乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます

サバサバス

第54話 森林散策 Ⅳ


例の五体のゴブリン討伐後も戌井さん率いる勇者一行は順調に進み、現れた敵を次々と危なげなく倒していった。

「ファイアウォール!」

戌井さんが魔法を唱えた瞬間、角の生えたウサギ、ホーンラビットの周りを火の壁が囲む。

「南ちゃん、後は任せたよ!」

戌井さんの声を聞いて高橋さんは魔法をある発動する。

「ロッククラッシュ!」

魔法を唱えた直後、火の壁で囲ったホーンラビットの頭上二メートルくらいの高さで大きな岩が生成されていく。
徐々に岩が生成されていき完全に岩が生成されきったタイミングで高橋さんは上に上げていた手を下ろした。
それに合わせて生成された岩も空中からホーンラビットめがけて襲いかかる。

「クゥク!」

空中からの岩に押し潰される形となったホーンラビットは一瞬鳴き声を出すもすぐに静かになった。

それにしても『ロッククラッシュ』か……。
俺の『メテオ(笑)』みたいなスキルがあったんだな。
自分のスキルと同じようなものがあったことに少しばかり驚いた。

──さてとそろそろか。

森の中は元々日が遮られて暗いため分かりにくいが、そろそろ日が沈む時間帯だ。

「おーい、多分もうすぐ日が沈むぞ。夜の森は何かと危ないからそろそろ戻らないか?」

「そうね。グループの人を危険な目にはあわせられないしもう戻りましょうか」

戌井さんはすぐに俺の意見に従い、グループメンバーに今日のところは森の探索を終了するようにと告げた。
なんだか実質グループのリーダーが俺になっている気がするのだが気のせいだろうか。
いや……気のせいじゃないな。
まぁ勇者達は森を探索したことがないだろうから森を知っている人の意見に従いたくなる気持ちも分かるが出来れば自分の判断で行動を決めて欲しいというのが本音だ。
そうすればもし決めた判断が間違っていた場合でも指摘して正すことが出来る。
それは今後同じような状況での判断に役立つだろう。
だが、今回は勇者達の強化が主な目的だ。
別にこの考えを強制する気はない。
また別に覚える機会があるだろう。

その後、戌井さんから探索を終了するように告げられた俺達は森を進むとき、等間隔につけていった印をたどり元の集合場所へと向かった。

◆◆◆◆◆◆

「いない!?」

「おい、本当にどこにいるんだ?」

俺達が集合場所までたどり着くとそこは慌ただしかった。

「一体何事なんですかねぇ?」

「さぁ検討もつかないな」

俺達にはまったく分からない。
俺達が集合場所に来たときはすでにこの様な騒ぎになっていたのだ。

俺が騒ぎの原因を突き止めようと周りを見渡していると、二人の男冒険者がこの騒ぎについて話していた。

「見つかったか?」

「いや見つからねぇよ」

見つからない? 一体なにが?

「本当にどこ行ったんだ? あの嬢ちゃんは」

嬢ちゃん? どういうことだ?

「ああまったくだよ。あの嬢ちゃん結構好みだったのにな」

「お前ってああいう娘が好みだったのか?」

「当たり前よ。あんなに美人でスタイルも良い娘なんて誰だって好きだろ」

「そりゃ違いねぇ」

誰かいなくなったのか?

俺はその男冒険者二人から詳しく話を聞くためにグループを離れ二人に話しかける。

「おい、ちょっといいか?」

「お、なんだ? ってウェポンブレイカー!?」

「ああ、そういうのはいいから。それで聞きたいことがあるんだがいいか?」

「ああ、なんでも聞いてくれよ」

「それじゃ遠慮なく聞くぞ。さっきまで誰かのことについて話していたよな? それって誰なんだ?」

「ああ、旦那も興味があるのか?」

「まあな、それで誰なんだ?」

「まぁまぁ落ち着いてくれよ。俺も人から聞いた話なんだが森の探索中に忽然と姿を消した勇者がいたらしいんだよ。それで冒険者として勇者の護衛の依頼を受けている俺達もその勇者の捜索をしているわけだ」

「いなくなったのか?」

「そうだ、突然ふっといなくなったんだよ」

突然ふっといなくなった……何者かに襲われたのか?
いやそれだと静かにいなくはならないか。

「どういうことだ……」

「俺もどういうことかは分からないが消えた勇者の名前は分かるぜ。えーと確かトウドーサンとかアカリとか誰か言ってたな」

あかり!? 今確かにそう聞こえた気がするが……。

「……もしかして藤堂あかりって勇者か?」

「ああ! 確かそんな感じだ! 今のでよく分かったな」

まさかいなくなっていたのが幼なじみのあかりだったなんて……。

「もしかして知り合いなのか?」

俺は自分の唇を強く噛む。

一体どうすればいいんだ。
正体を隠していたとはいえ俺が近くにいながら何も出来なかった。

「おい、どうしたんだ? さっきから様子がおかし……」

「どこでいなくなったか分かるか!?」

俺は目の前にいる冒険者の肩を揺する。

今の俺はきっと顔に出るほど激しく動揺しているに違いない。
普段ならそれほど感情が動くことがないのだがやはり幼なじみだからであろうか……。

「残念ながら俺は知らねぇな。同じグループのやつだったら知ってるんじゃないか?」
「そいつらは確か今も森の中を探しているはずだぜ」

「分かった。ありがとうな」

どうしても助けたいという気持ちが自然と込み上がってくる。
それは俺が死んだあの事故のときと同じような感覚だった。

「検討を祈るぜ、旦那!」
「ウェポンブレイカーの力を見せてこいよ!」

ウェポンブレイカーはまったく関係ないと思うのだが、まぁいい。二人と話したことで良い情報を聞けた。

「絶対に探しだす……」

俺は一度グループに戻り、用があることを伝えてから日が沈み一段と暗くなった森の中へと足を踏み入れた。

◆◆◆◆◆◆

日が完全に沈んでから森の中を歩くこと十分。
前方に何人か人がいるのを確認した。
近づいてみるとやはりあかりのグループメンバーだった。

「あなたは!?」

俺を見るや否や驚いた様子で声をあげたのは俺がダンジョンのときに命を助けた冒険者である。

「知っているのか?」

その声に反応してかダンジョンのときにはいなかったグループの冒険者がその驚いた冒険者に聞き返した。

「知っているもなにも俺はこの人に命を助けられたんだよ」

「ほぉお前が助けられるなんて相当な実力なんだろうな……っと悪いがそこのフードの恩人さん、今はちょっと人探し中なんだ。もし用があるんだったら後にしてくれないか?」

突然話を振られ、少し動揺するも表情には出さずに答える。

「あ、いや俺もその人探しにちょっと用があってな」

「もしかしていなくなった嬢ちゃんの知り合いか?」

「ああ、そんなものだ。その勇者がどこの辺りでいなくなったかは分かるのか?」

「それはこの辺りだよ。だからこの辺り一帯を探しているんだ。もし襲われたなら血痕やらなんやら残っているからな」

今まで捜索していた冒険者から既に亡き人になっている可能性があるという現実を突きつけられ俺はショックを受ける。

確かにそう考えるのが普通かもしれない。だけど俺はまだ……。

「そうか……俺も捜索に協力していいか?」

「ああ、もちろんだとも」

そう言って探し始めたが数時間探すも、あかりもしくは血痕など手がかりになるものは一切見つからず、今日の捜索は終了となった。

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