乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第69話 のどかな旅路


遮るものがないためか時折横から強い風が吹き抜ける先が見えない一本道。
道の左右には背の低い草花がどこまでも地面いっぱいに広がっていた。

昼過ぎエリカからもらったサンドイッチを美味しくいただいた俺達はそんな一本道を馬車で現在のんびりと走っている。

「何もないわね」

後ろからソフィーのぼやきが聞こえてきた。

「ああ、何もないな」

「何かすることはない?」

一方のリーネは手伝えることはないか聞いてくる。

「何もないな」

そう、何もないのだ。
何かをすることも手伝うことも。
唯一、一つだけ馬車の御者というやることがあるが現在それは俺が努めている。

「ああ! 暇よ、ひ、ま!」

「じゃあ、御者を変わるか?」

「それはちょっと……」

そうだよな。
馬車の御者、初めは気晴らしになるかもしれないが時間が経つにつれて飽きてくるからな。
ソフィーはそれを知っているのだろう。

「じゃああかりと鈴音みたいに寝てたらどうだ?」

「こんなに揺れる場所で寝れるわけないじゃない!」

「あかり達は寝ているけど?」

「アカリとスズネは特別なのよ。こんなに揺れるところで寝れるなんておかしいわよ」

確かにそれもそうだな。
俺も比較的どこでも寝れる自信はあるがさすがにこの走行中の馬車の上では寝れない。

「寝るのがなしとなると他には何だろうな……」

俺が何かやることをと考えているとソフィーが良い案を思いついたとばかりに手を叩いた。

「もうこうして話しているだけでも暇潰しになるわね。ねぇカズヤ、あなた今日の目的地に着くまでずっと話してなさいよ」

「というか今日の目的地ってどこなんだ?」

最終的な目的地はここからずっと北にあるカタストロという町であるが一日で行ける距離ではない。
そのためその日その日で目的地を決めておく必要があるのだ。

「そういえばまったく決めてなかったわね。とりあえず次見えた町や村でいいんじゃないかしら?」

そんな決め方でいいのかと思う反面、何も目的地候補を出していない俺は何も言い返せずにいた。

だってそうだろ? 俺が目的地の候補を出していない中わざわざ目的地候補を出してくれたんだから。
感謝こそすれ、文句を言える立場ではない。

「分かった。今日の目的地はそれで行こう。だが目的地まで話続けるのは勘弁してほしい」

「まったく仕方ないわね。でも話相手くらいにはなってくれるわよね?」

「ああ、それはもちろんだ」

それからというもの二時間は雑談をしたと思う。
途中からリーネも話に混ざって正直正確な時間は分からないが確か二時間のはずだ。
二時間も話続けて疲れたのか俺達の間に沈黙が生まれたとき突然それは起こった。

「そこの馬車! 止まって下さい!」

突然起こったこと。
それはボロボロの服というかもはや布切れを体に纏った少年がいきなり馬車の前に飛び出して来たのだ。

「うお! 危ないっ!」

俺は慌てて馬車の手綱をおもいっきり手前へと引く。

「ヒヒィィイン!」

おもいっきり手綱を引いたせいで馬が驚いて一瞬パニック状態になってしまったがなんとか宥めることに成功する。
急いで急ブレーキをしたおかげか少年の前ギリギリで止まったようだ。
それにしても突然飛び出して来るなんてこの少年は何を考えてるんだ?

「痛っ! いったい何事なの?」

「ぐっ! 頭ぶつけた!」

今の急ブレーキの衝撃で今まで寝ていたあかりと鈴音は起きてしまったようである。

「あ、あの……お金になりそうなものを置いていってください!そうすれば命だけは助けます。みんな囲んで!」

少年の言葉に合わせていままでどこかに隠れていたらしい総勢十数人の少年少女が俺達の周りを囲む。

──これは盗賊の類いなのだろうか?

そう疑問に思ってしまうほど囲んできた少年少女達は若すぎた。

「は、早くしてください! 時間がないんです!」

時間がない……。
何故時間を気にしているのだろうか?
確かに襲うのは短時間の方が作業効率はいいがそこまで変わるだろうか。

俺は他の人の意見を聞くために隣にいたソフィーの脇腹を肘でつつく。

「……おい、ソフィー」

「……っ! 何よ?」

「……いきなりで悪いんだがあの子ども達をどう思う?」

「……あの子達? ああ、今囲んでいる子達ね。可哀想だと思うわね」

可哀想? 今俺達は襲われているんだが……。

「……あ、もしかして分かってないわね」

「……分かってないって何が?」

「……まぁ少し特殊な方法だから分からなくても仕方ないわね。これは盗賊の作戦なのよ。この子達はただの囮よ。前に私とリーネの住んでいたところで聞いたことがあるのよ」

「……囮ってどういうことなんだ?」

「……囮は囮よ。別のところで本物の盗賊が待機していて私達が完全に油断しきったところで襲う作戦なのよ」

「……じゃあこの子ども達はいったい何で協力しているんだ?」

「……囮にされている子達は基本的に拐われた子なのよね。だから協力せざるを得ない状況なんでしょうね。例えば家族の身の安全を保証するためだったり、食事を与えてもらうためだったり」

「……じゃあこの状況はどうすれば正解なんだ?」

「……そんなの知らないわよ。ただ一つだけ言えることは関わってもろくなことがないわよ」

関わってもろくなことがないか……。
だったらそのまま無視して逃げるか?
そんなこと……。

「出来るわけないよな」

俺は馬車の御者台から飛び降りる。

「ちょ、ちょっと一体何をするつもりなのよ!」

「ソフィー、悪いがちょっと付き合ってくれ」

俺が地面に降りると先ほど馬車の前に飛び出してきた少年が焦った様子で催促をしてくる。

「は、早くお願いします。でないとお兄さん達が……」

そこまで少年が言ったところで俺から見て左から俺に向かって矢が飛んできた。

「……っ! そこかっ! おりゃ!」

持ち前のステータスを活かして飛んできた矢を掴み、そのまま飛んできた方へと投げ返す。

「ぐあぁああ!」

しばらくして男の野太い叫び声が聞こえた。

ビンゴ! どうやら上手く当たったらしい。
この調子で残りのやつも片付けるか。

俺は大きな岩の後ろなど俺から死角になりそうな場所に休みなく『メテオ(笑)』を発動し続けた。
岩の落ちる音と共に複数人の男の叫び声が聞こえる。

「うわっ! あぶねぇ。」
「おい、こんなの聞いてないぞ!」
「うわぁあ! お前ら逃げろ! 撤退だ!」

さすがにこの状況はまずいとでも思ったのか男達は次々とこの場を逃げ出していった。

「これで全員どっかに行ったな」

盗賊達が全員逃げ出したのを確認していざ馬車へと後ろを向くと残された子ども達がポカーンとした様子で立ち竦んでいた。

「……そうだった。この子ども達、一体どうするかね」

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