勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです
迷宮の侵攻 11
迷宮の部屋の一つ。
周囲を石壁がぐるりと囲んではいるが、内部は自然が豊かで川まである。
――そんな部屋の中央の更地の所にでかい竜が居座っている。
その周りを小さな赤竜の大群が旋回し、様子を伺っていた。
その数は数百を越えそうなほどだ。
そんな、主の前でフィアは短剣を手に立ち向かっていた。
「これが、ボスね。思った以上にデカいわね」
「ああ、だが、雑魚だ」
『これが雑魚って、相変わらずだな、ディア』
2人とゴーレムの眼前。
そこでは、剣を持った少年が赤竜と死闘を繰り広げていた。
拙く脆い攻撃を繰り出す少年に対して、赤竜はどっしりと構える。
『ギギュウウ――ガアアアアアアオオオオオオ』
赤竜の口からは真っ赤に染まった光が漏れ、光線のごとく少年へと解き放たれる。
だが、それを予想していたフィアは、跳躍し、赤竜の背後へと回り込んだ。
『ほお。凄い、身軽だな』
「でしょ? これでもバルが毎日鍛え上げているからね」
「ふん、まだまだだ」
後ろから聞こえる賞賛ににやけそうになるのを堪え、フィアは短剣を赤竜へと突くも分厚い肉が邪魔で通らない。
「硬い、でも、これなら! 【ファイマーボム】」
フィアの持つ短剣が瞬時に赤く燃えると同時に爆発する。
それを力にして、トオルたちの目の前と爆風と一緒に戻ってくる。
「【ヒール】 ――大丈夫?」
「……ありがとう……ござい、ます。ううっ」
ボロボロになったフィアにアンリが回復魔法をかける。
それでも、痛みは薄れないのか苦しそうにする。
『やっぱり、手伝おうか?』
「はあはあ――いえ、もう少しやらせて――ください! はああっ――!」
今度は横へと跳躍し、赤竜の翼へと短剣を貫く。
ただでさえ衰弱している今、羽たかられたら勝機はなくなる。
「【フィアーボム×5】」
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!』
赤竜の体は固い、だが羽の強度は体に比べ多少は低い。
だから、立て続けに爆破され赤竜が初めて咆哮を上げた。
「うえわあああああああああっ」
だが、それはフィアにも当然爆炎が襲いかかり、灼熱の地獄に呻く。
それでも、短剣を引き抜き。
「くらえええええええぇぇぇ‼ 【フィアー・ハリケーン】」
このままだとジリ貧になるのが目に見えたため、フィアは勝負に出ることにした。
【フィアーボム】の上位魔法【フィアーハリケーン】を赤竜のコアへとぶつける。
『GAAAAAAAAAAAAA――――GAON』
ひとしきり苦しんだ赤竜はついに地へと頭を伏せた。
瞼が静かに閉じ、赤竜はフィアに敗れたのだった。
★――★――――
赤竜たちのボスが倒れ込む。
あまりの巨体ゆえに地面が震え、遠くでフィアもその場に倒れ込んだ。
「引き分けってところかしら」
『いや、あれはフィアの勝ちだよ』
「ふん、敵の本陣で倒れるとはあまい――だがよくやったのである」
三人の目の前でついに死闘が終わり、静寂が占める。
だが、それはすぐに破られて空にいた小さな赤竜たちがかたき討ちとばかりにフィアへと襲いかかる。
「一閃」
だが、フィアには届かない。
空を駆ける斬撃により、瞬く間に多くの赤竜が地へと落ちてくる。
「【アクア・ヒール】」
落ちてくる赤竜から守る様に今度はアンリの魔法がフィアの体を包み、保護する。
『流石ですね、アンリ様、それにディアも』
「ええ、私も強くならないと守れないからね」
「吾輩も、もう過ちを繰り返すのは御免だ」
『GAGA』
一体の赤竜が軽く叫び、一目散に逃げていく。
一体が逃げると、後はどんどん消えていく。
『逃げましたね』
「そうね、でもこの迷宮最大の赤竜の死体は手に入れたわよ? これで呪いは大丈夫ね」
『ええ、これで少しは戦力がもとに戻れますよ。これで、アンリ様の力になれそうです。ですが、この先にいる配下の治療もお願いします』
「ええ、わかったわ」
★――
「【パーヒール】」
アンリの手から回復魔法が石へと放たれ、そして徐々に回復していく。
数十秒が経つころ、そこには完全に回復した、岩狼、岩兵がひれ伏すようにトオルへと膝を付き、首を垂れる。
「すみまぜん、アルジさま」
「ギュン……グルル」
岩兵と岩狼がトオルに対して、謝ってしまう。
何も主の力になれず、俯く配下に対してトオルはその剛腕を頭へと伸ばし、そっと丁寧になでた。
『いや、俺が悪い、すまない』
「アルジさま――」
「ギュユ」
今回は完全に自分のせいだ。
斧の挑発に乗って、無謀な勝負に出た。
これは、主として正しくない判断だ。
「愛されているのね。それで、この子たちが配下? でも岩で出来ているなんて――」
「これが、配下? これは、何だ? 見たことが無いのである」
「あ、あの時の――ごめん、ね……?」
岩兵がフィアに対して怒りの目を向けるも、俺が頭をなでるとすぐに俺の方へ眼を向ける。
怒ってくれるのは嬉しいが、フィアに対して危害を加えるわけにはいかない――実際は、危害を加える前 に簡単に捻りつぶされてしまいそうだが――。
「これで、回復はいいのかしら?」
『ああ』
そう訪ねてくるアンリ様。
本当は、違う。だけど、あいつらはこいつらとは違う。
コアなんてものは無く、いや潰されてしまったため、この三体だけしか蘇ることが出来なかった。
――ゴブリン、すまない。
こんなことを考え始めた俺は、たぶん人の心を無くしつつあるのかもしれない。
それでも、配下を失ったことが、俺の心をひどく苦しめる。
これ以上は、死なせたくない。
『――アンリ様、それに二人もありがとう、助かったよ。このお礼はいつか絶対に返します』
「どういたしまして、でも私はお礼なんていらないわよ? 好きでやったことだし」
「吾輩は頂く、貸を一つ減らすのだ」
「ぼ、僕も要りません。むしろ。トオルさんには詫びなければいけませんので……」
アンリは善意という名の愛を理由に、バルディアは過去のことを請求し、フィアは攻撃したことの詫びを入れる。
思ったよりも軽い反応に少々面食らってしまい、それは表情に出ていたのだろう。アンリが俺に対して投げかける。
「大丈夫よ。これから先、私たちもあなたの力を頼るから、そのときに返してちょうだい」
ゴーレムの表情を読み取るとは……
流石は、勇者だということだろうか?
いや、流石はアンリ様か……
『では、迷宮に戻ります。迷宮の場所は――』
アンリ様に迷宮の場所を伝えておく。
おそらく、以前訪れた老人勇者? が言っていたことを伝えると心当りがあるのか頷いた。
「その人なら、王宮の人ね、聞いてみることにしてみるわね」
「ふん、仕方ない、行ってやる」
「迷宮ですか、僕も行ってみたいです」
とりあえず、興味を示す三人。だが、今から王様に報告しに行かないといけないらしい。聞くと迷宮に来るのは一週間後くらい先になるとのことだ。
『じゃあ、戻ります』
来た時と同じエネ水へと飛び込む。
前にいたアンリとバルディアはいつも通りの表情を浮かべてはいたが、少し嬉しそうに見えてしまった。
殺された同僚が形はどうあれ、生きていたのだ。
だからだろう、そしてそんなに気に留められていたことが嬉しくもある。
★――★――
迷宮へと戻ると、ゴブリンたちが苦しそうに呻き、スライム王もなんだかみずみずしが薄れてきたような感じだ。
『今、治す――人知さん、いるか?』
【―ええ、もちろんいます。どうやら成功したようですね―】
『ああ、色々あったけど、まあ、なんとかなったよね?』
【―尋ねられてもわかりません。ですが、ゴブリン数体でなんとかなったのであれば、良いほうかと―】
やっぱり、追加補充したゴブリンたちが居なくなったことに気づいたらしい。まあ、そりゃあそうか。
『そうだな、それで赤竜の血を手に入れてきた。これをどうすればいい?』
【―前に言いました。飲ませるだけです―】
『ほんとに、それだけか?』
【―はい―】
とりあえず、手始めにスライム王に対して赤竜の血を垂らしてみる。すると、白透明な球体に血が飲みこまれ、そして。
「(アルジサマ?)」
『ああ、調子はどうだ?』
「(トウゴウしたタメ、ヘん、声ガオオイ?)」
全てのスライムを統合した結果、一つにはなったが人格は消えなかったようだ。それでも、スライム王は力強くバウンドし、元気アピールをしてくれた。
次はゴブリンキングの所へと向かう。
やっぱり、各上から治してかないと威厳がね――。
「あるじさま、でずか」
『ああ、調子はどうだ?』
先ほどと同じ言葉を投げかけると、ゴブリンキングは一通り体を動くことを確かめた後、「だいじょうぬです」という。
次に、ゴブリンたちの治療をしていく。その数は、殺されてしまったのもあり少ない。それでも、治療が終わるには結構時間をくってしまった。
「「「アルジサマ」」」
部下に囲まれてしまう。皆、元気になったようだ。これで、ひと段落ってところだろうか?
でも、こいつらは何に使おうかな、戦力は岩狼と岩兵士が十分すぎるほどに強いんだよな。もちろんフィアにすら勝てないけど、それでも、この迷宮内でスライム王の次くらいの強さはあるのだ。
――まあ、役割は追々考えておこう……。
★――★――
そういえば、岩狼と岩兵のステータスが変化していた。
殺されたとはいえ、相当な格上相手に善戦したためだろうか?
俺?
俺は何も変わっていなかった。
まあ、ボコられ、その後見学しただけだし当然といえば当然なのだが。
【岩狼】
・スキル《迷区の恩恵》.《岩石吸収A》.《復元B》
・攻撃値40防御値15魔力値0
【岩兵】
・スキル《迷区の恩恵》.《岩石吸収A》.《復元B》
・攻撃値15防御値50魔力値0
岩狼の攻撃が30から40、岩兵の防御がなんと30から50へと上がっていた。それに加えて、復元レベルもなぜかBに上がっていた。因みに、魔力値は変わっていない、まあ魔法を使えないし当然だ。
これはおそらくは経験値でも貰ったのだろう。
それくらい、頑張ってくれたのだ。
これは、もう少し岩を与えてレベルを上昇させるべきか。
【―ポイントも増えていますよ―】
と、人知さんが教えくれた。試しに見てみると本当にポイントが増えていた。
その数、2000ポイントだ。
前に比べたら少なく思えるが、今回俺たちは誰一人勝利していない――いや、一回だけ岩狼が赤竜を殺していたか、じゃあそれのポイントか。
まあ、相応に思えるな。
次は何を買おうかな。
魔法を使える配下とかかな。
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