不幸のスカート、幸福のスカート

石川中正

人気者のスカート

2009年7月25日。神奈川県のとある街に、一人のアイドルがいた。
桜川未唯(さくらがわ みい)、本名、久慈美奈(くじ みな)高校3年生である。
恵まれた容姿とモデルのような体型で芸能界にスカウトされたが、思うように売れず、悶々とした日々を過ごしていた。

「未唯ちゃん、やっぱりグラビアに転向するのがいいよ、それだけの綺麗な脚と胸があるんだからさ、服着てちゃもったいないよ」

所属事務所の社長が未唯を説得する。この話が出たのは一度や二度ではない。未唯が歌手として売れそうにないと見るや否や、頻繁に身体を武器に仕事をさせようとするのだ。

「いや、せめて高校を卒業するまでは…まだ脱ぎたくないんです、もう少し清純派でいたいです…」

「いや、水着になったからって汚れてるわけじゃないんだけどね、清純派グラドルもうちの事務所にもたくさんいるわけだし」

未唯はこの話が出るたび、「高校生の間はグラビアはやらない」と答えている。幸いアイドルであることは周りの友達にもあまり知られていないが、それでも水着になることには大きな抵抗があり、両親もそれには反対しているのだ。

「はぁ、売れないなぁ…今は高校生だからいいけど、年齢食うとこのままではきついな…やっぱりグラドルしかないのかな…」

未唯はこの路線にこだわりたい一方で、現実の厳しさも感じている。







「未唯ちゃーん、ネット放送のバラエティの仕事来たよー、受けといたから。放送は8月6日ね。生放送だってさ」

7月31日、マネージャーから電話があった。自分の動画配信チャンネルとSNS以外ではなかなかメディア露出の機会がない未唯にとって、ネット放送とはいえバラエティ出演はまたとないチャンスだ。

「絶対売れてやる…もうここでくすぶるわけにはいかないんだから!」

未唯は自身の明暗を分ける大きな仕事に全てをかけようと決心した。高校最後の夏。受験へ向けて勉強を頑張る高校生と同じくらい、未唯は本気で仕事に向き合おうとしている。

「とにかく可愛くならなきゃ!注目してもらわないと話になわならないもんね」

未唯は自身のSNSでアンケートを取った。

「未唯の髪型、ロングとショートどっちがいい?」

売れていないとはいえさすがアイドル、瞬く間に票が集まり、コメントもどんどんたまっていく。

「今のままのロングが可愛い!」

「ショートも見てみたい!」

「ボーイッシュな未唯たんは想像できない」

たくさんのコメントが寄せられ、あっという間に650票が集まった。
結果は圧倒的なロングの勝利。やはり清純派で"女の子らしい"というのが未唯の売りらしい。

「そっか、やっぱりこのままがいいんだな」

思いの外票が集まったということで、未唯はSNSの発信にももっと力を入れることにした。

「今日の朝ごはんでーす!」

「今日はこんなところに来てます!」

など、アイドルらしい投稿をすることを心がけた。全ては売れるため。少々無理をしている感があるが、「アイドルというのは私生活を切り売りする仕事だ」という先輩の格言を信じ、寝る時間以外は全てアイドルを演じた。

そして生放送当日。

「おはようございまーす!」

楽屋に入った未唯は、スタッフに元気よく挨拶をした。

「未唯ちゃん、最近よくSNS更新してるね、フォロワーも増えてきたでしょ」

テレビ局のスタッフも、未唯の頑張りに気付いているようだ。

「この番組を見てもらって、もっと世間に認知されたいんです!アイドルとして頂点目指したいので」

いつになく気合が入る未唯。これまでの柔らかな表情とは打って変わって、もはやアスリートのような戦う目をしている。



本番。クイズ番組で、未唯はどちらかと言えばおバカなキャラを求められていた。求められているといっても未唯の学力からすれば本気でクイズに挑めばちょうど要求されている具合の誤答をすることができるため、その点において無理をする必要はない。

番組は進み、全員で縄跳びを飛びながら問題に応えるというコーナーにうつる。

「さあ、ここからは大縄を飛びながらクイズに答えてもらいます!最初は桜川未唯さんから!」

未唯が解答席から縄へ向かって歩き始めた時、何かに気付いた。

(あれ、なんか妙に太ももに風を感じる…)

(あ!ヤバイ…嘘だ…)

未唯は思わずスカートの裾を両手で押さえた。

(見せパン履き忘れてるーーーーー!)

なんと、未唯は楽屋に用意してあったはずのパンチラ防止用のオーバーパンツを履き忘れ、スカートの下は生パンだったのだ。この状態で縄跳びをすれば確実に本物の下着が見えてしまう。生放送のため、急遽オーバーパンツを楽屋に取りに戻ることも出来ず、編集の力に頼ることもできない。かといって、スカートの裾を握り締めながら縄跳びをするのも変だ。かえって怪しまれてしまい、生パンであることがばれてしまう。絶体絶命の大ピンチ。

(どうしよう…。まぁ見えたとしても、誰も生パンだと思わないか。ちょっとくらい見えたって大丈夫。)

未唯はそのまま縄跳びを続けることにした。

「それでは未唯さん、どうぞ!」

(ヤバイ、やっぱり恥ずかしいよぉ…。見えちゃう…。お願い!見えないで!)

未唯は祈ることしかできない。ここで弱音を吐いて縄跳びをやめてしまえば、今後の仕事にも大きな影響が出てしまう。
未唯は意を決してジャンプを始めた。よりによって、今日の衣装はかなり短いフレアスカートだ。未唯の願いも虚しく、視聴者には未唯の紫のセクシーなパンツがチラッと見えてしまった。





「おおー!!今見えたよな?桜川未唯のパンツ!生放送はこういうハプニングがあるからいいよな」

「お、どうせ見せパンだろ。そんなもんに興奮するなんて、トモもまだまだ子どもだな」

遠くのどこかの街でこの番組を視聴していた大学生の佐竹友則(さたけ とものり)が未唯のスカートの中が見えたことに興奮し、同じ大学の加藤凌(かとう りょう)が冷静なツッコミを入れた。




未唯が恥ずかしさを堪えながら縄を跳んでいる時、更なる悲劇が起きる。スタッフが勢いよく縄を回しすぎ、縄がイレギュラーバウンドしてしまったのだ。変な方向に跳ねた縄は真っ直ぐに未唯の方へ向かい短いスカートを捲り上げ、紫のパンツが露わになる。

「いやーーーーん!」

このハプニングには、さすがの未唯も耐えることができなかった。両手でスカートを押さえ、その場に倒れ込む未唯。

「ダメ、パンツが…やだ恥ずかしいぃぃぃぃ」

「いや、でも見せパンでしょ?」

駆け寄った女芸人が、小さな声で彼女に声をかける。

「な、な、生パンなんですうううう…。見せパン忘れちゃって」

恥ずかしさのあまり、大声で自分が生パンであることを暴露してしまった。手で押さえたパンツは完全には隠れず、まだ見えたままの状態である。

「え!生なの!?隠さないと!ヤバイヤバイ」

近くにいた女性スタッフと出演者が必死に隠し、なんとかその場は収まった。








「すみません、ほんとにすみません」

マネージャーと未唯は、番組終了後スタッフに平謝り。

「ま、まぁ、未唯ちゃんは辛かったかもしれないけど、今まででトップの視聴者数だったし、もう録画放送の再生回数も伸びてるみたいだし」

謝罪が終わり、未唯は自分のSNSを開いた。

「あれ、なんかすごいことになってる」

未唯のフォロワー数が番組中に10000人以上増えていた。

「マネージャー、フォロワー10000人くらい増えてます」

「お!番組の効果早速出たな。番組というか、生パン効果?」

放送を見たユーザーの投稿には、たくさんのハッシュタグが付けられている。

#桜川未唯
#スカート
#パンチラ

番組は瞬く間に広がり、未唯は一気に有名となった。



未唯はこの後すぐにCDデビューが決定、ドラマの主演にも選ばれた。この幸運の全ては、オーバーパンツの履き忘れから始まったのだ。
以後の人生において未唯は、プライベートも含めて生パンを見えないようにする類のものを身につけることなくその生涯を終えた。

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