不幸のスカート、幸福のスカート

石川中正

恥じらいのスカート


1994年5月。初夏の日差しが美しく映える一級河川のほとりで、1人の美しい女性が向こう岸を見つめていた。彼女の名は敷田舞夢(しきた まいむ)。青春真っただ中、20歳の大学生である。

「そろそろ行くか…」

時計は16時22分を指していた。舞夢はこれからバイト先へ向かうのだ。彼女が勤務しているのはガールズバー。その美貌を活かし、リッチなオジサマたちからお金を巻き上げているのである。

「おはよーございまーす」

なんとも力の抜けた挨拶が、この店の文化だ。特に店員に活気がないというわけではない。開店前には必ずミーティングがあるし、研修もよく行われる。売上を上げるため、日々努力を積み重ねる優良店舗だ。
そしてこの店には一つだけ、他の店とは違うルールがある。それは「有料で女の子にパンツを見せてもらえる」というものである。スカートを捲る客もいれば、床でしゃがませてパンツを拝む者もいる。また、「捲り放題」「見放題」なるオプションも存在し、富裕層の男性から絶大な人気を誇っているのだ。

「やだあ、社長さんたら。エッチなんだから♡」

「あん、だめ、恥ずかしい♡」

店内にはスカートを捲ってスケベな顔をするおっさんの笑い声、そしてそのおっさんたちの理想の反応を演じるスタッフの恥ずかしがる声が響く。



朝5時。終業後に舞夢と同僚の厚木紀子(あつぎ のりこ)が一息ついていた。

「紀子、いつもスカート捲られた時いい反応するよね、男の人の理想だよねあれ」

紀子はスカートを捲られるとき、毎回両手で股間を押さえ、パンツを隠そうとする。その反応がリアルでお客から絶大な人気を得ているのだ。

「いや、本当に恥ずかしいのよ、だってパンツ見られるんだよ?そりゃ抑えるよ」

「正直慣れちゃってさ、パンツ見られても全然恥ずかしくないんだよね。今日も見せまくっちゃった。そういうのがお望みの人もいるみたいだけどね」

舞夢は羞恥心がなくなってしまい、大学でもパンチラをしまくっている。

「華の20歳が大事な大事なおパンツを安売りしちゃだめよ」

紀子は冗談っぽく舞夢を窘めた。







翌日。始業前のミーティングが始まった。

「最近、敷田さんの指名が減っています。前月より15%落ちていますね。お客さんからは『捲っても反応がない』とか『隠す気ないでしょ』なんて言われてます」

店長が少し語気を強めて言った。

「は、はあ、確かに自覚はあります。正直全然恥ずかしくなくて。慣れちゃって。」

「リアルな反応を求めているお客様が多いので、そこは演技ですね」

「分かりました。気を付けます」


開店後、舞夢はいつものようにオジサマたちの相手をしていた。

「マイ、指名入りましたー!」

マイとは舞夢の源氏名だ。ほぼ本名で少々危険な気もするが、1994年でまだネットワークが発達していない世の中のため、問題ないのだろう。

「ご指名ありがとうございまーす、マイです♡」

舞夢を指名したのは、ラジオ局勤務の北本正明。身長は180越えで精悍な顔立ち、舞夢の理想の男性にかなり近い。

(わあ、高身長でハンサム♡楽しくなりそうだぞ…)

舞夢は久々にいい男から指名が来てワクワクドキドキしている。

「さ、早速なんだけど、四つん這いで向こうを向いてもらえるかな…。そういうのが好きなんだ…」

正明がそのハンサムな顔も台無しになるほどの助兵衛な顔で舞夢にお願いをした。

「もう、お兄さんたら。エッチですね♡」

舞夢は嫌がる素振りを全く見せず、正明のお望みの体勢になり、薄いピンクのパンツを露にする。

「あ、マイちゃん。濡れてる…?」

正明はマイムのパンツに小さなシミを見つけた。

「え、嘘!いやあん!」

舞夢はあまりの恥ずかしさに両手でスカートを押さえて立ち上がり、必死にパンツを隠した。

「やばい、恥ずかしい…。もう、お兄さん『濡れてる』なんて言わないでよ、変態!」

舞夢の顔は真っ赤になり、少し息が荒れている。



この出来事以来、舞夢の勤務中の態度は大きく変わった。

「マイちゃん、失礼するよ、むふふ」

頭の禿げたオジサマが、舞夢のスカートに手をやる。すると、

「やん!っちょっと!きゃあ!」

あの日以来、舞夢はパンツを見られることに抵抗を覚え、スカートを必死に押さえてパンチラを全力で阻止するようになってしまった。

「ぐへ、いい反応だねえ!たまらないよ、その恥ずかしがる姿」








そして、あの日以来変わったことがもう一つある。
舞夢の1日の指名数が2倍になったのだ。


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