乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第100話 最後の戦い Ⅱ
「そんなことがあったのね」
あかりは俺が話をしている間、俺の目を見て聞いてくれていた。
「ああ、ちょっと状況がよろしくなくてな。今は魔王に丸投げしてる」
「サタンさんでどうにかなるのかな?」
「いや、正直厳しいと思う」
「そっか……私達に何か出来ないのかな」
「俺達にか……」
俺達に出来ること。
例えばここから出ていくか?
いや例え出ていったところで包囲されているので結局四強との戦闘になってしまい今の状況は解消されない。
ならばいっそのこと四強を倒すか?
四強を倒せば今の状況は解消される。
だが四強の実力を知った俺にはそれが到底出来そうにないことだと分かる、それに例え倒せたとしても四強の後には勇者も続いているので今度は勇者と戦うことになってしまう。
──それならば俺が四強に倒されるか……。
俺は最後に出てきたこの案が自分達に出来ること関係なくこの状況の一番の最適解ではないかと思い始めていた。
だってそうだろう、魔王である俺が倒されれば四強は森の包囲を解く、後に続く勇者が傷つくことだってなくなる。
それにサタン達に迷惑をかけることもなくなる、そしてなにより俺が半壊させてしまったカタストロの町の人達への償いにもなる。
しかしただ一つ問題がある。
それは仲間達が許してくれるかどうかだ。
俺は真剣な眼差しであかりを見る。
そんな俺を見てあかりは何かを察したのか一つコクリと頷いた。
「その様子だと私達に出来ることが見つかったのね」
「ああ、見つかったは見つかったんだが……」
「私達は仲間でしょ?」
あかりは隠し事は許さないとでも言うかのようにその言葉を発する。
それを受けて俺はありのまま話すことにした。
「それは俺が四強に倒されるってことだ……」
話を聞いたあかりは顔を俯ける。
「どうしてまたそんなこと……」
「それが一番最善だって気づいたんだ。これだと両方とも被害は一番少なくて済む」
「違うよ、そういうことじゃない。何で和哉が犠牲になるって勝手に決めてるの? 私達には出来ないことなの? またいなくなるのは嫌だよ……」
あかりの気持ちも分かる。
仲間がいなくなるのは俺だって悲しい。
だがこれだけは仲間には出来ないこと。
これは気持ち云々の問題ではなく四強を含めた町の人達に魔王と認定されている俺でなければ意味がないのだ。
「これは俺じゃなきゃ意味がないことなんだ。分かってくれ」
あかりはそれでも納得していないのか俺の肩へと掴みかかり激しく俺を揺らす。
「和哉はそれでいいの? 死んじゃうんだよ!」
「俺は元々死んだ人間だ。だから今更死ぬことを怖いとは思わない」
「でも私達のことはどうするのよ! 私一人じゃ何も出来ないよ」
「そりゃ皆がいるじゃないか。大丈夫だ、あかりならやっていける」
「でも……だったら……」
そこであかりの言葉がプツリと切れる。
あかりの顔にはいっぱいの涙が流れていた。
そして消え入るような声で一言呟く。
「私のこの和哉への気持ちはどうするのよ……」
あかりは今までで一番真剣そうな表情をする。
その表情に俺は誤魔化や嘘は受け付けないという空気を感じた。
「俺は……」
あかりのことは大事だと思っている。
守ってやりたいとも思っている。
でもそれはあかりの気持ちとは少し違うのだ。
「俺はあかりの気持ちに答えることは出来ない」
「そう……」
俺の言葉にあかりは一瞬悲しそうな表情をするがすぐに元の真剣そうな表情に戻した。
それから俺の肩を強く叩く。
「やるんだったらしっかりやってよね! 中途半端やって私達に被害が出たら許さないんだから」
「努力はするよ」
俺はそう言い残した後サタンに俺の決断を伝えるためこの部屋を出た。
◆◆◆◆◆◆
「本当にそれでいいんじゃな?」
「ああ、これが一番の答えだ」
「そこまで言うんだったらわしは何も言えんな。まぁお主とは短い間じゃったが楽しかったわい」
サタンが俺の肩を軽く叩く。
今思えばこの人って一応魔王なんだよなと少し不思議な気分になる。
俺は視線を一つ左にスライドさせて鈴音の方へと顔を向ける。
「お兄ちゃん……」
「まぁまぁそんな泣くなよ。今も泣き虫なのか?」
「泣いてなんかないよ!」
鈴音は自分では泣いていないと思っているのだろうが既に顔がくしゃくしゃに歪んでいて泣いているも同然だ。
どうやら今も鈴音は泣き虫のようだ。
次にソフィーへと顔を向ける。
「今までお世話になったわね」
「ソフィーはなんだかいつもの元気がないな」
「あなたがいなくなるとちょっと寂しくてね」
ソフィーにいつものような元気はなく、今も俯いて話している。
「ソフィーは元気なのが一番似合うと思うぞ」
「だったらこれからはそうするわ。皆のことは私に任せてちょうだい」
ソフィーはドンと強く自分の胸を叩く。
ソフィーに任せれば皆の今後は安心だろう。
そして最後にリーネへと顔を向けると彼女はステーキ肉が乗った皿を手に持っていた。
「これあげる」
「おう、ありがとう」
「冷めないうちに食べて……」
「今か?」
「そう……」
俺はあまり大きくないし一口でいけるだろうと皿の上に乗っていた肉を備え付けのフォークで刺し一気に口の中へと放り込む。
「どう? 美味しい?」
口一杯に肉が入っていて話せないので代わりにグッジョブと親指を上に立てた。
「良かった……」
何がしたかったのか分からないがどうやら納得したらしい。
このように俺はサタンの部屋へと繋がる階段の前でサタン、それにあかりを除いた仲間達と順番に別れを告げていた。
そして無事別れを告げることが出来た俺は戦場へと向かうため森の入り口の方へと歩き出した。
結局あかりは来なかったな。
俺がそう思ったそのときだ。
突然誰かの叫び声が聞こえてきた。
「このバカやろぉぉ! お前なんて嫌いだぁぁ!!」
よく聞いて見るとこれはあかりの声のようだ。
もしかしたらどこかで俺を見ているのかもしれない。
俺は歩きながら叫び声に返事をするように腕を突き上げた。
◆◆◆◆◆◆
「ようやくお出ましだね」
「皆! 魔王が現れたよ! 早く隊列を組んで!」
俺はそんな声が聞こえる中、町の門前にある平原の真ん中をゆっくりと歩いていた。
「出たな! 魔王!」
俺はその言葉を受けて立ち止まる。
そして隊列を組んでいる人達に向けて大声で宣言した。
「俺が魔王だ! お前らを殲滅しに来た!」
「ようやく本性を現したね」
俺の声に反応したのは四強のうちの一人、シエンだ。
「ああ、そうだな。流石に鬱陶しくなってな」
「やはり魔王は魔王というわけだね。では行くよ、僕の全力で君を倒してあげるよ!」
「望むところだ」
シエンはこの前と同じように目にも止まら速さで俺に迫ってくる。
「全隊員! 弓を引けぇ!」
シエンの突撃に合わせて隊列を組んだ人達が一斉に弓を放った。
弓の本数は数百本は越えているだろうが物理攻撃が効かない俺にとっては意味がない。
なので俺は矢を無視して前から迫ってきているシエンに集中する事にした。
「またこの前と同じ攻撃をする気か?」
「ふ、それはどうだろうね」
シエンは走りながらも笑みを浮かべる。
そして次の瞬間にはシエンの姿はその場から消えていた。
また上からと思い空を見上げるがそこには誰もいない。
どこだ? と周りを見渡していると体が突然動かなくなった。
「なんだ? 体が動かない……って氷か!?」
自分の体を見ると足元一帯には氷が張られており、俺の膝までを氷が覆っていた。
「やぁまた会ったね、私だよ」
左を見ると先程まではいなかったカイラが自らの杖を地面に突き刺している。
どうやら彼女によってこの氷は作られたようだ。
なんとか脱出しようと全力でもがくが膝まで氷で覆われているせいで動くことが出来ない。
しばらくもがいていると先程放たれた矢が俺のいるエリア一帯に降り注いだ。
「ぐわぁあああ!!」
物理攻撃は受けないからと矢を無視していたがこの矢は何か特殊なものを纏っているようで体に当たった瞬間俺はダメージを受ける。
「僕も忘れてないよね」
それに加えて俺はすぐ目の前に現れたシエンによってさらにダメージを受けた。
その衝撃で俺を地面に縛りつけていた氷が粉々に砕け俺は百メートル程先へと吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
だが流石は死霊のようでここまでされてもまだ立てるようだ。
「まだ生きてるなんてしぶといね。まぁこれでおしまいなんだけどね」
シエンが腕を上げるとその奥から掛け声が聞こえてくる。
「弓準備ぃぃ!」
どうやらもう一度弓で攻撃するらしい。
残りHPは半分以下…………この攻撃を受ければ俺のHPは0になる。
「引けぇえ!!」
弓が一斉に引かれ空へと矢が放たれる。
矢は弧を描くように空中を移動していき多くの矢が俺を貫かんと空中から迫ってきていた。
いよいよこれで俺の幽生もようやく終わりを迎える。
振り返れば生きている頃よりも死んでからの方が充実していたかもしれない。
最後はこんな終わり方だがそれはそれでありだろう。
──さようなら、俺の幽生。
──さようなら、異世界。
──そしてさようなら、愉快な仲間達。
それから飛んでくる矢を黙って見ていた俺は矢に貫かれ二度目の死を迎えた。
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