神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第45話 銃術と親友



 飛行艇内部の一番広い寝室。
 そこに俺とギールは居た。寝室を包み込むかのように周りを薄い緑色の防御結界魔法で覆い、そしてギールの手には拳銃が握られていた。


「本当は全力全開の僕の力を見せてあげたいが、そうするとリーナが怒るから今日は銃術の初歩の初歩を教えてあげるよ」


 昨日の夜のお詫びとして、俺は拳銃の使い方をご教授してもらうためギールの寝室へと訪れていた。
 寝室のベッドに腰かけると、ギールは手元の拳銃を俺へと見せるが銃全体に光がまとわりつている。


「あの、さっきから光っているのは?」
「これかい? これは魔力を拳銃に流し込んでいるだけだよ? 君には出来ないのかな?」
「いえ、前にルシアと協力してやったことならありますが――」


 一回目は、神獣を殺すのに。
 二回目は、黒竜を殺すのに。
 銃に魔力を流し込んだことならあるが、あの時は光ることは無かった。
 光ったといえば、ヒートから受け取った契約時のみだ。
 けれど、魔力を流し込むということならばいいだろう。


「そうか、ならばその時の感じは覚えているかな。その感覚が重要なのさ」
「ええと、なんだか気持ち悪いような感覚に、でもあれは魔力経路がおかしいって風神カリアに言われたし――ルシアに感覚を奪われるってことならなんとなくわかる気がします」


 そう言うとギールは大きくうなずいた。
 そして――


「うん、どうやらわかってないみたいだね。精霊を通して銃に魔力を通すのは根本的に違うのさ。つまるところ、それは銃術の基本をすっ飛ばして応用術まで行ってしまったってところかな」
「応用術ですか……?」
「ああ、君が誰にその技を教えてもらったかは知らないが、それは銃術を極めたものが学ぶものだ。本来、君がやろうと思ってできるものではないのさ」
「ですが、二回ではありますが出来たのですが……?」
「精霊の力を借りているのは出来たとは言えないさ。それは銃術を根本から無視して、精霊の恩恵によるものだ。それを力とは言わない。力とは、個人、人ひとりで賄うものだ――そう、僕は思っている」


 確かに、俺個人の能力は高いとは思ってはいない。
 だが、ルシアと俺で一つだ。
 どうにも、ギールの言うことでは一人の戦い方の指南をしているような――
 ルシアの力を借りれば、銃に魔法を流すことも簡単に出来るのに、今更一人でそんなことをする必要はない気がする。
 ただ、ルシアに任せるだけでいいのに……


「あの師匠、俺はルシアと一緒に戦っています。だからルシアを通してではありますが、拳銃に魔法を流して撃つことができます。」
「うん、つまり何かな? はっきりと言いなよ」
「はい、ルシアと戦う俺にとっては銃術を学ぶ必要はない気がします」


 これが、魔法よりも優れたものであればいいが、話を聞く限りこれは精霊と契約を結んでない人専用な気がしてならない。
 ルシアと契約した俺にとっては不要にも思えてしまう。


「――つまりは、銃術は精霊魔法よりも劣る。そういうことかな?」


 ギールの声は少し怒気が混じっていた。それでも咎めるというよりも面白そうに笑った。
 それもそのはずか、マレイアからお茶会で聞いた話によると、ギールは精霊とは契約を結んでいないらしい。
 それなのに、一人で隊長の座まで上り詰めた天才であるギールからしてみれば銃術とは精霊を使わない攻撃技であり、誇りでもあるのかもしれないと、そんなことを言っていた気がする。


「劣るとは思っていません」


 雷鳥電王を撃ち落としたあの弾はすごかった。あれを精霊の力を借りずにやってのけたのはすごいのかもしれない。


「ただ、俺には必要ない、そう思っただけです」
「そうか、まあそう言うのもわからなくもないさ。ただ、一人になったらどうする? 精霊と離れ離れになったら? 精霊が殺されたら、君は無力だよ。それでは助けることさえ、前を向いて再出発することさえ出来ない。確かに、精霊と契約を結んだ者には不必要かもしれない。だが、覚えておいて損をすることはないと、そう僕は思うがね」


 精霊との別れ。
 そんなことは考えたことなどなかった。
 なんせ、精霊たちに寿命という概念はない。


 ただ、外的要因による死であれば話は別だ。
 神獣に喰われたら死ぬ、死んでしまう。


「わかりました。師匠、俺の考えが間違っていました。ルシアの力を借りることばかり考えて楽な方に逃げようとしていました――だけど、俺はルシアを守りたい。ルシアの仲間たちも守りたい。だから教えてください。お願いします、俺に銃術を教えてください」
「ああ、いいよ。じゃあ始めようか、銃術の初歩の初歩をね」




☆――☆――――




 飛行艇内部のとある一室。
 そこでは、マレイア、ルシア、リーナの三人による秘密会議が行われていた。


「そうですが、詐欺に会いましたか。どんな方であったか覚えてはいますか?」
『えっと、黒帽子にマスクをしていたので、顔はわからないです。でも、魔力の質は覚えているから会えばすぐに見つけられるよ』
「魔力の質ですか?」


 対面するようにリーナとルシアがここに来てしまった原因である詐欺師について話していた。因みにマレイアはテーブルに置かれたお菓子を食べるのに必死だ。そんなマレイアをルシアが羨ましそうな目で見てはいるが、話しが先だ。


『人はですね、なんだか体を包み込む魔力が微妙に違っているんです。例えば、ギールさんは赤っぽい色ですし、リーナさんとマレイアは青っぽいですし』
「なるほど、精霊にだけ見える色ですか、便利ですねえ」
「はぁむ、あむ――バルはどうなのだ?」
『バルはまっさらかな。白い光が見えるよ?』
「白ですか、人によって違うものなのですね。とりあえず、詐欺師については情報を求めておきます」
『ありがとうございます』
「――話は終わりなのだ、食べるのだ!」


 と、話がひと段落尽きマレイアがお菓子の皿をルシアへと押し付ける。
 食い意地が自分と同じくらいあるマレイアの行動に目が白黒となるルシアに――


「昨日のお返しなのだ! 食べるのだ!」


 と、当然のように返すマレイア。
 恩義は返す、そんな当然なことではあるが、ルシアは思ったのだった。


『(友達どころか、親友になれるかも、なりたいなあ。うん、親友だよね。お菓子をあげて返されたから親友だね)』


 と、大食い仲間から親友になったのであった。



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