異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

189話 氷と毒と剣

 王都の中心に転移し、さてと難波の方を向く。


「難波、頼むぞ」


「おう、任せろ。……たぶん大丈夫だ」


 やや不安になることを言う難波を先頭に、天川達は走り出す。


「それにしても……天川」


「なんだ?」


「本当に、阿辺が裏切ったと思うか?」


 こちらを見ず、そんなことを問うてくる難波。殿にいた天川は、ほんの少しだけ考えてから口を開く。


「分からない。だが、状況的に怪しいと思っている」


 今は阿辺が裏切った想定で動いているが、それが正しいかどうかは一切分からない。
 だが――この結界をどうにかしないと王都はどうにもならない。そして、タイミングから考えて阿辺がなにも関与していないとは考えづらい。
 だから、阿辺が昨日打ち込んだという杭を破壊しにいく。


「ことがそうシンプルかどうかは分からないがな」


 そう呟くと同時に、横合いから現れた数体の魔物を一撃で屠る。こうした弱い魔物ならばいいのだが、Bランク以上が複数でかかってこられたりしたら……少し、自信が無い。
 後ろでバフをガンガンかけてくれる桔梗。剣の威力が上がっていることを実感しながら、もう一体魔物を切り飛ばす。


「そうか……いや、俺も阿辺が余計なことしてこの結界を張ったとは考えてるのよ」


 難波も目の前にいた巨大なクラゲのような魔物を『職スキル』で一蹴する。


「でも裏切ったのか、って言われると違うかなって」


「……どういうことだ?」


 半壊――いや全壊している家屋を乗り越えながら、難波は笑い出す。


「あいつって、バカだろ。そんで自分のことしか考えてねえ。気遣いとか出来なくって、弱い奴には威張り散らす。かといって強い相手とは何のかんの言い訳して戦わない。ぶっちゃけウザいよな」


 ……最も仲が良いであろう友人にここまで言われるとは。
 阿辺にほんの少し同情――しそうになって、いや正しいことを言ってるなと思い直す。ここは逆に、そこまでされてよく難波が友人を続けていられるなと思うべきか。


「それでさ、あいつって……大それたことが出来るほど度胸はねーのよ。小悪党っつーのかな」


「それが?」


「裏切って人族に弓引くなんて度胸ねえのよ。それにあいつ……無茶苦茶ビビりだからな。絶対こんなことになるって分かってたらやらねえ。賭けても良いぜ」


 普通、こういう時ってぼろくそに言った後誉める流れじゃなかろうか。
 天川はそんな素朴な疑問を抱きつつも、難波の阿辺評に同意する。


「かもしれないな」


「だからたぶん、騙されてただけだ。それか洗脳されたか。天川、お前だって一回洗脳されてんだから分かるだろ? 恐ろしさ」


 嫌なことを思い出させる。
 しかしそう言われてしまえば弱い。天川は苦笑いとともに剣を振り上げる。


「つまり、ちゃんと仲間に戻してやってくれということか。――はぁっ! 『飛斬撃・四連』!」


 斬斬斬斬!!!!
 四筋の斬撃が、後ろから襲いかかってきていた魔物たちを切り飛ばす。


「ビンゴ! つーわけで見つけたら頼むぜ。っていうか、すげぇなお前。いつの間に四連までやったんだよ」


「桔梗のバフがあるおかげだ。ありがとう」


 桔梗に礼を言うと、彼女は少しオドオドとした表情で微笑む。


「え、えっと……私じゃ相手を倒せませんから。こ、こちらこそ守ってくれてありがとうございます」


 走りながらペコリと頭を下げる桔梗。やや疲れは見えるが、気力は漲っているようだ。
 そんな彼女に笑みを返していると――ドスン! 目の前に物凄い音とともに氷漬けの魔物が降ってきた。
 驚いて三人とも足を止めると、その上にふわりと……新井が降り立つ。


「あは……。温水先生の、お薬……凄い、ですね。魔力が……すぐ、回復しま、す」


 血塗れの氷鬼を従え、とろんと蕩けた眼になる新井。まるで悪魔だ。
 というか今の彼女が『お薬』と言うといけないクスリにしか思えない。薬物ダメ絶対。
 彼女はグイっと温水先生特製ポーションを呷ると、天川たちの進む方向に手をかざす。そして……


「行って。『詠唱短縮』、『フローズン・スネーク』」


『職スキル』を使って短い詠唱で魔法を放つ新井。数十体の氷蛇を生み出し、通り道の魔物を軒並み凍らせていく。
 あまりにも広い攻撃範囲に唖然としていると、新井は物憂げにため息をつく。


「……魔物、全然、減りませんね」


 そして少しだけ悲し気に目を伏せると、足のブースターを起動させる。


「だから――もっと、殺します。そしたらきっと……」


 清田君も、認めてくれる。
 最後にそう呟いた新井は、氷のスライダーを生み出して再び空へと駆けて行く。今の彼女を見て、果たして清田は新井だと分かるのだろうか。


「なんっつーか……すっげぇ」


 凍った魔物たちを横目で見ながら、難波がため息をつく。


「あんなに強かったっけ、新井って」


「どうも……夜な夜な特訓していたらしい。俺も呼心から聞いただけだが」


 魔力が切れるまで魔物たちを狩っていくという極めて危険な特訓を、毎日寝る前に行っているらしい。
 初めて聞いた時は唖然としたが、志村がちゃんと監督しているという話を聞いたので止めるまではしなかった。


「はー……。なんつーか、すげぇな」


「ああ、凄いな」


「凄いですね……」


 三人とも小学生みたいな感想を漏らしつつ、どんどん進んでいく。徐々に人も魔物も減っていきながら……やっと王都の端の方までたどり着く。


「そろそろか?」


「おう、もうあと百メートルも無――ッ!」


 難波が咄嗟に戦闘態勢に入る。天川と桔梗も遅れて戦闘態勢に入ると……そこにいたのは……三体の魔物。
 一体は角が三本生えた鬼。右腕がメラメラと燃えた棍棒になっており、巨体も相まって手ごわそうだ。
 その横には……蔦で身体が構成された魔物。下半身は蛇、上半身は熊のようで……顔の部分はエリマキトカゲのようになっている。
 そして二体の上には、いわゆるグリフォンと呼ばれる魔物が浮かんでいた。頭が鷲で身体がライオン。ただ一つグリフォンと違うのは……尻尾が十本あり、その全てが剣のようになっていることだ。


「……うへぇ」


「これは……ちょっと、きつそうだな」


「天川君……ひぅ、魔力量的にAランクです……」


 魔法師である桔梗は、スキルを使わずとも相手の魔力量がおおよそ分かるらしい。
 まあ、彼女に言われずともAランクであろうことは分かっていたが。


(せめてフルメンバーならば……)


 全員揃っていれば、Aランク魔物が三体でも負けやしないだろう。しかし、今ここにいるのは三人だけ。それも桔梗はまだ『職』が二段階進化していないのだ。
 ゴクリと生唾を飲み込む。今にも襲いかからんとしている三体の魔物を前に、天川は神器を抜こうと――


「あ、天川。い、行け、行ってくれ。こ、ここ真っ直ぐ行けば、あ、ある」


 ――難波が、剣を抜いて前に出た。


「な、難波。無茶は寄せ、ここは三人で……」


「んなことしてる暇ねぇだろ! 冷静になれ、コイツらにまごついてたら他の魔物がわんさか来るぞ!」


 難波の鋭い指摘。


「さっさと行って、さっさと壊してさっさと戻ってきてくれ! いや、もうマジ……お、俺の決意が鈍らねえうちに行けよ!」


「だったら俺が残る! 道はお前が知ってるんだから――」


「俺の攻撃力で壊せなかったらどうすんだ! それに、生き残るだけなら俺は強いぞ! なんせ、タンク向きの地味な『職スキル』だからな!」


 声を荒げる難波。よく見ると足が震えている。
 確かに……難波であれば一対一ならAランク魔物に後れをとることはないだろう。しかし、今は三体一。見たことが無い魔物だから敵のデータも無い。
 どうすべきか――天川が脳内で考えを走らせようとした瞬間、難波は走り出した。


「ああもう! おらはやく行けええええ!」


 殆ど悲鳴のような絶叫を上げて飛び掛かっていく難波。それを見て、天川は走り出す。


「行くぞ、桔梗!」


「で、でも難波君が――」


 躊躇う桔梗の手を掴む。彼女の手も震えており……そして、天川の手も震えていた。
 後ろは向けない。前を向くしかない。


「あいつなら大丈夫だ!」


 自分に言い聞かせるように叫び、せめてもと置き土産に『飛斬撃』を放ってからその場を後にする。


「ちくしょう……貧乏くじ引いちまったぁぁぁぁ!」


 後ろから聞こえてくる難波の叫び声。
 それを振り切るように、天川と桔梗は一直線に走る。目の前に魔物が出てくることには出てくるのだが、それはそこまでの強さではない。


(待っててくれ……すぐに戻る! 阿辺の杭を壊して、すぐに! 人族のために、仲間のために、友のために……俺は、勇者なのだから!)


 不安に押し潰されそうな心に、使命を叩きつける。
 それがあれば、動ける。








「なん、つってな」


 にひ、と少しだけ変な笑い方をする難波。
 その手には……アホみたいに重い剣が握られていた。
 重量的にも――気持ち的にも、重い剣が。


「あーあ、こんな序盤でカートリッジ半分くらい使うことになっちまうな」


 カシュン。
 カートリッジを柄に挿し、ピストン部分を押し込む。それを何度か繰り返すと……禍々しいオーラを放ちだした。


「行くぜ……フェイタルブレード」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「キシャアァァァァァァァ!」


「ピュー……ピュー」


 叫ぶ鬼、吠える鷲、蠢く蔦。
 威容を放つ三体の魔物に、堂々と剣を突き付けて宣言する。


「俺の名前は難波政人! 純一と理子の息子にして……っっとぉ!」


 振り下ろされた蔦を『剣魂逸敵』で逸らし、バックステップする。
 その蔦を剣で切り払うと……蠢いていた蔦が身悶えしだす。カートリッジを叩きこんだだけあって、しっかり効くらしい。


「……異世界人パーティーの盾だ! さぁ、どっからでもかかってきやがれ!」


 矜持を、覚悟を持ってそう名乗る。


「怖くなんか……ねえぞぉぉぉぉ!」


 震える足をぶっ叩いて。




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 難波の言う通り、そんなに遠くは無かった。天川たちの足ならすぐだ。
 しかし……


「結界、か。だがこれで確定したな。周囲の結界が破れるかどうかは置いておいて……敵はこの杭を壊されたら困るんだろう」


 難波曰く阿辺は「杖」と言って挿していたようだが、誰がどう見ても杭だ。そしてその杭の周囲に、薄く……結界が張られている。


「天川君……バフ、かけますね」


「ありがとう。……魔力は大丈夫か?」


「はい、温水先生印のポーション、ちゃんと持ってますから」


 そう言って桔梗は笑うと、ポーションをグイっと呷った。
 その手は震えており……笑い方もぎこちない。限界が近いのかもしれない。


「ここを壊したら、いったん城に戻ろう。そして桔梗、お前は城で呼心のサポートにあたってくれ」


「えっ……えっ、い、いや天川君。私はまだ、戦えます」


 天川の袖を掴みながら、桔梗は首を振る。
 しかしそれをそっと外しながら……天川は、桔梗の眼をのぞき込む。


「ダメだ。桔梗、体力がもうキツイだろう。一旦休め。一刻も早くこの戦いを終わらせなきゃいけない状況で、俺たちの誰かが倒れたらダメなんだ」


「で、でも……!」


 桔梗はグッと顔を近づけてくるが、天川は首を振った。
 誰がどう見ても、桔梗は限界だ。そもそも天川と難波という前衛職の二人と走るだけでも体力的にツラいはずなのに、その走る場所が魔物の群れだ。
 恐怖は、想像以上に人の精神を蝕む。


「大丈夫だ、すぐに出番は来る」


「でも、だって……じゃなきゃ、誰が天川君を助けるんですか?」


「大丈夫だ、俺は一人でも戦える」


 そう言って笑うと、桔梗は……くしゃっ、と顔を歪めた。
 どうしてそうなったのか、引き金となった感情は何なのか――天川は、あえて考えなかった。考えず、顔をあげて杭に正対する。
 破壊するために。


「俺は、勇者だ。勇者だから……この、街を救う」


 そう呟き、剣を振り上げた。この結界の強度がどれほどかは分からないが、桔梗のバフが乗ったこの一撃で壊せないはずはあるまい。
 力を籠めて――一気に振り下ろす。


「ぜぁっ!」


 轟!
 力強く振り抜かれた剣が、空気を切り裂いて結界に当たる。想定より軽い手応え。これならば簡単に貫け―― 


「ぐっ!?」


 ――ドッ! と。
 杭が破壊出来る寸前、予想外のところから衝撃を受けた天川は、ゴロゴロと数度回転してから立ち上がる。


「天川君!」


 桔梗が駆け寄り、天川は彼女を守るような位置で立つ。


「……魔物、か」


「い、今……地中から出てきました。というか、あの結界から召喚されたような……」


 桔梗が呆然と呟く。


(なるほど)


 どうも、さっきの結界は中の杭を守る防護結界でありながら……誰かが壊そうと攻撃したら探知して魔物を出す召喚魔法も兼ねていたらしい。
 車のような大きさのオオカミ。鋭い爪がギラリと光るが、もっと目を引くものがある。それは……背中についている巨砲。


「カノンウルフ……と、取りあえず名付けるか。まんまだが」


「グルルル……ガァッ!」


 ドオン! と背中の砲から空気弾が撃ち出される。咄嗟に天川は剣でそれを弾くが、あまりの威力にたたらを踏む。


「ぐっ……なんて威力だ」


「グァァァァガァッ!」


 ドン! ドン!
 空気弾を連続して撃ち出し、天川たちをこの場から遠ざけんとするカノンウルフ。


「番人がいるということは――やはり、あの杭は破壊すべきものなのだろうな! はぁっ!」


 ズバッ! 空気弾を切り裂き、天川は剣を担ぐように――否、野球のバットのように構える。天川の得意なスタイルだ。


「来い!」


「ガァルルァァァァ!」


 カノンウルフは空気弾を撃つだけでは埒が明かないと思ったか、雄叫びを上げて突っ込んでくる。空気弾はなんとか受け止めたものの、その直後に放たれた鋭い爪の斬撃で上に吹っ飛ばされる。天川の防御力を持ってすれば致命傷にはならないが、足場を失ってしまう。 


「ま、ず……」


 まるで知性があるような動き――この魔物は、手強い。


「ガァッ!」


 宙に身を躍らせ、噛みついてくるカノンウルフ。何とか剣を噛ませるが、その巨体に押し倒されてしまう。


「あ、天川君!」


「う、おおおおおお! 神器開放――打ち砕け、『ロック・バスター』!」


 噛みつかれたままの神器を解放し、岩を撃ち込む。ドドドド! と数発撃ちこんだところでカノンウルフの巨体が真上に吹っ飛んでいった。
 ぐるぐると回転しながら吹っ飛ぶカノンウルフだったが何とか体勢を立て直し、砲を撃ち出しながら垂直に落下してくる。天川はその空気弾を岩弾で撃ち落としながら膝立ちの状態になる。


「桔梗! 一番強いバフを!」


「は、はい! 『虹色の力よ、強化術師の桔梗が命令する。この世の理に背き、あらゆるものを粉砕する力を君に! フォース・オブ・クラッシャー』!」


 バシュン! 天川の身体に力がみなぎる。
 淡く輝く自分の肉体を見ながら、天川はグッと足に力を入れた。


(ラノールさん曰く――)


 この技を出す時は、低く構えることが大切だ。低ければ低いほど、膝のバネを活かすことが出来る。
 敵は大きい方がいい。そして、相手が上空からこちらへ向かってくるタイミングで放てるのがベストだ。
 低く構えた状態から、左足を起点に回るように伸び上がっていく。爪先から膝、膝から腰、腰から肩、肩から腕、腕から剣にエネルギーを一直線に伝える。
 回転を――円に籠められた力を殺さぬように、鋭く、突く!


「おおおおおお! 『エクスカリバー・スパイラル・ピアーズ』!!!!」


『必殺スキル』を発動させ、神々しく輝く『ロック・バスター』。閃光のごとき一撃が、カノンウルフの腹部に大穴を開ける。
 ズズン、と天川の上に力なく倒れこんでくるカノンウルフ。天川は横に跳んでそれを躱し、剣を勢いよく払って返り血を飛ばす。
 上方の敵を倒したせいで全身が真っ赤だが、気にしている暇は無い。


「ふぅ……」


 魔魂石は頭だったのか、溶けてはいかない。
 Aランク……上位、と言ったところだろうか。流石にSまではいかないだろう。
 しかし強敵だった。ほんの少しだけ安堵していると……桔梗が駆け寄ってくる。


「天川君! 無事ですか!」


「ああ。……っとと、一休みしてる場合じゃない。速くあの杭を壊して難波を助けにいかないと!」


 カノンウルフ一体にすら天川は手こずったのだ。難波のところに残してきた三体がコレより弱い保証は無い。
 二人で頷き合い、再び杭に攻撃を――しようとしたところで、カノンウルフがピクリと動いた。


「ッ! まだ生きて――っ、えっ?」


 ぴくぴくと痙攣したカノンウルフは……そのままみるみるうちに小さくなっていき、なんと人間大になってしまう。
 いや、人間大……じゃない。人間だ。
 カノンウルフは、人間になってしまった。


「え……」


 あまりの出来事に、何があったか把握できない。
 その人間は耳が尖っており、魔族であることが分かるが……。


(まさか……)


 ドクン、心臓が跳ねる。


(俺、は……)


 全身の汗が冷えた物に変わる。すっかり固まってしまった天川。桔梗も、驚きのあまり声すら出ていない。
 カノンウルフ……だった、人間は。腹に風穴を空けられた人間は。
 ギョロリと目を開くと、ケタケタと笑いだした。


「きひ……弱っちい、おいらでも……魔王の血があれば勇者とやりあえるんだなぁ……。きひひ、勇者、覚えとけ……この王都にはおいら以外にも魔王の血を飲んだ魔族がいるぞ……きひひ、きひゃはは、あひゃひゃひゃひゃ!」


 あひゃあひゃ。
 狂ったように笑う魔族は……そのまま、動かなくなった。
 白目をむき、しかし口もとだけは楽しそうに……死んで、しまった。
 天川の、斬撃によって。
 魔物だったはずのカノンウルフは、実は魔族で。
 魔族は……言葉を交わすことが出来て。
  言葉から察するに、彼は今まで燻る思いがあったのだろう。魔族の中では優秀じゃないのかもしれない。もしかすると、一発逆転――まではいかずとも、何かを残したい、やり遂げたいと思ってこの戦いに臨んでいたのかもしれない。
 そう、読み取れてしまうほど……彼の最期の言葉はあまりにも人間臭くて。 
 それはつまり……魔族とは、人であって。
 そして、天川の斬撃によって目の前の『人』は息を引き取った。
 つまり。


(俺は、人を――)


 殺した。 



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