パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

五話 精神耐性

「それじゃノノは、一層で修行をしていて、偶然僕たちを見つけたんだね」
「うん。ノノは【月の雫】に入りたいんだけど、条件として自分の力で五層に行かないといけないんだ。だからいっぱい強くならないといけないの」


 野盗騒動も落ち着き、僕たちはノノと共に地上を目指していた。
 話を聞いてみると、彼女の目的は実に単純で、とても冒険者らしい内容であった。
 上位パーティに加わるのに、条件を付けられるのは珍しくない。五層というのは厳しすぎるけど。


「カナデお姉ちゃんも厳しすぎるよね? リーンくんもそう思うでしょ?」
「うーん。どちらの言い分も間違っていないし。難しいところだね」


 カナデさんの気持ちも何となくわかる。見ていてノノは少し危なっかしい。
 腕前は文句なしに上位ランクだが。隙が多いというか、単純に危機感が足りていない気がする。
 今の状態で安定した上位パーティに入ってしまうと、自分の弱点を克服する機会を失いかねない。


「……淫魔の血ですか。異性を狂わせる力は厄介ですね」
「ほぇ……ワタシにはこの方が普通の獣人さんに見えますけど」


 フォンが納得したように頷いていた。ミリィの方は何も感じていないらしい。
 精神に干渉する能力は個人差がかなり激しい。スライム族には効果がないのだろう。
 淫魔の力は同性には嫌悪感をもたらす。フォンがノノを疑っていたのも無理はなかった。


「魔族や、同じ淫魔の血を引く人には効き目が薄いんだけど。人間の男の人には効果覿面で、冒険者って大半が人間でしょ? だからノノはいつも一人だったの……パーティを組んでもすぐになくなっちゃう」


 そう言ってノノは僕の腕にしがみつく。あの寂しげな笑顔の裏を知れて少しだけ同情する。
 パーティが前提の迷宮探索で、一人を強いられるのは辛すぎる。本人には非がないのだから尚更。


「……その、距離が近いです」


 フォンが目を細めながらノノを見ていた。
 密着した腕が気になるようだ。ノノは慌てて僕から離れる。


「あぅ、ごめんね。ノノ、あまり他人と触れ合う機会がなかったから、つい嬉しくなっちゃった」
「わかります。ワタシも褒められると、とても嬉しくなっちゃって、つい求めてしまうんです!」
「仲間だ~♪」
「仲間です♪」


 ノノとミリィが仲良く手を繋いで飛び跳ねていた。
 二人は出会ってまだ間もないのに。気が合うのだろう。


「リーンくんが《精神耐性》スキル持ちでノノは嬉しいよ♪ 周りには年上の人しか所有者がいなかったから。対等に会話ができる人間の男の子は貴重なんだっ」


 ノノが尻尾を振りながら、僕とフォンの周りをスキップする。 


「……えっと。何か勘違いしているようだけど。僕は――《精神耐性》を持ってないよ?」
「はえ?」
「ユニークスキル持ちは、他のスキルを習得できないし。僕の器は《罠師》で埋まっているはず」


 さっきからずっと、頭の中で疑問符が浮かび続けている。
 僕にはノノの誘惑が効かない。その理由が何もわからないのだ。


 それを聞いたノノは、尻尾を立てて石像のように固まった。


「え、ええええ!? だったら、何でリーンくんはノノに誘惑されないの!?」
「さ、さぁ? 正直、僕も戸惑ってる」


 淫魔の誘惑を防ぐ装飾品なども存在するが、大抵は国の要職や上流階級向けのものであり。
 一般人の手が届く品じゃない。僕の身体に魔族の血なんて流れていないし。本当に何もないのだ。


「ノノ、びっくりだよ! スキルもないのに耐えられる人、初めて!」
「当然です。リーンはそれだけ凄い人なんですから」


 何故かフォンが自慢げになって、僕を持ち上げていた。


 ◇


「とにかく。ノノからしたら理由なんてどうでもよくて、こうして普通に話せるだけで満足だよ♪」
「それは良かったよ。僕も誘惑されて皆に迷惑を掛けるのは嫌だし」


 魔族が淫魔の力の影響を受けにくいのと同じで。
 人間の中にも、初めから抵抗がある血筋がいるのだろう。
 《精神抵抗》は貴重なスキルなので、血が代用になるのは悪い話じゃない。


 考えても埒が明かないので……今はそういうふうに納得しておこう。


「あの、話は変わりますがリーンさん。先ほどいただいた迷宮核はどうするんですか?」


 ミリィが隣で尋ねてくる。
 僕の手元にある布に包まれた迷宮核。等級は屑。
 もちろん戦力強化の為にも、誰かの迷宮核に吸収させるつもりだ。


「フォンの迷宮核は既に一ランク上がっているから、次はミリィの番だね。そもそもこの迷宮核は君の手柄なんだから。当然の選択だけど」
「ワタシですか? き、緊張しますね……!」


 ミリィは自分の迷宮核を取り出すと、さっそく貰った物と掛け合わせた。
 これで僕たちは等級が鉄の迷宮核が二つになった。鉄の魔石もあるし、かなり潤っている。


「わわ、グリーンスライムちゃんを呼べるようになりました! ちっちゃくて毒がある子なんですよ!」
「相変わらずミリィは、スライムに愛されているね」
「ワタシもフォンさんに倣って、スライムの楽園を創造したくなってきちゃいました」
「それはいいですね。是非、一緒に造りましょう」


 スライムと地龍の楽園か。面白そうではある。
 等級が上がれば、召喚できる魂無き獣の種類も増えていく。
 ちなみにフォンはフィアーバットなどを生み出せるようになっている。龍系はまだ当分先のようだ。


「リーンくんたち、楽しそうでいいなぁ。ノノも参加したいなぁ……」
「楽しいのは今だけだよ。今後は上層で同じ守護者と争うんだ。敵は格上ばかりで、楽な道じゃない」


 カザルですら通用しなかった上層で、僕たちはどれだけやれるだろうか。
 周囲との遅れを取り戻すには、数倍の速度で成長していくしかない。
 フォンやミリィにも。もちろん僕だって、生き残るために強くなる必要がある。


 僕が真剣にそう答えると。ノノは振り返って、僕の顔を見ていた。


「それだったら――ノノを護衛で雇わない?」
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 ◇《精神耐性》
 あらゆる精神干渉から防いでくれる優秀な防御スキル。
 魔族の中には洗脳や誘惑を得意とした者が存在するが、これ一つで対策が可能。
 希少なスキルだが代用品もあり、上流階級や重要な役職を担う者は常に身に着けている。
 ただそれも壊れやすく、破壊されれば無力化するので、このスキルの重要性が薄まる事はない。


 ちなみにスキルとは、人が神から与えられた異能であり。
 元々その血筋に眠る力とはまた別物である。つまりスキルがなくても効かない人間は存在する。


 リーンの所持罠種


 矢罠 38→45(+7)
 矢罠(麻痺) 1
 矢罠(毒) 0
 トラバサミ 14
 岩石罠 1
 爆発罠 0
 泥沼罠  10→11(+1)
 移動床 2
 ワープ罠 1
 落とし穴 2
 警報罠 2

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