乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第56話 捜索 Ⅱ


俺は森の中を他の人が視認出来ない速度で駆け回る。
それもあかりや鈴音そしてもう一人の女勇者の手がかりを探すためだ。

「普通に探してもまったく分からないな」

やはり駆け回るだけでは何も分からない。

──何か役に立ちそうな能力でも俺に備わっていればいいんだが……。

そのときにふとまだSPが余っていることを思い出す。

──そうだ、能力がなければ新たに取得すればいい。

俺は一度立ち止まり、スキルの詳細画面を目の前に表示させた。それからしばらくいろいろなスキルを見ていき、目的のものを見つける。

──これだ。これがあれば探し出せる。

あかりや鈴音を探し出せるスキル、それは……。

『探知』・・・最大半径三十キロメートルの範囲の中にある物質を全て把握することが出来る。ただし、多大な負荷をスキル使用者に与えることになる。必要SP:500

そう、この『探知』というスキルだ。
このスキルさえあればあかりや鈴音が現在どんなところにいるのかを探し出すことが出来る。
しかしこのスキルには一つ難点がある。
それはスキル説明の後半にある多大な負荷をスキル使用者に与えるという点だ。
これについては実際に試してみないことには分からない。

俺はさっそくスキルを取得し、『探知』を発動させる。
スキルを発動させると俺を中心にして約半径十メートル円を描いた範囲の物質の情報が頭へと流れ込んできた。

「これは確かにスキル使用者の負荷がすごいな」

たった半径十メートルで少し頭痛を覚えるのだ。
キロメートル単位だと一体どうなってしまうのか。
考えるだけでも寒気がする……。
普段だったら絶対にこれ以上無理はしないのだが、今は緊急事態だ。
あかりと鈴音を見つけるためにも死ぬ気でやるしかない。

俺は無理を承知で『探知』の範囲を一気に最大まで広げる。
『探知』が情報を送り込む度に俺の頭の痛みは増していった。

「うがぁあああああ!」

送られてくる大量の情報からくる痛みを必死に耐える。

──これさえ乗りきれば……。

だがその願いは届くことはなく、あかりや鈴音の情報がくる前に頭の痛みが収まっていく。

これはつまり半径三十キロメートルの範囲にあかり達はいないということなのか?

「ということはまたこのスキルを使わないといけないのか……」

この『探知』による頭の痛みは普通の人には耐えられない痛みだ。
あまりの痛さにショック死をしてしまってもおかしくないだろう。
なら何故俺は耐えられるのか? それは俺は既に死んでいて死ぬことが許されないから、ただそれだけである。
死にたくなるほどの痛みでも死ねないのだ。
一度経験したら『探知』の使用を躊躇うほどの痛み。
だが俺はもう一度『探知』を使わなければいけない。
いやもう一度と言わずあかり達を見つけられなければ何度でも使う気だ。
なので今は頭の痛みが治まったことを喜ぶよりもこの痛みが後何回待っているかを嘆く気持ちの方が強い。

「それでもやるしかない……」

あかり達のためと何度も自分に言い聞かせ、俺は『探知』を再び使用するため先程の『探知』の範囲外へと移動を開始した。

◆◆◆◆◆◆

「うがぁああああああ!」

俺は地面へと頭を打ち付け痛みを誤魔化そうとする。
だがその行動は最後までまったく意味をなさなかった。

「はぁあ……はぁあ」

結局ところ、この頭の痛みより弱い痛みで誤魔化そうとしてもまったく意味がないのだ。
例えるなら四肢を切り落とされた後に顔を少しつねられても何も感じないのと同じである。

そして今回の『探知』でもあかり達の情報は掴めなかった。
もう既にこの『探知』は三回行っている。
にもかかわらず何も手がかりが掴めていないのだ。
普通に探したら絶対に見つけられないだろう。

「次こそは……」

三度目の正直ならぬ、四度目の正直だ。
俺は場所を移動して再び『探知』を発動させる。

「うぐっ!」

『探知』が周りの地形の情報を俺の頭の中に送り込めば送り込むほど頭の痛みは増していく。
しばらく頭の痛みに耐える中、俺のよく知る情報が頭の中に流れ込んできた。

──これは……!?

よく知る情報、そうあかり達だ。
そう確信を得た俺は慌てて『探知』の使用を中止する。
それからあかり達がいる方向を確認した俺は『探知』によって探しだしたあかり達の居場所へと一直線に向かった。

◆◆◆◆◆◆

しばらく走った俺は目の前に大きな口を開けた洞窟を見つける。

「ここか……」

いかにも洞窟洞窟してる洞窟に俺は迷いなく足を踏み入れる。
中には灯り一つなく入り口から入ってくる光だけが洞窟の内部を照らしていた。

こんなところにあかり達が自分で入っていくだろうか?
あかりはどうか知らないが鈴音は暗いところが苦手だったはずだ。
ということは少なくとも鈴音は何者かに連れ去られた可能性が高い。なら一体誰が……。

少しの間その場に立ち止まって考えるも該当する人物は思い浮かばず。ずっと考えていても仕方がないので俺は洞窟の中を進むことにした。

「それにしても暗くなってきたな」

進めば進むほど入り口からの光が届かなくなり、辺りが暗くなっていく。
あかり達は俺のように『夜目』を持っているわけではない。
なのであかり達にはこの洞窟内は何も見えないはずだ。
洞窟で何も見えない状況の中、先に進み続けるだろうか?
普通だったら引き返すだろう。
これは本格的に連れ去られた可能性も視野に入れなければいけないか。

俺は前へ前へと洞窟を進み続けついに一番奥までたどり着いた。それからぐるりと辺りを見渡す。

「結構広いな……」

そこには何の変哲もないただの広いドーム状の空間が広がっているだけだった。

──誰もいない……? 確かこの場所にあかり達がいるはずなんだが……。

いくら探しても人の気配すら感じない。

一体どうなっているんだ?
まさか『探知』の情報は当てにならないとでも言うのだろうか?

俺が『探知』というスキルの効果に疑いの目を向けていると突然目の前に杖を大きく振りかぶっている人影が現れた。

「おっと! 危ない!」

俺はすんでのところで杖による打撃攻撃を回避する。

── 一体どこに隠れていたのだろうか?

そう思うほどに相手の存在感を感じ取れなかった。
それに加えて相手の姿は攻撃した直後には既に見えなくなっていて反撃しようにも何もできなかった。

「このままじゃ不利だな……」

そう思った俺は体を低くして次の攻撃に備える。
俺が攻撃に備えた直後再び目の前に杖を振りかぶった人影が現れ、杖を振り下ろした。

「待ってました!」

俺はそのタイミングで相手が振り下ろした杖を掴み一気に引き寄せる。
それと同時に相手の姿があらわになった。

「おい、冗談だろ……?」

相手の姿を見た瞬間思考が停止した。

というのも相手は俺が探していたあかり本人だったのだから……。

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