勇者に殺された俺はどうやら迷宮の主になったようです
迷宮の侵攻 10 フィア視点
「それでバルディア様はなぜここにいるのですか? たしか帰ったはずじゃ……」
ゴーレムのトオル、バルディア、アンリの昔話と現在の情報交換がひと段落ついた頃、ようやく聞けるとばかりに僕は訪ねる。
すると、アンリが悪い笑みを浮かべて言う。
「ええ、確かにそうよ。でも、もしもの可能性もあったから。入り口に待機させておいたの。そして、それは正解だったようね」
待機?
それは誰かが入り口に戻ることを予期していたってことなのかな?
でも、いつ誰が戻るかなんて流石に予測がつかないと思うのだ。
「それって、誰かが来ることをわかっていたってことですか? でも、なんで……?」
「とある存在が教えてくれたのよ。この先で、人とモンスターがぶつかるかもしれないってね。最初はフィアのことかなと思ったけど、違うみたいだし、最悪の展開かもしれないから行かせたの」
「とある存在ですか? それで、バルディアさまが話に行ったのですか……?」
控えめに訪ねる僕に対して勇者さまが苦笑いし、この先の話が悪いことを物語っている。そして、バルディアさまも大剣を見つつ。
「そうだ、だが、流石の硬さであった。吾輩の剣をたやすく受け止められ、ボロボロになってしまった。それに、殺せなかった。すまん」
「それって、もしかしてのもしかして……」
最悪の展開だけは勘弁してくれと言わんばかりに、アンリとバルディアの二人を見比べるとアンリは言いづらそうにし黙ってしまった。
「ケンカ、したのですか、バルディアさまぁっ!」
「うむ、あいつが迷宮内での出来事を面白おかしく言い、二人を馬鹿にしたのであったのでな。……二度目はないと思い知らせてやろうと入り口で襲ってやった」
「それって、斧じゃないですよね? 斧の取り巻きですよね……?」
「? フィアは吾輩が取り巻きに勝てないと思うのか?」
「ということは」
「ああ、斧の勇者バンを殺しに行って、帰ってきた。結果は、引き分けであったが。それでも、トオルが受けた苦しみの少しは返せたのである」
勇者に対して引き分け。
それは実質勝利みたいなものだ。それに、あのバルディアさまがこんなになるまで戦ってきたことなんて、僕の記憶にはない。
だから、おそらくは全力で敵討ちをしてきたのだろう。
もしかしたら、腕の一本くらいは奪っているかもしれない……。
それくらい、トオルさんが殺されたときに怒っていたし。
「お、お疲れ様です、バルディアさま」
「ああ」
とりあえず、労いの言葉をかけるとバルディアさまは僕の頭をなでてくれる。
「それにしても、まさか俺のために斧の勇者に勝負を挑むって、流石の俺もビックリだよ」
「ふん、お前がいうことではない」
「そうね、トオルも同じようなことを二回もしたじゃない」
「まあ、確かに。でも、ありがとう、ディア。少しは、少しだけは気分が晴れたよ」
「――わたしは、まだまだかな。あいつの4足を奪うくらいはしないと――」
「すまぬ、一本が限界であった」
物騒なことをいい始める勇者さまに、当然のように返すバルディアさま。
――やっぱり、一本は取っていたようだ。
というか、勇者の一本をもぎ取るってやっぱりこの人すごい!
「だけど、あいつのとこのあいつがいるし、それじゃあ、そのうち回復するか」
「あいつ、ですか?」
トオルさんのあいつ発言が気になり訪ねるとアンリ様が苦い表情で答えてくれる。
「わたしの、姉よ。回復魔法に優れているの、だから一本なら数週間で元通りよ」
「うむ、斬り落としたはいいが、回収されてしまったからすぐに回復してしまうだろう。」
勇者さまに姉がいるんだ、でもなんか苦しそうに見える。
嫌い、なのかな。
「そういえば、バル。あなたもトオルに力を貸しなさいよ」
と、話題を変える勇者さま。
やっぱり、話したくない話題だったようだ。
「頼み事か、そういえばさっきそんなことを言っていたが……?」
『ああ、俺から話すよ。アンリ様の力で、俺の配下を救ってほしいんだ』
「配下を救うだと?」
少し不機嫌になるバルディアさま。
トオルさんはゴーレムだ。たしかに元は人間だが、今はゴーレム、怪物だ。
だから、きっと配下とはモンスターなのだろう。
大抵の人は、モンスターに対して恨みを抱えている、僕も友達を殺されたことがある。
だから、それを救うというのは、軽蔑に値することだ。
「そうか――断る」
だから、もちろんバルディアさまが断りを入れた。
すると、勇者さまが、苦笑いで追加する。
「ごめんなさい、バル。もう決まったことなの。さっき、コインに誓ったから」
「――わかったのである」
流石に王国のコインに誓ってしまうと破れないようだ。
いや、別に罰則などはないのだけど、やっぱり勇者さまがそこまでしたことが関係しているのかも。
『すまないな。でも、これもアンリ様の力に役立つことだ。だから、頼む』
「――ああ、吾輩も力を貸してやる。だが、これで貸しの一つを消させてもらうが……」
「ああ、それで構わない」
「わたしもいいわよ」
3人の間にはやっぱり過去に何かあったのだろう。
もちろん、バルディアさまの威圧で聞くことなんてできそうにないけど、それでもトオルさんからなら聞くことも出来るかもしれない。
今度聞いてみようっと。
「それで、何をしたいのですか?」
とりあえず、僕が代表して聞いてみる。
『ああ、ええとな。斧の勇者に壊された配下の回復。それと、この迷宮最大の赤竜の死体が欲しいんだ』
「赤竜の死体? それを何に使うのかしら?」
『赤竜の呪いに配下たちが当てられてしまいまして、その回復に必要なんです』
「そうなの? じゃあ、バル。行ってきなさい」
「わかったのである」
簡単に言ってしまう勇者さまと了承するバルディアさま。
確かに、バルディアさまであればこの迷宮に敵などいないだろう。
だけど、こんなにぼろぼろなのに大丈夫なのかな?
回復させてあげたほうが……
「バルディアさま、お怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、赤竜ごときならば、なんとかなるだろう」
『無理しなくてもいいぞ? やっぱり俺も行くよ』
「そうね、トオルが言うならそうしましょうか」
やっぱり、トオルさんに対して甘々なようだ。
あの時のセリフは、本当にそうなのだろう。
「あの、僕に任せてはもらえませんか?」
この迷宮のボスとはだいたい同じくらいの強さだと思う。
だから、ここは力試しが出来る場だ。
だから、聞いてみる。お願いしてみる。
「フィアが? 別に構わないわよ」
『助かるよ、ありがとう』
「修業は減らないぞ」
二人からは了承され、一人からは修行に関して言われた。
わかっているさ、この人はそういう人だ。
「ありがとうございます。では行ってきます!」
「? 何を言っているの? わたしたちも当然着いてくわよ」
「ああ、どれほどの強さか気になるのである」
『もちろん俺も行くよ。さすがに一人で行かせるのは心配だしな』
ふふっふ。
これは、いい機会かもしれない。
僕の力を見せつけることで、少しは勇者さまに頼ってもらえるかも――!
見直してもらえるかも――!
ゴーレムのトオル、バルディア、アンリの昔話と現在の情報交換がひと段落ついた頃、ようやく聞けるとばかりに僕は訪ねる。
すると、アンリが悪い笑みを浮かべて言う。
「ええ、確かにそうよ。でも、もしもの可能性もあったから。入り口に待機させておいたの。そして、それは正解だったようね」
待機?
それは誰かが入り口に戻ることを予期していたってことなのかな?
でも、いつ誰が戻るかなんて流石に予測がつかないと思うのだ。
「それって、誰かが来ることをわかっていたってことですか? でも、なんで……?」
「とある存在が教えてくれたのよ。この先で、人とモンスターがぶつかるかもしれないってね。最初はフィアのことかなと思ったけど、違うみたいだし、最悪の展開かもしれないから行かせたの」
「とある存在ですか? それで、バルディアさまが話に行ったのですか……?」
控えめに訪ねる僕に対して勇者さまが苦笑いし、この先の話が悪いことを物語っている。そして、バルディアさまも大剣を見つつ。
「そうだ、だが、流石の硬さであった。吾輩の剣をたやすく受け止められ、ボロボロになってしまった。それに、殺せなかった。すまん」
「それって、もしかしてのもしかして……」
最悪の展開だけは勘弁してくれと言わんばかりに、アンリとバルディアの二人を見比べるとアンリは言いづらそうにし黙ってしまった。
「ケンカ、したのですか、バルディアさまぁっ!」
「うむ、あいつが迷宮内での出来事を面白おかしく言い、二人を馬鹿にしたのであったのでな。……二度目はないと思い知らせてやろうと入り口で襲ってやった」
「それって、斧じゃないですよね? 斧の取り巻きですよね……?」
「? フィアは吾輩が取り巻きに勝てないと思うのか?」
「ということは」
「ああ、斧の勇者バンを殺しに行って、帰ってきた。結果は、引き分けであったが。それでも、トオルが受けた苦しみの少しは返せたのである」
勇者に対して引き分け。
それは実質勝利みたいなものだ。それに、あのバルディアさまがこんなになるまで戦ってきたことなんて、僕の記憶にはない。
だから、おそらくは全力で敵討ちをしてきたのだろう。
もしかしたら、腕の一本くらいは奪っているかもしれない……。
それくらい、トオルさんが殺されたときに怒っていたし。
「お、お疲れ様です、バルディアさま」
「ああ」
とりあえず、労いの言葉をかけるとバルディアさまは僕の頭をなでてくれる。
「それにしても、まさか俺のために斧の勇者に勝負を挑むって、流石の俺もビックリだよ」
「ふん、お前がいうことではない」
「そうね、トオルも同じようなことを二回もしたじゃない」
「まあ、確かに。でも、ありがとう、ディア。少しは、少しだけは気分が晴れたよ」
「――わたしは、まだまだかな。あいつの4足を奪うくらいはしないと――」
「すまぬ、一本が限界であった」
物騒なことをいい始める勇者さまに、当然のように返すバルディアさま。
――やっぱり、一本は取っていたようだ。
というか、勇者の一本をもぎ取るってやっぱりこの人すごい!
「だけど、あいつのとこのあいつがいるし、それじゃあ、そのうち回復するか」
「あいつ、ですか?」
トオルさんのあいつ発言が気になり訪ねるとアンリ様が苦い表情で答えてくれる。
「わたしの、姉よ。回復魔法に優れているの、だから一本なら数週間で元通りよ」
「うむ、斬り落としたはいいが、回収されてしまったからすぐに回復してしまうだろう。」
勇者さまに姉がいるんだ、でもなんか苦しそうに見える。
嫌い、なのかな。
「そういえば、バル。あなたもトオルに力を貸しなさいよ」
と、話題を変える勇者さま。
やっぱり、話したくない話題だったようだ。
「頼み事か、そういえばさっきそんなことを言っていたが……?」
『ああ、俺から話すよ。アンリ様の力で、俺の配下を救ってほしいんだ』
「配下を救うだと?」
少し不機嫌になるバルディアさま。
トオルさんはゴーレムだ。たしかに元は人間だが、今はゴーレム、怪物だ。
だから、きっと配下とはモンスターなのだろう。
大抵の人は、モンスターに対して恨みを抱えている、僕も友達を殺されたことがある。
だから、それを救うというのは、軽蔑に値することだ。
「そうか――断る」
だから、もちろんバルディアさまが断りを入れた。
すると、勇者さまが、苦笑いで追加する。
「ごめんなさい、バル。もう決まったことなの。さっき、コインに誓ったから」
「――わかったのである」
流石に王国のコインに誓ってしまうと破れないようだ。
いや、別に罰則などはないのだけど、やっぱり勇者さまがそこまでしたことが関係しているのかも。
『すまないな。でも、これもアンリ様の力に役立つことだ。だから、頼む』
「――ああ、吾輩も力を貸してやる。だが、これで貸しの一つを消させてもらうが……」
「ああ、それで構わない」
「わたしもいいわよ」
3人の間にはやっぱり過去に何かあったのだろう。
もちろん、バルディアさまの威圧で聞くことなんてできそうにないけど、それでもトオルさんからなら聞くことも出来るかもしれない。
今度聞いてみようっと。
「それで、何をしたいのですか?」
とりあえず、僕が代表して聞いてみる。
『ああ、ええとな。斧の勇者に壊された配下の回復。それと、この迷宮最大の赤竜の死体が欲しいんだ』
「赤竜の死体? それを何に使うのかしら?」
『赤竜の呪いに配下たちが当てられてしまいまして、その回復に必要なんです』
「そうなの? じゃあ、バル。行ってきなさい」
「わかったのである」
簡単に言ってしまう勇者さまと了承するバルディアさま。
確かに、バルディアさまであればこの迷宮に敵などいないだろう。
だけど、こんなにぼろぼろなのに大丈夫なのかな?
回復させてあげたほうが……
「バルディアさま、お怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、赤竜ごときならば、なんとかなるだろう」
『無理しなくてもいいぞ? やっぱり俺も行くよ』
「そうね、トオルが言うならそうしましょうか」
やっぱり、トオルさんに対して甘々なようだ。
あの時のセリフは、本当にそうなのだろう。
「あの、僕に任せてはもらえませんか?」
この迷宮のボスとはだいたい同じくらいの強さだと思う。
だから、ここは力試しが出来る場だ。
だから、聞いてみる。お願いしてみる。
「フィアが? 別に構わないわよ」
『助かるよ、ありがとう』
「修業は減らないぞ」
二人からは了承され、一人からは修行に関して言われた。
わかっているさ、この人はそういう人だ。
「ありがとうございます。では行ってきます!」
「? 何を言っているの? わたしたちも当然着いてくわよ」
「ああ、どれほどの強さか気になるのである」
『もちろん俺も行くよ。さすがに一人で行かせるのは心配だしな』
ふふっふ。
これは、いい機会かもしれない。
僕の力を見せつけることで、少しは勇者さまに頼ってもらえるかも――!
見直してもらえるかも――!
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