勇者はなぜチーレムなのか?~剣と魔法の異世界白書~

木塚かずき

第30話 なぜ勇者たちの冒険はまだ始まったばかりなのか

 魔王城の一室で会議が行われていた。ヴァンパイアが進行役となり、リッチーとペルセポネ。それに加え代表として一体のチビスケルトンが会議に参加する。議題は【勇者一行との最終決戦にむけて】だ。議論は非常にスムーズに進行し、全員が納得できる形で煮詰まっていった。ただ一点を除いては。

「え? 僕の待機場所は城の一番奥深くの場所じゃないの?」

 面を食らったのはリッチーだった。しかしヴァンパイアは淡々と話を進める。

「いえ、リッチー様はエントランスホールで待機してもらいます」
「なんでまたそんなところに。魔王は城の最深部で待ち構えるのが王道じゃない?」

 たしかにリッチーの言うことも一理ある。しかしヴァンパイアは今まで散々ペルセポネに迷惑をかけてきた勇者に、一度は痛い目を見てほしいそうだ。ペルセポネが帰ってきたあと、ヴァンパイアは耳にタコができるのではないかというくらい勇者一行に対しての愚痴を聞いていた。そこで一度でも魔王が勇者を倒せば、魔王としての威厳が保たれるというだけでなく、ペルセポネの溜まった鬱憤も晴らせるのではないかというのがヴァンパイアの意見だ。

「それに勇者には『黄泉がえり』のスキルもあるから大丈夫です!」
「ぐぬぬ」
「それに勇者の俺TUEEEEごっこに私は付き合いたくないです」
「ペルセポネ君がそう言うならまだしも、ヴァンプ君に言われるのは納得いかないなぁ~」
「とにかく! あの勇者に最深部まで来られる実力はないので早々に対峙すべきです! セポ姉がついているならまだしも、無能で愉快な仲間たちしかいないのですから」
「いやだぁ! ラスボスは最後の部屋で待ち構えるんだぁ!」
「子供みたいな駄々こねないの! なぁ、セポ姉はどう思う?」
「……えっ?」

 ペルセポネはヴァンパイアの問いかけに気づくまで数秒かかった。小難しい顔をして、何か別の事を考えているようだった。

「おい! 我が輩とリッチー様の話、ちゃんと聞いていたのか!?」
「え、ええ。ごめんなさい。私もヴァンプ君の案が良いと思う……わ?」
「ほら、聞きましたかリッチー様。それじゃ多数決で、私の案で決定ですね!」
「ぐぬぬ」
「それでは、各自配置に就きましょう」

 会議室を出たリッチー、ペルセポネ、ヴァンパイアはエントランスに向かい、チビスケは他のチビスケを集め、指示を出していた。リッチーは余程納得がいかなかったのか、まだぶつぶつと文句を言っている。
 エントランスに向かう途中、ペルセポネが問いかけた。

「ねぇ、ヴァンプ君。勇者のスキル『黄泉がえり』ってなんだっけ……?」

 ヴァンパイアにとって予想外の質問だったのだろう。あっけにとられた顔をペルセポネに向けた。

「それはセポ姉の方がよく知っているんじゃないか……?」
「え、えぇ。そうよね。ごめんなさい変なこと聞いて」
「どうしたんだセポ姉。さっきからおかしいぞ」
「ごめんなさい。大丈夫よ」

 ペルセポネは取り繕ったが、ヴァンパイアは疑いの目を向けていた。いつもは凛としているペルセポネだが、ヴァンパイアの言う通り今の様子は何かおかしい。
 エントランスに到着するとリッチーは扉の真ん前で腰をおろし、あぐらをかいて待ち構えた。大きな鎌を握りしめ、肩に抱える。立ち上がればすぐに攻撃できる状態だ。ヴァンパイアとペルセポネはリッチーの斜め後ろで、事の顛末を見守ることとなっている。この段取りに納得いっていないリッチーに加えてペルセポネまで何やらぶつぶつと呟き始めていたが、突っ込むと面倒事に巻き込まれる予感がしたのかヴァンパイアは無視を決め込んでいた。
 やがて一体のチビスケが、勇者が初めて魔王城にやってきた時と同じように慌てながら報告しにきた。

「見張りの者より、勇者がもう目の前まで来ているとのことです!」

 その報告を受け、リッチーは立ち上がった。

「ありがとう、チビスケ君。それじゃあ先ほど会議で決めた段取りに従って、BGMを流してくれ」
「かしこまりました!」

 ワーグナー作曲『ワルキューレの騎行』がBGMとして城内に響き渡る。

「仕方ない、ここまで来たらいっちょやってやるか」
「その意気です! リッチー様!」

 徐々に気持ちが前向いてきたリッチーをヴァンパイアは囃し立てる。ちょうどその時、ペルセポネの呟きが止まり、見る見るうちに顔色が悪くなる。ヴァンパイアに話しかけるその声は震えていた。

「ねえヴァンプ君、『黄泉がえり』ってたしか……」
「あ? だからさっきから何なんだよ。ほら、もう勇者がやっ――」

 強い音と共に、大きな扉が勢いよく開いた。勇者を先頭に、ペルセポネにとっては見慣れた顔が並んでいた。だが一緒にいた頃のヘラヘラとした一行の姿は無い。全員が口を真一文字に結び、毅然たる表情で乗り込もうとしている。
 城内に足を踏み入れようとしたその時、勇者一行は一瞬怯んだ。しかしこれこそがヴァンパイアの思惑。まさか魔王城の最初――扉を開けて目の前に魔王がいるなどとは思ってもいなかったのだろう。リッチーはその怯んだ瞬間に、決め台詞と共に大鎌を振りかぶった。

「夢から醒める時が来たな」
「リッチー様、ダメえええぇぇぇ!!」

 リッチーの決め台詞が終わるか終わらないかの時に、ペルセポネが叫んだ。涙目で腕を伸ばしリッチーの攻撃を止めようとしたが、遅かった。一瞬だった。こだまするペルセポネの叫び声が消えるか消えないかのうちに、勇者の首が床に落ちた。勇者の体からは勢いよく血が噴き出し、辺り一帯に飛び散った。

「いやあああぁぁぁ!!」
「どうした、そんなに血の噴水を見るのが珍しかったか? それともまさか、あいつらに情が移ったとか言うんじゃなかろうな?」

 ヴァンパイアがせせら笑うように言った。しかしそれに対しての反応は意外なものだった。

「こ……の……無能吸血鬼!!」
「え?」


◎◎◎◎


 血しぶきに染められたエントランスは綺麗な状態だった。一滴の血も見当たらない。それを見たヴァンパイアは満足気な顔をした。あとから来て同じ現場を見たリッチーも、ウンウンと2回頷く。両者とも、事前に打ち合わせした通り勇者をうまく成敗できたものだと思っているのだろう。
 次こそは勇者に倒される演技をするため段取りの確認をしようとした瞬間、ペルセポネから通信が入った。ヴァンパイアは意気揚々としてそれに応じた。

≪ヴァンプ君……聞こえる……かしら?≫
「よお、セポ姉。上手くいったな! 何か最後は罵声が聞こえた気がするが」
≪何が……上手く……≫

 途切れ途切れに聞こえるペルセポネの声は、通信状態が悪いからではなさそうだ。心なしか、声が震えている。

「『何が』って、我が輩の作戦のことじゃないか。事前に打ち合わせた通り、完璧だったな。そうしたら、あとは仕上げで勇者にやられれば――」
≪ヴァンプ君……私が今……どこにいるか知ってる?≫
「え? センドラインとか”スラム街”ダーネルとか、その辺りじゃないのか?」
≪『その辺り』……ですって?≫
「え?」
≪『その辺り』じゃないわよ! ダイトシティでもスラム街でもない! 今私がいるのはルトゥイ港よ! "始まりの街"ワーナーの隣の街のル・トゥ・イ・こ・う!!!≫
「……え?」

 一転、耳をつんざくような音量で声が聞こえてきた。しかしヴァンパイアは音量以上にペルセポネの言葉が驚いたようだ。

≪『え?』とかすっとぼけたこと言ってるんじゃないわよ! 今徽章をいくつ取り戻しているか知ってる? ゼロよ、ゼロ! これからセイレーンちゃんのもとへ行かなきゃ行けないのよ! どうしてくれるのよ!≫
「い、いやそれはその……」
≪ほぼ最初からのリスタートなのよ、わかる!? 中ボスに任命された仲間たちも全員、また同じことを繰り返さなきゃいけないんだから! どれだけ面倒なことやらかしてくれたかわかっているの!?≫

 ペルセポネはヴァンパイアが言い訳を話す隙も与えず、一方的に怒声を浴びせ続けた。ヴァンパイアもようやく事の重大さに気づいたようだ。隣で聞こえていたリッチーもこればかりはどうしようもなく、頭を抱えて深い溜息をついた。

「やっちゃったね」
「どうしましょう、リッチー様」
「……とりあえず言えることはひとつだね」
「そうですね」
≪……何を言えるっていうのよ≫
「「勇者たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!」」
≪次回作に期待してたまるか!≫

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