仮面舞踏会 ~隠密優等生《オタク》な俺と生徒会長《おさななじみ》の君と~

「S」

レポート 1:『呼び出しの鐘』

「――それで、彼女と接触してしまったと……」


「まぁ、そんな感じです」

一通りの説明を終え、平然を装う自分。
威厳のある風格を前にすると、少しばかりは恐れを浮かべてしまうのは仕方のない話。

ましてや、今目の前にいる相手に威厳が無くてどうするのかという話でもあるのだが、窓ガラスから差し込む光が、より一層その風格を際立たせるのだから、どうしようもない。


――『春乃瑠璃はるのるり』校長。


威厳と風格がまるで組長ドンだと謳われるほど、気迫溢れる若々しき女性。
前代未聞。異例の事態として就任した22歳の学校長。

他人に優しく、時に厳しく。

教員、生徒からの信頼は厚く、PTAなどからの批判もなく、国からの問題視もない。一体どういうことなのかと思うのが普通の、謎多き人物。

いろいろ不明で気になる点の多い不思議な人ではあるが、この人に関してはあまり踏み込まない方がいいというのが、暗黙のルール。


――何故なら、


「……君は死にたいのかな?」

この人は唯一、こちらの素性を知った数少ない人物の一人であり、俺のことが大好きすぎる狂気に満ち溢れたヤンデラーなのだから。

「外見的にですか?精神的にですか?それとも社会的にですか?」

「どれがいい?」

「そうですねー……外見的に言えば目は死んでるんで、かといって精神的にはと言われればもうとっくになっちゃってるんで、個人的には社会的にっていうのが一番嫌ですかねー」

「じゃあ全部にしよう」

「Oh、質問の意味よ……」

途端、一本のペンが頬を掠めて壁へと突き刺さる。

「ペンをそんな風に生徒に投げてはいけません!」

「じゃあ、刺せばいいかな?」

「俺の心に?」

風穴が空くわ。

「生憎私は、恋のキューピッドではなくてね」

「酷い!私を騙してたのね!酷い女!顔面凶器!」

「ほう~……君はやっぱり死にたいようだね……」

「すみません失言でした許してください」

ほんとすんませんしゃれにならないんでそのサバイバルナイフしまってもらっていいですか?(ついでに背後に飾られた日本刀も片づけてくれるとありがたい)

「……と、ふざけるのもいい加減にして、そろそろ本題に入ろうか」

「このノリ、いつまで続けなくちゃいけないんですか?」

正直疲れる。

「私が飽きるまで」

「そんな日が来るとでも?」

来るかそんな日?
ふっ、ありえん。

「じゃあ、君の心が砕け散るまで」

何この人、すげー怖いんだけど。
マジコワイわ~、言うまでもなく。

「そんなのもうとっくに経験済みなんで。あんなのは人生で1回ぽっきりで十分ですよ」

そうそう。


――あんなのは一度きりで、十分だ。


「なら、君が私のものになるまで」

「もうとっくになっちゃってるじゃないですか」

ほとんどおもちゃ代わりだけど。

「こんなのはただのスキンシップだ」

「スキンシップで人が殺されかけるのは、某暗殺教室だけで十分ですよ」

教員が生徒を殺しにかかるとか、体罰の境界線も遥か彼方だわ。

「とにもかくにも、君と話すと話が脱線するから困るな」

「そっくりそのままお返しします」

誰のせいかと言われれば、8割方があなたです。

「……まぁそれもこれも、君が相変わらずのように私の前でそんな仮面を被り続けているからなのだが、ね」

「それに関してはノーコメントでお願いします」

だって、そういう質なんだもの。


――仕方がないだろう?俺はそういう奴なんだから。


「君は今の状況が、本当に理解できているのかね?」

「……」

この人と話すといつもこうだ。
こちらのリズムを狂わされてばかり。

「……わかっているつもりですよ」

急にシリアスな話題に切り替える。
そしてコロッと、俺はボケに走る。

この流れが自然と定着してしまっているあたり、俺もこの人の扱いをだいぶわかってきているみたいだ。


――年輩狂者の扱いは、お道化どけるぐらいが調度良い。


「これからどうするつもりかね?」

「さあ?どうしたらいいですかねぇ」

「質問を質問で返すんじゃない」

「別にいいじゃないですか。減るもんじゃなし」

「お前はおっさんか」

「まぁ精神年齢10歳から42歳という診断結果を叩き出した男ですからねぇ」

いやこれ、マジな話しですから。

「はぁ……君と話すと疲れる」

「同感」

それはこっちのセリフだけどな。

「で、君はほんとにどうするつもりかね?」

「……」

「彼女とどうなりたい?」

「……どうするも何も、俺にそんな権利はありませんよ」

ほんと、この人はやりづらい。
疲れる上に、面倒臭めんどくさい。
俺はこの人が苦手だ……。


――ただ、


「まぁ、何をするにも君の自由だ。できる限りの配慮はするよ」

「ありがとうございます」

この人は基本優しくて、暖かくて、俺は不思議とこの人とのやり取りが、嫌いじゃない。


「――よ」


「ああ」

校長室を後にして、扉を出た先。


壁に背を預けるようにして佇む、茶髪にチェーン付きリストバンドをしたガタイの良い男――『氷室輝迅ひむろけんしん』。


この学校に来て唯一の友と呼べる存在。
伝えていたわけでもないのに、何故こいつがここにいるのかと思うも、足は平然と廊下を歩いていた。

「そんで?今回は何本飛んできた?」

「1本」

「おお~、だからそんな中二チックな傷ができてんだな」

「+サバイバルナイフを突きつけられた」

「Oh……堕道ヤンデレ・ロードまっしぐらだな」

こいつは校長の本性を知っている。

俺が話したというのもあるが、もともとは感づいていたようだったので、あまり話した意味はなかったようだが。

「……なぁ」

「なんだ?」

「お前、生徒会に興味あるか?」

「急にどうした?」

「いや……」

言い淀み、目を逸らす自分。
そんな俺を見かねてか、氷室は察しよく口を開く。

「あー、まぁあるかないかで言えば、ある方でもなくはないが……またなんか厄介ごとか?」

「まぁ、そんなところだ」

「は~、それで俺を誘ってんのか」

「そういうことだ」

勘の鋭い奴。漠然とした説明に察しよく答えてくれる。
俺はそんなにもわかりやすい男だろうか?

「それで?なぜに生徒会?」

「長重に俺の本性がバレた」

「まじか……それで?」

「生徒会に誘われた」

「よかったじゃねぇか」

「よくねぇよ……」

「好きな女子に話しかけられ、同じ空間を共にできる。最高じゃねぇか」

「そう単純なものでもねぇんだよ。というか、それ聞くとほんとただの勧誘だな……」

「まぁ、お前の事情的にわからなくもないが……お前は少し頑なになりすぎなんだよ」

「逆にお前は楽観的過ぎる」

「ははー、それ言われると何も言えねぇな」

じゃれ合うような冗談。
問題の深刻さ故か、ただ自分が逃げているだけなのか、笑い話で済まそうとする。
笑い事じゃないというのに、能天気な自分がいる。

そりゃ、逃げたくもなるさ。
もう痛いくらいに現実は知っている。
世界なんて、とうに見限った。


でも、こればっかりは――。


「結局のところ、お前がどうしたいかによるよな」

「そうなんだけどな……」

否定しようのない正論。
複雑にも逃さないというように背中を押してくれる彼の言葉に嘆息する。

「ま、俺はお前が何をしようと手伝ってやるよ。生徒会だっけー?遠慮なく扱き使え。お前には返しきれない恩があるからな」

「んな大袈裟な……」

無邪気な笑み。
呆れるも、その支えに勇気づけられる。


「それに――」


すると肩にポンと手を置いてきて、

「そんなおもしれぇ話し、退屈しなさそうだしな」

そう言い放った氷室の言葉に微笑して、その脛に蹴りをかましてやった。





昨日今日とでいろいろな事があった現状。

出会うはずのない彼女と遭遇した昨日の放課後。
朝っぱらから呼び出しを食らった今日の先ほど。

頭の中は、彼女のことでいっぱいになり、その節々で過去の思い出がひしめき合っている。
挙句、授業の内容は一切頭に入ってこず、いつも通りノートに黒板の文字を書き写しただけとなった。

そうやって複雑にも悩みに悩んだ末、時間はあっという間に過ぎて行き、放課後を迎えた。


――よし、バックレよう。





あれから1週間の時が流れ、読書に励んでいたとある休憩時間。

生徒会の件について、『行かなければ問題ないよね?』という最強の逃げ道を導き出し、何の音沙汰もなく忘れかけていたその頃。

『2年3組、真道鏡夜くん。至急、生徒会室に来てください』

流れ出る長重の声。


――まじか。


まさかの呼び出しに驚くも、『まいっか』と手にあるラノベに目を落とした。

「おい鏡夜、行かなくていいのか?」

すると向かいに座っていた氷室から気のない声をかけられ、

「んー、問題なし」

「あっそ」

気のない返事と共に、二人して流すようにページを捲っていた。


――2時間後。


窓際最後尾という最高の自席で氷室と昼食をとっていると、何やら廊下がざわついていることに気づいた。

そこに氷室は食いついているものの、嫌な予感がしたため無視するように流していたのだが、それがどうやら近づいてきたようで、隣に佇む影に氷室が呆れ顔を浮かべていることに察しがついた。

「し~ん……ど~う……く~ん……」

圧倒的ホラー感。

聞き慣れた声を耳にそれが誰なのか確信し、さすがにそれを目にするのは引けたため、とりあえず口の中の物を咀嚼し飲み込んで、

「どうしたんです、会長♪」

爽やかな笑みで応えることにした。

「会長♪じゃないわよ!どうして生徒会に顔を出さないの!あんなに乗り気だったのに!」

「なんとなく」

「はあ!?」

苛立ちを増幅させる長重。
『単純だな』と、心底思う。

それもそのはず。

こうなることは最初から目に見えていたのだから。
全部が全部、計算通りだったのだから。

あの日、生徒会に誘われることは確かに予想外のハプニングだった。
けれどそこからの対応に関しては慣れたものだった。

お道化た風に受諾し、それが嘘か誠かは相手の判断に任せる。
この場合、長重は半々だろう。

自分を好きだという口説き文句。ふざけた了承。
掴みどころの無い演出から、ちゃんと生徒会に協力するかどうかは半信半疑だったはずだ。

本当に好意を持ってくれているのなら協力的。
でもふざけた態度からそうじゃない可能性もある。

それにより導き出される選択肢は二つ。
あの日の了承が嘘とした時、長重の性格上、今のような呼び出しが必ずある。
もしそれがなかったとすれば、晴れてあの勧誘は無意味なものとして終わる。

1週間前まで後者だと思った現状は、残念ながら案の定の前者へと変わってしまった。
が、もちろんそうなった時の対応も考えてある。

そしてそれは、そろそろ現れる頃合い。

「そんなに不真面目なら、別の人に副会長の座を譲ってもらいますからね!」

ほら来た。

長重は基本的に真面目な性格をしている。
子供のような単純さ故に、怒りを露わにした時は感情に身を任せる。

だから、これを利用しない手はない。

「そ」

あくまで取り繕った笑みでこの場を凌ぐ。
さらにそこに、

「俺も、そうした方がいいと思うよ」

煽りの一言を加えてやれば、

「~~っ!」

長重が激怒するのは明白だった。

「もういいです!あなたなんて知りません!」

「あ、ちょい待ち」

「何っ!?」

氷室こいつ、生徒会加入希望だってよ」

「おまっ……」

『きたねぇぞ』と、言いたげな表情をする氷室。
先ほどからこちらの会話に爆笑していたため、これは当然の報いである。
それがわかってか、氷室は眉を顰めながらに嘆息した。


「まぁ、確かに興味はあったが――」


言葉を区切り、こちらを一瞥する彼。
するとニヤリと笑みを浮かべて、

鏡夜こいつと一緒なら入ってやらんこともないぜ?会長さん」

「……そうね」

引き留めた足。
そのせいで雲行きが怪しくなっていくのを感じる。


――これは、


「ま、その席にまだ空きがあればだけどな」

憎たらしい顔。
余裕の笑みから、『お返しだ』という匂いがぷんぷんする。
蛇足のような、してやられた感が半端ない……。

「調度、会計に空きがあるんだけど……どうしようかしら」

迷っている長重。
様子からして冷静さを取り戻している。

それ即ち、副会長任命の件が解答によっては復活する恐れがある。
だから必然と『断れ』という念を強く抱いていたのだが、

「今ならなんと、俺を通して鏡夜の全てがついてくる!もちろん、意のままに操ることだって可能です!どうです、お客さん?」

「買ったわ!氷室くん、よろしくね!」

「あいよ」


――うん、詰みかな。


大抵の願いは儚く潰えることを思い出した今日この頃だった。

「それじゃ、また放課後♪」

「おう」

「真道も、今度こそちゃんと来てよね!」

「わかったよ……」

そう言い放ち、手を振って立ち去って行く彼女。

その後ろ姿を遠目に眺め、氷室に目をやれば、ニタニタと気色悪い笑みを浮かべていたため、残していた唐揚げを平らげてやった。

          

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