乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第101話 エピローグ
以前にも感じたことがあるような浮遊感。
だが以前とは違う何かに包まれているようなこの暖かい感じ。
ここは一体どこなのだろう? と俺は目をゆっくりと開ける。
「目が覚めたようですね」
目の前ではただの布を身に纏っただけの長身でモデルみたいな引き締まったスタイルをした美女がテーブルでお茶をしていた。
周りを見てみるが美女と美女が座っているイス、テーブル、お茶のカップ以外のものが存在することはなくどこまでも白く果てのない空間がこの場を支配している。
「ここはどこなんだ?」
「ここは天界と下界の狭間ですよ」
俺の質問に答えたのは目の前の美女。
そういえば何で俺は存在出来ているのだろう?
確か俺は四強に倒されたはず……。
俺がそう疑問に思っていると美女はおもむろに立ち上がり俺のすぐ側まで歩いてきた。
「あなたはどうしてここに来たか分かっていない様子ですね」
「ああ、確か俺は死んだはずだからな」
「ではあなたがここに来た理由を教えてあげましょう……とその前に自己紹介させて下さい。私は名前はサラス、いわゆる神という者です」
「はぁ神ですか……」
「何ですかその反応はあなたに称号を与えたのは私ですよ? ほら何でしたっけ、なんとか風タラコパスタみたいな」
なんとか風タラコパスタ? そんな適当な称号は与えられた覚えはない。
与えられた称号ならば……。
「もしかして『車に轢かれちゃった系男子』か?」
「そ、そうです! それです! あれはあなたを不憫に思った私が与えた称号なんです」
「はぁ……」
「またその反応ですか、分かりました。それなら私が神だって証拠を見せてあげましょう」
サラスは俺から少し離れると手を自分の胸の高さまで上げ、そのまま振り下ろした。
すると次の瞬間には俺が転移する前の世界にあった液晶テレビが出現していた。
「液晶テレビだと!?」
「驚くのはまだ早いですよ」
そう言ってサラスは液晶テレビと一緒に出現していたリモコンの電源ボタンをポチッと押す。
電源をつけた直後は砂嵐が流れていたが次第にある映像が流れ始めた。
「これは……カタストロの町? ということはそのテレビって」
「そうです、このテレビはアンクロットの世界を映しています。どうですかこれで私が神だと信じましたか?」
元々信じていないわけではなかったが胡散臭いと思っていたことは事実。
だがこうして目の前で見せつけられればサラスが神だと信じざるを得ない。
「まぁ前置きはこれくらいにして本題に入りましょう。私があなたを呼んだ理由を今からお教えします」
どうやら俺はサラスによってここに呼ばれてきたらしい。
一体どんな用があるのだろうか?
「その前に確認ですがあなたには仲間がいますよね?」
「ああ、いる……いや今はいたという方が正しいのか」
「私があなたを呼んだ理由はそこにあります」
サラスは今のところ常に微笑んでいるのだが今の言葉でさらに微笑みを強める。
「カズヤさんあなたは仲間の女の子達を何度も泣かせましたよね?」
「いや、泣かせるつもりはなかったんだが結果的にそうなるかもな」
「そうですよね。なら一言だけ言わせてください」
サラスはゆっくりと目を瞑り、それからカッと目を勢いよく見開いた。
「このゴミ男! 私にとって日々の仕事の癒し的な存在の娘達をよくも泣かせてくれたな! 覚悟は出来てるんだろうな? おい!」
「……ゴミ!?」
今のは俺の聞き間違いなのだろうか?
たった今、神であるこの美女からあり得ない発言が聞こえた気がする。
「すまないがもう一度言ってくれないか? なんか消滅したときに耳をやったみたいで聞こえてくる言葉がおかしいんだ」
「それは大変ですね、ゴミ男さん」
次は満面の笑みを浮かべながらの暴言。
どうやら聞き間違いではなかったようだ。
もしかしてこれを言うためだけに俺を呼んだわけじゃないよな……。
「あの、それだけのために俺って……」
「はい? それだけ?」
「いや何でもないです。今日はいい天気ですね」
「ここに天気なんてものは存在しませんよ。というわけでカズヤさんにはアンクロットに戻ってもらいます」
「戻る? でも俺はあの世界で魔王っていう認識をされていて……」
「私を誰だと思っているのですか? 神ですよ? まぁ本当はいけないことなのですが世界に干渉して人々の認識をずらします。ついでに魔王は倒されたという認識にすり替えてもいいかもしれませんね。そうです、そうしましょうか」
サラスは液晶テレビを出したときのように手を振り下ろす。
すると今度はよくフィクションなどで爆弾を起爆させるときに使うスイッチのようなものを自らの手のひらに出現させた。
「ではいってらっしゃい! あと次にあの娘達を泣かせたら神の名において裁きを与えますのでお気をつけて」
サラスはその言葉と同時に手に持っていた起爆スイッチのようなものをポチッと押す。
俺の周りがゴゴゴッと振動し次の瞬間には床が消えて、真下には空が見えた。
「……ってそのまま落とすのかよぉお!」
そして俺は空へと投げ出された。
◆◆◆◆◆◆
目を開けると視界一杯には青い空、周りからは草花の香りがしていた。
どうやらここは草原のようだ。
「俺は本当に戻ったのか?」
起き上がろうと地面に手をつくと左手に何か紙のような感触が伝わってくる。
左手を見るとそこには封がされている手紙があった。
「なんでこんなところに手紙が」
誰かのだったら悪いがどうしても気になってしまったので俺は開けることにした。
「なになに? カズヤさんが今いるのはあなたが壊滅させた盗賊達のアジトの近くですがあなたの仲間はサタンさんのところにいます。大変だと思いますが頑張ってください……」
つまりどういうことだろうか。
その距離を歩けと言っているのか。
確かサタンのところまではいくつも山を越えていかなければいけないはず……。
そこで俺はふと手紙に続きがあることに気づく。
「えーと……追伸、いつまでもあの娘達が悲しんでいる姿を見るのは辛いので三日以内に辿り着いて下さい。出来なければあなたに天罰を与えます」
あの神ならとんでもないことも平気な顔でしてきそうだな。
無茶とは思いつつもあの神が怖かった俺はすぐに立ち上がり、サタンがいる魔国の方へと走る準備をする。
ステータスは消滅したときと変わっていないようだし全速力で行けば何とか間に合うだろう。
復活早々降りかかった災難に俺はため息を吐きながら、まずは山へと走り出した。
神の天罰を受けないため、なにより仲間達のもとへと戻るために──。
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