二度めの生に幸あれ!〜元魔王と元勇者の因縁コンビ〜

ユユセ

第4話.指輪と狐と鬼と



「おいルーク、アレはなんだ?」


草木の生い茂る裏道を通り抜け、明るい大通りに出てすぐ、隣からそう声が聴こえた。


「看板のアレのこと言ってんなら、アレはパンケーキだ。知らねぇのか?」


目を輝かせながらイヴが指差しているのは、フルーツとふわふわのクリームが溢れんばかりに載った…イラストのパンケーキだった。

大通りの端っこにあるそのカフェのイチオシ商品のようで、木製の看板でデカデカと宣伝されていた。


「ぱんけーき…だと??知らぬ!私は以前飲食を必要としていなかったからな。…なんだか良い匂いがしてくるが…おぉ、成る程、これが食欲というやつか!ルーク、私はアレが欲しい!」


イヴが、ビシィっと看板のパンケーキを指さした。


「イヴって、食べ物食べたことないのか?」

「あぁ、全くない。魔王時代は、魔力さえ体に満ちていれば身体機能になんの支障もなかったからな」


人外の中には、人間のような食事を必要としない種族もいるとは聞くが、一度も飲食経験がないとは驚きだ。


「女神からは食事という文化の魅力やら作法やらを聞き及んだが、それだけだ。だから付き合うが良い!私はアレが食べたい!人間となった以上、なんでも楽しむと決めたのだからな!」

「それは良いけど…思い出せ、まだ俺らは一文無しだ。採ってきた素材かその指輪売りとばさねぇと、あのパンケーキは食えないぞ」

「むっ…。この指輪は、駄目だ」


イヴはふるふると首を振って、先程国王の宝物庫から取り返した、たった2つのその指輪を撫でる。

右手中指の方は朱色の宝石が埋め込まれたもので、左手薬指にあるのは浅緑の宝石が綺麗なものであった。


「おいおい、その指輪、金にする為に取り返してきたんじゃねぇのか?」

「違う、これは私の家臣のようなものよ」

「家臣…?」


かしん?…家臣っていったか?今。
指輪を撫でながら?

何を言っているのかと質問を返す。


「少し前に、旅の供を増やせるアテがあると言っただろう?アレはこの指輪のことだ。どれ、見せてやろう」

「指輪が家来で、しかも旅の供になってくれんのか…?よく意味が分かんねぇけど、まぁ見せてくれるんならそれが早いな」


そう言って、出てきた裏道を少しだけ引き返してまたしげみの方へ戻って、周囲に人目がないことを確認してから、またイヴが喋り出す。


「私は魔王として城を構えた後に、ふと配下をまとめ上げるトップになる人物を2人作ろうと思いあたってな。数多の強力かつ残虐な魔族の中から選りすぐった魔族の2人を、それぞれ2つの指輪へ憑かせた」

「憑かせた…」

「いや、閉じ込めた。封印した、と言ったニュアンスが正しいかもしれんな。忠誠を誓わせて魂を指輪におさめ、身につけて常に側に置けるようにしたのだ」

「封印…魂…」


イヴはすぐ怖いことを言う。

こういうところでサラッと元魔王らしさを出すのはやめて頂きたいところだ。


「じゃあ、その2つの指輪に魔族のトップ2人が封印してあって、その指輪を回収するために、さっきわざわざ殴り込みにいったってことか?」

「そういうことだ。まぁ、本来私が死んだことで封印は解けているハズなんだが…どうやら、私の迎えを信じて今も指輪の中に留まっておるらしい。なんとも愛らしい家臣どもよなぁ」

「ちょっと心配なんですけど…」


イヴは指輪を愉悦の表情で眺めているが、俺は封印されているとかいう魔族が、はたしてどんな奴らなのかが気にかかって仕方がない。

会話の成立しない筋骨隆々のごっついゴーレムだとか、オレニンゲンクウみたいな奴らだったら、俺は今後やっていける自信がない。


「まぁ、案ずるよりはなんとやらよな。どれ、ここらで格好つけて喚び起こしておこうか」

「お、おう…」


どんな面子が現れるのかと少しばかり緊張もして、ごくりと覚悟を決める。


「シェリア、リンゼラ。御前に姿を晒せ。謁見の栄誉を赦そう」


イヴがそう言った直後、地面に一瞬だけ魔法陣のような輝きがちらつき、まばたきの後には見知らぬ顔の2人の人影が目の前にあった。

シェリアとリンゼラ。
そうよばれて姿を見せたのは、2人の少女だ。
彼女たちから感じる魔力は、イヴと比べればはっきりと劣るものの、敵に回すと明らかに油断ならないレベルの強力なものだった。


どちらも片膝をつき、イヴの前で恭しく首を垂れている。


「しばし待たせたな。私を信じ待つその忠誠心、褒めて遣わす。面をあげよ」


イヴのその言葉で、現れた2人はパッと顔をあげ、それは嬉しそうな顔で口を開いた。


「誠に勿体ないお言葉。このシェリアめ、再びイヴ様のお声でこの名を呼ばれることを信じてお待ちしておりました」


口調の綺麗な彼女は、頭に狐の耳の生えた金髪美人。
俺よりも年上に見えて、細めの目が上品な、お姉さん系とでもいえば分かりやすい外見だ。
名前はシェリアというらしい。


「イヴ様〜!ボクもボクも!またイヴ様のお側にいることができるなんて!」


一人称が「ボク」のこちらは、黒髪ショートボブに、額に二本の鬼のツノが覗く少女だ。
名前は恐らくリンゼラ。
イマイチ性別の判断がつけ難いが、ぱっちりとした瞳に細身の体、スカートという服装から女…だと思われる。
まぁ、別にどちらでも構わないが。


魔族のトップと聞いて身構えたが、その2人は外見だけでいうなら、狐のお姉さんと、鬼の僕っ娘少女といったところだ。


「……??…ねぇイヴ様、そこの人間って、もしかして勇者?」


鬼のツノをもつ綺麗な少女が、俺を見ながらゆっくりと首を傾げた。


「あぁ、その通りだリンゼラ。この男は元勇者、アイルーク=リジアだ」

「イヴ様を殺めた憎き勇者…あぁ、今から彼をココで蜂の巣にして、それを見せしめに人間共に復讐をなさるのね?悪くない計画ですわ」

「え?!蜂の巣って、俺?!」


狐耳の彼女が、ニッコリと目を細めて言った。

やはり魔族のトップ。
イヴの家臣なだけあって、思考回路が非常に物騒である。


「勇者を蜂の巣にして、それから人間に復讐か…。うん、イヴ様に手をかけたんだもん、当然の報復だね!」


鬼の子は健気な笑顔でそう言っている。


「いやいや、ちょ、イヴ!説明してやってくれよ!」


このまま勘違いされていると、本当に飛びかかられそうなので、慌ててイヴにヘルプの視線を送る。

イヴは、やれやれと言った顔をしてから口を開いた。

やれやれじゃねぇよ。


「…シェリア、リンゼラ。これから、お前たちにとっては些か驚きの話をしなければならないが…」

「はい…?なんなりと仰って下さいませ」

「なぁに?イヴ様」

「私は、このルークを今後の旅の相方とした」

「「?!?」」


リンゼラはキョトンと、シェリアは唖然と言った顔をした。

まぁ、当然のリアクションだろう。

彼女たちからしてみれば、崇拝してきた魔王様が勇者に殺されてから復活を待ち望み、ようやく再会できたと思えばその勇者を連れて、あろうことか仲間宣言をされているのだから。


「私のほんのわずかな魔力と気配の違いから、私がもうタダの人間の身であることは、お前たちには気がつかれていると思う。私は、望んで人間になったのだ」


驚きを隠せない2人に、イヴは続ける。


「私はこれから人として生き、旅をして人生を謳歌することにした。もう決して、世界の支配も人間を脅かしもせぬ。だから、もうお前たちは、自由に生きてくれて良い」


今気づいたが、イヴは、俺には『貴様』呼びなのに、リンゼラとシェリアには『お前たち』呼びだ。

余程信頼が厚いと見える。


「…2人には世話になった。しかし、もうそれを縛る契約もないだろう?この指輪からいつでもその身を解き放つことができる。私の今後の人間としての人生に付き合いたくないというのならば、去るのを止めはしない。笑顔で見送ろう。だが……」


イヴは、意味ありげに一呼吸無言の間を開けた。


「…これからも、付いてきてくれるか?」

「…もちろん。勿論だよ!イヴ様!」


リンゼラは、強い口調でそう言って立ち上がった。


「ボクがイヴ様に仲裁を誓ったのは、イヴ様が魔王だったからじゃない!人間のイヴ様でも構わないから、いつまでも、いつまでも、ボクを家臣としてそばに置いてよ!」

「…えぇ、私も。まぁ、そこの憎き人間については、まったく許容致しませんが、イヴ様の仰ることでしたら、是非もありませんこと。何処までもついてゆきますわ」


合間合間の冷ややかな視線が痛い。


「そうか、ありがとうな。流石は私の自慢の家臣たちだ。これからも宜しく頼むぞ?」

「勿論ですわ」

「うん!ボクにできることならなんでも任せてね?」


イヴが目を細めて、家臣の2人が快く頷く。
一見感動の場面であるが、元勇者という身分のせいで待遇が悪い俺を忘れて欲しくない。


「……俺は??」

「「黙れ人間」」

「う……」


シェリアとリンゼラからの当たりはきついが、ひとまず、旅のメンバーが4人になったということだ。

俺とイヴだけでも無双感あるのに、さらにイヴの信頼する家臣ツートップが味方となれば、これほど頼もしいことはない。


「…あなた、いつか殺して差し上げますわ。覚悟なさい」

「そうそう。今はイヴ様が言ってるから生かしてるだけだからね!2人っきりになったら、その首吹っ飛ばしてやるから!」


…と、思ったが、2人には睨みつけながらそう言われてしまった。

俺の味方なのはイヴだけらしい。


「ははははっ!賑やかで良いなぁ、ルーク」


なんと。イヴも味方じゃなかった。
中立だ、コイツ。魔王なのに。

まぁ、賑やかなのは良いけどさ。


「ではルーク、改めて紹介しよう。シェリアとリンゼラ。私の自慢の家臣たちだ」
 
「私がシェリアよ。そうねぇ、種族は妖狐とでも言えば分かりやすいかしら。夜道と背後にお気をつけて?これからよろしくね

「やっほ〜、ボクがリンゼラ。見ての通り希少種の鬼で、長所は可愛いところ、短所は…血の気が多いところとくにないかな!!」


なんだか殺意マシマシな自己紹介(リンゼラからはウインク添え)をされた気がする。
気のせいだろうか。


「えっ、と…まぁ、俺はルークだ。宜しくな。2人から恨み買ってるのは当然だと思うし、仲良くしてくれとは言わないけど…とりあえずは仲間ってことで、な?」

「ルーク、よろしくね〜」


そうリンゼラに言われヒラヒラと手を振られたところで、さて、では次こそ買い物&パンケーキタイムに入ろうかと話を切り替える。


「いきなりだけどさ、リンゼラとシェリア、なんか宝石とか金になりそうなもの持ってないか?俺が買い物したいってのもあるけど、イヴがパンケーキ食いたいってさ」

「パンケーキ?あぁ、人間界の菓子の一種ですわね。宝石…でしたら、この程度なら」


そう言って手のひらに乗せて差し出されたのは、紅、蒼、緑など、美しく輝く宝石の原石の欠片。
それらは、シェリアの手の上でキラキラと光を反射して輝いていた。


「ほう、それは私の城の物か。この事態を予測してわざわざ持ち出してくれたのか?」

「えぇ、今後のイヴ様のお役に立てればと思いましたの」

「気が利くな、さすがだ」


イヴは満足そうに頷いている。


「滅相もありませんわ。あまり沢山持ち出すのも失礼なると思ったから僅かだけれど、これだけあれば、数十万くらいにはなるはずでしてよ」

「すげぇ、これもらっていいのか?」

「あなたに差し上げるわけではないけれど…。今は一応味方ですものね、そうと言っておきましょう」

「そっか、ありがとな!」


ふい、と視線を逸らされてしまったが、金のアテがあるのは非常に助かる。

今後の心配事もだいぶなくなるというものだ。


「さて、ではパンケーキとやらを堪能しに行くぞー」


ウキウキのイヴに言われて歩き出し、一行は先程目をつけたパンケーキ屋へ向かう。


「あと、ワガママ言わせてもらえるんなら俺は剣が買えるとありがたいな…さっきぶん投げちゃって無いし」

「魔法で精製すれば良かろう。武器の精製くらい出来るのではないのか?」

「いやぁ、実際出来なくもないけどさ。手に馴染む本物を身につけて戦いたいだろ?男のロマンってもんだよ」

「分からんなぁ…」

「ねぇねぇ、ルーク!!」


イヴが首を捻っているところで、俺の目の前にひょこっとリンゼラが出てきた。


「戦いと言えばさ、ルークって強いんだよね?イヴ様とやり合ったくらいだもん!いつかボクと手合わせしようよ!お城でイヴ様と戦ってるルークの魔力をビシビシ感じた時から、戦ってみたかったんだ〜」


先程まで首を吹き飛ばす発言してきた相手とは思えない人懐っこさだ。

彼女の性別は未詳であるという事実はさておくとして、素直にひとこと感想を言うなれば、可愛い。


「あぁ、勿論いいぞ!そういうリンゼラも強いんだろ?」

「あったりまえだよ!強くて可愛いボクと一緒に旅ができるなんて、ルークは運が良いね」

「俺の首吹っ飛ばすとか言ってなかったか?」

「そうだよ?ボクとの戦いに負けたら、ルークの首をズバ〜ン、とね!」


セリフと不釣り合いなくらいの健気な笑顔が恐ろしい。


「あら、私のことも忘れないで頂戴。貴方の首を狙っているのは、リンゼラだけではなくてよ」


背後からシェリアの声がかかり、ぎこちない笑顔を返す。


「頼むから2人いっぺんに掛かってくるとか辞めてくれよ…?」
 

…まぁ、そのたびに返り討ちにできれば問題無いけど。
俺勇者だったし?勝てるし??

と、強気に思ったが、ここでキレられては困るのでとても言えるわけはない。


「そこまでだ、そこの3人。ほらほら、待ちに待った買い物タイムだぞ!」


大通りにまた戻ってきたところで、イヴが楽しそうな声でそう言う。


「シェリアの持ってきてくれた宝石をお金に換えてから、パンケーキタイムだね〜。ボク、パンケーキって名前は聞いたことあるけど、食べたことはないかも」

「私も有りませんわ。人間の食事なんていつぶりかしら…。可愛らしい見た目に、甘ったるい匂いなのね…。こんなので栄養になるのかしら」

「なに、私の目をつけたものだ。美味いに違いあるまいよ」


初経験のパンケーキに少なからずテンションが上がっている3人を見るのは、なんとも微笑ましい。

幸先は不安だったけど、なんとかやっていけるような気がしてくる。


「よし、ルーク」

「ん?」


イヴに呼ばれてそちらを見ると、シェリアが手に宝石を乗せ、俺に向かって差し出していた。


「さっさとコレを換金してこい」

「………え??」


元勇者の俺、女子3人のパシリにされましたとさ。





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