パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

四話 幸運

「……よかったぁ。お二人が無事で本当に良かったです!」
「それはこちらの台詞です。ミリィがいなくなって、本当に心配していたのですから」


 フォンとミリィが再会の抱擁を交わしている。
 ミリィは全身に草木がくっついているが、怪我などはなさそうだ。


「一体、今まで何処に行っていたの?」
「えっと、リーンさんが眠ったあとも見張りを続けていたら、朝方に遠くの方で悪い人間さんに襲われている人間さんを見つけたんです。助けないと! と、思って持ち場を離れました。それで、しばらく隠れてから戻ってきたら、お二人の姿がなくなっていて……悪い人間さんに捕まったんじゃないかと」
「なるほど、つまり入れ違いになってしまったんだね」
「そうみたいです……」


 他にも色々と聞きたい事が増えてしまったけど。
 そもそも何故、交代の時間に起こしてくれなかったのか。


「朝方までずっと見張りをしていたって言うけど、三人で交代制にしていたのにどうして?」
「その……時間になって、リーンさんを起こそうと思ったのですが。お二人が仲良く手を繋いで眠っているところを見ていると、何だか起こすのが申し訳なくなって……ワタシがずっと見張っていようと」
「いや、そこは普通に叩き起こしてくれて良かったんだけど」


 あくまで安全確保のための見張りなんだから。
 そういう優しさは、時として大きな問題を引き起こしかねない。


「ですが! ワタシがお役に立てる事は、もうそれくらいしかないですし……」
「何を言っているんだか。以前の戦いでもミリィは大活躍だったじゃないか」
「でもでも、それからもうしばらく経っています。それなのに、ワタシは何もしていません。フォンさんの迷宮核が成長して、ワタシの力なんてもう役立たずで、他に何も見つからなくて……」
「ふ~ん、そっか。つまり、見張りを頑張ってリーンくんに褒めて欲しかったんだね?」


 ノノがわかりやすく噛み砕いて伝えてくれる。
 ミリィは図星を突かれたのか、慌てだすと、最後には俯いた。


「うぅ、ごめんなさい。ワタシ、ずっと故郷では馬鹿にされて過ごしていたので。お二人と出会って、色んな事で褒めてもらえて、嬉しくて、贅沢になってしまったんです。もっと喜んで欲しいなって……どうすれば褒めてもらえるかなって……」
「ミリィ……」


 本当は駄目だと、叱るべきなんだろう。危険を冒さないよう正しく指導すべきで。
 だけど、こんなにも純粋に僕たちの事を考えてくれる友人に、僕は怒った表情を作れない。
 訓練も受けていない。普通に暮らしていた子に、冒険者の当たり前を押し付けるのは酷なんだ。


「そうだね。次は僕も一緒にいてあげるから。遠慮しなくていいように、お互いより仲を深めよう」
「リーンさん、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい……」
「無事だったらそれでいいんだ。訓練だから、失敗を学ぶのも今しかできない経験だしね」


 自分の立ち位置が曖昧で、不安になる気持ちは何となくわかる。
 僕も迷宮探索では、罠を解除する以外の仕事が少なく、焦ってしまう事があったから。
 大きな活躍をしないと、仲間として認めてもらえないのではないかと。勘違いしてしまうのだ。


 それがまた別の失敗を呼び込んだりして。ミリィの行動は初心者にありがちなもの。
 いつか彼女にも、自信が持てる大きな何かを、一つでも見つけて欲しいと思う。
 僕としては既に持っているように見えるけど。それは自分で気付かないといけない。


「ミリィ。私も話相手になります。今度からは普通に起こしてくれて構いませんよ」
「フォンさん……それだと、全員で朝まで起きることになっちゃいます」
「その時は、二人でリーンを無理やり寝かせましょう。夜は――魔の時間ですから」
「くすっ、それはとっても楽しそうです」


 フォンが冗談交じりに応えると、ミリィは少しだけ元気になった。


「三人は仲が良いんだね。……いいな。羨ましい」


 離れて様子を見ていたノノが、寂しそうな笑顔を浮かべていた。


 ◇


「ありがとうございます。貴方たちのおかげで、無事に魔石を送り届けられそうです」


 僕たちの前で、青年が深く頭を下げている。
 後ろには魔石の入った木箱を載せた馬車がある。
 彼はミリィが救った、野盗に襲われていたという運び屋だ。


 ミリィの行動は結果的に、他の誰かを救うきっかけになっていた。
 やはり《幸運》スキルに近いものを、ミリィは宿しているような気がする。
 上位のスライム族は能力が低い代わりに、ある一点に特化した力を持つと聞いた事がある。


 魔族はスキルを習得しないので、あったとしても、それとは別の類の力だろうけど。


 捕らえた野盗たちは、街から派遣される兵士たちに連行されるだろう。
 僕たちはあまり目立ちたくないので、ここからすぐに立ち去るつもりだ。後処理も面倒だし。


「あの大量の魔石は一体、何に使われるのですか?」


 あまりにも膨大な数なので、用途が気になった。
 魔石は使い道が多く、需要も分散されるので一カ所に集まる事は少ない。
 運び屋の青年は、周囲に人がいないのを確認してから、こっそりと教えてくれた。


「魔石はこの先の転移ゲートに使われるみたいです。これからいくつかのパーティが五層に向かうようで、そろそろ”例の時期”も近いですし。地上の各国も冒険者支援に余念がないようなので」
「……なるほど、納得しました。国からの依頼だったんですね」


 一層には五層に直結する転移ゲートが存在する。
 これは他のゲートと違い、ユグドラシルから魔力を供給されておらず。
 使用のたびに莫大な魔力を要求される。そのため、利用できるのは上位ランクパーティのみ。
 それも魔石の一部を負担しないといけないので、相当な稼ぎがないと移動だけで破産してしまう。


 この青年は国に委託されて魔石を輸送していたらしい。
 どうやら護衛として派遣された傭兵の一部が、野盗と通じていたらしく。
 しばらくしてから本性を現し、本物の護衛を捕らえ馬車に閉じ込めたのだとか。


 安全な一層を往復するだけだからと、安い傭兵を使い、費用を削ろうとした結果だった。
 今回の騒動で国からの信用を失ったので、職場がなくなるかもしれませんと、青年は苦笑する。


「あ、そうだ。こちらはお礼の品です。どうか受け取ってください」


 青年が渡してくれたのは魔石だった。
 等級は鉄。今の僕たちにとっては貴重な資源だ。
 そしてもう一つ、丁重に布に包まれた球体――迷宮核だ。


「どうやら野盗の所持品が回収した木箱に混ざっていたみたいで。依頼者に納品する数はあらかじめ厳格に決まっていますので、余分な量を私が持っていても不要なのです」
「そのまま持ち帰って売れば、大金になりますよ?」
「はは……目を付けられて、また野盗に襲われるのは嫌ですから」


 青年は頭を掻きながら苦笑する。
 確かに、冒険者でもない運び屋が迷宮核を持ち歩いていたら目立つだろう。
 余計な騒ぎに巻き込まれるのは確実で、手放したいというのは本心からの言葉だった。


「なので、受け取って貰わないと寧ろ、こちらが困るのです」
「わかりました。ありがたく使わさせていただきますね」


 贈り物を受け取り、お礼を伝える。


「では、私は仕事に戻ります。皆さんの旅の無事を祈っています」


 青年は手を振りながら馬車と共に去っていった。
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 ◇《幸運》
 数あるスキルの中でも、かなり特殊な能力を秘めたスキル。
 ユニークスキル程ではないが、所有者は極めて少ない。名称通りの恩恵を持ち主に与えてくれる。
 何かに失敗しても、あとで帳尻を合わせるほどの幸運を得られたりと。己の運命すらも操る。


 ただし、《幸運》と《不運》は表裏一体である。
 パーティが全滅して《不運》に見舞われても、所有者が生き残ればそれは《幸運》に含まれるのだ。
 よって《幸運》スキルの持ち主は、周囲に不幸を呼び寄せる存在として毛嫌いされる傾向にある。
 冒険者になってもパーティに入れない場合が多く。失意のまま引退するケースが殆ど。
 ただそれも、危険な職業から手を引くことができて、本人にとっては《幸運》なのかもしれない。

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