乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第91話 魔王誕生 Ⅱ


「流石は魔王。あの攻撃を避けるのか。参ったな、今のは結構本気だったんだけどな」

シエンはそう言いながらも笑みを絶やさない。

「……」

「おや、反応がないみたいだけどどうかしたのかな? もしかして怖じ気づいたとか? まだまだ楽しませて欲しいんだけどな」

今は戦いに集中しなければいけないのだがまださっきのショックが頭の中に残っているようで思うように体が動かない。
そんな様子の俺を見てか、シエンはいじけた様子で地面を蹴り始めた。

「なんだい? もしかして本当に怖じ気づいたのかい? 魔王って言っても所詮はこの程度だったのか、残念だな。待っても仕方ないからさっさと倒してあげるよ」

シエラは先ほどと同じ剣の構えをとる。
どうやら同じ技で俺を倒すつもりらしい。

「ちょっとカズヤ! 何やってるのよ! しっかりしなさい! このままじゃ本当にやられちゃうわよ!」

「でも俺は魔王で……」

「魔王? さっきまで否定しようとしてたのにいきなりどうしたのよ!」

「あー君たち、その辺でいいかな? 僕はあまり待てない性分でね、待ってあげようと思ってはいるんだけどもう限界なんだよ。じゃあ行くよ」

シエンは再び剣を構えると今度はすぐに俺に向かって斬り込んできた。

「もう何やってるのよ!」

このまま攻撃を受けることを覚悟したのだが横からソフィーに突き飛ばされる。

「……ソフィー!? 一体何を!?」

「きゃあああ!!」

ソフィーは俺を突き飛ばすと代わりにシエンの剣を自ら背中で受けた。

「おや、まさか身代わりになっちゃうなんてね。驚いたよ」

シエンはソフィーを斬ったことをあまり気にしていないようで斬った際剣についたソフィーの血を布で拭っている。

「ソフィー! 大丈夫か!? 今あかりに頼んで回復を……」

「カズヤ……早く逃げて! 後ろから援軍も来ているわ!このままだと囲まれる……だからその前に……」

「それならソフィーも……ほら、肩を貸すぞ」

「私は自分の回復があるから……それよりも早く……狙われてるのはあなたよ。アカリ! カズヤをお願い!」

「分かった、私が責任をもって和哉をここから逃がすよ」

「ちょっと待て、あかり! 俺はまだ逃げるなんて……」

必死の抵抗も意味をなさず、俺はあかりに担ぎ上げられてしまう。

「おい、まだソフィーが!」

「和哉、大人しくしてて」

あかりはもがく俺を手でしっかりとホールドする。
全体的にステータスが下がった今の俺の力では吸血鬼であるあかりから逃げ出すことは出来なかった。

「魔王が逃げるのを黙って逃すと思うかい?」

「そうはさせない……」
「次は私がお兄ちゃんを助けるよ」

俺を担いだあかりが逃げるのを止めようとするシエンの前にリーネと鈴音が立ちはだかる。

「お前達まで何してるんだ!」

このままだと、二人もこの男にやられてしまう。
例え二人がかりでも四強のうちの一人であるこの男は相手に出来ないだろう。

「アカリ……任せた」
「あかりちゃん、お兄ちゃんを頼んだよ」

「まさか、君たち二人に僕の相手が出来ると思っているのかい?」

「やってみなきゃ分からない……」

「それに私たちの目的は……」

「「和哉(カズヤ)をここから逃がすこと!!」」

「ほう、面白いね。じゃあどれだけ君たちが時間を稼げるか試してみようじゃないか」

シエンはそう言うと剣を構え戦闘体勢に入る。
そしてすぐにリーネ達二人に斬り込んだ。

「くっ……!」

リーネはシエンの上段からの振り下ろしに自前のガントレットでなんとか耐える。
しかし、シエンの攻撃はそれだけでは終わらない。
振り下ろした直後、今度は地面と平行に剣を横に振った。
リーネは先ほどの一撃の反動で体を動かせないようで反応することが出来ない。

「僕とやったからには当然こうなるよね」

「そうはさせない」

リーネが斬られる直前、鈴音が短剣を両手に持ち、間に割って入る。
そのおかげかリーネには怪我一つ無かった。

「なるほど、二人で協力すればそんなことも出来るんだね。少しは楽しめそうだ」

「それはどうも」

「おい、北門に魔王がいるぞ! 全員で取り押さえろ!」

そうこうしているうちに町側の援軍が到着する。

「あかりちゃん、早く行って!」

「みんな、無事でね」

あかりはそれだけ言うと俺を担いだまま門の外へと向かう。

「ソフィー、リーネ、鈴音!」

俺の声を聞いた三人は片腕を上げる。
心配するなとでも言いたいのだろうか、三人とも顔に笑顔を浮かべていた。
そして門の外に向かうにつれて三人の姿は小さくなり、最後には完全に見えなくなった。

◆◆◆◆◆◆

町の門を出た後すぐに近くの森の中へとあかりは入る。
森をしばらく行ったところでようやくあかりは俺を地面に下ろした。

「ここならもう追っ手は来ないと思うよ」

「……」

「これからどうしようか。とりあえずどこかの町に……いや、町はもう歩けないよね」

「……」

「そうなるとどこに行けばいいかだけど……ねぇ? 和哉聞いてる?」

「……」

「和哉!」

あかりは突然俺の頬を手のひらで思いっきり叩く。
突然のあかりの行動に俺はビックリしていた。
それと同時に仲間を見捨てたダメな自分をもっと叩いて欲しいとも思っていた。

「和哉! しっかりしてよ! 魔王として追われているのは和哉でしょ? 和哉がしっかりしなくてどうするのよ!」

「でも俺は三人を見捨てて逃げたんだぞ」

そう、俺は三人を救うどころかあの場に置いてきた。
その三人を置いて逃げてきたという事実が俺の心にぽっかりと穴を作っていた。

「和哉……本当にそう思ってるの?」

「そう思ってるって何が……」

「あの三人がどんな気持ちでどんな思いで和哉を送り出したと思ってるのよ! 三人は和哉が見捨てて逃げたなんてこれっぽっちも思ってない! 私達はただ和哉を助けたい、恩返ししたいっていう一心だった!」

「助けたい……?」

「そう、和哉もそうでしょ? 私とリンちゃんを助けた交通事故のときだってそんな気持ちだったんじゃないの?」

「それは……」

「同じ気持ちだったんでしょ? だったら私達の気持ちも分かるはずよ!」

「あのときの気持ち……」

あのときはただ助けたいの一心だった。
助けるためなら自分の命さえ厭わないと考えていたほどだ。
さっきの三人もあのときの俺と同じ気持ちだったのだろうか。

「分かった? 和哉は三人を見捨ててない、ただ仲間に助けられたのよ。助けられたら後することは一つでしょ?」

「……そうだな。助けられたんだから俺達も三人を助けないと示しがつかないよな」

今まで何を悩んでいたのか分からないほどに頭の中はクリアだった。
そう、答えは単純だったのだ。
以前助けたから助け返された。
ただそれだけのことだった。
それなら次は順番的に俺が助ける番だろう。

「ようやく普段の和哉らしくなってきたね」

「さっきは迷惑かけてすまなかった。どうしたら三人を助けられるかこれから話し合おうか」

こうして俺とあかりの二人は仲間を助けるための話し合いを開始した。

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