井戸の中【完】
12
「明日には帰っちゃうなんて、せっかく会えたのに何だか寂しいね……」
そう言って俯いた河原さんは、受け付けの横で立ち止まった。
「……今度遊びにおいでよ」
「え?……っ……うん」
ほんのりと頬を赤らめると、嬉しそうに微笑んだ河原さん。
そんな彼女を見て、やっぱりまだ好きだな、と改めて思う。
「ねぇ、公平くん。隆史くん何処にいるか知らない? 一緒に帰る約束だったんだけど……見当たらなくて」
「……さぁ。俺は告別式で見かけたきりだから分からないなぁ」
「そっか……」
「俺が送ってくよ」
「うん……ありがとう」
照れたようにして微笑む河原さんを横目に、俺は歩き出そうと右足を一歩前へ踏み出す。
ーーとその時、目の前を何かが落下してポトリと地面へ落ちた。
地面に転がる見覚えあるポーチ。
これは……智の……。
あの時……確かに井戸の中へ捨てたはず……。
空から降ってき……た……?え……っ?
俺は震える手でポーチを拾い上げると、先程見た猫の死体と、昨日拾った靴の事を思い出す。
そこまで考えると、俺の身体はガタガタと震え始めた。
じゃあ……次に降ってくるのは……。
俺は震える身体でゆっくりと空を見上げた。
頭上に広がるその空は、俺を嘲笑うかのように不気味な色をしていて……。
それはまるで、底なしの井戸の中のようだったーー。
ーー完ーー
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コメント
ノベルバユーザー435139
この短さでここまで濃いお話しが作れるものなんですね!
まさにアイロニー
考えさせられました。