乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第66話 旅支度 Ⅰ
「戻ったぞ!」
俺が今借りている宿の部屋とは別の部屋、つまりソフィー、リーネ、あかり、鈴音の四人が借りている部屋に入ると同時にそう声をかける。
あかりと鈴音が部屋に来た翌日、さすがに部屋が狭いということでもう一部屋借りることにしたのだ。
その甲斐あってか俺は現在ベッドで寝ることが出来ている。
「とにかく早く準備を……」
俺がノックもせずにいきなり扉を開けたのがいけなかったのだろうか?
いやいけなかったな、確実に……。
扉を開けた先では今戻って来たらしいソフィーとリーネが着替えをしていた。
「ちょ、ちょ、ちょっと何入って来てるのよ! 変態!」
「……変態」
「ノックをしないなんてあり得ない!」
「お兄ちゃん……」
やってしまった……。
いつもは気をつけるところなのだが今日は急いでいるあまりろくに確認もせず入ってしまった。
「その悪かったよ……すまん」
「謝罪もいいけど今はとにかく早く外に出てって!」
「うおっ! 分かったから武器を投げないでくれ!」
俺は慌てて部屋の外へと出る。
そりゃ、俺がいたときと違って部屋があるんだからわざわざ別の場所で着替える必要はないもんな。
はたして許してくれるだろうか?
部屋を追い出されてから数十分くらい経って、俺はソフィー達の部屋をノックする。
「もう大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「それじゃ失礼します」
俺は先ほど出た部屋に再び入り、そして入って早々頭を床につけた。
所謂、土下座というやつである。
「さっきはすまなかった!」
いきなり土下座なんてしたからか場が微妙な空気になるのを俺は感じた。
あれ? 何か間違ったかこの空気……。
しばらくしてソフィーに声をかけられる。
「あの……カズヤ。鍵をかけていなかった私達も悪かったし、なにもここまでしなくても」
もしかして引かれているのか?
部屋に入っていきなり土下座なんてしたから……。
うん、十分に引かれる要素はあるな。
ちょっとやり過ぎたかもしれない。
「まぁ本気で悪いと思っているのは伝わってきたからここでこの話は終わりにしましょうか」
「ありがとう……そうしてくれると俺もありがたい」
「それで何の用なの? お兄ちゃん」
俺がソフィー達にこの件を許してもらった直後、鈴音にここへ来た理由を尋ねられる。
「そうだった……すっかり忘れてた。今日で護衛依頼も終わりだったからなそろそろ話そうかと思って」
「話すって何のこと?」
「ああ、それはな……全員この部屋にいるよな?」
「ええ、見てわかる通り」
ソフィーが周りを見て全員いるのを確認した後、俺もソフィーと同じように四人の顔を一人ずつ見ていく。
「どうやら全員いるみたいだな。それで本題なんだがそろそろこの町を出ようと思っている」
俺は四人が驚くと思ったのだが……。
「まぁそう来るかと思ってたわ」
「予想通り……」
「え!? それって本当なの?」
「そんなの初耳なんだけど! お兄ちゃん!」
あかりと鈴音の二人しか驚いてはいなかった。
どうやらソフィーとリーネの二人は分かっていたみたいだ。
まぁ前にも言ってるからな。
気づくのも無理ないか。
「ああ、本当だ。実は前から考えたりもしてた。今回はあかりと鈴音のこともあるから町を離れるのにちょうどいいと思ってな」
「それでいつ町を出るの?」
ソフィーが気になっている日程、実はその日程についてはもう既に決まっている。
前からこの日に町を出るつもりで準備をしていたからな。
「それは明日だ」
「随分と急な話ね」
「確かに急だがあかりと鈴音もいつまでも正体を隠さないといけないのは辛いだろ?」
あかりと鈴音の方向を見る。
二人は同じように首を縦に振っていた。
「なるほど、そういうことなら仕方ないわね。じゃあ私は町の知り合いに挨拶してくるわ。しばらく戻れそうにないだろうしね。リーネも行きましょう」
「ソフィー、服が伸びるから引っ張らないで。ちゃんと行くから」
「ごめんなさいね。でもリーネが早く行こうとしないのが悪いのよ」
ソフィーとリーネの二人はその後必要なものだけ持つとすぐに部屋を飛び出して行った。
相変わらずソフィーとリーネは仲がいいな。
とにかく俺も準備と挨拶に行ってくるとしよう。
「俺も挨拶とか準備やらがあるからあかりと鈴音はここで準備とかしててもらえるか?」
「私も町を出る前に知り合いに挨拶をしたかったけどさすがに相手が勇者じゃね……分かったよ、和哉」
「了解。任せて、お兄ちゃん!」
「悪いな、二人にはろくに挨拶もさせてやれなくて」
「気にしないで、和哉。これを選んだのは私自身だから後悔はないよ」
「私もお兄ちゃんと一緒ならそれでいい」
「じゃあここは任せたぞ」
俺は準備と町の知り合いとの挨拶のため部屋の外へと出た。
◆◆◆◆◆◆
「ではこちらが予約されていた馬車になります」
目の前には立派な幌つきの馬車が置かれていた。
今回ついに念願の馬車を購入したのだ。
それも幌つきのちょっとお高い馬車である。
「これで足りるか?」
「はい、少々お待ちください」
そう言って商人ギルド受付の女性がその場でお金を数え始める。
それから数分経って数え終えたのか商人ギルド受付の女性は顔を俺の方へと向けた。
「はい、ちょうど一千万コルク受け取りました。お買い上げありがとうございます」
これが普段から事務をしている人の本気だと言うのか。
一千万コルクといったら人が肩に担ぐ大きさの袋一杯に金貨を入れたくらいのお金だ。
それをたった数分で数えることが出来るなんて正しく神の技であろう。
「あの、どうかしたんですか?」
「あ、いや金貨を数えるのがあまりにも速かったからついな」
「そんなことでしたか私なんてまだまだ遅い方ですよ。私より速い方はたくさんいらっしゃいます」
なんとこれよりも金貨を数えるのが速いだと?!
そんなに速いんだったら金貨を数える芸で食べていけるんではなかろうか。
ふとそう思ってしまうほどの速さである。
「そんなにたくさんいるのかそれはすごいな。とにかく金額が間違っていなくて良かったよ」
「はい、改めてお買い上げありがとうございます」
「それで馬車を引く馬の方も一緒に購入したと思うんだが……」
「その件ですが馬車と一緒にギルドの表でお受け取りください」
「じゃあ俺はギルドの中で待っていればいいのか?」
「はい、手配が出来ましたらこちらからお声がけしますので宜しくお願いします」
どうやらしばらくの間ギルド内で待つことになりそうだ。
ここで馬車は受けとるから後は食料の買い込みと知り合いに挨拶するだけだな。
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