神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第7話 ユグドラシル 

 「ほらな、言ったとおりだったろ?」
 「ええ、そうみたいですね」




 俺はヒートたちが住む町の入り口にいた。
 森を抜ける間、運が良かったのか神獣に会うこともなく俺たちは無傷で始まりの町に来ることが出来た。
 ヒートの話ではここはリタリアという名の町らしい。
 住民は100人程でありその大半が老人の為、働き手となるのは20人も居ないらしい。
 だが、この町には冒険者や商人、フリーターが住んでいる為、その人たちも含めたら600人はゆうに超えるらしい。
 なぜ、こんなに人が集まっているかと言うと、この町には、名産品や観光地は無く一見地味にも思えるが、二人が言うにはこの町の中央広場には、ユグドラシルという大きな木があるんだとか。
 ユグドラシルは1億年を軽く生きているため他の木の100倍もの大きさがあるらしい。
 この世界の木の高さはだいだいでかくても3から4m位だから、ユグドラシルは最低でも300mはあるということになるのだろうか?




 ヒートが言うには、世界に繁栄を授ける神の木とも呼ばれる大きな木、ユグドラシルは特殊な防壁を町の外壁に張り巡らしたと伝承では言われており。
 この防壁は過去数千もの間、町に被害をもたらす者の侵入を防ぎ続けてきて。
 それゆえ、リタリアは力を持たない人の休憩地とされるようになり、低レベルの戦士が鍛えるための足ががりとして活躍しているんだとか。
 そのためか、住民は少ないものの旅人は多く600人近くの人が住んでいるそうだ。


 




 俺は2人と一緒に門番の所に行く。
 まあ、正直な話門番はユグドラシルが居るため不要では無いかと個人的に俺は思うのだが彼らは王国騎士団と言う超強い戦士の集まりの所からの使者でもあるため住民も旅人も無下には扱えないそうだ。
 移動中にヒートに教えてもらった話だがゲームの世界では王国騎士団は存在していなかったため新鮮だった。




「「止まれ貴様ら」」


 門番の前に行くなり二人の門番は手に持つ剣を俺たちに向け睨み付けてきた。
 ふむ。これが門番か。
 ……ヒートは最強の騎士団から来ている使者と言っていたが俺の目には二人とも強くは見えない。
 まあ、ユグドラシルがあるから攻撃の心配もないし王国騎士団の下っ端なのかもしれないが。


「通行証か住民カードをそこの石に置け」
「はいよ」


 門番が指さす方向には直径1m程度の丸い石があった。
 石の真ん中には四角い穴が開いており、微かだが光を放っている。


 ヒートとリアは門番の言うとおりにカードを窪みに置いた。
 すると、石の輝きが強くなりそして金色に光消えた。


「ふん、住民か。まあいいだろう。それじゃあ次は貴様だ」


 門番は俺を睨み付けながら石に置くように促す。


「わかった」


 俺は先ほどヒートから貸してもらった商人専用の通行証を同じように窪みに置く。
 するとヒートと同じように光り始め銀色に大きく光り、そして消えた。


「ちっ、商人か。通れ!」


 門番は機嫌悪そうに門の入り口を指さした。
 直後、門は人が一人通れる程度まで開いた。


 ヒートが町の中にどうどうと入っていく。
 それをみた門番は悔しそうに後に残った俺をさっきよりも鋭く睨んでくる。
 ふむ。理由はわからんが門番は俺たちの事が嫌いみたいだ。
 それなら俺も同じことをするか。


 「「くっ、貴様あああ」」


 俺は門をくぐる直前に門番たちの方を向き親指を下にする。
 どうやら、意味が通じたようだ。
 門番たちは顔を真っ赤にし、剣を強く握りしめ、足を浮かせこちらに歩いて来ようとする。
 だが、なぜなのか一歩も動かない。
 いや、違うな。
 これは動かないんじゃあない、動けないんだ。
 理由はわからんが、俺はあざ笑うように門を潜り抜けた。


「ずいぶん遅かったな?」
「どうしたの?」


 門を潜り抜けた先には2人が腕を組んで待っていた。
 俺は笑いながら2人に今の事を話す。




「ふーむ、なるほど納得だ。だから遅かったのか」
「ええ、あまりに態度が悪すぎたので……」
「まあ、あいつらはこの町に居る全ての住民と商人、旅人を憎んでいるからな」
「え?あれって他の奴らにもしてるんですか?」
「ああ、そうだが?」
「そうだよ?」


 2人は何を言ってるんだという顔で俺の方を向いてくる。
 あれ、俺なんか間違ったこと言ったか?


「かれこれ10年くらい、門番たちはずっとあんな感じだぞ?」
「えーと、そうなんですか?」
「うん」


 10年もあいつらはこの町の門番をしているのか。
 そりゃあ慣れるよな。


「まあ、その気持ちもわからくはないぜ。最初は俺も同じように思ったからな。だけど10年も会い続けて見ろ?相手にするのが馬鹿馬鹿しくなるぞ?」
「た、確かに10年も会えばそうなりますね」
「だろ?だからあいつらは無視すればいいのさ。通行証か住民カードさえあればあいつらは文句を言いつつ通してはくれるからな」


 ふむ。あの門番たちは俺たちを嫌いなようではあるが通行証さえあれば通してはくれるのか。まあ、嫌いだから通さないなんてして万が一、王国騎士団のリーダー的な人にばれたら門番たちも流石に困るということか。




 「……それでこれからどうするつもりなんだ?」
 「どう…とは?」
 「住む場所の事だ、お前記憶ないんだろ?じゃあどこに泊まるんだ?」
 「そうですね、ひとまず今日は野宿して明日から近くのモンスターを刈ってお金を得ようと思います」


 うん、ここまで送って貰ったのだこれ以上は迷惑を掛けれない。
 それに明日以降はモンスターを殺して売れば宿代くらいにはなるだろう。


「でもお金はあるのか?」
「お金は無いですけどナイフはありますしなんとかなるかと思います」


 うん、確かこの近くには弱いくせに人に勝負を挑んでくるモンスターが居たはずだしそいつを売ればなんとかなるだろう。
 実査、ゲームの世界ではそうだったし。


「そうか、でもうーむ」
「どうしました?」
「いや、ナイフ以外には武器は無いのか?」
「えっ?……はいそうですけど、でもナイフの切れ味はいいし大丈夫でしょう?」
「はあっ。そうかそうか、この世界の記憶を全て失ったんだったか……」


 ヒートは言いづらそうに俺を見てくる。
 ……?
 あれ、なんか俺変なこと言ったか?


 戸惑う俺にヒートはため息をつきながらあきれながら言う。


「一応言うが、ナイフではモンスターは殺せないぞ?」
「えっ?なんで?」


 ナイフでは殺せない?
 いや、でも魚をさばくとき簡単にできたのだが?


「いや、お前さん武器と道具の違いは分かるか?」
「いえ、多分わからいです」
「そうか……じゃあナイフを触れてみてくれ」
「は、はい?」


 俺はヒートの言う通りにナイフをタッチ情報を見る。


「じゃあ、上の方に青い丸が無いか?」
「えっ?ああこれですね。これがどうかしましたか?」
「えーとだな、青い丸がついていたらモンスターには攻撃が効かないんだ。モンスターに攻撃を与えるには赤い丸がついていないと無理だ」
「攻撃が効かない?」
「ああ、ナイフは調理用ではあるが戦うようではない。つまりだな……」
「つまり?」


 ヒートは言いづらそうにしながらもゆっくりと言う。


「お前の持つナイフじゃあ……モンスターは倒せない」


 そこで俺の考えは木端微塵に吹き飛んだ。
 どうやら俺のナイフではモンスターは倒せないらしい。
 つまり、俺は無力だ……。




 それから数時間後呆ける俺に2人ははうちに来るかと声を掛けてくれ、まだまだ迷惑をかけることとなった。







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