乗用車に轢かれて幽霊になったけど、一年後に異世界転移して「実体化」スキルを覚えたので第二の人生を歩みます
第51話 ◆勇者 Ⅴ◆
SIDE 藤堂あかり
黒鎧に遭遇してからしばらく経ちましたが未だジドルクさんは防戦一方のようです。
ジドルクさんの体はもうボロボロのはずなのになぜでしょうか。
自らに傷を受けながらも勇敢に格上である敵に立ち向かっていきます。
到底私には出来そうもありません。
なぜあんなにも必死に……。
私だったら絶対逃げ出しています。
これが冒険者というものなのでしょうか。
「おいおい、まだやるのか?」
「……っくあ! まだまだ……」
せめて私も力を貸したいのですが体が動きません。
本当に情けない限りです。
「なら仕方ない……もう飽きてしまったのでな。これで終わりにさせてもらうぞ」
そう言って黒鎧は目の前に禍々しい黒い物体を作り出して、そこから一本の黒光りした剣を取り出しました。
それから目にも止まらぬ速さでジドルクさんとの距離を詰め、手に持った剣を振り下ろします。
「ぐあっ!」
「恨むんだったらこの俺に会ってしまった不幸を恨むんだな」
ジドルクさんは胸に深い傷を受け、そのまま倒れてしまいました。
「さて、次はようやくメインディッシュだな。待ちくたびれたぞ」
ジドルクさんを倒した黒鎧の敵はツカツカと足音を鳴らしながら私達のもとへ歩いて来ます。
「貴様達も俺を待っていてくれたんだろ? 勇者諸君」
「……誰か助けて!」
「無駄だよ。ここには貴様達と俺以外いないからな」
まずいです。
誰もが動かないこの状況で私達が助かる可能性なんてもう……。
そんな状況の中、幸か不幸か一つの影が私から見て少し先の通路から飛び出して来ました。
その影のように見えたものはよく見るとフードを被った人?……それもダンジョン探索前に見たフードを被っていてよく顔が見えない人でした。
確かあの人は冒険者の人だったはずです。
ダメです。このままではあの人もジドルクさんみたいに……。
私の予想は的中したようでさっきまで私達の前にいた黒鎧がいつの間にかフードを被っていて顔がよく見えない冒険者の後ろに立っていました。
それから黒鎧の手に持つ剣がフードの冒険者のお腹に突き刺さります。
「新しい客人か? 普段なら歓迎なのだが今は邪魔しないで欲しいな」
また私達のせいで無駄な犠牲者を出してしまいました。
私達が早く逃げて入ればこんな状況には……。
「まったく哀れなやつだな。さっさと逃げれば良かったものを。来世では命を大事にするんだな」
そう言って黒鎧の敵が剣をフードの冒険者から引き抜こうとしますがビクともしません。
一体どうしたんでしょうか?
「そんなことをしても意味はないぞ!」
これは一体どういうことでしょうか?
よく見るとフードの冒険者が黒鎧の刺した剣を素手で力強く掴んでいます。
その様子を見守っていると私の目の前で普通ではあり得ないことが起こりました。
なんとフードの冒険者が素手で掴んでいた剣を折ってしまったのです。
それもいとも簡単に。
私が驚いている間にも剣は次々と折られていきます。
それにさっきから刺されたことを気にする素振りもありません。
あのフードの冒険者は一体何者なんでしょうか?
「うわぁぁ! 魔王様に頂いた貴重な剣が……」
そこでフードの冒険者は後ろを振り向き黒鎧の姿を確認します。
どうやら今まで相手の姿を捉えていなかったようです。
「うわぁ……」
その証拠に姿を見た瞬間、ため息のようなものを吐いていました。その姿を見て一体何を思ったのでしょうか。
とにかくフードの冒険者から発せられた言葉からはやる気のなさが感じ取れました。
「貴様、よくもやってくれたな! この罪は大きいぞ! 死をもって償うといい!」
黒鎧がそうフードの冒険者に言い放ちますが肝心のフードの冒険者は気にした様子もありません。
「貴様、その余裕はこの俺に勝てるとでも思っているのか? 俺はな……」
「ああ、あれだろ? 魔王軍とやらの幹部とかだろ?」
フードの冒険者は既に黒鎧の正体を知っているような口振りで黒鎧が言おうとしていたであろうことを先に答えていました。
「ふん、この俺を知っていてそんな大きな口を叩いたのか。全く舐められたものだな」
「早く終わらせてやるから来いよ」
フードの冒険者は黒鎧を挑発します。
まるで自分が勝つことを確信しているようなそんな感じです。
力の差が分かっていないのでしょうか。
私は間近で見たので分かります。
あれは簡単に相手に出来る敵ではありません。
私でもそれくらいは分かります。
「その生意気な口が利けなくなるほどいたぶってから殺してやるわ!」
──このままだとまた……。
黒鎧がフードの冒険者に突っ込むところで私は自分の目を手で覆ってしまいました。
誰もがフードの冒険者の死を思い浮かべたと思います。
ですがどうでしょうか。少し時間が経ってから目を開けて前を確認してみると倒れているのは黒鎧で立っているのがフードの冒険者です。
信じられません。明らかに黒鎧の方が威圧するような存在感がありました。
一方のフードの冒険者ですがそれが全く感じられません。
まるでそこには存在していないかのような……。
「おい、大丈夫か?」
ずっと黒鎧の威圧に当てられていたせいか黒鎧が倒れた後安心してしばらくボーッとしてしまいました。
そうですよね、ジドルクさんを助けないとですよね……って……え!?
幻覚でしょうか、私の目の前には今はいないはずの幼なじみがジドルクさんの看病をしていました。
そう私のせいで死なせてしまった、いえ私が殺してしまった幼なじみ、三森和哉が……。
「和哉なの……?」
私の口からは自然とその言葉が漏れていました。
きっと嬉しかったんだと思います。
言いそびれたこと、ずっと言いたかったことが言えると……。
そしてずっと謝りたかったことを謝れると……。
私が和哉のもとに駆け寄ろうとしたそのタイミングで、和哉の看病によって重度の怪我から復帰したジドルクさんが皆に呼び掛けます。
「お前らいつまでここにいるつもりなんだ? アイツの気絶が解ける前に早くここから出るぞ」
その呼び掛けでこの場にいた全員が一旦ダンジョンから出ることになりました。
タイミングが悪いですね。まぁいいでしょう。
私としても早くこの場から離れたいですし、それに和哉もきっと私に気づくはずです。
そんなことはあり得ませんがもし例え私に気づかなかったとしても妹には気づくでしょう……。
そう思ったのですが一向に気づく気配がありません。
というか気づかないままダンジョンの入り口までたどり着いてしまいました。
まぁ私なら一歩譲って気づかないのは許します。
ですが妹であるリンちゃんに気づかないのはおかしいです。
これはもしかして人違いという可能性も……。
いやそんなことはあり得ません。
きっと和哉のはずです……。
「……悪いな。俺はちょっと用事があってな」
そしてダンジョンの入り口についた今ジドルクさんが皆を夕食に誘ったのですがどうやら和哉は行かないようです。
ジドルクさんには申し訳ないですが今回は和哉を優先させていただきます。
そういうわけで和哉の後をつけていたのですがどういうわけかつけているのがバレてしまったみたいで途中で逃げられてしまいました。
もしかして本当に和哉ではないんでしょうか……。
◆◆◆◆◆◆
次の日、私とリンちゃんの二人は市場に出ていました。
そこでリンちゃんといろいろ見て回っていたのですが……。
「あ……」
そこで偶然和哉とバッタリ会ってしまいました。
この状況一体どうすればいいのでしょう……。
いろいろ話したいことはありますがとにかく和哉に気づいてもらわなければ何も始まりません。
そう思った私は一つ和哉に質問をしました。
「あ、あなたって昨日私達を助けてくれた冒険者よね?」
よくよく考えたらこれがこの世界での和哉との初めての会話なんですね。なんだか緊張します……。
一方の和哉ですがこの質問に肯定を返してくれました。
やはり昨日助けてくれたのは和哉だったんですね。
「そうだよね。ところで三森和哉って人聞いたこととかない?」
さっきの質問はただの前置きです。
ここからが本番、和哉が和哉なのは確定していますが一度本人の口から言質を……。
「三森和哉? あんたらの知り合いか?」
なんでそんなことを……。
嘘です……いや最初から……。
「そうだよね知らないよね。知らないならいいんだ、じゃあね」
そうですよね、最初から気づいていたのかもしれません。
だっていくら似ているからって死んだ人間が生き返るはずないですよね……私ってバカですね……。
気づくと自分の足が勝手に動いていました。
和哉、いや彼に似た冒険者から離れるように。
そして最近は思わなかったある疑問が再び頭の中に浮かぶようになりました。
なぜ、和哉は死ななければいけなかったのか?
なぜ、私はこんなにも無力なのか?
その疑問だけがただひたすらに頭をグルグルと回っていました。
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