神獣殺しの精霊使い
第26話 砂漠は暑い
視界に飛び込むのは、砂のみ。
時々、太陽の光に反射し砂が輝きを放っていた。
遥か遠くまで、サラサラな砂が足元を埋め尽くし、周りを見ても2人以外には歩く人は誰も居ない。
草木が枯れ、生物が住めない環境、水が最上級の価値になる場。
砂漠と呼ばれるところに2人はいた。
「ルシア、水をくれ……」
限界まで歩き続けたせいで、喉が渇き、足は震えている。
隣を歩くルシアといえば、そこはやはり精霊だからなのか汗一つかかずに元気よく着いてくる。
ルシアは、鞄から金属製のコップを取り出すと、そこに力を込める。
すると、コップの中に青く輝く魔力で溢れ、そして水へと変化した。
『はい、どうぞ』
「ありがと」
ルシアからコップを受けとり、半分ほど飲み、後は頭からかぶった。暑さは常夏のそれを越え、視界がぼやけ始めていたが、少し落ち着いた。
カロン砂漠。
昼間は40度を越え、夜は一けたまで変化する世界一温度差が大きい地。住む生物は、サボテンに似た植物、全身に鱗を巻き付けたトカゲの種など様々だ。
「残りの魔力はどれくらい使える?」
『そうですねぇ、コップ15杯が限界といったとこでしょうか……魔力は少しずつ回復しているので、水分不足で死ぬことはないとは思いますが……食料がとれないのが痛いですね』
「そうなんだよなあ、一日以上歩いても、サボテン種やトカゲ種みたいな食べられないものばかりで、大型種は見つけられないしなあ」
砂漠にはラクダがいる、と思っていたのに残念ながら出会わない。それに、町を見つけることもオアシスを発見することも出来ずにいた。
バイトで稼いだお金はいくらかあるものの、交渉する相手もいないんじゃあただの役に立たない金属に過ぎない。
このままじゃあ、飢え死にしそうだ。
「ルシア、空に飛んで遠くに何かないか調べてくれないか?」
『わかりました、少し魔力をくれませんか?』
「うん」
ルシアに魔力をいくらか流し込む。
すると、ルシアの右手が薄らと輝きはじめ、少しずつ宙に浮いていく。そして、とうとう遥か遠くまで上昇した。
ルシアは、首を振り360度見回すと、ゆっくりと降りてくる。
「どうだった?」
『ダメです……遥か遠くまで見ても、砂漠が広がるだけでした。それに、砂が舞い上がり、視界を妨げていました』
「それって、遠く? 俺たちに被害が及ぶか?」
『どうですかねぇ、どの方向にも進んでいないし、その場にとどまっているだけなので危険性はかなり低いとは思いますけど、でも、ここはカロン砂漠、未知の領域ですから、注意だけはしておいた方がいいかもしれません』
やはり、この砂漠は少々どころか、かなり厄介な地だな。
ラルトルス国をめざしていた俺たちは気が付くと砂漠で倒れていた。
正直なところ、意味がわからない。確かに、自然豊かな道を歩いていたはずなのに、気がつくと、そこは砂漠だったのだ。
「ルシアも記憶ないのか?」
『はい、確かに道を二人で歩いていたはずなのですが』
やはり、ないか。
それに、このやり取りも何回もしているような気がする。
もしかしたら、こんな暑さの中、話題を考えるのを拒んでいるのかもしれない。
……それにしても不思議だ。
暇つぶしに右手を電話の受話器のように真似て、耳にあててみる。
なんとなく、地球の頃を思いだした。
あの頃は携帯電話があったからどこに行っても道に迷うことがなかったな、今思えば凄い技術だよ。
それに加え、この世界は……。
「もしもし?」
『何を馬鹿なことをしているのですか?』
気が付くと俺は仮想電話に向かって話しかけていた。それを不思議そうにルシアは見ている。なんだか、自分でもよくわからないことをしているとは思う。
これが、砂漠の暑さによる被害か。
よくよく考えれば、こんな住みづらい地に住む人たちがいるって、昔なにかの番組で見たな。彼らは、毎日水不足や熱中症で倒れて大変だとか。
当時は理解できなかったけど、砂漠に住むということは、こんな感じなのだろうか。
「いや、とくに意味はないよ」
「そうですか、てっきり頭が壊れたのかと思いましたよ」
なんだかいつもより毒舌さが増している気がする。
それになんだかとげとげしい。
もしかして、
「ルシア?」
『なんです?』
「ひょっとして、喉が渇いている?」
『……』
やはりか。
さっきから汗一つかかないから精霊は水を飲まなくても生きていけるとか思っていたけど勘違いだったか。
まあ、そりゃあ当たり前か。
「俺に遠慮せず水を飲んでいいから」
『……ありがとうございます』
そう言うと、いきなりルシアの全身を白光が包み込みはじめる。そして、とうとう全身に回る。
『【ウォーターフロー】』
「!?」
ルシアが何か言ったかと思えばいきなり、ルシアの全身が水で包まれた。そして。少しずつ消えていく。
「……それは?」
『精霊だけが使える魔法ですよ? 精霊はこうして全身に水を供給するのです』
「な、なるほど」
これが精霊流の水分補給なのか、斬新すぎるぜ。
それから俺たちはしばらく歩き続ける。
行く手には砂漠のみが広がっていた。
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