乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第84話 美味しい肉を求めて


「いらっしゃい、安いよ! 新鮮だよ!」
「兄ちゃん見てってくれよ」

朝早く起きた俺は散歩がてら町に繰り出していた。
どこの町でも朝は活気づいているようだ。

先程散歩と言ったが一応目的はある。
それは明日出発する魔国調査時の食料調達だ。

「出来るだけかさばらないものがいいよな」

かさばらない携帯食料と言えば干し肉がある。
だがソフィー達はそれで満足しそうにないだろう。
何かいい食料は……。

「いや待てよ、干し肉でも材料がフォレストボアなら話が違うんじゃないか?」

あの天下のフォレストボア様ならソフィー達も満足するはず。

そう思った俺は早速ギルドへと向かった。
ギルドに着いてまずは昨日応対してもらった受付嬢、セシリアのもとへと行く。

「セシリア、ちょっといいか?」

「は、はい!? なんでしょうか?」

事務作業のため下を向いていた彼女をいきなり大声で呼んだせいか驚かせてしまったようである。

「驚かせて悪い。聞きたいことがあるんだがいいか?」

「はい、大丈夫ですよ。どのようなことで?」

「それなんだがな、昨日フォレストボアが美味しい宿があるって話をしたよな?」

「そうですね。フォレストボアが美味しい宿ウサギ亭ですね。それがどうかしたんですか?」

「それで思ったんだ、もしかして近くにフォレストボアが生息してるんじゃないかってな」

「そうですね。フォレストボアはこの町のすぐ北にある魔国とこの町の間にある森に生息していますよ」

やはりか。
宿で出てくるということはここでは比較的簡単に入手出来る素材ということだ。
しかし朝に町を見て回ったときにはフォレストボアの肉は店先に一切並んでいなかった。
ということは残る可能性は一つ、毎回宿に直接卸している冒険者がいる。
そして毎回卸しているだけあってその冒険者はこの地元近くに住んでいる冒険者。
ここまでくればフォレストボアがこの辺にいるということが分かるだろう。
どうやらここまでの俺の予想が当たったみたいである。

「忙しいところ悪いな」

「もしかしてフォレストボアを狩りに森へ行かれるおつもりなんですか? もしそうだとしたらあそこの魔物は魔国の近くとあってかなり強いので気をつけてくださいね」

「心配してくれてありがとうな、気をつけるよ」

「はい、いってらっしゃいませ」

早速フォレストボアを狩りに行くとしよう。
明日には魔国の調査に出発なのでもう時間は残り少ない。
それまでになんとかフォレストボアの肉を手に入れなければ……。

俺はギルドを出た後、目的のフォレストボアが生息する森に向かうため町の北門から外へと出る。
それから森の中に入りしばらく走った後、魔国とこの町の境目部分までたどり着いた。
ここまで実に三十分。
俺のステータスを持ってしてもここまで時間がかかる場所にあのフォレストボアは生息しているらしい。

「ここら辺だよな」

周りを見渡すが俺以外の人、いや動物一匹さえいない。
数メートル先を行くと魔国領内に入ってしまうのでこの辺で間違いないはず。

俺がもう一度周りを見渡そうとしたそのときだ。

「アウゥウ!」

何かが俺の背後からいきなり襲いかかってきた。
突然の出来事に回避することも出来ず咄嗟に受け身の姿勢をとる。
だがその襲いかかってきたものは正確には襲いかかってきてはおらず、受け身の姿勢もとる必要はなかった。
何故ならそれは……。

「アウゥ!」

「おう、ホワイトサンダーじゃないか」

カタストロの町近くの森で待機してもらっていたホワイトサンダーだったのだから。

「もしかして俺を追ってきたのか?」

「アウゥ!」

ホワイトサンダーなら俺の『気配察知』にかからないのも納得できる。
あれは敵意を持ったものを察知するものなのでホワイトサンダーのように敵意がないものにはかからないのだ。
それとホワイトサンダーが俺を追ってきた理由だが多分俺の護衛をするためなんじゃないだろうかと思っている。
むしろそれ以外にこんな森の奥まで追ってくる理由が見つからないからな。

「とにかく昨日ぶりだな」

「アウゥ」

ホワイトサンダーと昨日ぶりの挨拶を交わした俺はホワイトサンダーに俺がここに来た理由を話した。

「……ということなんだ。ホワイトサンダーも手伝ってくれるか?」

「アウゥ!」

力強い声を出すと同時にまっすぐと俺の目を見る。
ホワイトサンダーはやる気に満ちていた。

「よし、フォレストボアを狩るぞ!」

「アウゥウウ!」

◆◆◆◆◆◆

「ホワイトサンダー! そっちに行ったぞ!」

俺は走りながらホワイトサンダーに指示を出す。
俺の声に反応してホワイトサンダーは指示した方向へと回り込んだ。

「アウゥウ!」

「フゴッ!」

「よしこれで挟み撃ちだな…………今だ!」

「アウゥウ!」

その合図でホワイトサンダーはある魔物へと飛びかかった。

「フガッ……」

どうやら一撃で仕留められたようだ。

「結構大きいからこの一体で足りるだろ」

ホワイトサンダーが仕留めた魔物、それは言わずもがな天下のフォレストボア様である。
それに今回仕留めたのは通常の一メートル半よりも大きい体長二メートルはある大物だ。
しばらく探し回っても現れずようやく出てきたのがこの一体なのだ。
これだけ大きければ大量の干し肉が作れる。
そういうわけなのでフォレストボア狩りはこれにて終了だ。

「ホワイトサンダー、今日はありがとうな。明日は依頼の方をよろしく頼むよ」

「アウゥ」

ホワイトサンダーと別れを告げた俺は森を抜け、町へと向かった。
倒した状態のままのフォレストボアを背中に背負って……。

「おいお前が背中に背負っているのはなんだ?」

だからだろうか町へと入ろうとしたときにカタストロの町北門の門番に引き留められてしまった。

「これはフォレストボアだ。見てわからないか? 既に死んでいるから害はないぞ」

「おお、フォレストボアか。だがいくら害のないフォレストボアだとしてもな町の中に入るためには解体しないとダメなんだよ。ほらこれを使いな」

俺は門番に小振りのナイフを手渡される。

「おう、ありがとう……えーとフォレストボアってどうやって解体するんだ?」

「お前本気で言ってんのか? 今までどうやって冒険者をしてきたんだ。フォレストボアはまずこうしてこうやってこうやって解体するんだよ」

門番は見事なナイフ捌きでフォレストボアを次々と解体していく。
そんな門番の姿を横でずっと見ていると……。

「おい、何ボケッとしてるんだ! お前がやるんだぞ!」

門番から叱られてしまった。
確かに本来は俺がやらなければいけないこと。
何も言い返せない。

「そ、そうだな。でもどうやってやるんだ……?」

「仕方ないから今回は俺が教えてやる。さぁナイフを持て! それからここをなぞるように切れ!」

「こうやるのか?」

「違う! もっと力を込めろ!」

それからしばらくの間、門番による熱血の解体指導が続き、ようやく解体が終わった頃には夕方になっていた。

「まぁ解体は一応出来たみたいだし合格だ。さぁ通っていいぞ」

まさか町に入るのにこんなに時間がかかるとは思っていなかった。
だがこれで明日は依頼の最中にフォレストボアが食べられる。

明日フォレストボアが食べられることに気分を良くした俺はウキウキとした気分で宿へと戻った。

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