異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

141話 チャンピオンの拳

 今までずっといろんな人に助けられてきた。
 そして今も助けられている、後ろにいる相棒に。
 精神論なんて嫌いな加藤がただ一言、頑張れと言ったのだ。
 だからか――あるいは他の理由があるのか。
 分からないが、何故かそうするべきだと思った。ボクサーなのだから、トランクス一丁で戦うべきだと。


「そんな装備で大丈夫かい?」


「大丈夫ッスよ、問題ない」


 不思議と肩が軽い。激励されたからか。
 体中が痛む、だからこそ全身を感じることが出来る。今なら目を閉じた状態で同じ場所をまとめた針で刺されても、その数を言い当てられるだろう。
 だからこそ、分かる。自分が纏っている『気合い』がどこに足りていないか。どういう風に足りていないか。
 そうやって全身にくまなく纏った『気合い』――そこでふと、『職スキル』の『激剛腕』、これも全身に纏えないかと思った。
 ただでさえパンチ力が上がるのだから、これを全身に纏えたら『気合い』と合わさり最強なんじゃないだろうか。


「う、おおおおお……!」


 出来るかどうかじゃない、やるんだ。
 あいつを倒すためには強くならなくちゃならない。
 昨日の自分よりも、一時間前の自分よりも、一秒前の自分よりも。
 今勝てないとダメなんだ。退いたら弱る、心が廃る。
 だってそうだろう、敵前逃亡して何が『チャンピオン』か。
 全てのチャレンジャーの挑戦を受け止め、それでも跳ね返す。それが『チャンピオン』。だったら、今この瞬間、強くなるしかない。
 目の前の『最強』を倒し、真の『チャンピオン』になるために!


「…………ッ!」


 バチッ、と。
 腕に纏っていた蒼白いエネルギーが心臓のあたりで弾ける。


「ッ」


 ドクン、と心臓が跳ねる。


「う、ああ……」


 電流でも走ったかのような激痛。しかし既に全身ボロボロだから気に留める必要も無い。重要なのは、強くなること。




 ――『職が覚醒しました』




 脳内に響く『声』。新しく『職スキル』を覚える時にだけ聞こえる声。




 ――『職スキル』、『チャンピオンモード』を習得しました。




「――――――――ッ!」


 理屈じゃなく、感覚が伝えてくる。変われ――いや、進化しろと。
 白鷺は目の前に両手を突き出し、ボクシングの試合前のルーティンを行う。こちらの世界ではずっと『これは試合じゃない』と自分に言い聞かせるためにあえて一度もやったことが無いルーティンを。何故かはわからない、ただやらねばならないと心が叫んでいた。
 両手を突き出し、拳を握る。左手は脇を締めて引き、まずは右拳を顎の部分をかすめるように左側へ突き出す。それと同じモーションを今度は左拳でも。
 最後に左拳を最初の位置に戻し……呟く。


「変身……『チャンピオンモード』!」


 途端、蒼白い光が渦を巻くように下腹部に集まり、チャンピオンベルトを形成した。
 さらに両拳の蒼白い光はそのままグローブとなり、脚もリングブーツに早変わりだ。
 最後に一度作られたチャンピオンベルトがポンと弾け……黄色いトランクスになった。


「…………この土壇場で、『職』が覚醒……? ははっ、ツネキ。あんたはどんだけあたしを驚かせたら気が済むんだい?! サトシと言ったね。あんた、これが分かっていたのかい!?」


「別に? ただ、ぼくは信じてただけだよ。相棒の可能性を」


 ボスン、と両拳を打ち付ける。これはグローブだ、間違いない。自分の拳を保護するための。
 力が溢れる。ちゃんとバフを貰っていた時と同じくらい――いや、それ以上の力を感じる。今までとは段違いの力だ。
 一人じゃここまでたどり着けなかった、その確信だけがある。
 その確信を胸に――ゴリガルを睨みつける。


「さぁて……ゴリガルさん、いや、枝神ゴリガル。最終ラウンドだ」


「来な、ツネキ。全開で受け止めてやるよ!」


 ――気合を入れて、変身したとしても撃てるパンチは一発くらいのものだ。それほど、消耗している。
 体はボロボロ、気を抜いたらすぐにでも倒れそうだ。
 でも、渾身の一撃を撃てるなら充分。
 フェイントも、見せパンチもいらない。渾身の一撃で相手を打倒する。
 なんともチャンピオンらしいではないか。
 まっすぐ突っ込み、まっすぐぶん殴る。素直過ぎるかもしれないが、それで十分。
 それ以上のことなんてもう出来ない。
 だからこそ、残っている体力の全てを一撃に注ぎ込む。
 目を開けろ、相手の動きを観察しろ。
 他の情報なんて一切要らない。
 ただ相手を倒すためだけに。


「う、おおおおおおおおおおおおおお!!!」


 叫び、見る。
 一歩、一歩と進むごとに世界から色が消え、音が消え、匂いが消え、最後に体の痛みすら消える。
 限界を超えた集中、全てはただ一撃を相手に叩きこむため。
 撃ちだすのは決めている。右ストレートだ。
 さぁ、限界を超えろ。
 ありったけを今見せろ。
 昨日の自分よりも、今朝の自分よりも、一時間前の自分よりも、一秒前の自分よりも強くなれ。他の誰も追いつけない速度で成長しろ。
 一歩進むごとに強くなれ。それができずしてチャンピオンを名乗ろうなど烏滸がましい。笑わせる な。


 ――さぁ、こころを燃やせ。


 命を燃やし、心を燃やし、体全てを使いきれ。


(今の俺は、限界以上だ――ッ!)


 間合いに入る。
 ゴリガルは両足を開き、正拳突きの構えだ。
 深く腰を落とし、自然体で構えている。
 そこに向かって突っ込んでいき――


「ッラァァァァァァァァァァァァァアアアアアア!!」


「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 ――お互いの拳がほぼ同時に放たれる。
 しかし、その瞬間分かってしまう。己の拳が届かないことを。ゴリガルの拳の方が速いことを。
 足りないのか? 何か残っている力はないのか?!
 全てを、もうこの拳を振り切ったら死んでもいい。
 なんでもいいから全ての力を――


(頑張れ)


 ――ぐん、と背中を押された気がした。
『想い』は力に。
『気持ち』は速度に。
 すべて集約される、限界を超えたさらにその先すら超える。
 光さえ置き去りに。
 肉という肉、筋力という筋力、その他すべてから持てるエネルギーの、最後の一滴まで振り絞る。
 超えて、超えて、超えて――全てを振り切ったその先の一撃は。


「「―――――――――――――――――――――ッ!」」


 バリン、と。
 何かが弾けた音がした。
 それと同時に、意識がフラッシュアウトし――




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




(鷲村さん)


(俺、強くなったんスよ! 異世界でこうやって力を磨いて、んで、ガンガン相手を倒して! そんで、そんで!)


(…………)


(二回、敗けたッス)


(でも、でも――それでよかったって思ってます)


(だって俺、世界最強になるんだから)


(一度も負けないで世界最強になるなんて――変ッスもんね)


(助走を付けなきゃ高く飛べない)


(人間って面白いッスよね)


(…………鷲村さん)


(俺、勝ちたいッス。鷲村さんに)


(だから……もっともっと、助走つけてきます)


(いつか必ずあなたを超えるために)


(そのためにまず――)


(目の前の壁、飛び越えて来るッス)




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 雷鳴が落ちたかのような轟音。
 確かに、白鷺の拳は先にゴリガルに突き刺さっていた。
 しかし……彼女の意識を奪うまでは至らなかった。
 めり込んだ拳に吹き飛ばされながらも、彼女の正拳が白鷺の顔面を抉る。
 不自然なまでに歪み、お互いの身体は逆方向に尋常ならざる速度で吹っ飛んだ。


「ぁっ……」


 もう叫び声をあげる力すら残っていないようで、何も言わずただ加藤の元までフッ飛ばされてくる白鷺。
 それを何とか抱き留め、すぐさま心音を確認する加藤。


「……生きてるね」


 しかし今度こそ、立ち上がれやしないだろう。
 完全にKOだ。


「でも……」


 ゴリガルは、倒れなかった。
 しかし、彼女は白鷺の一撃で遥か彼方……闘技場の外まで、吹き飛ばされていた。


「…………」


 ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ……。
 試練の間の扉が重々しく開く。試練を乗り越えたという証だ。
 ゴリガルは地面に両足を踏ん張り……文字通り、地面に足を突き刺してでも耐えようとしたようだが、その努力もむなしく完全に吹き飛ばされていた。


「……勝負に勝って、試合に負けたってところかい」


 ガラガラ……と、瓦礫を蹴飛ばしながらこちらへ近づいてくるゴリガル。
 加藤はニヤリと笑い、勝ち誇る。


「勝負にも敗けでしょ。だって神様のアンタが、ぼくら相手に全力を出したのに……殺せなかったんだよ?」


「それもそうだね。はっ、あたしの完敗だよ。あんたらの勝ちだ」


 意外なことにあっさりと負けを認めるゴリガル。
 加藤はそれに少し肩透かしを食らいながら、魔力薬を呷る。


「取りあえずさっさと傷の手当てをしないとね」


 しかし、戦いが終わってホッとしたのか、それとも白鷺が生還して気が抜けたのか……


「ん、あ、あれ……?」


 ……そのまま、加藤の意識は闇に飲まれた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「気づいたかい」


「ん……俺、あの後……?」


 ぼんやりと目を覚ますと、目の前にはゴリゴリマッチョなウーマン……要するにゴリガルが。


「……ここは?」


 木張りの床に布団が敷かれており、横には加藤が寝ている。まるで道場のような雰囲気の場所だ。


「枝神の間さ。あんたらは試練の間の試練をクリアした。だからここに連れて来たのさ。ったく、丸一日寝てたよあんたら」


 よく見るとしっかりと手当されている。これなら加藤の回復魔法を受ければ後遺症も無くすぐに完治するだろう。
 加藤の方を見るとまだ寝ている。相当疲れたらしい。


「あー……その、ありがとうございます」


 布団に半身だけ起こして、ぺこりと頭を下げる。


「別に構わないけどね。さて……まあ、サトシが起きてからにするかい? 神器のことは」


 神器。
 その言葉に心臓が跳ねる。
 求めていた力――その象徴。
 あいつらと肩を並べるために必要な武器。


「というか、やっぱ俺……なんすか?」


「そうだよ。あっちのひょろモヤシにあげれるような神器、あたしは管理してないからねぇ」


「ひょろモヤシは流石に笑うわ」


 そんなことを言っていると、ぐぅと腹が鳴った。


「まだ飯あったよな……あ、ゴリガルさんも食べます?」


 アイテムボックスから干し肉を取り出しながら言うと、ゴリガルはフッと片頬で笑い立ち上がった。


「いや、あたしが用意してやるよ。ちょっと待ってな」


 そう言ってのしのしとどこかへ歩いていく。調理スペースでもあるのかもしれない。
 白鷺はまだ疲れているのでもう一度布団に寝ころぶと、天井をぼんやりと見上げた。


「……あー、クソッ」


 負けた。
 いや、試合には勝ったんだろうが(じゃなきゃ枝神の間に来れない)、結果的に完全に倒すことは出来なかった。丸一日起きられないなんて生まれて初めてだ。


「世の中広いぜ……」


 アイテムボックスからステータスプレートを取り出すと、ステータス面は何ら変わっていなかった。
 だが、スキル欄に一つのスキルが追加されている。
『職スキル』、『チャンピオンモード』
 最後の変身はしっかりと覚えている。まるで別の人間になったかのように全身から力が溢れていた。
 最初からアレで戦うことが出来ていればまた話は変わっていたかもしれない。
 勝負に『たられば』は無いのは分かっているが……。


「あー、いや。まあいいや。考えるのは俺の仕事じゃねえし」


 そこまで言うと、隣で寝ていた加藤が「ん……」と目を開けた。


「……あー、うん。魔力を使い果たした上に、あんな化け物にぶん殴られたから……そりゃ眼も覚めないか。それにしても体中が痛い」


 体をさすりながら、加藤は魔法を唱えて――何故か、しかめっ面になった。


「なんだここ、魔法使えないんだけど」


「そりゃそうさ。あたしゃ魔法が嫌いでね。ここでは魔法は使えないよ。治したいなら外に出てからにしな」


 お盆を持って現れたゴリガルさんは、よく見たら先ほどまでとは違う姿になっていた。ピッチリとした服とは違い、ダボッとした袴のような格好になっている。
 というか、まんま袴だろう。


「ほら」


 そう言って出されたのは、質素ながらも美味しそうなご飯。米のような物と、焼き魚に、卵のスープ。日本の朝ご飯のようだ。
 ……美味そう。


「毒の心配なら要らないよ。あたしら枝神は、滅多なことじゃ下界の命を奪っちゃいけないからね。……聞いてないか」


 白鷺と加藤は出された食事をバクバクと平らげる。
 焼き魚にかかっているのは醤油に似た調味料。そして卵のスープは向こうの世界じゃ食べたことが無いような出汁が使われているようだ。


「はぐはぐはぐ……んぐっ」


「ほら、慌てて食べなくても逃げないから」


「全く、白鷺は卑しいんだから……」


「サトシ、あんたはさりげなくツネキの魚を取ろうとするんじゃない! おかわりはいくらでもあるから、取り合ったりしない!」


「はっ、はほふ! ほへほははははへへ!」


「ツネキ! あんたはご飯を口に入れたまま喋らない! ったく、これだから男子は!」


 ゴチン、と加藤と白鷺は拳骨を落とされる。
 目の前に星が瞬き、蹲る。


「慌てなくたって逃げやしないし、おかわりはいくらでもある! ご飯くらいもっと落ち着いて食べたらどうだい、あんたらは!」


 ゴリガルの怒声。
 白鷺と加藤は頭をさすりながらゴリガルを恨めしく見上げる。


「いってぇ……頭が割れる……」


「ぼくは、頭脳派なんだ……その頭脳が使えなくなったらどうするんだ……」


「文句言えるくらい元気があるなら充分さね! ほら、追加の品を持ってきてやるから仲良く食べてるんだよ!」


 二人の前にやかんを置き、ずんずんと歩いていく。そちらの方向に厨房があるのだろう。
 暫く無言で出されたご飯を食べていると、ポツリと加藤が喋り出した。


「負けたね」


「負けたな、勝ったけど」


 いや、敗けなかったと言うべきか。
 ルール上は勝った。しかし、戦いには負けた。
 清田に負け、ヘリアラスに負け、そしてゴリガルに負けた。
 二度と負けないと誓っておきながら、勝てなかった。


「キミは悪くないよ。ぼくのサポートが及ばなかった」


「は?」


 加藤がご飯の方を見ながらそう言った。


「最後の戦いは、ぼくが支援魔法をもっと的確に使えていればよかった。あの場面で魔力が尽きてなかったら、結果は違ったはずだ」


「なんだよそれ!」


 白鷺は思わず立ち上がり、加藤を睨みつけた。


「アレは俺のせいで負けたんだ! 俺が最初っからあのフォームで闘えてれば――」


 しかし加藤は白鷺と目を合わせようとせず、淡々と語る。


「キミの最後の姿はイレギュラーだ。本来ならばああなる前に決着させてなきゃいけなかったんだ。全力の戦いにぼくの力がついていけなくて、普段と違ってタイミングよくバフをかけることができなかった。それにより魔力不足が無ければもっと優位に立ち回れてたはずなんだ」


「ふざけんな! なんだよそれ! 俺が悪いに決まってるだろ! 俺がもっと、その、もっと強ければ!」


「違う。キミは最良の戦いをしていた。ぼくのサポート不足、魔力不足が原因だ」


「違うって言ってんだろ! お前は悪くない、俺の力が足りなかったんだ」


「ぼくだ」


「俺だ!」


 白鷺が胸ぐらをつかみ加藤を立ち上がらせると……ボロボロ、と彼の瞳から涙がこぼれ落ちていた。


「ぼくだって言ってるだろ!」


 あまりの剣幕につい、手を離す。


「キミが死ぬかもしれない戦いの最後、何も出来なかったぼくの悔しさが分かるか!? 最後の最後、キミの背を押すことしか出来なかった! その悔しさが、無念が! 結果として生き残ったけど、ぼくの、ぼくの……!」


 普段、感情は見せず飄々としている加藤の叫び。
 頬を伝い落ちる涙は、まるで彼の心からこぼれているようで。
 加藤は自分が泣いていることに今気づいたのか、ハッとした顔になり袖で拭う。


「……キミの負けはぼくの負けだ。ぼくだって一緒に戦ってるんだ。あの戦い、キミは限界以上の力を引き出した。だけどぼくは……何も、成長できなかった。それが敗因だ」


 キッパリと言い切る加藤に、もはや何も言えなかった。
 眼の光は決して失われていない。


(俺の相棒は――強いな)


 あの戦いの敗因が加藤だなんて思っていない。強いて言うなら、お互いの力が足りなかったのだ。
 しかし、目の前の男はそれを認めないだろう。自分もそうだからよく分かる。
 相手を認めているが故に、相手のせいだとは思えない。自分を責めたくなる。
 だからこそ、白鷺はドン、と心臓辺りに拳をぶつけた。


「俺は、弱い。お前も弱い。負けたのはそれが原因だ」


「…………」


「そうだろ、加藤」


 自分が弱いことは認められる。
 でも、相手が弱いことは認めたくない。
 だけど――一緒に戦う以上。
 お互いの弱さだって……認めなきゃならない。


「もっと強くなろうぜ」


 相手の強さを認めているが故に。
 相手の弱さも認める。
 強み、弱みではない。強さ、弱さだ。
 それが本当に相手を認めるということなのかもしれない。


「……なんでぼくがバカに説教されなきゃなんないんだ」


「るせぇ、誰がバカだ」


「はぁ? キミに決まってるでしょ。バカでアホで気合いだけで口が回らない童貞」


「だから童貞は関係ねえだろ!?」


「ちょっと目を離したらまた喧嘩かいあんたたちは! いい加減にしな!」


 ゴチン、と。
 美味しそうなおかずを持って現れたゴリガルに拳骨を落とされて……つい、笑ってしまう。
 加藤は嫌そうな顔をしながらも、どこか楽し気だ。


「ほれ、追加だ。喧嘩しないで食いな」


 呆れ声のゴリガルの出した山盛りの串焼き。それを一本ほおばりながらニッと笑う。


「取りあえず加藤、この肉どっちの方が多く食えるか勝負しようぜ」


「……いいよ、童貞に負けるつもりはないけど」


「だから童貞じゃねえ!」


「あんたたちは黙って食えないのかい!?」


 まずは腹ごしらえだ。
 腹ごしらえして、エネルギーを蓄えて。
 思いっきり助走をつけているんだ。きっと次は勝てるはず。


「ほははひ!」


「だからあんたは飲み込んでから喋りな! ツネキ!」


 ――今は、雌伏の時だ。

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