異世界なう―No freedom,not a human―

逢神天景@小説家になろう

53話 勇者と決闘なう

 ――勝算は、ある。
 呼心が言った言葉を胸に、前を向く。


(くっ……落ち着け、俺!)


 ドクン! ドクン! と、とんでもない心音が聞こえる。
 それもそうか、と天川は苦笑する。


(相手は、清田だもんな……)


 もともとは、そんなに強さを感じなかった。
 塔に入る前、アイツからは何も感じなかった。強いて言うなら「みんなと同じくらいだな」だった。
 それが――塔の中、それもあの魔族と出会った後からだ。
 あの時、アイツから感じた違和感。
 その違和感は、清田がその後試練の間で本気で戦いだしていくなかで、分かるようになっていく。
 それは、あの時戦った魔族と同じプレッシャーを纏っていたということだ。


(だが、だからと言って清田が魔族の一員であることは考えづらい)


 平気で魔族を殺していた清田だ。それに、異世界人でもある。そうそうそんなことはあるまい。
 ならば、清田の纏っているプレッシャーと、魔族のそれとが同じだった理由は何か。


(その理由は分からない。だがしかし……あの魔族が何かをして、清田の実力があがったのかもしれない)


 ならば、逆に言うなら、魔族に何か力を上げる秘密があるのかもしれない。だったら、先に魔王を倒しに行くべきだろう。
 その時に、間違いなく清田の秘密を知る必要がある。
 だからこそ、この戦いには負けられない。
 ……思考がそれた。
 そのことはさておき、ともかく清田にはそんなに強さを感じられていなかった。だが、あの試練の間での戦い。
 あんなの、人間技じゃない。アラクネマンティスを焼き尽くし、ウイングラビットを蹴散らし、ゴーレムドラゴンを爆散させる。
 正直、震えが止まらない。清田が本気になったら、この場にいる全員が燃やし尽くされるだろう。


(しかし、呼心が言ってくれた)


 勝てる、と。
 ちゃんと勝機はある、と。


(俺の修羅化で、ステータスをアップさせた後、殴りに行く、ということだが)


 呼心曰く、それだけで勝てるらしい。


『いい? 明綺羅君。相手の清田君は、ここでは大きな魔法が使えない。明綺羅君に通用するような大きな魔法を使うんだったら、規模も大きくなるだろうし、規模が小さい魔法だったら、明綺羅君が修羅化したときのステータスには通用しない。後は、殴り合うだけなんだけど――ここで、スキルを使えるようにしておいたことが効いてくる』


 スキルを使えるようにしておいた理由、その最大のポイント。
 清田は、武器が無いとすべてのスキルを封じられるが――


(俺は、一つだけ武器なしでも使えるスキルがある)


 あのゴーレムドラゴンを倒せる清田だ。そう簡単に死にやしまい。


「準備はいいのか? 清田」


「ん……まあ、いいよ」


「では、ルールの確認をするぞ。スキル、魔法の使用はあり。しかし、武器や鎧の類は使わない。殴り合いの、一対一の勝負だ」


「OK。そうそう、戦ってから再戦は無しだよ」


「もちろんだ」


「じゃあ、やろうか」


 天川は、拳を掲げてから、一瞬体に力を籠める。


「はああああああああ! 『修羅化』!」


 青いオーラが天川の周りに発生し、筋肉が少し膨張する。
 力がみなぎる、体の奥からあふれ出してくるようだ。
 しかし、このスキルを使うと、いつも心の中から、誰かの声が聞こえる気がする。
 ――殺せ。
 ――殺せ。
 ――殺せ。


(黙れ!)


 その声を黙らせ、清田を見据える。


「『炎鬼化』、ってね」


 轟! と清田の周りに風が渦巻き、清田の頭の上に謎の角が生える。
 そして、綺麗な……綺麗な、紫色のオーラのようなものが清田を巻く。


「行くぞ、清田!」


「さて、暑苦しいのは嫌いなんだけど。天川――俺の経験値になってくれよ?」


 清田が、塔で戦う時に何度か言っていたセリフを、ここでも言った。
 それはつまり、清田に敵として認定されたということだろう。
 寒気がする。しかし、それでも戦わねばならない。


「しかしおかしいな」


 すぐに殴りかかるような覚悟も決められず、清田に話しかける。


「何が? 天川」


「スキルは――普通、青いオーラが出るものだろう? なんで、お前のそのスキルは紫色だ?」


「単純な話、これが『職スキル』じゃなくて、『職魔法』ってだけだよ」


「……なるほどな」


 謎が解けたところで、天川は一度頭を下げて、ダッシュで清田のふところに飛び込む。


「ふぅん……」


 清田は素早くバックステップしてから、何か手で印のようなものを結ぶ。一瞬何か分からず様子見のために止まると、


「召喚獣、サラマンドラ」


 ボゥ! と清田の背後に、大きな……五メートルほどの炎で出来たドラゴンが現れる。西洋のドラゴンというよりも、東洋の龍と言うべきか。それが威圧感を放ちながら清田の周りで蜷局を巻いている。


「!?」


 驚く天川を他所に、清田は四度周りに指パッチンをした。
 何故そんなことを――? 天川がそう思う前に、清田はスッと右腕を上げる。


「さて、いこうかサラマンドラ」


 清田がこちらへ向かって右手を振ると、そのサラマンドラと言われたドラゴンは、大きな口を開けてこちらへ襲いかかってきた。


「くっ!」


 天川はそれを転がって躱し、接近戦は不利だと判断して一気に駆けだす。
 それを清田は冷ややかな目でこちらを見据えると、もう後ろからサラマンドラで攻撃してくる。速い。しかし、天川の走る速度がギリギリ速い。


「おおおおおおお!」


 拳の届く範囲まで近づき、清田に殴りかかる!


「っと!」


 それを清田には弾かれるが、天川は弾かれた手を起点に回し蹴りで清田の頭を狙う。


「なかなか、喧嘩慣れしてるね、天川」


「……俺も男だからな。喧嘩の一つや二つ、したこともある」


「――まあ、そうだよね」


 回し蹴りも受け止められ、そして腹に清田の蹴りが飛んでくる。その攻撃を両手でガードするが、それでも後方へずり下がらされてしまう。さすがに強い。


「くっ!」


 さらに顔面に飛んできた右こぶしは、頭突きで迎撃。
 ガッ! と鈍い音が響くが、清田の拳にもいくらかダメージを与えたようで、あの清田が顔をゆがめている。
 ここが好機――天川はそう感じて、思いっきり踏み込むと、左拳で殴りかかった。


「おお!」


「後ろ」


 一瞬、ほんの一瞬何かの力が働き、拳の動きが鈍る。
 その隙に、後ろからサラマンドラが襲いかかってきた。


「くっ! ――『光輝の力よ、勇者の明綺羅が命令する、この世の理に背き、我が目の前に光の壁を! ライトシールド!』」


 光の壁を目の前に生み出し、突っ込んでくるサラマンドラを受け止め、その一瞬のスキをついてその場から離脱する。


「はぁ、はぁ……」


「一体でもだいぶキツイかな」


「うるさい!」


「――そう?」


 さらにサラマンドラが、上空から襲いかかってくる。
 それを躱し、転がり、ジャンプし、時に魔法を使っていなす。
 しかし――ドラゴンというのは、炎だろうがクリスタルで出来ていようが、手ごわいものらしい。拳は怖いので蹴りを入れてみるが、天川の攻撃はそもそも通用しない。炎は、揺らめくだけで、物理攻撃は通用しないらしい。


(使うか――?)


 切り札を。
 しかし、すぐにその考えを振り払う。アレはあくまでも清田を倒すためのもの、前座のようなドラゴンに使っている場合ではない。
 だが鬱陶しい。
 遠くでサラマンドラを操っている清田の動きを見る。先ほどから、清田の腕の動きに合わせてサラマンドラは動いている。ならば、その腕の動きさえ見れば、サラマンドラの動きを先読みできるかもしれない。
 右、左、上から――
 サラマンドラの攻撃を躱し続け、そしてサラマンドラが天川の右手を食おうとしたところで、詠唱が完了する。


「『ライトレーザー』!」


 収束された光の筋が、一閃。
 サラマンドラの口腔を貫き、消滅させる。


「へぇ……」


 清田の少し感心した声。


「どうだ? 当てが外れたか」


「うん、だいぶ。正直今ので倒せると思ってた」


「――ほざけ!」


 地面を思いっきり踏みしめ、姿勢を低くし、レスリングのタックルのように駆け出し、清田の両足を狙う。
 清田は『天駆』と言っていたスキルを使い、空へ飛び上がる。
 が――


(これを、狙っていた!)


 天川は、タックルを変更し、ジャンプで清田に殴りかかる。


「おおおおおっっっっっ!!!!!」


 清田は二度上へ駆けあがり、空を踏みしめ天川の方へ落下速度も加えて殴りかかってくる。


(このタイミングだ――)


 清田は、空中戦が出来る。天川達異世界人の中でも、空中を自由に動けるやつは少ない。そして、天川は空中では動けない。
 それを知っている清田は、空中戦になった途端油断するはずだ。


(つまり、この一瞬だけは清田は攻撃だけに専念するはずだ!)


 天川は殴りかかるために引いていた右手をそのまま腰まで戻し、まるで剣を担ぐように左手と右手を合わせる。
 そう、剣道で言う八相の構えのように。
 清田が、一瞬眉を顰めるがもう遅い。


(俺の『エクスカリバー』は――剣に光の刃を纏わせるスキルじゃない。光の剣を生み出すスキルだッ!)


 これだけは、これだけは武器がなくとも発動できるスキル。
 清田が絶対に躱せないこのタイミング、このタイミングで発動する――天川の、必殺スキルを!!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 『エクスカリバー』!!!」


 轟! と力が天川の両手に集まり、収束していく。
 その形を成した『力』は、輝き、光の刃となって天川の両手に現れる。
 選ばれし者の剣、エクスカリバー。
 天川の勇者としての証。魂そのもの、呼心が褒めてくれた、天川の必殺技。
 清田の顔が驚きに歪む。しかしもう遅い。
 天川の『エクスカリバー』は、威力を上げるために収束させて撃つ方法と、威力を下げても刀身を伸ばし、射程範囲を長くして撃つ方法がある。
 今回、選んだのは、ギリギリまで刀身を伸ばすほう。これで、清田が空中で逃げようとしても補足できるはずだ。
 いける――


「なるほど」


 清田がそう呟いた瞬間、清田の姿が搔き消える。


「なっ!」


 今度は天川が驚きに目を見開く番だった。
 一度発動した『エクスカリバー』はもう取り消せない。虚しく空を斬った光の刃が消えていくのを呆然と見送るしかない。
 そして見送った先には――サラマンドラが、四体も。
 一体でも、倒すのに苦労したサラマンドラが、四体も。


「嘘……」


 冷えた感覚の中、呼心の声だけが聞こえてきた。
 天川は、落ちていく中、呆然と呟く。


「呼心が――呼心が、せっかく勝機を見つけ出してくれたのに……」


 その瞬間、清田は指を一つ鳴らし、サラマンドラに指示を出す。避ける術もないまま、炎の龍になぶられる。


「ガァァァァっァァァァァァっァァァぁああああぁぁあァァァ!!!」


 地面に叩きつけられ、バウンドし、その瞬間首根っこを掴まれた。
 朦朧とする意識の中、清田のつぶやきが耳に入る。


「だからムカつくんだよ、人に頼ろうとばっかりしやがってさ」


 どういうことだ――そう天川が言い返す前に、ガン! と衝撃が脳に響き、天川の意識は闇に落ちた。




~~~~~~~~~~~~~~




 後方へ吹き飛ぶ天川を見届けて、俺は作っていた炎の龍を消す。
 ……これを操るのも、結構骨だったね。
 魔法の同時発動は、今のところ十個。ただし、複雑に扱おうと思うと四つが限界。つまり、さっきみたいにサラマンドラ(笑)は四体が限界ってことになる。
 しかし、天川は詠唱が速かったね。やっぱり、まともにやりあってたらもっと厳しかったかもしれない。それこそ、神器があったら大怪獣バトルみたいになっていたかもね。
 俺は懐から活力煙を取り出し、口に咥える。指に火をともして活力煙につけた。
 勝利の一服だ。少しゆっくり吸おう。


「ふぅ~……」


 ああ美味い。


「京助!!」


 佐野がこちらへ駆け寄ってくる。


「大丈夫か、京助!」


「右手が少し。たぶんひびが入ってると思う」


 俺はアイテムボックスから回復薬を取り出し、バシャっとかける。これでそのうち治るだろう。
 右手を握ったり開いたりして、感触を確かめる。うん、大丈夫そうだね。


「さて、と……」


 俺は吹っ飛んだ天川を見る。どうやら、意識を失っているみたいだ。
 ……サラマンドラ、かなり本気でやったし、最後のとどめも、この強化状態の俺が本気で殴ったのに、意識を失うだけか。
 やっぱり、天川のステータスは異常だね。勇者なだけはある。


「じゃあ、約束通り、佐野はいただいていくよ」


「……本当に、ダメなの? 清田君」


 空美がこちらを向いてうるんだ瞳を向けてくる。けれど、そのうるんだ瞳は俺がこないことに対してじゃない。怪我をした天川に向けられている。その程度は、さすがに俺でも分かる。


「うん、ダメ。そして要求するって言っていたよね。今要求するよ」


「こっちのリーダーは明綺羅君だから。明綺羅君が目覚めてからにしてくれるとありがたいかな」


「そうやって時間を稼いで、今度は全員で襲いかかるつもり?」


 俺が若干吐き捨てるように言うと、空美も目に険を込めて言い返してきた。


「……あたしとしては、清田君にはさっさとどっかに行って欲しいけどね。そして、さっさと野垂れ死んでほしい。明綺羅君を英雄にするためにも」


「そして英雄の妻になるためにも?」


「あのね、あたしたちには後ろ盾がないといけない。そのためには、目に見える実績が必要なのよ。魔王を、覇王を倒したっていう実績が。そして、そのためには『異世界人』が魔王と覇王を倒すことが必要なの」


「ふうん……」


「だから、清田君がいたらだいぶ楽になるはずだった。だから、ここまで明綺羅君に協力してあげた。だけどね、ここまで強いとさすがに明綺羅君が喰われる」


「どうしても天川に英雄になって欲しいんだ」


「当然だと思うけど? 愛してる男なんだから」


 俺は苦笑しつつ、空美に向かって近づいていく。


「(京助、服をまず着てくれ。目のやり場に困る)」


 ……服を着てから、近づく。ついでに神器も出しておく。


「本音を言う人は嫌いじゃないよ」


「じゃああたしのこと愛して、英雄の妻にしてくれる?」


 口元にだけ笑みを浮かべる空美。それに対して俺も肩をすくめて答える。


「それは勘弁。俺はビッチに興味はない」


「ビッチじゃないつもりなんだけど、今は明綺羅君に夢中だし」


 今は、ね。


「――まあいいや。じゃあ要求」


 俺は指を一つ立て、空美に突き付ける。


「俺がもしも、これから先で異世界人を連れて行くことがあっても、黙って見ていろ」


「……伝えておくよ、明綺羅君に」


「そうしておいて」


 俺がそう言うと、パキィン……と結界が壊れる音がした。
 そして、


「ほらのぅ、キョースケが勝ったようぢゃぞ? 姉上よ」


「それは当然でしょぉ? ……けどまぁ、少し期待してたんだけどねぇ」


「というか、久しぶりの出番ぢゃから、もっと派手なことをやりたいのぅ。ほれ」


 キアラは右手を掲げると、ポゥッと辺りが光りだし、そして数瞬もしないうちに、全てが元通りになってしまった。
 ……化け物、なんてもんじゃないな。なんだこの異常で異様な光景は。


「ほっほっほ。さて、キョースケよ。もう出るのか?」


「やっぱりついてくるつもり?」


「何度聞くんぢゃ。というか、そもそも妾の渡した神器は、アマカワの持っているものとは比べ物にならんほどに厳重な保管が必要なものぢゃぞ。付いていかないわけがなかろう」


 そんなもん、持たせないで欲しいんだけど。癖が強いしさ。


(カッカッカ! ソウ言うナキョースケ! 最強の神器ダゼ!?)


(うるさいよ)


 頭に響くヨハネスの声を無視し、俺は神器を肩に担いで、佐野とキアラを連れて歩きだす。


「さて、行こうか」


「ああ」


「よいぞ」


 今夜は、また『享楽亭』で泊まり、そこで諸々の事情の説明かもね。
 無論、『享楽亭』は場所が知られているから勇者たちがまた来るかもしれないけど……その時は、遮音結界とその他もろもろの結界を張ってもらおう。ヨハネスの力を借りたら、もっと有効なものを作れるかもしれない。


「待て! 清田!」


 振り向くと、なんと天川がこちらを見上げていた。
 驚くとともに、その傍にいた空美とティアー王女を見る。へぇ、異世界チートはホントに厄介と思っていたけど、あの王女もなかなか厄介だね。


「清田……最後のセリフは、どういう、ことだ……?」


「明綺羅君! 無茶しちゃダメ!」


「アキラ様!」


 けれど、傷が治ろうと、疲労がとれようと、ダメージが抜けるものじゃないのか、天川はプルプルと震える腕で四つん這いになる。


「最後のセリフ? ……ああ。言葉通りの意味だよ」


 それだけ言って、背を向ける。
 今の天川は、端的に言って不愉快だ。




~~~~~~~~~~~~~~




「のぅ、キョースケ」


 ニヤニヤと、うすら寒い笑みを浮かべながら、キアラが俺の前に立って顔を覗き込んでくる。


「……何?」


「だいぶムキになっておったようぢゃが?」


 ニヤニヤとしたキアラの顔に腹が立ち、俺はフイッと顔を逸らす。


「別にムキになんかなってない。天川が突っかかってくるからだよ」


「そうかのう」


 ニヤニヤするキアラ。普通にムカつく。


「キョースケ、お主は天川の意見を最初から聞く気が無かったぢゃろう? 今回は、どちらかと言うとお主の方に歩み寄る意思が感じられなかったぞ」


「そんなことは無い。俺はちゃんと議論して――」


「それなのに、あの態度か?」


「……知らないよ。俺はいくつか歩み寄っていたはずでしょ? 俺はAGなんだから、もしも協力して欲しいなら雇えばいいし、違う方法だってあったはず。情に訴えることしかしてこないから俺は嫌だって言ったんだよ」


「雄弁は銀、沈黙は金、ぢゃぞキョースケ。別にごまかす必要もあるまい」


 すべてを見透かしたようなキアラの顔が、本当にムカつく。
 別に誤魔化してなんかない――そう言うのは簡単だけど、それを言うとさらにいろいろ言われそうだ。
 ホント、嫌になる。


「きょ、京助……そんなにむくれた顔をしなくても」


「そんな顔してない」


「いや、しかし……」


 キアラと違い、佐野は少しほほえましいような、困ったような顔をしている。なんなんだよ、一体。
 これ以上二人から詰め寄られるのも嫌なので、俺は観念することにした。


「……あー、そうだよ、天川が嫌いなんだよ、俺は。正直、話したくもない。一緒に過ごすなんてもってのほかだ。これでいい?」


「ほっほっほ。そう怒るでない、キョースケ。別にいいも悪いも無いぢゃろう。人に好き嫌いがあって当然ぢゃ」


「……京助、元の世界にいた頃から天川とあまりそりが合っていなかったからな」


「言ったでしょ? 俺たちの関係性は、元の世界から変わってないんだよ。それに、天川は他の人を守りたいとか言っているくせに、甘いし自分で強くなろうとしないし、そもそも人のことを頼るのはいいけど、交換条件も相手のこともすべて無視だ。どうすれば共感したりできるんだよ」


 俺が吐き捨てるように言うと、キアラは含み笑いで何か佐野に耳打ちしだした。
 そして、佐野も笑いだす。
 ……あんまり気分のいいものじゃないので、俺は二人に向かって声をかける。


「……何言ってるの?」


「何でもないぞ」


「あ、ああ。なんでもない」


「…………そう」


 俺は少し腑に落ちないまま、二人に背を向けた。



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