっこつけすぎたかな? ま、まあいいや。
 普通にプレゼントしたら突っ返されてたかもしれないけど――自分が欲しがっている物をプレゼントされたら、さすがに受け取ってくれるでしょ。どうだ、この僕の策略。今なら諸葛亮孔明とも張り合えるね。
 ジーッと鏡に映る自分の姿を見ているミナトさん。き、気に入ってくれる……よね? それとも、嫌いな奴からは貰わない! って言われるかな……ど、どっちだ!
 そう、内心バクバク、顔は涼しげで見守っていたら……突然、ミナトさんの右目から涙が溢れた。って、えぇぇぇえぇぇぇぇぇえ!?!?!?


「み、ミナトさん!?」


「っ! あ、こ、これは……あ、汗だ! め、目から汗が出ただけだ!」


 更に驚愕の事実を叫ぶミナトさん。ちょ、それって……


「それって一大事だよね!? 病院直行コースだよ!?」


「う、五月蠅い! 五月蠅い! と、とにかくなんでもねぇんだよ!」


 ごしごしと目元を拭うミナトさん。……そ、そんなに嫌だったのかな。
 僕が内心落ち込んでいると、ツン、とした表情でミナトさんはそっぽを向いた。


「と、とにかく……べ、別に欲しくもねえけど、欲しくもねえけど! ……も、貰っといてやるよ」


「そ、そっか! ありがとう!」


「っ! あ、だから、その……」


 僕がお礼を言うと、ミナトさんは今度は俯いて、モジモジしだした。……と、トイレかな?




*   *   *




 あ、アタシの馬鹿ーーー!!!!!! なんでいっつもいっつも素直に言えないんだよぉぉおぁぁぉぉぉおおおおお!!!!!!
 恭弥、変な顔しちゃってるじゃねえか!!
 ああ、違う、違うんだよ……アタシが言いたいのは、そんなことじゃねえんだよ……
 と、慌てていると、逆に頭が冷静になってきた。……うん、ダメだ、今日こそ変わろうと思ったのに……馬鹿じゃねえのかアタシは。
 自分で自分に嫌気がさしてくる。ああ、ホントに。アタシは馬鹿だ。
 こんな時でも素直になれない。プレゼントを好きな人に貰ったのに、礼すら言えない。アタシは、なんて愚かな女なんだろう。情けない。どうにか、自分を今すぐ変えられないのか?


(……待てよ)


 ふと、自分を変えると言う言葉で、恭弥の言っていたことを思い出した。アレは確か、クラスが同じになってばっかの時で――


『なぁ、恭弥。なんであんなに演技が上手いんだ? あんなん、もはや別人じゃねえか』


『あはは。別人じゃないよ。僕は僕。演技してるだけ。……でもまあ、ちょっとコツはあるけどね』


『コツ?』


『うん。僕なりのコツ。別に自分を変える必要は無いし、変わる必要も無いんだよ。演技なんだから。ただ、今自分がならなきゃいけない人から……少し、言葉と仕草を借りるだけ。そう思うと、案外楽になりきれるモンだよ』


 そんな、ことを言っていたな。
 言葉と仕草を借りるだけ……そんなん、恭弥だから出来るんだろ? って思ってたけど、でも。
 今、やるしかない。このチャンスを逃したら、アタシは一生恭弥に思いを告げられない気がする。
 言葉と仕草を借りるんだ。誰がいい? ――そうだ、今日劇に出てたあの女がいい。
 惚れた男のために、素直になって、突っ走って、最後は相手に受け入れられた、あのヒロインに。
 名前は確か、エリスだ。
 よし、今のアタシは――恭弥のために、頑張れる、いい女。エリスだ!


「きょ、恭弥。ごめん、嘘ついた」


 ポツリ、とアタシは言葉を紡ぐ。不思議と、するっと喉から出てきた。なんでだろう。


「へ?」


 恭弥がぽかんとしているけど、構わず続ける。


「……これ、欲しかったやつだ。だから、その……ありがとう」


「よかった」


 ホッと胸をなで下ろす恭弥。ふぅ、第一関門突破。
 大丈夫、大丈夫。エリスの言葉と仕草を借りるだけ。アタシの気持ちを素直に伝えるために――


「あと、今日のコレ……罰ゲームってのも、嘘だ」


「…………………………へ?」


 更に、恭弥は、ポカーンとしてしまう。そ、そんなに意外なことかな……いや、意外だろうな。アタシだもん。
 心は何故か落ち着いている。よし、いける、いけ! アタシ!


「ホントは、今日誘う口実が欲しかっただけなんだ。……アタシは、馬鹿だからな。全然思った通りのこと言えないんだ。だから、こんな感じになっちゃった……ゴメンな」


「え、え、え……」


「……実は、さ。今日、どうしてもココで恭弥に言いたいことがあって……誘ったんだ」


 心臓はバクバク鳴っている。でも、それが心地よい。
 ああ、自分の思いをキチンと相手に伝えられるって……なんて、気持ちいいんだろう。
 アタシは、恭弥の目を真っ直ぐ見る。色んな人になれる恭弥。でも、目だけはいつも、澄んでるんだよな。
 ああ、恭弥。アタシは。


「言いたいこと……?」


「ああ、言いたいことだ」


 さぁ、言うんだ、アタシ。
 大丈夫。もう言える。素直に言うことの気持ちよさを知ったアタシなら。
 だから最後は、エリスの言葉を、仕草を借りないで、自分の言葉で伝えよう。


「好きだ。アタシは恭弥のことが。去年のクリスマス、お前を初めて見た日から……ずっと」


 そして、笑ってやる。今日一番の、最高の笑顔だ。




*   *   *


 その言葉を聞いた瞬間――僕の頭は真っ白になった。
 ミナトさんが……僕のことを、好き?
 嘘だ。だって、いつもミナトさんは僕のことが嫌いだって言っていた。
 いつも、いつも。僕と街に買い物に行ったときも、夏休みにプールに行ったときも、カラオケに行ったときも、いつも、いつもだ。
 それなのに――それなのに、ミナトさんが、僕のことを、好き?


「そ、それは……と、友達として、ってこと?」


 だとしても嬉しいけど。
 でも、ミナトさんの言葉は僕の予想を遙かに超えた答えを返してくれた。


「いいや、恋愛感情でだ。アタシは、女として、男のお前が大好きだ」


「え……え……それ、って……」


「う、嘘じゃないぞ! あ、アタシだって、バキューン(自主規制!)とか! バキューン(自主規制!)とか! バキュバキューン(圧倒的自主規制!!!)とか!!! そ、そういうことをしたいくらい好きって意味だ!」


「あわあわあわあわわわ! み、ミナトさん! みんなこっち見てる! こっち見てるから!」


 なんて恥ずかしいことを言うんだよ! ミナトさん! おかげで僕の顔がもう茹で蛸レベルで赤い気がするよ!
 ミナトさんも、自分の失言に気づいたのか、いつもよりも更に顔を真っ赤にしている。


「と、とにかく! アタシはお前が大好きなんだ!」


 好きなんだ、好きなんだ、好きなんだ、好きなんだ……ミナトさんの口から紡がれた言葉が、僕の頭に浸透してくる。
 ミナトさんは、僕のことが好きらしい、いや、大好き、らしい。
 その言葉を、頭が理解した瞬間――僕は、ミナトさんをいきなり抱きしめてしまった。


「だ、だからアタシと――むぎゅっ!?」


「ミナトさん……」


「ちょ、恭弥!? 恭弥!? い、色んな人見てる! 目立ってる!」


「大丈夫。僕は目立つことになれてるから!」


「そうじゃねえよ! あ、アタシが! アタシが恥ずかしいんだよ!」


「ミナトさん」


 僕はミナトさんの肩をガシッと掴んで、瞳をのぞき込む。僕の、真剣な思いを伝えるために。


「ふ、ふぇ?」


「ミナトさん。僕は――僕は、君が好きです。いつも一生懸命で、人の輪の中心にいて、みんなを笑顔にしていて、笑顔が可愛い。そんな、ミナトさんのことが、世界で一番大好きです」


「え、え!?」


 ミナトさんが、再び顔を真っ赤にする。でも、僕の気持ちは止まらない。


「さすがに今は……さっきミナトさんが言ったような過激なことは出来ないけど」


「あ、アレは忘れろ!」


「でも、いつかそれくらい出来るような仲には、なりたいと思っているよ」


「! きょ、恭弥……」


「だから……だから、僕と付き合って下さい! 絶対に後悔させませんから!」


「! ! ! きょ、恭弥……あ、ありがとう、ありがとう……あ、アタシも! ぜ、絶対に、絶対に後悔しないし、させないから!」


 僕は、その返事を聞けて……再び、ミナトさんを抱きしめた。今度は、ミナトさんも抱きしめ返してくれる。
 ……と、二人きりの世界に入った瞬間、


「「「パチパチパチパチ!!」」」


「「!?」」


 周りから拍手が。……そういえば、ここ人通りが超多いシンデレラ城前だったね。しかも、ミナトさんも僕もかなり大きな声で話してたし。まあ、こうなるか。
 ミナトさんはあわあわしているけれど、せっかく集まってくれた観客だ。最後にひと盛り上がりさせたいところだね。
 ……よし。


「ミナトさん」


「あわあわあわあわわわ」


 目がグルグルになっているミナトさん。しょうがない、このまま進めさせて貰おう。


「愛してる」


「ふぇ?」


 そして、僕はそっとミナトさんの唇に僕の唇をつける。


「! ! !」


 ミナトさんの真っ赤な顔が、僕の眼前にある。……ああ、可愛いなぁ。ミナトさんは。
 周りから歓声が上がる。それに僕は一礼した後、ミナトさんの肩を抱き寄せる。


「きょ、きょ、きょきょ、恭弥ぁ!」


「別にいいでしょ?」


 ……と、いうか。正直こうやってミナトさんをあわあわさせていないと、僕の方が恥ずかしくて死んでしまう。僕の代わりに、精々慌てふためいていてね、ミナトさん。
 ミナトさんは顔を真っ赤にして、唇を尖らせたあと……「べ、別にいいけど」とそっぽを向いてしまった。うん、ホントに可愛いね。
 そうやって2人で人目も憚らずイチャイチャしていると……


「あれ?」


「あ」


 雪が降ってきた。凄い、ホワイトクリスマスだね。


「雪が、イルミネーションの光を反射して……」


「幻想的、だねぇ……」


 雪のおかげで、シンデレラ城がさっきまでとは違い、とても幻想的な雰囲気になった。ふわー、何年かに1度しかないような光景だね。うん、そんな日をミナトさんと迎えられるなんてラッキーだ。
 雪が降ってきたせいで、寒くなった僕たちは、自然と身を寄せ合う。そこには、さっきまであった1歩ぶんの距離は無い。だからか、とても近くにミナトさんを感じられる。
 さて、と。後は――


「ミナトさん」


「ま、またいきなりキスは無しだぞ」


「う、うん。分かってるよ。今度はミナトさんの許可を得てからやります。って、そうじゃなくて」


「?」


 僕はポケットから自分のスマホを取り出す。


「ツーショット、撮るでしょ?」


「! あ、当たり前だろ!」


「だよね」


 そう言って、僕たちはさっきよりも更にくっついて、自分たちにスマホを向ける。


「じゃあ、行くよ。メリ~」


「「クリスマス!」」


 パシャ、とシャッターの音がして、僕たちの笑顔が1枚の写真に切り取られる。




 ――今日は、今までの人生で一番最高の日だった。
 でも、それも今日だけだろう。明日からは、もっと最高の日が続くだろうから。
 何故って? それは……


「じゃあ、ミナトさん。晩ご飯食べに行こうか。何がいい?」


「肉!」


「ミナトさんはいっつもそれだね……」


「な、なんだよ! 悪いのかよ!」


「ううん。大丈夫。行こうか」




 世界一すてきな女性が、ずっと隣にいてくれるからね。




To Be Continued......?

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