異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

226話 自意識なう

「……覗きは、趣味が悪いんじゃない?」

 背後を振り返りながらそう言うと、四人の美女がブブブブ……と光学迷彩を解除したみたいに現れた。

「ほっほっほ。バレておったか」

「京助、無事……みたいだな。良かった」

「マスター、お疲れ様です。はい、お飲み物」

 俺は手の中にいる新井を抱き上げ、意識を失ったせいで口から零れ落ちそうになった彼女の活力煙をキャッチし、燃やし尽くす。
 リャンが差し出してくれた飲み物に口をつけ、
 新しい活力煙を出して咥えると……シュリーが火をつけてくれた。

「どーぞ、デス」

「ありがと。……で? なんでずっと見てたの? まさかとは思うけど……これも、キアラの差し金とかじゃないだろうね?」

 俺が文句を言うと、キアラはツカツカと歩いてきてパチンと指を鳴らした。途端に体が重くなり、彼女の前に首を垂れる形になる。
 何を――と文句をつけようとしたところで、ゴッ! と拳骨を落とされた。

「っつぅ……な、なにするのキアラ……」

 プルプルと震えながら彼女を睨むと、それ以上の眼光でギロリと睨みつけられる。

「なんちゅう危ない魔法を使っとるんぢゃ! そんなギリギリの魔法を……ッ! アレを出す前に勝負を決めんか、このド阿呆が! いつも言っておるぢゃろうが。身体に負担のかかる魔法の使用は控えよ。別に使わずとも無傷で抑えられたぢゃろうお主なら!」

 少し……いや、かなり怒っているキアラ。彼女の拳骨と同時に俺の身体の傷は癒されたが、痛みは消えない。
 そのままキアラは新井にも回復魔法をかけ、魔力を分け与えた。
 俺は心配かけたのは申し訳ないなと思いつつ……頭を下げる。

「それは、その……ごめん。ちょっと軽率だった。彼女に応えるには、そうするしかなかったっていうか……」

「知らぬわ、阿呆。そこな女の心体よりもお主の方が大切なんぢゃ。あれはもっと妾と共に詳細を詰めてからにせよ。暫く封印、禁止ぢゃ」

 頭ごなしに叱られるのは苦手だが、彼女の言っている大部分はその通りで何も言い返せない。
 キアラに頬っぺたをウリウリといじられながら、俺は改めて気になっていたことを問う。

「……新井の暴走、キアラでも分からなかったの? それに彼女が俺に言ったこと……キアラの差し金?」

「半分正解で、半分ハズレかのぅ。こ奴がお主に気持ちを伝えることは妾の思惑通りぢゃが、暴走の規模までは読めなんだ。何か入っておるのは分かっておったが……何もかも、読みを外したのぅ。そこは謝る」

 命に関わる暴走だった。流石にキアラでもそこまではしないか。出会ったばかりの頃の彼女ならやりかねないけど。

「うむ。気絶でもしておれば抜けたぢゃろうが……そこまでする義理は無いと思っておったからのぅ」

 前言撤回。キアラはキアラだ。

「それよりも京助。大丈夫だったのか? というか、何故呼ばななかった」

 冬子が心配そうな声音で話しかけてくる。確かに彼女らに手伝って貰うのが本来はベストだったのだろうね。
 でもまあ……うん、これは一人でやらなきゃいけなかった。宿題は、一人でやるものだ。

「ん、ごめん。……志村と天川に頼まれたから、その依頼を完遂してた」

「そうか。……そう、か。じゃあまあ仕方がないな」

 何やら含みのある表情でため息をつく冬子。そのまま、俺の腕から新井を強奪した。

「貸せ」

「別に俺が運ぶよ?」

「ダメだ。お前は見た目以上にダメージを受けてるぞ。さっきから足がふらついている」

「あー……」

 アレの後遺症のせいか。キアラのおかげで傷は治ったし、内臓のダメージも抜けてるけど……痛みが消えるわけじゃないからね。
 ここは彼女に甘えておくか。

「……本当に、心配したんだからな」

「ん、ごめんね」

 唇を尖らせ、そう言う冬子の表情は……どこか、寂しそうで。

「マスター、肩を貸しましょうか? 別に手が滑って胸を触っても大丈夫ですよ? トーコさんと違って引っ掛かるだけの胸はありますからね」

「キョースケさん、ちょっと休憩した方がいいデスよ。その、キョースケさんが辛そうだとワタシも悲しいデスよ」

 リャンとシュリーがややおろおろと俺の周りをグルグル回る。ちょっ、なんで。

「おいピア、私の胸がなんだって?」

「上半身でマスターを欲情させられないまな板は黙っていてください」

「誰がまな板だ誰が! きょ、京助は……京助が大切にしているのはそこじゃないだろ!」

「まあまあ、間をとってここは師匠と弟子のラブストーリーをデスね……」

「どの間を取ったらそうなるんですか。ゆくゆくは私がマスターを養って私無しでは生きられない身体に……」

「京助をニートにしてたまるか! 京助は私が養う!」

「いやそれだと結局ニートになってるじゃないデスか」

 何故か俺を誰が養うかの話になっている。
 そんな彼女らを見て――ふと、新井の言葉が思い浮かんだ。
 いや正確には、新井が俺に見せた感情と言うべきか――

「あっ」

 思わず声が出る。キアラも含めて四人が不思議そうに俺の顔を覗き込む。
 俺は慌てて顔を隠し、キアラに指示を出す。

「あ、新井を置いたら、ま、魔物の掃討! ラストスパート! キアラ、王城まで転移!」

「構わぬが……お主、なんで耳まで真っ赤にしておるのぢゃ?」

「なん、でも! 無い! さぁあ早く!!!」

「う、うむ? うむ」

 珍しくキアラが気圧され、すぐに転移を発動してくれた。俺はその隙に水を生み出して、顔を洗う。

(あーあーあーあーあーああーああああああああ)

 自意識が肥大化する。
 俺の脳内でいろんな声がする。
 でも――一度、ただの一度でもその可能性に思い至ってしまえば、二度と頭から離れなくなる。仕方ないね、思春期の童貞だからね。

(……も、もしかして、もしかしてだけど……俺の、ことを取り合ってたりする、の、もしかしてアレが、ネタとか、じゃ、なくて……マジで……だったら……まさか、本当に、そういうこと……?)

 ああ、ああ。
 こんな思考をする自分が。
 恥ずかしくて死んでしまいそう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 さて。
 新井を王城の空美達に引き渡し、俺も戦う! なんて言うボロボロの難波をなだめ、俺たちは最後の掃討に出陣した。
 と言ってもほとんど倒され尽くしており――最後の一角が残るのみだったが。

「あれ、天川。奇遇だね」

 俺たちが着くのとほぼ同時に、天川、井川、志村の三人も合流した。流石に過剰戦力だと思う。
 何となく気の抜けた頭でそんなことを言うと……

「魔物の気配がしたから来たんだ。……新井はどうなった」

 と、天川に詰め寄られる。
 俺は肩をすくめてから王城を指さした。

「寝てると思うよ。……寝顔はそれなりに安らかだったかな」

 言いながら雨除けの結界を張る。水で出来たドームのようなものだ。

「そう、か。良かった」

 ホッとした表情の天川。隣では志村が黒いコートをはためかせ、葉巻を咥える。

「京助、火はあるか?」

「ん」

 それに火をつけてあげると、志村はニッと笑って煙を吸い込む。葉巻の先が紅くなり、独特の香りが辺りに漂う。
 不思議と嫌いじゃないが、俺は活力煙の方が好きかな。

「上手くいったなら何よりだが……新井の体の方は大丈夫なのか?」

「たぶん。キアラが魔法もかけてくれてたし」

「そうか。まあ、王城のベッドなら……今ごろ温水先生印の魔力回復薬が届いている頃だろう。あれはよく効く」

 新井も魔力さえ戻れば大丈夫。精神面は……俺に出来ることはしたつもりだけど、どうなるかは分からない。
 だけど、何となく大丈夫な気がする。

「それで、魔物は?」

 天川はそう言うと、カチャリと剣を構えた。

「ん、ああ」

 俺が指を鳴らすと同時に、辺りの水が波打つ。周囲に波紋が広がり……四つの位置を特定した。
 おそらくAランクが二体にBランクが二体。本来であれば大災害だが……。

「終わらせようか。皆、行くよ」

 俺がそう言うと、志村がいきなり駆けだした。おや、と思う間もなく天川と井川がそれを追う。

「させるかっ、志村!」

「チッ、魔力の場所がイマイチ分からん……っ!」

 あまりのスピードで駆けていくので、俺は冬子の方を見る。

「なんだろう、競争でもしてるのかな」

「かもしれないな。これだから男子は」

 クラスの嫌味な委員長みたいなことを言い出す冬子。でもその足は魔物たちの方へかけていこうとうずうずしている。

「ん、じゃあ俺らも行こうか。競争なら負けられない」

「ああ!」

 俺と冬子で同時に走りだす。一番手前にいるAランク魔物――フォーハンドオーガに狙いをつけた。
 フォーハンドオーガは四つの手でその辺の物を投てきしてきたり、捕まえて締め技を使ってきたりと知能と力の高い厄介な魔物だ。

「グルルルゥィイイ!!」

「魔魂石は心臓。行くよ、冬子!」

「了解!」

 ぐおん!
 おそらく家の破片だろうか、人ひとり分くらいはありそうな瓦礫をぶん投げてくるフォーハンドオーガ。冬子は左に、俺は右にステップしてそれを回避する。
 しかし奴の腕は四本――即座に次弾が飛んできた。俺は上に、冬子はスライディングして下からそれを躱す。
 フォーハンドオーガに後一歩というところで――四本の腕全部を使って更に巨大な瓦礫を投げつけてきた。その向こうにチラリと見えるのは、次弾を持つのではなく受け止める構えのフォーハンドオーガ。

「冬子」

「ん」

 槍を構えながら冬子の名を呼ぶと、それだけで全て察したか一列に並ぶ。俺は瓦礫がぶつかる瞬間足を止め、シュンリンさんに習った基本の突きを鋭い踏み込みと共に撃ちだした。

「シッ――」

 ガァン!
 一撃で粉々に吹き飛ぶ瓦礫。榴弾のように飛ぶそれを跳び越すようにして、俺の後ろに隠れていた冬子が剣を振り上げる。

「グルァッ!?」

 四本の腕で受け止めようと冬子の方に拳を向けるフォーハンドオーガだが――甘い。微糖コーヒーくらい甘い。
 俺は体勢を低く、殆どスライディングするようにしてフォーハンドオーガの足を槍で刈る。片足を取られ、バランスを崩すフォーハンドオーガ。
 その隙を逃す冬子じゃない。剣を掴もうとしてきた腕を、体を捻って躱し――そのまま頭から右わきの下まで一刀で切り裂いた。

「お見事」

「お粗末」

 チン、と剣を鞘に納める音が響き、そのままフォーハンドオーガが後ろへ倒れる。俺はその心臓部分から魔魂石を取り出し、次の魔物に狙いを定めた。
 Bランク魔物――ハンマーオーガがすぐ傍に。流石にBランクなら俺も魔法を一切使わずに一瞬で倒せる。
 というか、スキル一発で倒せる気がする。

「ふぅ、『飛槍撃』!」

 ドっ!
 地力が増したからか、壁を貫通して一直線に飛んでいく『飛槍撃』。家を二つほど吹き飛ばし、ハンマーオーガの首から上を吹き飛ばした。
 魔魂石はエイムダムに回収させよう。コレで終了。

「京助! ……倒しちゃったんで御座るか」

 俺がハンマーオーガの魔魂石を回収すると、なぜか志村が絶望的な表情を浮かべた。口調もいつものそれに戻っている。

「うん、そっちも終わった?」

 魔物の気配はゼロ。天川達も首尾よくやっつけたらしい。

「ああああああああああ……四体、って聞いた時に嫌な予感がしたんで御座るよ……」

 なぜか凹む志村。ちょっと面白い。
 俺と冬子が頭にクエスチョンマークを浮かべていると、どや顔の天川と面倒そうな顔をした井川も戻ってきた。
 というかそもそもこの三人の取り合わせが既に面白いんだけどね。

「そういえば、天川。依頼料決めてなかったね」

 俺が思い出して言うと、後ろで冬子が首を傾げていた。

「報酬? 何か依頼を受けていたのか?」

 冬子に訊かれるので、特に隠すことでも無いから詳細を話す。

「うん。新井を救えって、天川が。いくら要求しようかなー」

「えっ……か、金をとるのか!?」

 ビックリ仰天、という顔になる天川。そりゃこっちはSランクAGなのだ、依頼を受けたら報酬が発生するのは当然のこと。

「と言っても報酬を確認せずに依頼を受けたのはこっちの落ち度でもあるからね。なんでもいいよ」

「なんでもいい、と言いながらとるものは取るんだな……仕方がない。ディナーにご招待しよう」

「へぇ?」

 天川の口からディナーなんて言葉が出るとは……いやそんなに意外でもないか。モテ男だし。
 しかし何となく悪戯な笑みを浮かべているのは何故だろうか。

「実は志村たちと賭けをしていてな。狩った魔物の数で競っていて、最下位が残りの人間に『ニスロク』という焼肉屋さんを奢る約束をしていたんだ。それに招待しよう」

「おい天川! お前が出した依頼だろう、何故オレに払わせる!」

 志村が食いつく。へぇ、志村が負けたんだ。

「なんていうか、意外」

 チラリと井川を見てそう言うと、彼はふいっとそっぽを向きながら銃を構えた。

「志村の兵器だ。Bランク魔物も簡単に死んでいったぞ……くそっ、努力するのが馬鹿らしくなるレベルだ」

「そして拙者は……途中でイプシロンのエネルギーが切れたんで御座る……ヴェスディアンカーは禁止とか言うし……」

「あんなもの使われたら勝負にならないだろう」

 ああ、だから現れた時に変身後の姿じゃなくていつもの黒いコートだったのか。
 エネルギー切れ、か……新造神器で克服してきそうな気がする。

「というわけで一位が俺、二位が井川、最下位が志村だ。……そのディナーに招待する、というのはどうだ」

「いいね。焼肉かぁ……久しく食べてない気がする」

「高給取りのくせにか! 京助!」

 我が家はマリルとリャンが野菜中心のメニューを考えるため、焼肉はなかなかでない。肉料理は高頻度で出るんだけどね。
 そりゃもちろん、俺が肉を大量に買ってきてリクエストすれば用意してくれるんだろうけど……そこまでじゃないというか。
 何にせよ楽しみだ。

「志村、俺も半分払うからいいだろう?」

「本当ならお前が全額出さないとおかしいだろう。というか、拙者のお給料……ぶっちゃけめっちゃ少ないんで御座るよ……?」

「じゃあどうやってその兵器群作ってるのさ」

「……流石に私費だけじゃ不可能で御座るから、経費で落としたり、マール姫の資産の一部を借りたり……あとは拙者の兵器のレンタル料とか……」

 色々手広くやっているようだ。
 なんかため息をつく志村が不憫になったので、この報酬を請求するのは次の彼の給料日以降にしてあげよう。

「雨を止めた方がいいかな」

「流石のお主も面倒ぢゃろう。どれ、妾がやってやろうかのぅ」

 キアラはふよっ、と何やら光の弾を生み出して空に飛ばす。いつもの彼女が撃つ派手な魔力弾ではないそれが雲に着弾すると、雲が消えていく。まるでお絵かきソフトで消しゴムを使った時のように。
 キアラが楽しそうに指を振ると、その軌跡に沿って光弾が動く。雲が徐々に失われていき、ほんのりと白む空が見えてきた。

「ヘリアラスさんもそうだが……」

 天川がその様子を眺めながら、呟く。

「理というものを捻じ曲げているような印象を受けるな」

「何というか、産業革命直後の人類と現代の人類くらいのレベル差を感じるで御座る」

「蒸気船とイージス艦くらい技術レベルも、比較対象も違う――そんな印象を受けるね」

 キアラが夜空をお絵かきソフトにしていると、一体のワイバーンとグライダーに乗った黒い男がこちらへ飛んできた。
 雨の中、ご苦労なことだ。俺は雨よけの結解を解除し、二人を迎え入れる。

「アキラ! 無事か!」

「ミスター京助。こちらは終わった。首尾は上々だ」

 着地するラノールとタロー。活力煙を彼らに投げ、火を渡す。

「それにしても異世界人というのは凄いんだな。Sランカーになったのだからさもありなんというところだが――これほど広範囲を制圧出来る魔法を使えるとは」

 ラノールが俺の方へ歩み寄りながらそんなことを言ってくる。って、なんで俺が異世界人だと知って……。

「天川、言ったの?」

「もとより城の人は召喚したことは知っている。彼女も騎士団長として城勤めだ」

 ああ、それもそうか。
 っていやいや、俺はタローに異世界人のことは言ってない。

「彼が異様な魔法を使えるのは異世界人だから、というだけでなく純粋に才能や努力もあるだろう。そこを履き違えるのは失礼だと思うが? ミスラノール」

「む、それもそうか。確かにアキラもそういった基礎能力の高さ以上のものを感じているしな」

 すまなかった、と謝意を示すラノール。俺は気にしてない、と答えたところで……

「タロー、いつ知った?」

「色々とね。黒髪、黒……いや茶か? まあ瞳の色、名前、諸々から推察していただけさ。確信も持っていたがね」

 そう言って笑うタロー、だけど……。

(仮に、仮にだ。前の世界で七色の髪を持ち、黒と白が反転した瞳を持つ人間が目の前に現れたとして――)

 それを異世界人と思うだろうか?
 もしも思ったとして、それに確信を持つことが出来るだろうか?
 答えは否だ。何故なら「異世界」という存在を知覚していないからだ。
 まだ宇宙人の方が信じられる。それくらい「異世界」は遠い。
 それなのに確信を持てる、ということは最初から異世界を知っていなくてはならない。

(だからと言って、異世界人には見えない)

 いや黒髪黒目、黒ずくめの格好でアジア系の顔立ちと日本人と言われたら信じられるパーソナリティではあるが……どうにも俺らの世界らしさが無い。

「謎は増えるばかり、か。……まあいいか、俺が異世界人ってバレても今更何も起きないだろうし」

 呟き、活力煙の煙を吐き出す。ややピンクがかった煙が空に溶け……俺は天川の方へ振り向く。

「さて、タローもラノールも終わったってことは……」

「ああ。魔物は完全に……全滅したということだな!」

「そうで御座るな!」

「ああ。……ああ、本当に、良かった……」

 喜色満面の天川。井川も志村もガッツポーズ。俺は志村に向けてスッと手をあげる。彼はこちらへ振り向くとそのままパァン! とハイタッチした。
 俺たちは救済に来た立場だから、助けが来るまで足掻き、状況を打開しようとひたすら戦い続けていた彼らの気持ちは想像することしか出来ない。
 あの志村ですらこの反応なんだから、その辛さ、苦しさは……想像を絶するだろう。

「じゃあ最後の仕事だね。天川」

「ああ! ……ああ?」

 キョトン顔を返す天川。
 やれやれ、戦いが終わった後の勇者に求められる役目なんて一つしかないだろうに。

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