勇者はなぜチーレムなのか?~剣と魔法の異世界白書~

木塚かずき

第15話 なぜ勇者のやってこない魔王城は暇なのか

「武具馬具武具馬具三武具馬具合わせて武具馬具六武具馬具、バスガス爆発ブス自爆バスガス爆発ブス自爆、赤炙りカルビ青炙りカルビ黄炙りカルビ赤炙りカルビ青炙りカルビ黄炙りカルビ、赤アロエ飴青アロエ飴黄アロエ飴赤アロエ飴青アエロエロエロ……」
「また発声練習ですか?」
「うん。魔王なんてほっとんど最後にしか出番がないからね。ヒマなんだ。でもその最後の最後、僕の独り舞台では最高の演技をしたいと思っている」
「カッコいいんだかそうでないんだか……」
「で、勇者は今どの辺まで進んだの?」
「あ、はい実はそのことですが……」

 ヴァンパイアはペルセポネから連絡が無いことを心配していた。真面目な彼女のことだ。何か連絡が取れない理由があるのかもしれない。同じ魔王軍の幹部として、敵対している人間などと一緒にいたら――

「本当にそれだけの理由かな?」
「いったい何を言わせたいのですか、リッチー様!」
「いや、べつに? なーんにも」

 リッチーが何かにつけてヴァンパイアをいじりたそうだった。なにせ彼らは暇そうだ。戦闘員を各地に配置して、ペルセポネからの進捗報告も無いとなるとやることがない。

「暇ですね」
「だから情景描写とか心情描写という概念の無い僕たちの回は会話ばかりになるんでしょ」
「リッチー様、メタ発言はお控えください」
「え、メタ発言はダメなの? うおおおお、それじゃこんな物語やめてやるー!」
「エタ発言も禁止です!!」
「でも実際のところ、僕たちの回は僕たち2人だけで保つの?」

 ヴァンパイアが返答に困り、沈黙が流れる。

「そういえばリッチー様、そろそろ勇者が魔王軍幹部の一員である、サキュバスとインキュバスに会う頃かと」
「誤魔化したね……」

 ヴァンパイアはサキュバスとインキュバスに懸念していることがあると伝えた。

「彼らは『性』を利用する悪魔だからね。この話が成人向けになってしまわないかどうか……」
「それも十分メタ発言でしょ……」

 ヴァンパイアが盛大なブーメランを放ってきたことで一瞬言葉を失いかけたが、2体のことは大丈夫のことだ。いくら性を利用する悪魔といっても、性交するわけではない。あくまでも口づけにてエナジードレインを行うというものだ。
 リッチー曰く、サキュバスもインキュバスもプライドが高いとのことだ。そのため勇者をヨイショしてやられるようなことはしないかもしれないようである。

「……となると、あの2体が『苦手なアレ』を勇者らが見つけられるかどうかですね」
「だね」

 苦手なアレ――サキュバスには牛乳を。インキュバスには聖水を、とのことだ。
 もし、弱点を知らなければ攻略ができない。その場合はサキュバス、インキュバスの虜になり、そのふたりを求めてずっとそこに居続けることになる。つまり、勇者一行は魔王城までたどり着くことが無くなるだろうとリッチーは言った。それを聞きなんとしてでも勇者に勝ってもらわないとと考えたヴァンパイアは急いでペルセポネに連絡を取ろうとしたが、リッチーが慎重になるよう求めた。そこでもしペルセポネが内通者であることがバレてしまえば、それこそもっと面倒なことになりかねないからだ。人間が近くにいる以上、ヴァンパイア側から連絡を取るのは危険で、ペルセポネ側からの連絡を待つのが賢明だ。

「ところでインキュバスに聖水というのはなんとなく理解できるのですが、サキュバスにはなぜ牛乳を?」

 リッチー曰く、厳密に言えば『倒す』のではなく『立ち去らせる』ためにそれらを使用するという。サキュバスは人間の男が寝ている間に精液を搾り取る悪魔だ。枕元に牛乳を置いておくと、それを精液と勘違いして持っていくため、人間は襲われないのである。
 ここでさらに、ヴァンパイアに疑問が浮かんでいた。サキュバス・インキュバスはなぜ人間を襲うのか。単に性欲の塊であるのであれば、お互いの身体を貪っていればいいのではないかとリッチーに聞いた。生々しい質問に引き気味のリッチーではあったが、真面目に答えた。彼らには生殖能力が無い。そのため人間の生殖能力を借りて、繁殖を試みているのである、と。

「なかなかむごい話ですね……」
「たしかにね。でもね、人間たちもそのことを利用しているフシがあるんだよ」
「どういうことですか?」

 人間の女は望まぬ妊娠や、父親がわからない子供を身ごもった時はインキュバスの仕業だと言い張るのだという。インキュバスにとってはとんだとばっちりとも思えるが、悪魔・人間共にお互いを悪い意味で利用しているため、どっこいどっこいなのではないかとリッチーは言った。また逆に、平凡な両親から優秀な子供が生まれた場合もサキュバス、インキュバスによるものだと言う人間もいるようだ。

「なんというか、人間の男女関係ってドロドロすぎやしませんか?」
「そうだねぇ。なんでもそんなドロドロ愛憎劇が映像化されてるとかなんとか」
「そうなんですか!? 変わった趣味ですねぇ」
「人間の女性、特にお昼休憩をしている主婦が好んで見るみたいだね」
「どうしてそんな醜いものを好むんでしょうか」
「普通に生活していたらとても経験できないような、非日常的なことが好きなんじゃないの。程度が軽いものならまだしも、重いものになるとそれはもはや愛憎劇を通り越してファンタジーの世界だと僕は思うんだけれどもね」
「ファンタジーって、そこまで行きますかぁ? またまたぁ、我々の世界じゃあるまいし」
「おっ、ヴァンプ君言うね~!」
「はっはっは」
「はっはっは」



「結局最初から最後までメタ発言かよ!」

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