乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第75話 潜入 Ⅱ
「お頭! コイツらですよね。何度襲撃しても捕まえられない旅人ってのは」
「ほう……よく捕まえられたな。お前が捕まえたのか?」
「いえ、捕まえたのはあの村のガキ共ですが、指示したのはあっしですぜ」
「よくやるじゃないか」
「そんな褒めないでくだせぇ。あっしはお頭のためを思ってやっただけですんで」
先ほどアジトの入り口にいた盗賊が再び入り口へと戻ってきた後、馬車の御者をしていた少年、ヨリックは村へと帰され、俺達五人だけが馬車から担ぎ上げられどこかへと連れて行かれた。
多分、連れて行かれた先は捕らえたものを収容しておく牢屋のような場所であろう。
そこで俺達を担ぎ上げここまで連れてきた三人の盗賊と盗賊のボスらしき人が話をしていた。
──ここまで来たしもう目を開けても良いか。
俺はゆっくりと目を開け、周りを確認する。
目の前には鉄格子があり、以前俺が捕らえられていた牢屋に似た湿った空気を感じる。
やはり連れて行かれた先は牢屋だったようだ。
盗賊達はもちろんだが鉄格子の外で話している。
五人がそれぞれ別々の部屋に入れられていたら少々面倒くさかったがもうその心配は必要ない。
幸いにも俺達五人全員が同じ部屋に入れられたみたいだ。
「お、お頭! やつら目を覚ましたようですぜ」
「そうか、じゃあ後は任せたぞ。やつらはお前らが捕まえたんだからあの方に引き渡す前に多少遊んでもいいだろう」
「お頭! ありがとうございます」
それから盗賊のボスらしき大男は俺達の目の前からいなくなる。
「お頭の許しを得たってことは遊んでもいいんだよなぁ」
「俺はあの左右目の色が違う娘でいいか?」
「おい、勝手に決めるんじゃねぇ。捕まえて来たのは実質俺だ。だから俺が初めに選ぶ権利があるだろ!」
ボスらしき男がいなくなったからか残った盗賊達はソフィー達をどうするかで揉め始めた。
──ここがチャンスだな。
盗賊達の気が完全に緩みきっている今俺は捕らわれている人達の居場所について聞きだそうと盗賊達との会話を試みる。
「揉めているところ悪いんだが捕まったのは俺達だけなのか?」
「あぁ? 今からどうなるか分からないのにそんなことが聞きたいのか」
「ああ、教えてくれないか」
「まぁいいか。お前達だけだって? そんなわけねぇよ。他にも捕まえたやつはいる」
「その人達は今どこにいるんだ?」
「大体はあの方に渡してると思うがまだ数人はここから一つ下の階の牢屋に捕らえてるぜ。ところで何でさっきからそんなこと聞いてるんだ……っていない!?」
聞きたいことも大体聞けたのでこの盗賊達には既に用がない。
早急に退場してもらうとしよう。
俺は霊体で鉄格子をすり抜け、盗賊達の後ろへと回り込む。
「一体どこに行きやがったんだ! この中で魔法は使えないはずだろ?」
「そのはずなんだが……ぐわっ!?」
「おい、どうしたん……ぐはっ!?」
「おいおい、一体何が起こってるん……ぐへっ!?」
三人の盗賊がほぼ同時に地面へと倒れる。
これをやった犯人、もちろん俺である。
三人とも首トンをして気絶させただけなので時期に目覚めるだろう。
これで捕らわれている人達を探しに行けるのだがその前にソフィー達だ。
倒した盗賊達の持ち物を漁り、鍵を見つけた後鉄格子の扉の鍵を外す。
「うがうがっうがががが!」
「四人とも今手と口の縄を外すからちょっと待ってくれ」
「うががががっ!」
ソフィーがじたばたと早く縄を外すように催促をする。
「分かった、分かったからソフィーから外すから暴れないでくれ」
「うがっ…………ぷはぁ、もう何でこんなときに入り込むのかしら!」
俺がソフィーの縄を全て外した直後、ソフィーは急いで自分の背中へと手を伸ばしていた。
しばらくしてソフィーの背中から元の世界のムカデのような形をした大きな虫が出てくる。
ソフィーはその大きな虫を地面へと思い切り叩きつけた。
「うおぉ! なんだこれ、ビックリした!」
「はぁあ、やっと解放されたわ」
どうやらここにいる間ずっとこの大きな虫と格闘していたらしい。
「「「うがぁあうがが!!」」」
ソフィー以外の残りの三人も今の虫を見てか大慌てで縄を外すように俺へと助けを求める。
「ちょっと暴れないでくれ。縄が外せなく……ソフィーも縄を外すの手伝ってくれ!」
「「「うがぁあうがが!!」」」
もうちょっとした事件だった。
元の世界だと家にGが出たときと同じ感じだろうか。
それくらいの大きな騒ぎだった。
それから残りの三人も全員無事に縄をほどき終え騒ぎも収まった頃、俺は倒した盗賊を牢屋の中へと引っ張っていた。
「ソフィー達もこの三人を縛るのを手伝ってくれよ」
「ちょっと無理かな」
「私もちょっと……」
「お兄ちゃんはよくそこに入れるね」
どうやらソフィー以外の三人はさっきの虫がトラウマになっているようだ。
ならせめてソフィーに手伝ってもらおうとソフィーを見るがが……。
「あぁもういないはずなのに何でこんなに痒いのかしら」
さっき虫がいた部分をずっと掻いていた。
「この調子だと盗賊の処理は俺一人でやることになりそうだな」
結局俺一人で倒した三人の盗賊を牢屋の中へと引っ張り、手足と口をそれぞれ縄で縛った後、最後の仕上げとばかりに牢屋に鍵をかけた。
ここまでの一連の動作に十数分もかけてしまった。
皆でやればもっと早かっただろうがこればっかりは仕方ないか。
とにかくこれでようやく捕らわれている人達を探しに行ける。
「確か一つ下の階だったよな」
「ええ、そうね」
そういえば盗賊達があの方と口にしていたが一体誰のことなのだろうか? まぁ今気にする必要はないか。
「早く捕らわれている人達を助けて村に戻るぞ」
そうここまでくれば助けたも同然だ。
さっさと助けて子ども達のいる村に戻るとしよう。
「……騒がしいと思ったらまた貴様らか」
俺達が下の階に捕らわれている人達を助けに行こうとしたときだった。
やつの顔はもう二度と見たくないと思っていたが神様はどうやらそうさせてはくれないようだ。
目の前では以前あかり達を拐った犯人である全身黒ずくめの騎士ゼガールが下の階から上ってきていた。
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