乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第62話 再スタート


某宿の一室、俺は床で正座をしていた……。

「これは一体どういうことなの?」

「それは私が聞きたいわよ!」

「「ねぇどういうこと?」」

あかりとソフィーに詰め寄られているこの状況。
これが俗に言う、修羅場というやつなのだろうか。

「えーとあれだな。とりあえずご飯でも食べようか……ハハ」

今の俺には食事しか逃げ道がない。
どうかこれでこの状況を回避したいものだが……。

「ご飯ならカズヤがいない間に食べたわよ」

「私はお腹が空いていないので」

ダメか……それにしても面倒なことになったな。

そもそもの事の発端はあかりと鈴音を宿に連れ帰ったことだ。
宿には当然俺の冒険者仲間、ソフィーとリーネがいる。
そこまでは良かったのだ。
だがいけなかったことが一つあった。
それは俺とそのソフィー達が同じ部屋だったということだ。
そこから争いが始まった。

片や何故一緒の部屋で女の子と暮らしているのかと説明を求め……。
片や女の子二人を自分達の部屋にいきなり連れ込んできた理由を話せと迫る……。

それでいて俺が説明しようとしても黙ってろと言われる始末。
この頭が痛くなるようなややこしいどうしようもない状況に合計して約一時間は晒されている。

「とにかく一回落ち着いて話そうか……」

「この状況落ち着いていられるわけないでしょ!」

「寧ろカズヤはよくこんな状況で落ち着いていられるわね!」

「それは……」

ここに来てソフィーとリーネにあかり達のことを話していないのが裏目に出た。
初めから説明しておけばこんなにややこしい状況にはならなかったかもしれないのだ。
話す機会はいくらでもあった。
だってリーネに隠し事がないか聞かれたくらいだしな。
それなのに俺は話すことは何もないと嘘をついてしまった。
あのときは何もないと言ってしまったがよく考えたら嘘偽りなく真実を言っていればソフィーとあかりのこの状況だけではなく、あの状況も起こらなかったかもしれない。

俺は部屋の中に二つあるベッドの内片方のベッドで蹲っているリーネへと顔を向ける。
俺が二人を連れて帰ってきた時点からずっとこんな感じなのだ。
原因として大体は予測がついている。
それは俺が隠し事をしていたことだろう。
というかそれしか原因が考えられない。
実を言うとソフィーやあかりの反応よりもリーネの反応の方がよっぽど心に来るのだ。

ん? 待てよ……よくよく考えてみたらというか考えなくても悪いのは説明を一切していない俺じゃないか。
面倒くさいからと後回しにしたせいでリーネを傷つけてしまった。
これは完全に俺の失態である。
ソフィーとあかりそしてリーネ、鈴音に説明するのは勿論だが、その前にやることがある。

俺は床で正座の状態からすっと立ち上がり、大きく息を吸い込む。

「四人とも聞いてくれ!」

俺の突然の大声に言い争っていたソフィーとあかり、ずっと成り行きを見守っていた鈴音それにベッドで蹲っていたリーネがこちらへと一斉に顔を向けた。

「こんなにややこしい状況になったのはちゃんと説明してなかった俺が悪かったからだ。本当にすまない」

俺は深く頭を下げる。
そう初めから言い訳やら説明やらをしようとするのではなくまず謝れば良かったのだ。
そのことに今になって気づくとは……。

「俺が話していないことを今から全て説明するけど質問があったら話の途中でも聞いてくれ……」

俺はそれからソフィーとリーネには隠し事をしていたことを、あかりと鈴音にはソフィーとリーネのこれまでの経緯を説明した。
最終的にお詫びとして俺が今度ご飯を奢るということで納得してもらえたので良かった。
納得してもらった証拠にさっきまでピリピリと一触即発だった周りの空気も今は穏やかなものになっている。

「まぁ事情は分かったわよ、大変だったわね。それとさっきはごめんね……えーとアカリ」

「いやこちらこそ何も知らずにごめんなさい。ソフィーちゃん」

さっきまで言い争っていたあかりとソフィーの二人が互いに謝罪しあう。
どうやら二人ともお互いを理解することが出来たようだ。
一方のリーネはまだ蹲ったままだが、先ほどと違い雰囲気に暗いものを感じない。
完全にではないが許してくれたみたいだ。
鈴音に関しては先ほどと変わらず皆の様子を見守っている。
動じないその姿勢、流石は我が妹である。

「皆ちょっといいか? 話したいことがあるんだ。主に今後のことについてな」

俺は皆が一段落ついたところでこちらに注意を向けるよう呼び掛ける。

「なんで今後のことを?」

あかり以外の皆が何かを察している中であかりだけが分かっていなかったようで俺に意図を聞いてきた。

「ああ、今回あかり達は俺達についていく気なんだろ?」

「うん、そのつもりだけど……」

「だったら城にはどう報告するんだ? 俺達についていくってことは勇者をやめるってことだろ?」

「そうだね」

「それにあかり達がいなくなったことを上手く誤魔化せたとしても、その後万が一城の関係者に俺達の姿が見られたらあかり達はともかく残りの俺とソフィーとリーネの三人は城を敵に回すことになるかもしれないじゃないか」

「なるほど、だから今後のことを考えようってことなのね」

「分かってもらえてなによりだ、あかり。というわけで今聞いてもらった通りそういうわけだから今後あかりと鈴音には外出を控えて欲しい」

「まさか今後一生外に出るなってことじゃないよね? お兄ちゃん」

「まさかそんなつもりはないよ。近いうちに外に出れるようになる。ただそれにはちょっと準備が必要なんだ」

「準備ってなにするつもりなの?」

「鈴音、それはその時が来てからのお楽しみだ」

「肝心なことは言わないなんてまったくお兄ちゃんは昔から何も変わらないね」

「鈴音はこれからやることがそんなに知りたかったのか?」

「そうじゃないよ。ただお兄ちゃんがそういうこと言う時って大体面白いことをする時だったから今回はどんなことするのかなって思っただけ」

「そういうことか、それなら期待しておいてくれ」

あかり達を宿に連れてきてから色々あったが今このときがあかりと鈴音の二人を加えた新たなパーティーのスタートだ。

四人を見てそう思った後、俺は明日の森の探索に備えて今日のところは休むことにした。

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