神獣殺しの精霊使い

ミナト日記

第1話 目覚めの日 

「あれ? ここは……どこなんだ?」


 映画館で映画を見ていた筈なのに目を覚ますと、そこは所謂ファンタジーの世界だった。
 目の前には広大な森が広がっており、空を見上げると見たこともない巨大な生物が自由気ままに飛んでいる。
 右手には木でできた剣らしきものがあり、足元には皮で出来たリュックが置いてあった。
 リュックを開けてみると中には、木で出来た弁当箱と弓と矢と丸い鏡が入っていた。
 俺は鏡で自分の顔を見てみる。
 すると、そこには20過ぎの根暗なデブの顔ではなく、10歳程度の子供の顔が写っていた。
 日本人系の顔ではない、どちらかというと、西洋系の顔だ。髪の毛は綺麗な金髪であり、目は純粋でとても可愛らしい。
 以前の俺とは似ても似つかない顔だ。


 これが俺?


 以前の俺の顔は不細工でよく周りから馬鹿にされたものだが、鏡に映る顔はどちらかといえばかっこいいほうの顔だった。
 鏡で全身を見てみるが、痩せておりながらも、程よく筋肉がついており健康的な体で体力がありそうだ。


 いったい、なにが起きたんだ?


 映画を見ている最中に気を失い気が付いたら、子供の姿になっていた。その子供は俺とは似ても似つかない美少年だった。
 正直に言おう。


「神様、ありがとう!」


 これだよ、これ。
 こんな展開を俺はずっと望んでいたんだ。
 現実逃避でよく創造はしていたが、まさか本当に起こるとは思ってもなかった。
 これで俺にも彼女が出来るはずだ。
 多分だけど……。




 まあ、それよりも、ここはどこか知るのが先だな。これが夢では無いとするならば、俺は小説でいうところの転生をしたということだろうか?
 まあ、以前から転生したいなと思っていたから別に驚きはしないし、前の世界に未練なんてないからいいけど、この場所がどこかとか、どんな世界観なのかとかがわからないと困るな。
 それに、この世界での俺の立ち位置が気になるな。この世界の住民の体を奪ってしまったのか、それとも一からこの体の存在を作り上げたのか。
 それによって、俺の行動にも違いが出てくる。
 前者なら、知らない子供の演技をする必要があるし、後者なら一人で生きていかないとダメだしな。
 まあ、後者の方が楽っていえば楽か。


 とにかくだ、ひとまずはこの世界の住人と会って話を聞いてみるか。もしかしたらこの世界は前の世界と同じで、ただ違う人になっただけという可能性も捨てきれんしな。
 ひとまずはここから移動するしかないか、荷物は何も持ってこれなかったから携帯や飲み物、お菓子はないけど、なんとかなるだろう。


 さて、0から始めるとするか。




★ ★ ★




 俺は早速リュックと木剣を持ち、適当な方向に向かって歩いていく。
 周りは森に囲まれており、空を見上げると見たことも無い艶やかな鳥たちや巨大な龍みたいなのが飛んでいた。
 そして木々の隙間からは太陽らしき明かりが届いていた。


 木々を見ると、上の方に食べれそうな、リンゴみたいなものが成っていたが、残念ながら今の俺の身長ではジャンプしても届きそうにない。それに木登りも出来そうにない。
 まあ、以前の肉体でもおそらくは取れないから大人だったらとか考えても無駄か。
 ひとまずは水が欲しいな。生きる上で、食料は数日は食べなくともなんとかなるが、水はそうはいかないしな。
 因みに弁当箱だと思った木の箱は弁当箱ではなくただの葉っぱ入れだった。
 葉っぱは緑色で手のひら程の大きさだ。試しに食べてみたが、とても苦く食用ではないみたいだった。おそらくは治療用か、料理用だろう。
 だから、今現在食べるものが何もないという危機的な状態だ。
 折角、異世界に転生したのに餓死したらそれこそ、もったいない。
 以前の俺にはならないようにできるはずだ。なぜなら10歳位の年齢みたいだし。まあ中身は25歳だけど。


 まあ、気長に歩き続けるか。










 しばらく歩き続け、日が暮れそうなになったときようやく俺はその音を見つけた。
 ポチャンやザーと言った音である。
 つまりは川や滝などの水の音である。


 俺は音の聞こえる方に向かって歩いていく。
 草木に覆われた道をかき分けながら進んでいくとだんだん音が大きくなっていく。どうやら近づいているようだ。
 これで飲み水の心配はないな。
 それに、もしも、この近くに村や町があれば川沿いに下っていけば見つけることが出来るはずだ。古くから川の近くに町や国を作るのが常識というか、必須条件だし。
 あと、川なら魚とかが居るはだし、尖らせた木の棒とか使えば狩りも出来なくはないだろう。


 音が聞こえてから10分が過ぎただろうか?
 どんどん、水の音が大きくなり、とうとう大きく聞こえる場所に着いた。
 さっきの音は滝の音だったようで川幅が5m程度の川と滝がそこにはあった。


 水は綺麗に透き通っており、底には魚が泳いでいた。
 これなら釣りをすることもできそうだし、そのまま飲むことも出来そうだ。
 俺は早速手で水をすくってみる。水は透き通っており、綺麗な水みたいだ。
 そのまま飲むのは、衛生上心配だが、こんな事態だけに仕方ない。俺は手ですくった水を口に運び一口飲んでみる。


 味は普通の水だ。砂利とかも含まれてなく、滑らかに飲むことが出来た。
 さて、これからどうするべきか、もう周辺は暗くなっておりこれ以上遠くに行っても水が無かったら危険だ。
 ということは、周辺を捜索してみるか。


 俺は近くの森の中を探索することにした。




★ ★ ★




 森の中に、もう一度足を踏み入れて探索をしたものの、暗いのもあり、これと言った発見をできずにいた。
 辺りは暗くなっており、このまま探索しても迷子になりそうである。そのため、俺は来た道を引き返し、川の近くに戻ることにした。
 お腹が空いたのか、頭はボーとし、日が暮れ始めたからか寒くなってきた。
 なにかないかなあ。
 そう、思っていると遠くの方に光る何かがあるのに気が付いた。


 こんな森の中に光るものが自然にあるとは考えられない、となると、考えられるのは。


 光を放つものを見つけると、そこには俺の想像通りナイフが落ちていた。
 刃渡りは25cm程度だろうか? 思ったよりも大きい。持ってみると、それ相応の重さであり、歯を見る限り使えそうだ。
 これなら、俺は早速下に落ちていた木枝をナイフで加工していく。すると長さ30cmほどの尖った木の槍が出来上がった。


「よいっしょおお」


 俺は掛け声と一緒に木々に成るリンゴ目がけて投げ飛ばしてみる。
 すると木の槍は削ったおかげか真っ直ぐリンゴに飛んでいき、そして当たって落ちてきた。
 よし、俺はもう一度木の槍を投げ飛ばしてみる。


 わずか、数分でリンゴは5個程度手に入れることが出来た。川に水はあるけど安全性を考慮すればリンゴの汁を飲んだ方がいいだろうと思い、その後も俺はリンゴを刈り続けた。




 こんなもんかな。
 木槍を用いて採集を続けると、足元にはリンゴが10個程度集まっていた。
 どれも、虫食いの後は無く、市場に出ていてもおかしくない品質だ。
 落ちたリンゴを一つ持ってみる。
 すると、リンゴの上付近に何か青い光が輝いている。
 なんだ、これは?
 指でそっと触れてみると、何か文章みたいなものがリンゴの上付近に浮かんで見えた。
 ええと、なになに。


 「アルリンゴ 食用 回復効果(F)」


 この文字が正しいのなら、このリンゴみたいな果実はアルリンゴという品種で、さらに食べることで回復することができる……みたいだ?
 なんとも便利な食べ物だな。 
 って、それより、これはいったい何なんだ?
 こんなの日本では一回も発生しなかった。まあこの世界では普通なことなのかもしれないけど。
 まあ、でもこれではっきりしたな。
 この世界は俺が居た世界ではないってことが。


 まあ、食用なら食べてみるか。
 さっそく、リンゴの皮をナイフで剥き、丸裸になったリンゴを食べてみた。


 味は普通のリンゴだ。見た目通りの味ではない可能性もあったが、運がいいことに日本のリンゴと同じようだ。これで食べ物と飲み水の心配は無くなったな。


 それにしてもだ、ニートの頃とは比べ物にならない活動量だ。
 これだけ動いたのはおそらく人生で一度もないだろう。
 だから、新鮮だ。


 よくよく考えれば、映画館に行けたのも奇跡だな。
 まあ、転生してしまったから運が悪いのかもしれないが。


 ……。
 さて、川に戻るか。




 俺は上着でリンゴを包むことで袋のようにして持っていくことにした。あと、リンゴを落とす途中に手に入れた、木の板や木の枝も数10本詰め込み引きずるような形で持っていく。


 因みに木の枝もリンゴ同様に情報を見ることが出来た。
 どちらも色々用と書かれており、これなら色々とできるはずだ。




★ ★ ★




 森から戻った俺は早速拾ってきた、木の枝や木の板、ナイフを使い、木の枝を鉛筆ほどの太さの棒に加工していく。そして木の板にはナイフで丸い穴を開けて木の棒がすっぽりと入るようにする。
 あとは、上着の一部をちぎり糸状になるまでナイフで切り刻んでいく。すると、上着の糸の塊が出来上がる。
 あとは靴下を脱いで。
 よし、これで準備完了だ。


 俺は木の棒を木の板の穴に入れ、手のひらを用いて回転させる。
 普段はやらない作業のため、なかなか上手くはいかないが、数十分続けていく。すると木の板の穴が少しずつ擦れてきて、焦げ臭い匂いがしてきた。それと同時に白い煙がかすかだが出てきた。


 俺は汗で滑りそうになるのを耐えながら、なお木の棒を回転させ続けていく。すると黒い削りかすが徐々に溜まっていく、そして手のひらに乗る程度の量になった。
 それを確認した俺は最後の力を振り絞り回転を速くさせる。すると黒い削りかすの中に一点の明かりが見えた。
 火種だ。


 俺は回転させるのを止めて糸の塊と火種を靴下の中に入れる。そして口でふーと弱く風を吹き酸素を入れる。火種は糸に燃え上がっていく。
 よし、とどめだ。
 俺は靴下をくるくる振り回していく。すると靴下にも日はおよび燃え上がる火の塊が完成した。


 あとは、積み上げた木と石の塊で作った中にそっと入れる。
 しばらくすると火が木に移り、火の確保の完了だ。


 はあ~。
 本の知識しか無かったが意外となんとかなるもんだな。
 俺は火が消えないように気を付けながら、木の枝を適宜入れていく。


 そして完成した、たき火を見てみると、これにも光があった。
 指で触れてみると、「たき火、効果6時間」と表示された。
 試しに木の枝を追加して、もう一度見ると効果が7時間に増えていた。
 これなら、寝て起きても消えていることはないだろう。


 俺は出来るだけ火の側に近づき、猫のように丸くなりながら瞼を閉じた。
 そして俺はこの世界に来てから初めての眠りについた。



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