未来

ふぁーむ

いつもの日常

 校庭を赤く染める夕日に気付き本をそっと閉じる。

「…微妙だったな。」
佐川美穂は溜め息まじりの声で呟いた。

この本は美穂の親友の清水鈴葉が恋愛に疎い美穂の為に図書館から借りてきた物だ。

美穂は本を鞄にしまい教室を出る。
帰り道を歩きながら美穂は鈴葉にどう感想を伝えようか考えていた。

鈴葉が貸してくれたこの本は学校が舞台の恋愛もので主人公が転校してきた青年に溺愛されるという趣旨の話だった。

「こんなことあるはず無いのに。」

皮肉めいた口調で言いながらも鈴葉の必死で勧めてくる姿を思いだし口元が緩む。

高校を出て30分ほどバスに乗り、10分ほど歩いたところに美穂の自宅がある。おもむろに鍵を取り出し玄関を開ける。

すん、とニンニクの香りが鼻をくすぐる。

「あ、姉ちゃん。お帰り。」
夕食の準備の手伝いをしていた弟の啓太が言う。その声に反応しキッチンで料理をしていた母親の早織が振り向く。
「あら、お帰り。少し遅かったのね。」

「うん。教室で残って勉強してた。」

「偉いじゃない。受験生は大変ねえ。来週も模試でしょ?お母さんが高校生の頃はこんなにたくさん模試なんて無かったわよ。」

軽く愛想笑いを返して自分の部屋に向かう。

部屋着に着替え机の上にある志望校調査表を一瞥しリビングへ戻る。

リビングではすでに母親と弟と兄が食事を始めておりテレビではニュースが流れていた。
空いている椅子に座り麻婆豆腐をご飯の上にかける。

「勉強はどう?進んでいるの?」
と母親が言う。
「あーうん、まあまあだよ。」
麻婆豆腐に入っている生姜を母親のご飯の上に移しかえながら答える。
「この生姜が美味しいのに。」
少し笑いながら母親が言うと、それを聞いた弟も自分の生姜を母親のご飯の上に移しかえ始めた。 

今日は大丈夫な日だ、と美穂は心の中で思った。

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