二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜

ユユセ

第7話.お話からの密行



「どう言う意味ですか?」


そう、聞き返さずにはいられなかった。

こんなに無害そうな見た目の彼女が、どうして再び檻と厳重な封印の中へ戻らなければならないのだろうか。


「えっと、……ですね…」

「結界と檻を修復するにしても、せめてその理由が知りたいです。何も理由を知らないままであなたを閉じ込めるなんて、俺にはそんなことはできません」

「それは…あの、…。あ、あぁ、私……」

「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか?」


なんと、女性は瞳からポロポロと涙を溢し始め、へたりとその場に力なく座り込んでしまった。


俺のせいか?!?
そんなはずないよな…よな??


「お、俺が何かしましたか…?それとも、どこか痛むとか…?」

「ごめんなさい…違うんです、ごめんなさい。私、気持ちが、もう…ぐちゃぐちゃで…」


ぬぐってもぬぐっても、彼女の目からは透明の滴がいくつもこぼれ落ちる。

彼女の涙が俺のせいではないにしても俺は目の前で女性に泣かれるのは初めてで、狼狽えまくってしまった。


「おい、落ち着くが良い。ここに貴様を閉じ込める輩は居らんぞ」


イヴが俺の横でしゃがみ、女性と視線の高さを合わせてから、なだめるような口調でそう言った。

元魔王が、である。 


「私は親切な美少女であるし、隣のルークこやつはただの旅人だ。何も恐れることはない」


言い方な。とは思ったが、女性はそれで幾分か楽になったようだったので安心をした。
彼女が涙をぬぐって顔を上げたのを見て、俺も腰を下ろして話を聞く。


「…はい。取り乱してすみませんでした。…私の名前はエリネと申します。あの、聞いてもらいたい話があるんです」

「俺はルークと言います。大丈夫ですよ、エリネさん。俺で良ければお聞きします」

「私はイヴだ。…話せば楽になる心理作用もあると云うからな。赦す、申してみせよ」

「ありがとうございます…。私、ずっと我慢して、耐えなきゃって思ってたんですけど、もう、ほんとに、限界で…。外からいらっしゃったと見えるお二方に、どうか聞いていただきたいんです」

「はい、俺は聞いていますよ。ゆっくりで良いので、お話下さい」


エリネは『…ありがとうございます』と再度小声で呟き、一呼吸置いてから話し始めた。


「私…今夜この集落で行われる儀式に参加しなくてはならないんです…」


その言葉で、一気に緊張感が走った。


「…参加?あなたが、ですか?確かに、ここへきた時に広場のようなところで準備がされてきたのを見ましたけど…。どうしてでしょう」

「順番に、ご説明しますね。…まず、お2人は、私が先程使用した魔法、無効化リゼータについてはご存知ですか?」

無効化リゼータか…。無属性かつ上級魔法で、対象魔法の作用や特徴を一切無効化させて機能を無くす、という強力なモノだ。普通の人間なら手を伸ばすこともない稀有けうな力であるな」


イヴの言葉に、俺もうなずく。


「俺も存在は知っていましたが、恥ずかしながら習得はしていません。…なので、それを使用できるエリネさんは凄いとは思います」

「……それが…。私は、その無効化リゼータ以外の魔法が使えないんです」

「そんな…本当ですか?!」


魔法が使えない、だって??

魔法に包まれ、赤子も老人も小動物でさえも魔力を所持するこの世界で??
そんな人間が、生物が、この世界にいるのか??


「それが、本当なんです。…失礼ながら、お尋ねしましょう。あなた様方から見られましても、この私に、かけらほどでも魔力を感じますでしょうか?」


まだ名前も知らぬ目の前の女性へと目を凝らすが、結果はその言葉通り。

彼女の体には、ほんのひとかけらの魔力も存在しなかった。
 

「こんなことがあり得るのか…」

「私は幼い頃から非常に貴重な無効化魔法リゼータを使用することができました。ですが、それとバランスを取るように、生まれつき所持する魔力が非常に弱かったんです」


『きっと、神様がそう謀られたんですね』
彼女はそう言ってから、また続けた。


「そして、バランスといえばもう一つ。私には、双子の兄がいるのですが…。その兄は、生まれながらに無限インフィニティの魔力を持っていました」

「ほう、無効化魔法リゼータ持ちの妹の次は、無限インフィニティの兄ときたか。実に運の良い兄妹であるな」

「いいえ、イヴさん。違うんです。私たちが強力な魔力を持って生まれてきたのは、偶然なんかじゃないです」


エリネが首を振ると、イヴが意外そうに眉を上げた。


偶然ではない。

つまり……。


「つまり、意図的に優れた者が生まれるように計画されていたということか?」

「…そうです。ここララリダは、周囲から遮断された独立集落であるが故に、よそ者の侵入を拒みます。そして、侵入者を撃退し対策をするために、強い血をかけあわせた優秀な者を生み出す傾向にあったんです」

「成る程…」


強い種を産むための、意図的な混血の生産。

それこそが、ララリダに異種属が混在するという理由なのだろう。


「そして、ララリダの希望とされ非常に優秀であった兄でしたが、どれだけ鍛錬をしても、私の持つ無効化リゼータを使用することはできませんでした。…一方の私は、無効化リゼータは所持するもののそれ以外はまるで低レベル。強い者ほど優遇されるこの集落で、皆さんの反感を買ってしまったんです」


エリネは、悔しそうに唇を噛んだ。


「皆さんは言いました。“無効化リゼータを持つのが兄であれば完璧だったのに”。“兄は優秀なのに、なぜ妹はあんなにも無能なのか”と」

「ひどい話ですね…」

「正に人間の醜さよな」


エリネは『いえ、仕方ありません。私が悪いんです』と微笑んでから、また口を開く。


「そしてとうとう、私と兄が16歳の頃に、皆さんは1度目の儀式を開きました」


つまり、今夜の儀式で、2度目。


「私の唯一使える魔法、無効化リゼータを、そっくりそのまま兄に譲渡する儀式です」

「え、…?そんなことしたら、…あなたは…!」


そんなことをしたら、エリネは本当の意味で魔法が全く使えなくなってしまうではないか。


「ふふ、ルークさん、ご安心下さい。1度目の儀式は失敗したんです。でなければ、私は今ここにいませんよ」

「それはそうですけど…。それで…失敗して、どうなったんですか?」

「…儀式の直後、全てを手に入れ完璧になるはずだった兄は昏睡状態に陥り、私はほんのわずかにあったはずの魔力を、完全に失いました」


思わず、言葉を失った。


「おまけに、儀式に使用した素材は性質を使い切られ無同然と化し、使い物にならなくなりました。さらに偶然の産物として、この魔獣を呼び寄せる災厄のペンダントが生まれてしまいました」


ペンダントが目の前にしゃらりと掲げられ、彼女は自虐気味に笑った。


「その悲惨な結果に絶望、憤慨した集落の皆さんは、私にこう言いました。“もう一度同じ儀式を行うための素材を集めて来るまで、ここへは戻ってくるな”。“災厄のペンダントも、元凶のお前が持っていけ”と」

「じゃあまさかあなたは、今日この日までそれで旅をしていて、ちょうどさっき、最後にアーテリアに立ち寄っていたということですか?」

「そう…ですね、そうなります。数年の一人旅でした」


儀式をしたのが16の時であれば、集落を追い出されたのもその頃のはず。

彼女は今の俺よりいくつも若い時に、集落中の怒りを受けながら、一人旅を強いられたのだ。


「また儀式をすれば、今度こそ自分が本当に魔法が使えなくなってしまうと分かっているのに…。そのために、たった一人で素材を集める旅をしていたんですか??」

「…その通りです」

「他の魔法が一切使えない上に、厄を寄せ付けるペンダントを押し付けられた状態でですか??」


言葉にするほど、俺まで苦しくなってくる。
こんな、悲しいことがあってたまるか。


「…以上が、私が吐き出したかった話の全貌です。お聞きくださり、ありがとう御座いました」

「エリネさん、そんな儀式、辞めさせて下さい!あなたは今夜こそ、全てを失ってしまうかもしれないんですよ!」


声を大きくしてそう伝えたが、エリネも負けじと声を張った。


「そんなの、私が1番分かっています!でも、それで兄が目を覚ましてさらに力を得られるのなら、…集落が安全になるのなら、私は……」

「それにしても、あなたが犠牲にならなくて良い方法だってあるはずです!…そうだろ?イヴ」

「うむ…不可能ではないと思うが…」


イヴは、顎に手を添えながら唸っていた。


「否、私に不可能など無いとは思うが、まずその貴様の兄とやらの状態を見んことにはなんとも言えんな」 

「…そうか…。でも、可能性があるんならやるべきだ!エリネさんのためにも!」

「ルークさん、イヴさん、そんな…私…。お話さえ聞いてもらえれば…それで…」

「エリネさん、お兄さんも集落の皆さんも大切ですが、俺はあなた自身も大切にしてほしいです。一緒に、もっと良い方法を探しましょう」


まだ覚悟が決まっていなさそうなエリネの後押しをする。

彼女は、まだ諦めなくても良い。


「大丈夫です。まだ会ったばかりですが、どうか俺を信用して下さい。俺もイヴも、こう見えて魔法はかなり得意なんですよ」


俺がそう言ってイヴに視線を送ると、イヴも同調するように口を開いた。


「あぁ、私は世の中の儀式や呪術のなんたるかについて、人並み以上に知識を持っていると自負している。何故なら、何を隠そう私は、………いや、よそう。そら、娘。あとは貴様が覚悟を決めるだけだぞ」


混乱を防ぐために、『私は、元魔王だからな』と言うのを我慢したらしいイヴに心の中で拍手を送りながら、エリネに手を差しのべる。


「行きましょう、エリネさん。あなたのお兄さんの元へ案内してください」

「…っ、……はい」


彼女はためらい、覚悟を決めるように一呼吸おいてから俺の手を取った。


「…兄は安静にと、静かなところで寝かされております。現在、集落の周りは儀式の準備で手薄だったと思いますが、兄のいる建物の周りには見張りの方がいらっしゃると思います。…大丈夫でしょうか?」

「はい、全く問題ないですよ。任せて下さい!」


彼女を安心させるべく、強気に笑顔を見せる。


「…では、ご案内いたします。足元に気をつけて下さいね。それと、極力、魔獣や集落の方には気がつかれぬよう願いします」

「無論だ。ルーク、気配を抑えておけよ」

「分かってるよ。エリネさん、案内お願いしますね」


それから、そのまま彼女の案内に従って、3人で密行をしていった。


歩きながら、彼女からお兄さんの話を聞く。


「…本当は…ですね、1度目の儀式に兄様本人は反対していたんです。儀式というのは参加者の同意が絶対条件だったんですけど、兄様だけは、最後の最後まで反対をして下さいました」

「…そうなんですか。お優しいお兄さんなんですね」

「…はい。そして、“儀式後にたとえエリネわたしがどんな状態であろうと、今まで通りの以上の安泰な生活を送らせること”を集落の皆さんに固く約束させ、それから儀式の開催を認めました」

「それなのに、エリネさんは集落を追い出されて素材収集の旅に行かされていたなんて…そんなの、まるで約束が違うじゃないですか!」


信じられない。


「…まったく、そのような重要事項を口約束にするからだ。魔法で刻印を刻ませるなりなんなり方法はあっただろう」

「…兄様も、集落の皆さんを信じたい気持ちはあったのだと思います。それに流石の兄様も、まさか自分が昏睡状態になってしまうなんて思ってなかったでしょうし…」


なんとも、言い難い気持ちになってくる。

彼女は、人に憎しみを向けるということをしないのだろうか。


「でもきっと、兄様は目を覚ましたら私のために集落の皆さんを怒って下さいます。だって、兄様はすごく頼れるんですよ…!寛容で、厳しくて、そしてとても強いんです」


そう、まるで自分のことのように嬉しそうに話してくれる彼女の顔がとても魅力的で。

なんとしても、彼女を救わないといけない。

彼女の兄の元へ向かいながら、俺はそう強く心に決めた。


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