滝口君はもてあそぶ!

azamasu

本当の感情

「滝口君ってさ...ゴールデンウィーク暇?暇ならさ...い、一緒に映画見にいかない?」

「まあ暇っちゃ暇だけど...どうして俺と?」

「え!?...そ、それは~...駄目...かな?」

「フフッ...駄目じゃないよ。で、何見にいくんだ?」―――――――







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四月三十日。季節外れの寒さに縮こまりながら、私とミホちゃんは朝会話の録音を聞いていた。



「よーしストップ!ちょっとぎこちないけど誘えたじゃない!大きな進歩よこれは。」

「えへへ、いや~ふり絞りましたとも勇気!断られてたらそのまま死んでたかもしれないよ私。」



そう、私は見事滝口君との映画デートの約束を取り付けたのだ!見にいく映画は公開前から話題になっている大作ラブロマンス『ロムオとシュリエット』ロマンス映画で雰囲気をよくして後の流れを作ろうという作戦だ。



「ロムシュリは新作映画だし、俳優陣も豪華!滝口君の演技の勉強にもなるだろうしね。ちょうどいい時期にいい映画があってよかったわ~。」

「ホントだよ~。」

「デートの映画選択は大事だからね~。暗い中で一時間以上隣にいるわけだから感情移入のしやすい恋愛映画だと、無意識に自分たちと重ねていい雰囲気になるわよぉ~。」

「な、なるほど。」

さすがミホちゃんだ...ここまで考えているとは...。

「距離を縮めるというならホラー映画でもよかったんだけどね。生憎いいのが無くて。」

「ホラーの季節は夏だもんね。」



しゃべりながら時計を見る。もうそろそろホームルームの時間だ、急いでいかないと。



「ミホちゃんありがとう!後で何か奢るね。そろそろ時間だし出よっ。」

「ん、そうね。奢りはいつも通りケーキでいいわ、さて行きましょうか。」







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高校のクラス分けのパターンというものは色々あるらしい。まずは理系文系で別れるタイプ。割とスタンダードだし公立高校でもこういう分け方をするところは多いらしい、授業を専門的に特化した構成にしやすいのが長所だろうか。次に学力で分けるタイプ、これもよくあるパターンだ。学力で分けると学習の到達度が同じくらいの生徒を固めて効率の良い授業をすることができるし、前者の理系文系分けも併用するとより細かいところまでカバーできる。効率的でいい感じなのではないだろうか。

ではうちの高校はどうなんだというと、どちらにも当てはまらない完全ランダム型だ。なんでも生徒の可能性を狭めないようにし、自主性の発展を促すためだそうだが、正直ちゃんと分けるのがめんどくさいからランダムにしてる感はある。

そんな自主性を重んじるうちの高校だが、一風変わった授業がある。それが今から始まる『相互理解』の授業だ。



相互理解はある程度クラスの情勢が固まったゴールデンウィーク前に始まる。隣の席の人と机をくっつけて向かい合わせ、お互いに似顔絵を描いたり決められたテーマで話し合いをしたりする。この授業はあまり人気のある授業ではない。まあそりゃそうだ中学校みたいだし、第一隣の人と仲がいいとも限らないのにガッツリと深いところまで話したりするのはわりとつらいものがある。

だがしかし今学期は事情が違う。そう、隣の人が秋月さんだからだ。ここ一か月、登校中にずっと話していただけあって秋月さんとはかなり打ち解けた。ほとんどこっちが聞いてばかりだが、秋月さんは普通に話が面白いので全然苦にならない。無理に演技してオーバーリアクションをしなくても自然と大きめのリアクションが出てしまうのは、話し上手のなせる業だろう。



そんなわけで今日は初回の定番、お互いの似顔絵描きをやることになった。



「ふふふ...私は美術部だからね!似顔絵は得意だよ!」

「俺はたまに描くぐらいだからそんなに期待しないでくれよ。」

「お!でもたまには描くんだね、どう?美術部とか入ってみない?ゆる~い部活だよ~。」

「ん~保留で!」

「むぅ...前もそう言ったじゃん。」

秋月さんはふくれっ面をしながらも高速で描き上げてゆく。

「は、早いな...あとなんかアニメ調って感じだな。」

「美術部っていっても私はイラスト系だからね!人の顔を描くのはお手の物さ!それに...」



そういうと秋月さんはちょっと顔を赤くして目をそらした。多分それにに続く言葉は「滝口君の顔は普段から描いている」だろうか。本人はバレていないと思っているようだが、秋月さんがノートの端っこに俺の顔のパラパラ漫画を描いていることを俺は知っている。全ページ描けば想いが通じる的なおまじないかな?二次元のキャラクターに会うためにそのような儀式をする人がいるというのをどこかで聞いたことがあるが、それの兄弟みたいなもんだろうか。

そうこうしているうちに秋月さんは俺の似顔絵を描き終わった。



「じゃ~ん!出来ました~。どう?いい出来でしょ?」

確かによく描けているがちょっと美化され過ぎているような気もする。これが恋する乙女フィルターなんだろうか。

「おおすごいな!でも俺こんなイケメンじゃねーぞ。」

「いーのいーの私には...」

こんな風に見えているんだろうな



その後俺も何とか似顔絵を描き終えて秋月さんに見せると、わりとしっかりと絵の批評をされた。あっそういうところは恋する乙女フィルター通さないんだな。芸術に嘘はつけんというやつか。

それが終わるとこの授業の目玉、似顔絵心理学による相手をどう思っているかのプロファイリングタイムだ。いろんなパターンの書かれたプリントが前から配られてきた。どれどれじゃあまずは秋月さんの描いたのを見るか...ほうほう、アニメ・漫画調で描いていると、相手に対して隠したい思いがある...なるほど他のも当たっていそうだ。じゃあ俺のは......相手の歯を見せた笑顔を描いているとその人を好ましく思っている...



好ましく...か。心の奥の自分は...こう思っているんだろうか?



それとも秋月さんを好む自分を演じているだけなんだろうか?...好きって何なんだろう。...わからない

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